【完結】魔導士兄妹がゆく!   作:永瀬皓哉

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魔導士兄妹の、旅の終わり

 J&Sクルーズがミッドチルダを離れて一年が経過した。艦内の人員も、当初からいくらか数を増やしながらその顔ぶれを変えている。

 というのも、J&Sクルーズは今やミッドチルダの根幹的な闇を抉り出した「英雄の(ふね)」として一定の人気を集めていると同時に、ミッドチルダに混乱をもたらした巨悪としても扱われている。

 おかげで何名かの研究員は管理外世界にその住処を移して艦を去り、またそれらの騒動、あるいはJ&Sラボ時代の援助からJ&Sクルーズを応援してくれている世界からの志願者による増員などもあって、ラボ時代の顔はもう当時の半数というところまで減っていた。

 

 J&Sクルーズとしての姿勢は、今までと同じようで少しだけ変わった。

 研究施設としてのJ&Sクルーズは、今まで裏で行っていた兵器開発から完全に手を引き、新型エネルギーの研究・開発を基軸としつつも、一般市民に寄り添った家電・生活用品の開発を行い、その主な販売拠点としてミッドチルダを利用している。

 もちろんそれらの商品は要望を受ければ他の世界にも輸出しており、時として停滞したエネルギー問題の解決にも手を貸すこともあったりなかったりラジバンダリ。

 

 最高評議会はあの後、即座に生命維持装置を停止させられ、その長すぎる生涯に終止符を打ったらしい。らしい、というのは、テスタロッサからの連絡によるものだからだ。

 テスタロッサによれば、そもそも時空管理局の発足から現在に至るまで、最高評議会の挿げ替えや退職・辞職の記録はなく、これに関しては彼らが肉体を残していた頃から何名かの幹部に催眠魔法を用いてコントロールし、その体制に疑問を持たせないよう管理局の全施設に思考誘導系の魔法を施していたのだろう、とのこと。

 事実として何名かの善良かつ優秀な査察官および技術部の厳密な調査によって、管理局の施設のいたるところに仕掛けられた思考誘導魔法の痕跡や、それを維持するための微細な装置が設置されていて、それは時に監視カメラとしての意味も含ませられていたのではないか、とテスタロッサは疑っていた。

 ちなみにそれが女子更衣室や女性用トイレの中にまで設置されていたことについては、あのテスタロッサのものとは思えないようなドスの利いた声と感情のこもっていない視線がテスタロッサの明確な怒りと殺意を物語っていた。

 

 そしてジェイルはといえば、仮にも7桁単位の懲役刑を受けたらしいのだが、その宣告から三か月したあたりで「刑期満了で帰るから迎えに来てくれたまえ」と連絡を寄越して帰艦。最近はすずかと一緒に怪しいマシンを作っていたと思ったらVRゲームを製作していたらしい。嘘だろ、それサングラスじゃん。小型化ってレベルじゃねーぞ。

 というのも、いかにジェイルが犯罪者といえども彼による最高評議会逮捕の功績は小さくなく、また彼の頭脳は牢獄に縛り付けるにはあまりにも魅力的過ぎた、というのが管理局員としてのテスタロッサによる見立てらしい。

 ようは、管理局にとって利になる体制(システム)の提案や技術提供、そしてJ&Sラボからの資金提供・装備メンテナンスの再契約など、彼らにエサをチラつかせて刑期を短くしていった結果、気付けば三か月で刑期満了、ただいまー、とのことだった。管理局、そういうとこだぞ。何も反省してねーじゃん。

 

 アリサとの夫婦生活は、実は今のところあまりうまく行ってはいない。いや、誤解のないように言うが、気まずい雰囲気だとか、仲が悪くなったという意味ではない。というか、むしろ何も変わっていないというのが正しい。

 そもそも俺とアリサは幼い頃から苦楽を共にした親友であり、今となっては生涯のパートナーにもなったわけだが、ぶっちゃけ性別の垣根を超えた親友というのは夫婦と何が違うんだ? 性行為の合法性の有無くらいしかなくない?

 おかげで互いに性欲が薄い俺とアリサは「まぁ子供はもう少し仕事が落ち着いてからで」という意見がどちらからというわけでもなく合致し、寝室は同じだがたまにすずかが寝惚けて俺たちのベッドに入り込んでくるくらいには昔のままだ。

 

 そのすずかはすずかで、最近になってようやく恋人ができたらしい。口が悪く態度も軽薄そうに見えるが、すずかのことを第一に考えてくれている男だそうで、先日その男を俺とアリサの前に連れてきた。

 なんかめちゃくちゃ人相が悪いし髪にはメッシュが入っててチャラそうな見た目だったが、すずかの言う通り、すずかの歩幅に合わせていたりことあるごとにすずかの様子を目で追っていたり、何よりあいつのあのダイナマイトボディを前にしながら常にすずかの目を見て話していた。なんだあいつ、真面目ギャルならぬ真面目チャラ男か?

 そのいかにも「悪ぶってます」みたいな感じと実際の態度のギャップがあざとくてムカつくな、って話をアリサにしてみたら、「同族嫌悪?」って言われた。どこがだよ、俺あんなに露骨に悪ぶってないし真面目ぶってもいないから。俺のこの澄んだ瞳を見てもまだ同じことが――ッスゥー……同じこと二回も言いやがった……。

 

 さて、続いて透霞と水都だが、あいつらは既にこの艦を降りた。

 やはり水都は俺と共に生活することが耐えきれないようで、俺もまたあいつと顔を合わせるたびに舌打ちされるのはそれなりにイラっときていたので、それ自体は全然構わない。

 透霞はといえば、「たまに遊びにくるね!」ということで、とある管理外世界に構えられたあいつらの屋敷にはこのJ&S号に転移できるポートを用意しており、それこそ少し遠めのコンビニに行くくらいの感覚で遊びに来る。

 ただ、その転移ポートは原則として透霞だけが使えるようになっており、透霞の許可なく水都が乗り込んでくることがないようにしたのは、我ながら当然とはいえ賢い仕掛けにしたと思う。水都がその仕様に気付いたのはJ&S号が飛び立った後だったし。

 

 ル・ルシエとモンディアルは、今も二人揃って俺の秘書をしてくれている。

 ル・ルシエは気遣いのよくできる女子に育ち、しばしば秘書として連れ歩いていると取引先の子息に色のある声をかけられているものの、年齢の割に大人びた対応でそれをかわしている。

 モンディアルはというと、昔に比べてほとんどミスもなくなり、文武両道の少年として同年代だけでなく顧客や取引相手のママさん層に大人気だ。おかげでそういう相手をターゲットにした商品を売り込む時には便利便利。

 どちらも同年代の異性からとにかくモテるが、どうやら互いに互いを意識しているようで、周囲の子供たちがその想いを叶えることはないだろう。というか、それだけ想い合ってなんでお前ら両片思いなんだ。

 

 ヴィヴィオは外見年齢と精神年齢のギャップに苦悩している様子がしばしば見受けられていて、俺とジェイルだけでなく、女性研究員たちもその様子をつかず離れずの距離から見守り、時に支えている。

 いや、出会った当初の幼児みたいな見た目ならまだしも、今のあいつアリサよりばいんばいんだぞ。すずかと同じくらいばいんばいんだぞ。そんなあいつが「お兄さん一緒にお風呂いこう!」とか「一緒に寝ていーい?」とか言い出したらまずは正座させてから話し合いに発展する。

 本人に他意がないのはわかる。いくら知識として自分がもう大人の見た目をしていて、女性らしいマナーや立ち振る舞いというものを教えてやっても、それは経験から来るものではなく情報として詰め込まれたもの。経験のない知識は身に沁みない。

 だから俺たちも基本的には長い目でヴィヴィオの成熟を見守っているが、さすがに上記のような状況ではそういうわけにもいかない。いやさすがに怖い夢を見たとかなら一緒に寝てやるくらいはするが、それでもできるだけナンバーズとか女性メンバーを頼ってほしい。

 

 そして最後にナンバーズだが、こいつらは色々と変化が多いヤツもいた。

 最高評議会への復讐計画を終えた今、俺がこいつらに対して「計画遂行のための駒」という認識と対応を崩し、以前よりも積極的に関わりに行っていることも一因なのかもしれない。

 特にウェンディとディエチがしつこく絡んでくるようになった。ウェンディは元々の性格によるものだろうが、ディエチは甘え上手になった、と考えるべきだろうか。彼女に関してはナンバーズの中でも特に悩める少女であったため、相談に乗ることも多く、あるいは俺に対して兄か父への親しみみたいなものを持っているのかもしれない。

 あるいは、肉体年齢に精神が引っ張られていると考えるのなら、思春期特有の「良く話す相手への親しみ」を恋愛的な感情と勘違いしたものかもしれない。多感な時期ということもあって、そのあたりのケアも必要だろう。仮にも俺にはアリサという妻がいるしな。

 また、クアットロに関しては少しだけ態度が軟化した。が、本当にほとんどわからないくらいの変化だ。相変わらずプライベートでの接点や会話は皆無だが、ビジネスの会話が以前よりも円滑に進むようになったのは、間違いなく変化といえるだろう。前は小言がナゲットみたいにセットになっていたからな。

 

 ――と、ここまでがJ&Sクルーズとその関係者のお話。

 

 高町との交流は、あの事件の後、ほとんど途絶えてしまった。それは決して悪い意味を含むからではなく、むしろ高町がいよいよ俺のことを理解し始めてくれた兆候ではないかと、俺自身はポジティブに受け取っている。

 連絡がないのは元気な証拠、というのは独り立ちした子を思う親の言葉として有名だが、それに近いものなのかもしれない。今まで高町が過剰なほど俺たちに関わろうとしていたのは、それだけ俺と高町の間にある関係性があやふやなものだったからだ。

 元クラスメートというだけにしては交流が多かったが、友人と呼ぶにはあまりにも関係が浅かった。そんな地に足がつかないような関係性にむず痒さがあったのだろう。

 しかし、あの事件で高町はおそらく俺たちの関係にひとつの答えを見つけた。それは本人に聞かなければわからないが、俺の予想ではおそらく……「知り合い」ではないだろうか。

 プライベートでも交流のあるビジネス相手、というのがフィーリング的には最も近いようにも思える。互いに利用し利用され、たまに出会えば食事くらいなら共にするが互いの家の事情は住所を含め知らない、みたいな。これからもきっと、そんな交流を続けていく。

 

 そんな高町とは逆に、以前よりも積極的に連絡をとっているのはテスタロッサだ。原因はもちろん、最後の戦いだろう。こいつバトルマニアだからな。

 まぁそれは冗談としても、俺が教えた技術を長年サボらず練習を続けた結果を俺自身で試し、それが無駄でなかったことを実感したテスタロッサは、よりその技術を高めるためにしばしば俺に講義と訓練を求めてくる。

 いやお前……仮にも俺はミッドチルダじゃお尋ね者だぞ。民間人の中には俺の味方をしてくれるヤツもいるし、時空管理局もあれから局内の「大掃除」が行われ、真っ当な局員がずいぶんと増えたそうだが、当時の暗部はまだ消えたわけではないし、普通にJ&S号そのものが「不明な技術の結晶」という意味で管理局に追われている。

 そんな中で俺がテスタロッサに会うためだけにミッドチルダの、それも管理局の本局前まで行こうものなら、間違いなくお縄だ。ほら、俺がロストロギアだってことも大多数のミッド人にはバレちゃったわけだし。納得してくれねぇかなぁ。してくれねぇよなぁぁぁ……。

 

 八神とヴォルケンリッターについては、あまり変化はない。

 八神は相変わらずミッドチルダで小料理屋をしているらしいし、ヴォルケンリッターたちも管理局への協力をやめてそちらの手伝いをしているようだ。

 最近は透霞がいなくなって寂しい、みたいなことを言っていたそうだが、残念ながら二人の再会はおそらくもう二度とないだろう。透霞にせよ八神にせよ、今となってはもうなんの権力も力もない一般人として各々の世界に溶け込んでいるのだから。

 

 

「……さて、そろそろ現実逃避やめようかなって思うんですけど、マジでうちに就職希望なんですか、お二人とも……」

「まぁ、ギルドでの活動は収入はいいけど命がいくつあっても足りないし、何より可愛い弟と妹の様子も見ていたいしね!」

「わたしも……二人の様子を見守りながら、お仕事がしたい……」

 

 今、J&S号を離れてとある管理外世界の街に存在するとあるテラスで小休憩を入れながら一緒に茶をしばいているのは、ギルド時代の先輩で、なおかつ俺と透霞の保護責任者でもある11位の姉御――リリックさんと、8位のアルテシアさんだ。

 正直、保護責任者としての定期連絡はJ&Sラボ発足以前、それこそジェイルと共に地球を離れた翌日から頻繁にとっていたのだが、こうして面と向かって話すのはずいぶんと久しぶりだ。

 そして、こうやって顔を見合わせて話す内容が世間話なら俺も歓迎したのだが、それが自分の経営する研究施設での就業希望となると、些か複雑な気持ちだ。

 いや、このお二人なら事務仕事を任せても警備を任せても問題はないだろうし、見目も美しく職場に華が加わって職員のモチベーションアップにも繋がるだろうし、リリックさんは人当たりもいいから現場の空気もよくなるだろう。

 クソっ、マジでメリットしかねぇなこの二人を雇うの……。別にこの人たちのことが嫌いなわけじゃないんだ。むしろ保護観察者として感謝もしてるし元職場の先輩として尊敬もしてる。けど考えてみてほしい。

 

 自分の経営する職場で姉か母みたいな人が働くのは気まずくないか?

 

 正直、俺が二人の契約書類にハンコを押すのを躊躇っている理由はその一点に尽きる。

 でもまぁ……このお二人には恩もあるし……追い返す理由も考えれば考えるほどメリットしか見つからないし……。

 

「……わかりました。でも先に業務内容と福利厚生、お給料のお話をさせてもらいます。リリックさんは警備部、アルテシアさんは経理部を希望ってことみたいなので、給料については特許料からも収入を得られる研究員ほど稼げませんよ」

「いいよいいよ! お金より福利厚生の方が気になるから、そっちは深堀りして聞くかもしれないけど!」

「わたしも、お給料のことより業務内容を詳しく聞きたい……」

 

 そういやこの人たちギルドの上位ランカーだから、めちゃくちゃな豪遊とかしない限り今さら金とか一生かけても使い切れないくらいあるもんな……。

 

「じゃ、さっそく――」

「に、いっ、さーんっ!」

「うぼぁッ!?」

 

 背後から俺を襲った衝撃と、この聞き覚えのある声。これは……。

 

「透霞ァ! お前来る時は事前に連絡しろって何回言わせるつもりだ! 相手が相手とはいえ今これ面接中だぞ!」

「あー、ごめんごめん。お姉ちゃんたちが兄さんと一緒にお茶してるって聞いたから、つい!」

「……姉御?」

「いや、まさかこんなに早く来ると思わなかったからさ……ごめんって、この面接が終わってもしばらく待つかなー、くらいの気持ちで送ったんだよ。ホント、信じて」

 

 11位の姉御はあまり裏表がない人――いやまぁたまにすげー裏の顔もってたりするけど、基本的には朗らかで正直な人だから嘘ではないだろう。J&S号とこいつの屋敷が繋がってることは話してないし、致し方のないことだったのかもしれない。

 そう思っていると、先ほど注文した三人のケーキが運ばれてきた。透霞がこちらをガン見してきたので、何か言われる前に「食えよ」と俺のチーズケーキを差し出す。

 こいつが黙ってチーズケーキを頬張っている間に手早く業務と給料について口頭で、追加のケーキを注文してニコニコしながら鼻歌を歌ってる間に福利厚生の内容をまとめた資料を渡して質問に答える形でその説明を終えた。

 職場の空気とかは、一度見学に来てもらって、そこで判断してもらうしかないので、後日J&S号の中を案内するということになった。

 

「いやめっちゃホワイトじゃん」

「まぁ、たぶんブラックな仕事してるのは所長の俺と各部署のリーダーたちくらいですからね。その分ちゃんと見返りの残業代とれるんでさほどブラック感ないですけど」

「そのリーダーさんたちの名前とかって聞いてもいいの?」

「経理部がアリサ、開発部がすずか、研究部がクワットロ、警備部がチンクですね。こいつらと俺を含めた五人は定例報告とリーダー会議がとにかく長くて、作らなきゃいけない非公開資料が膨大なので時間がいくらあっても足りない感じです」

 

 救いといえば、J&Sクルーズの職場はJ&S号内部なので究極的に言えば現場仕事以外は自室でも対応できることだろうか。それはそれでプライベートの時間を割いていることになるからホワイトともブラックとも言いづらい感じになるが。

 おかげで最近のアリサは休暇代わりに緊急かつ現場に赴く仕事がない時は部屋で映画を見ながら作業していることもある。あれホントに休めてんのか……?

 

「上司からの圧じゃなくて上司自身の仕事がブラックなタイプか……」

「それ、助けてあげられないの?」

「8位の姉御みたいなことを言う部下たちのおかげで、アリサとチンクは最近けっこう休めてるっぽいですよ。すずかとクワットロも休みはとれてないけど休憩時間は伸びてるっぽいですし。俺は仕事をこなせばこなすだけ増えていきますけど」

「兄さんって性格は割とクズだけど職務(ビジネス)に対してだけは真面目だもんねー」

 

 ビジネスは人間関係と違って真面目にやればやっただけ見返りが来るからなー……。なんで人間ってあんなに誠意を尽くしてもクソみたいなヤツはクソみたいな態度とってくるんかな。ああいうの見てるとこっちも真面目にやるのバカバカしくなるよな。その結果が今の俺の性格やぞ。

 

「ごちそうさまー」

「こっちも話がまとまっ……いや待て、なんだお前その皿の数は。何をそんなに食ったんだ」

「え? チーズケーキ2つといちごショート1つとショコラムース1つとハニーワッフル2つと紅茶を2杯だけだけど……?」

「けっこう食ったなぁ!? えっ嘘だろ、俺ら15分くらいしか話してないぞ!? 15分でこの惨状!?」

「女の子なら普通だよー」

「11位の姉御まで弁護したらこの悲惨な皿の山をツッコミづらくなるんでやめてください!」

「ごちそうさまー」

「そして8位の姉御は説明聞きながらずっと食ってた割におっそいな!」

 

 透霞とアルテシアさんを足して2で割れねーかな、甘いものに対する食欲。

 

「じゃ、あとはのんびりお茶会にしますかー!」

「ですね。チンク、護衛ご苦労。ル・ルシエと一緒にJ&S号に戻っていていいぞ」

 

 俺がそう言うと、少し離れたところで食事をしていた二人組がこちらを見て頷き、頭を下げて去っていった。

 

「あの二人、護衛の人だったんだ?」

「いや、護衛と秘書ですね。ビジネス中のトラブルはよくあることなので、身体的に守ってくれるのが護衛のチンク。業務を守ってくれるのが秘書のル・ルシエです」

「どっちもまだ小さな女の子だったけど?」

「あれでチンクは俺と同じくらい強いですし、ル・ルシエは気づいたら俺の業務の1/3くらいしれっと持っていくくらいに有能なので」

 

 断じて俺の趣味で少女を侍らせているわけではないことは念を押して注意したが、果たしてきちんと理解してもらえているだろうか。

 見ろ、俺は今の透霞みたいにちょっと見ないうちにこんなに立派になった二つの果実を揉みしだくのが好きなんであって、あんな丘にもならない地平線みたいなガキには微塵も興味が沸かないんだ、と熱弁したところ、たぶん初めてリリックさんの感情のない笑顔を向けられた。

 いやまぁ当たり前の反応なんだけど、こんなことしといてなんだが透霞はもう少しハッキリ嫌がった方がいいぞ。お前こういうの兄妹のスキンシップの域を逸してるって自覚あるか? 俺はある上でセクハラしてるんだけど?

 

「えーっと、ごほん……。とにかく腕がよくて本人がよくて面接をクリアできるなら来るもの拒まず去る者追わずがJ&Sクルーズの理念です。なので俺としてはもう二人とも合格ですよ。あとは見学に来てご自分で決めてください」

「セクハラの心配は?」

注意事項(そこ)になければないですね。という冗談は置いといて、まぁ残念ながら一定数そういう被害報告は受けてます。セクハラは性的不快感を受けた側がそれを訴えた時点で成立してしまうので真偽の見極めには注意を払いつつ、事実が発覚すれば即座に艦から降ろす旨をきちんと資料に書いて渡してるんですけどね……」

「実際に艦を降りた人は?」

「J&Sラボ発足以降10人ほどですね。J&Sクルーズとして研究所と住居エリアがミッドチルダから独立、同じ艦の中となって以降は、新規参入のクルーにはそのあたり徹底して説明しつつ、各部署に相談窓口を設けたり対策はしているんですけど、それでも1名ほど出てしまいましたね」

 

 まぁその一名というのは「研究職に就ける上に女性職員とエリアを分けただけの同じ艦に乗れる~! やったぜ女踊り食い~!」みたいなヤツだったので面接時点でマークしてて出勤一日目でやらかしたので即退艦となったが。

 おかげでどれだけ腕がよかろうが面接で怪しいと思ったら即落とす、が以降の鉄則となった。

 なお、そのセクハラ被害に遭ったのがヴィヴィオだったので、あいつの情操教育を担当している内にまるで母か姉かとばかりに可愛がるようになったチンクはもちろんのこと、たまに職場に顔を出しては癒しを提供する彼女への被害には全職員がブチ切れていた。無論こればかりは俺も例外ではなかった。

 だって! ヴィヴィオだぞ! 見た目があれとはいえ中身は当時精神年齢2歳の子供! まだ自分の性と異性の違いもよくわかってない子供! そんな子供にセクハラとか頭沸いてんのか!?

 透霞の話によるとヴィヴィオはStS(高町が19歳)時点で10歳ってことらしいけど、俺が初めて見た時は生体ポットの中で眠ってて外に出された様子はなかったから覚醒後の歳月で言えばStS時点で0歳だったぞ。先月やっと3歳になったとこだ。

 そこらへんはおそらく俺がジェイルに関わるようになった時期とその後のジェイルの性格の変遷による影響でヴィヴィオの研究をしていたチームが衰退していった結果だろう。あれも元を辿っていけば最高評議会の息が掛かったものだったから、あちらに回す資金をこちらに回してしまったのだろう。

 

「他に質問は?」

「今のところはないかなー。それより、二人の話を聞かせてよ。二人が仲直りしてからの話、あんまり聞いてなかったしさ!」

「そうだね……。わたしも、12位く……じゃなかった。奏曲くんと透霞ちゃんのお話を聞きたいな……。可愛い、弟と妹の話を、おねえちゃんたちに聞かせてほしい……」

 

 そう言われてしまえば、そろそろ世間話に本腰を入れてもいいだろう。

 俺と透霞の、魔導士兄妹のお話を。

 

 まずどこから話そうか。

 

 そうだな、まずは俺たち魔導士兄妹の『ファーストコンタクト』からだ。


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