インフィニット・オルフェンズ バトル創作短編集 作:オルガスキー
アリーナでの乱戦があってから数日後。
ラウラ・ボーデヴィッヒは三日月の事ばかり考えていた。
(あの流れるような太刀の使い方や、強引に攻めたりする姿……
アインを使っているせいかわからないが、私も使いたくなってきたぞ、刀!)
既に武装としてプラズマ手刀があるラウラだが、一夏や箒が持っているようなちゃんとした刀を使いたいと考えたラウラは整備課へ突撃した。
「たのもー!」
「ヴッ!」
「わっ!えーと、1組のボーデヴィッヒさん……かな?」
「そうだ。」
「何の用?あと扉でイツカくんが……」
「あ……すまない、オルガ団長。」
「こんくれぇなんてこたぁねぇ……今度から気ぃつけろ。」
勢いよく扉を開け放ってオルガを叩き潰しながら出てきたラウラ。
整備課生徒たちはラウラに驚きながらも用を聞き、ついでにオルガが希望の華を咲かせていることを注意する。
オルガは持ち前の器の大きさでラウラを許すが、鼻がぺしゃんこに潰れていた。
「まぁ、用と言うのはだな……私のISに武装を追加してもらいたい。」
「ん?まぁ拡張領域は空いてるから出来るけど……そりゃまたどうして?」
「私の気分だ。それに、扱える武器は増えた方が良いからな。」
(多分オーガス君に感化されたんだろうなぁ、あの超高速武器切り替え……ISを使う人なら誰でも痺れるよ、アレは……)
整備課生徒はラウラの心情に気づきながらもラウラから出されたシュヴァルツェア・レーゲンのデータを開き、拡張領域へ武装を追加するための操作を始めた。
「因みに、何の武器入れて欲しいの?メイスとか?」
「太刀だ。一夏や箒も使っているような……」
「オッケー、太刀ね。」
整備課生徒は早速操作を始め、仮揃えとして「打鉄」の武装である太刀の「葵」を導入した。
ついでで破損していたグレイズ・アインの武装も補充して追加しており、ポチポチポチポチと時間をかけて操作していた。
「ところで、オルガ団長はここで何をしていたんだ?」
「俺かぁ?俺は獅電の調子悪いから見てて貰ってたんだよ。」
「そうか。」
ラウラはオルガと少しだけ会話をしてから整備課生徒から武装追加が終わった、と言うことを伝えられて早速シュヴァルツェア・レーゲンを取りに戻る。
ホクホクとした笑顔で自身のISを眺めた後、元の場所に装着しなおしてスタタタ、と走り出して早速寮に飛び込むラウラ。
「箒!刀の使い方を私に教えてはくれないか?」
「……すまない、私には無理だ」
「無理……だと?しかし一夏やミカには前に教えていたと聞いたのだが……」
「しばらくは私一人で稽古をしたいのだ。私にも色々な課題があるのでな……他を当たって欲しい」
「そうか……では仕方がない……」
刀、と言えば箒の印象が大きかったラウラは早速箒に頼んでみるが、丁重に断られてしまったので(仕方がないとはいえ)やや落ち込みながら三日月の部屋をノックする。
三日月の部屋には一夏もいるため、今度は一夏に頼もうと言うラウラの考えである。
(ミカに頼まないのは照れるとかそう言う問題ではない、秘密のトレーニングだからだ!
そう、これは決して照れてるとか恥ずかしいとかではない……)
「い、一夏!」
「ん?なんだラウラか。どうしたんだ?三日月ならセシリアや鈴音と一緒にトレーニングしてたぞ。
無理矢理誘われたって感じだけど……」
「刀の扱い方を私に教えてはくれないか?」
ラウラはギュッ、と胸を押さえながら一夏を呼び始め、先程の箒の様に頭を下げて頼み込む。
一夏はいきなりのラウラの頼みにキョトン、としながらも
「俺でいいなら、教えられることはキッチリ教えるよ。」
「本当か!」
「ああ。いつも三日月には世話になってる分、ラウラの頼み事くらい聞いてやらないとな。」
「恩に着るぞ、一夏……」
ラウラは一夏に感謝しながら一夏と共に道場に向かい、竹刀を持って二人で並び立つ。
「まず、竹刀は両手で持つ。
それと利き足を前に出して、なるべくすり足で動く……」
一夏が説明しながらラウラに見本を見せ、ラウラはそれを真似して竹刀を振るおうとすり足で動こうとする。
しかしすり足で動いたことのないラウラはすり足が上手く出来ず、足を滑らせてしまう。
「わ、わわっ!」
「っと、大丈夫か?ラウラ。」
「す、すまない……すり足と言う物には慣れていないからな……」
「そう謝るなって。まずはすり足の練習から始めようぜ。
剣道の、刀の基本だからな、」
足を滑らせてそのまま転びそうになるラウラだが、一夏が背中に手をまわして受け止めたため転ばずに済んだ。
ラウラはホッとしながら一夏に礼を言い、引き続き竹刀を振るうためにすり足の練習から始めた……
のだが、そんな二人を見つめる一筋の視線があったことを二人は知ることなどなかった。
その視線を向ける者の正体……三日月・オーガスであった。
彼はセシリアと鈴音を動けなくなるまで特訓と言う名の拷問にも近い実戦訓練で叩きのめした後、偶然にもラウラと一夏を見かけた。
ただ二人を見かけるだけなら普段の三日月なら気にしなかったであろう。
しかし、三日月が見てしまったのはラウラが転びそうになったところを一夏に支えられていた所だった。
ラウラが転びそうになった瞬間も見ていないため、一夏がラウラを口説いているようにしか見えなかったのだった。
二人が数言話してから何か始めたのを見た三日月はユラユラユラユラ、と幽霊……否、地獄から来た死神のような移動の仕方で道場に入り込んだ。
「一夏」
「おお、三日月。セシリアたちと特訓してたんじゃないのか?」
「アリーナに来て」
「ん?なんかあったのか?」
「俺と勝負して。」
三日月は坦々と自分の言いたいことだけを一夏に言ってからそのままアリーナに向かってしまう。
「ぜー……はー……し、死ぬかと思いましたわ……」
「奇遇ね……アタシも……」
ぜぇぜぇはぁはぁ言いながら動けない二人は息をつき、呼吸を整えている所だった。
因みに三日月が道場に向かってからアリーナに戻ってくるまで、五分以上は経っているのである。
「もう反則よアイツ!何であんな武器持ってんのよ……
動きも気持ち悪いくらい速いし……」
「おまけに射撃でも格闘でも私たちの得意分野にも匹敵……どころか、それ以上の強さを持ってますものね……」
「二人ともお疲れ、これ」
三日月はセシリアと鈴音に何を思ったかイチゴジュースを差し出し、二人の手に置いてからアリーナの真ん中に立ってISを起動した。
起動したISは先日ラウラと戦った際にも見せた、ガンダム・バルバトスルプス。右手にソードメイスを持って直立不動していた。
「一夏が来るから、二人はもう戻っていいよ」
「一夏さんとサシでやるんですの……?」
「一夏が死なない程度にね?三日月ー……」
二人は一夏が死ぬのでは、と思いながら三日月から貰ったイチゴジュースを片手に走り出して千冬の元に急ぐ二人。
その一方で一夏はラウラと共にアリーナに入ってきて、二人揃ってISを起動する。
「2対1?」
「一夏とミカでは戦力差に差がありすぎるだろう。
私は刀を使う分、足を引っ張るかもだが……戦力では五分五分だと思うぞ。」
「悪いな三日月、俺流石に死にたくないからな……」
一夏は雪片弐型を構え、ラウラは葵を構える。三日月は横薙ぎの構えに入り、スラスターを吹かし始める。
合図も何もないその空間、一夏の頬を伝う汗が静かに一滴地面へ落ちた。
その瞬間が戦いの合図かの様に、飛び出したバルバトスルプスがソードメイスを横薙ぎに払い、一夏を叩く……
が、一夏も三日月の手に反応してすんでのところで避け、左手につけられた雪羅を数発放つが三日月には当たることもない。
「やっぱり、コイツで相手するしかねえか……」
「ミカに射撃は当たらないと思っていた方がまだ気が楽だ。行くぞ。」
ラウラは頭の中で箒と一夏を浮かべ、二人が使っていた基礎的な型で三日月に向けて刀を振るう。
ただ黙って振るわれた刀を受けるわけでもなく、ソードメイスで弾いてから20mm砲でラウラに2発射撃を加えた後、背中から太刀を抜いてそのまま一刀両断……
かと思いきやA.I.Cに見事阻まれていた。
「ここだぁっ!」
「捕まえたっ!」
ラウラは一歩踏み込んでから太刀を前に突き出すが、三日月はいとも簡単にそれを受け止めてから太刀ごとラウラを―
とは言わず、ラウラは武器から手を離して距離を取り、ワイヤーブレードとプラズマ手刀を構える。
三日月がラウラの方に注意が向いている間に零落白夜を発動させて三日月に斬りかかる一夏。
完全に四角からラウラも予期せぬ一夏の動きで三日月を仕留める―
ことはなかった。
「なっ!」
「嘘だろ!?」
三日月の武器保持用のサブアームが突如背中から飛び出て、一夏の腕を掴んでガッチリと止めていた。
「作戦がわかってるのなら、対策くらいするさ。」
(……バルバトスが。)
「そろそろ終わらせるよ」
三日月の左腕に装着された外装式20mm砲がグルリ、と回転して一夏の方を向いた。
一夏は三日月に蹴りを入れてから逃げようとするも間に合わずに20mm砲が一夏へ一気に放たれた。
「くそっ!」
ラウラはワイヤーブレードを振るい、三日月に攻撃を加えるも三日月は空いている右手で防いでから今度は右手から20mm砲を連射した。
真正面にただ撃たれているだけなのでラウラはなんとか回避することが出来るが、近づいて行っても右手に握るソードメイスの餌食になるだけだった。
そうこう考えているうちに、一夏が撃たれすぎてシールドエネルギーが全損してそのまま倒れてしまう。
「じゃあ……行くかぁっ!」
スラスターをも破壊しかねない程の大出力で三日月はラウラに接近し、ソードメイスを一薙ぎした。
その一撃はラウラの防御も間に合わずクリーンヒット。
しかし出力を強めすぎたために三日月のバルバトスルプスの腰部のスラスターが悲鳴を上げて壊れてしまう。
「はぁぁぁっ!」
ラウラは倒れながらもワイヤーブレードを振るい、三日月の腕を縛り付けて軸にするように倒れるのを防いでレールカノンを構える。
当たる距離、当たる構え。
その一撃を今放つ、当たれ!と叫ぶまでに。エネルギーをチャージしたレールカノンが三日月の顔面に命中する―
前に、三日月の振るった太刀でラウラが体制を崩されて、レールカノンの方向がズレてあらぬ方向に飛んでいき―
「ふんふふんふ~……ヴウウウオオオオオアアアアアアアアアッ!」
偶然通りかかったオルガに命中して希望の華を咲かせた。
そしてラウラも三日月にトドメを刺され、そのままシールドエネルギーを全損してシュヴァルツェア・レーゲンを解除してしまう。
「流石は……私の嫁だな……」
「えっ?」
三日月はラウラの発言に驚いてついつい持っていた武器を落としてしまう。
ラウラは起き上がり、驚く三日月に首をかしげる。
「ラウラ……俺の事今嫁って……」
「何を驚いている?お前は私の嫁なのは今でも変わらないことだろう?」
「???」
頭の中でグルグルと駆け巡る記憶。
三日月は思っていたことを正直にラウラへ話し、ラウラはそれでようやく納得した。
「そうか。ミカが怒っていたようにも思えたのは……そう言うことだったのか。
だがまぁ、今度からはミカに直接教えを請おう。」
「……ありがとう、ラウラ。」
「嫁が嫉妬してしまったのだ、それを自粛するのは夫の役目だとも。」
ラウラは笑顔で三日月にそう言って、ISを解除した三日月の肩をグッとつかんでから頬にキスする。
「……」
「フフ、いつものお返しだ。どうだ?流石にいくらミカでも……ん!?」
頬にキスされただけでは足りないのか、三日月はラウラと口づけする。
「み……みか……ぁ…」
案の定顔を真っ赤にしてぷしゅー、と音を鳴らしたかのような声を出しながら倒れるラウラ。
三日月はそんなラウラをおんぶしながら倒れている一夏を立たせる。
「お、おう……三日月。凄かったな、あのサブアーム……やっぱすげぇよお前は。
俺も三日月みたいになれるよう頑張らねえとな……」
「そっか、ならなれるといいね。
そのためには色々頑張らなくちゃね。勉強とか。」
三日月は活き活きとした表情で一夏の目標を応援しながらラウラを運び、ラウラの部屋の布団に寝かせる。
今日は三日月が一夏に嫉妬と勘違いから起きた小さな戦い。
その戦いは特に噂されることはなかったが、後に専用機持ちメンバーの中では小さな話題となった。
「にしても三日月の攻撃が激しすぎて、俺死ぬかと思ったぜ……」
「俺は……余波に巻き込まれて死んだぞぉ……」
因みに、オルガが死んだことについては一夏以外は知る由もなかった。