「こうやって同じ戦場で背中を預け合うのはいつぶりだろうな、透霞」
「もう何年もこうして一緒にいられなかったからね……でも、だからって鈍ってたりはしないよね、兄さん!」
誰に言ってる、と吐き捨てると、背に感じていた温度が離れる。
迫ってくるのは100も200もゆうに超えている無数の管理局員たちと、それを迎え討つ数十人のJSクルーズ警備部とナンバーズ。
魔力の触手で数人の管理局員を縛り上げ、そのまま他の局員たちにぶつけるように放り投げると、ある程度の数は削れるが一網打尽とはいかない。
「ディアフレンド!」
『Fiendly Fire!!』
「あーんどっ!」
『Acrobatick Bullet!!』
透霞の放つ
そして同時に放たれた
「クッ……ソがぁぁぁッ!」
何人かの管理局員がAcrobatick Bulletの面攻撃をすりぬけて接近するが、透霞がそれに振り向くことはない。
「させねーよ」
「うごぁっ!? ア……
「
地上から砲撃を行おうとしていたアインヘリアルを『触手』で縛り上げて管理局員たちにぶつけると、そのまま諸共に接近してきた全員を拘束して地上に放り投げる。まぁバリアジャケット着てるし、死にはしないだろ。救護班も近くにいるし。
「さっすが兄さん! わたしが振り向く暇もなかったよ!」
「嘘つけ。俺がどうにかするってわかってて振り向かなかったくせに、よく言うぜ」
「それは察してても言わないでほしかったなー?」
さて……これだけ暴れてやれば、そろそろ向こうもエースかジョーカーを切ってくる頃合いだとは思うが……さて、どうかな。
「奏曲!」
「おお、テスタロッサか。……なるほど、確かにお前なら俺の手札をいくらかは潰せるもんな」
「透霞ちゃん!」
「おっ、なのはちゃーん! おひさー、最近あんまり連絡できなかったけど元気してたー?」
俺たちの目の前に現れたのは、俺の最も得意とする魔力触手による罠を「匂い」で感じ取れるテスタロッサと、魔力量以外ではほとんど透霞の上位互換的な立ち位置の高町。
既に臨戦態勢のテスタロッサに対して、高町は武器を携えながらも透霞に対して「何故」という感情を向けたまま動けずにいる。
「どうして……! なんで透霞ちゃんはそっちにいるの!? どうしてこっちじゃなくて……どうしてこんなことしてるの!?」
「どうしてって……そりゃこっちに兄さんいるし。それにほら、別に民間人のみんなには特に迷惑かけてないし、いいかなって。いやまぁ日照権的にあと一時間ちょいくらい迷惑かけるけどさ」
「民間人は無事かもしれないけど、管理局員には怪我人が出てる!」
「そっちから攻撃してこなかったらわたしたちも何もしないから安心していいよー?」
そういうことじゃ、と言う高町に対して、透霞の態度は明るいままで、なおかつ飄々としていた。
実際問題、現時点で俺たちがとっているのは専守防衛。こちらから管理局に対して明確な攻撃的意思は出していないし、死者も見た感じ出ていなさそうだ。さっき放り投げたやつらも自力で救護班のとこ行ってるし。
「高町。俺たちが今してることで、違法な行いってなんだ? 日照権と航空法的にはマズいが、それもあと一時間と少しで解決する問題だぞ」
「解決じゃないよ! それってつまり逃げるってことでしょ!」
「まぁそうだな。ただまぁ、日照権については既にJS号発進の24時間前には民間人に対して説明してあったし、空の便は今「なぜかちょうど都合よく」止まってるらしいから、実質的な被害はほぼゼロだ。むしろお前たちがJS号を落とせば、それこそJS号直下にいる民間人を圧殺することになるぞ」
「
「まぁ、そう受け取ることもできるな。ただ、俺たちは透霞以外一切の魔力弾を発射していないし、透霞は誘導弾しか撃ってないから、流れ弾で街に被害が出てたらほぼ間違いなくお前ら管理局側の責任だからな」
既に数発の流れ弾が街に降り注いでおり、数人のJSクルーズ警備部がそれらを弾いて処理しているが、果たしてあの人数でどこまで被害を防げるか。今よりも戦闘が激化してしまえば、いずれは防ぎ切れなくなる。
それがわかっているのか、理性の残っている管理局員たちは街の防衛に割かれたJSクルーズを後回しにして、上空で戦闘を繰り広げる面々に集中している。中には防衛側に攻撃しようとした同僚の首根っこを掴んで上に向かった管理局員も見受けられた。
「テスタロッサ、お前も同じ意見か?」
「どうかな。私はむしろ、これが奏曲と真正面から戦える最後の
なるほど。確かにこのままJS号が無事に船出を迎えれば、もう高町やテスタロッサと再会することは叶わないだろう。
俺たちは無限にも等しい次元の海へと旅立ち、ミッドチルダの多くの企業と連携し、リモートに営業を続けていくことになる。既に協力してくれる企業や財閥、あるいは他の管理世界ともそうした話は通してあるし、技術・研究成果の提供についても転移ポートの応用で物資として転送可能だ。
だからこそ――これが最後だ。透霞へと視線を向ければ、あいつは朗らかな笑顔をこちらに向けると、ディアフレンドを高町へと向けた。これが回答だと言うように。
「戦うしか、ないの……?」
「うん、戦うしかない。今のわたしとなのはちゃんの意見はどう足掻いても噛み合うことがない。だから……やるしかないんだよ」
「奏曲、胸を借りるよ」
「来い。弟子の成長を見るついでに、軽く揉んでやる」
誰の合図もなく、同時に切り込んだのは俺とテスタロッサだった。とはいえ、スピードはさすがにあちらが上。息つく間もないほどの猛攻だが、俺はそれを全て見切りながら、少しずつ的確に打撃を叩き込んでいく。
俺の攻撃をかわすようにテスタロッサが間を開けると、そこに雪崩れ込むようにブチ込まれる大量のシューターは高町のものか。だがそれに対して俺が動揺することはなかった。後方から高速で発射された迎撃弾が、それらを撃ち落としてくれるとわかっているからな。
高町のシューターが途切れるとまったく同時に、再びテスタロッサが高速接近、その速度を利用した刺突攻撃を、バリアを張って受け流し、すれ違いざまに脇腹へと蹴りを放つも、テスタロッサはそれを逆の手で受け止めながら蹴りの威力を利用して距離を取った。
相手の威力を利用するという手段は、俺が得意とする戦術のひとつだ。あいつにこれを教えたことはなかったが、あいつなりに俺の戦闘スタイルを研究した成果なのだろう。なるほど、俺の想定以上に強かに成長したらしい。
「夜天!」
『ああ、好きなだけ使え!』
「ブラッディダガー!」
本来なら誘導射撃に用いるブラッディダガーを両手に構えてテスタロッサへと肉薄する。もちろん誘導性能と速射性能は夜天の折り紙付き。俺じゃテスタロッサのスピードに追い付けないが、ブラッディダガーならある程度なら追い縋れるし、誘導制御は夜天が担っている。
ブラッディダガーがスピードを、夜天が制御を、そして接近してからの格闘能力は俺が行うことで、武器とAIとAIによる三位一体の攻撃が可能だ。さて、これにはどう対応する?
「どうした? さっきより動きが遅いな?」
「よく言う。そっちが速くなっただけのくせに……!」
「まぁもちろんわかってて言ってるんだが」
俺とテスタロッサのスピードに、いよいよ高町と透霞の援護射撃が追い付かなくなってきた。とはいえ、俺もこいつを追撃するので精一杯で、透霞のサポートに回れない。
「射撃魔法を手に持って機動力にするなんて……!」
「いやー、あれはわたしも思いつかなかったなー。さっすが兄さん、わけわかんねー!」
透霞のそれが誉め言葉かそうでない何かの意図を含んでいるのかはさておいて、ようやくブラッディダガーのトップスピードに目が慣れてきたことで、テスタロッサの動きの機微にも視線を向けられるようになってきた。
あちらもこの追いかけっこには限界があると察したのだろう。自分の力で加速しているテスタロッサと違い、こちらは魔法のコントロールによる加速だ。しかもそのコントロールは夜天がやっていて、俺がしているのは接近してからの格闘のみ。スタミナに差があるのは明らかだ。
一気にスピードをトップまで持っていき、ある程度の間をとると、テスタロッサは反転、こちらに急接近を仕掛けてきた。
「夜天!」
『任せろ!』
「シュヴァルツェ・ヴィルクング!」
魔法効果を破壊するエンチャントを両手に施し、ブラッディダガーを投擲・加速させるが、テスタロッサはこともなげにこれをバルディッシュで弾く。弾かれたブラッディダガーはそのまま高町へと攻撃対象を変えるが、さすがにあいつのシールドは割れなかった。
目の前に迫るハーケンフォームのバルディッシュを、俺の拳が迎え討つ。魔力刃は魔法で造り出したものだが、シュヴァルツェ・ヴィルクングで破壊できるのは魔法効果――つまりは魔法によって施された追加効果であり、魔法によって生み出されたものを破壊することはできない。
だからこそ、狙うのは――。
「おらァッ!」
「なっ……!」
魔力刃の切っ先を受け止める拳とは逆の拳で繰り出したアッパーがバルディッシュを、そしてそれを持つテスタロッサの両腕を振り上げさせ、無防備なボディーが露わになる。
アッパーと同時に脇に貯めていた右拳が、吸い込まれるようにしてテスタロッサの鳩尾へ打ち込まれた。
「かふッ……! マズい……ッ、隙をみせたら……!」
そうだ、わかってるじゃねーかテスタロッサ。痛みに悶えて本能的に蹲ったその一瞬があれば、十分すぎる隙だ。
「無色透明の魔力触手……!」
「ああ、そしてこれに両手両足を捉えられたらどうなるか……わからないお前じゃないよな?」
「くっ……! 逃げてなのは!」
テスタロッサの警告がどれだけ意味を成しただろうか。俺はテスタロッサの体を、まるで糸に繋がれた
味方にとって最も恐れるべきは、捕虜となり敵に操られた味方だ。この魔力触手を捉えて切断しない限り、テスタロッサは俺の駒であり剣であり盾となる。
「ど……どうして!?」
「魔力触手で手足を奏曲に操られてるんだ! 体の動きが支配されてる! だけど魔法のコントロールは私側に――」
「おいおい……ただのバインドと一緒にするなよ。仮にもそれは魔力触手。体の動きだけじゃない……そいつが接している魔力の動きも支配されるって、想像しなかったのか?」
『Assault Form』
体が――そしてデバイスと魔力の流れが、テスタロッサの意思とは関係なく砲撃魔法を構築し、その反動に備えた構えをとっている。
しかもそのポジションはテスタロッサが下で高町が上。そしてその高町の遥か上空に俺がバリアの準備をしている。テスタロッサの砲撃を高町が防ぎきれなければ俺がそれを弾いて上空へといなすが、高町はあれをどうしても迎撃ではなく防御しなければならない。なぜなら――、
(フェイトちゃんの背後に地上本部が……!)
高町が射線を逸れればその直射上には俺がいる。そして俺の構築しているバリアは高町の知らない古代ベルカ式の魔法だ。そのバリアの性質がただ硬いタイプ、弾くタイプならいいが、反射するタイプならテスタロッサもろとも地上本部に跳ね返る。
まぁこれは単に弾くタイプだが、余裕を持ってニタリと笑ってやれば、あいつは警戒心を増した目でこちらを睨んだ。あーあ、これはもう間違いなく勘違いしちゃったヤツでしょうな。
そしてそんな俺とテスタロッサに挟まれた高町に狙いをつけるように、透霞とディアフレンドがAcrobatick Bulletを放つ準備をしている。
「なのはぁぁぁぁぁっ!!」
『Plasma Smasher』