女神アルゴに惚れて、原作キリトを超え、カヤバーンを口説き、イキリトは伝説となる   作:なろうネーム_バノウォッチ

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26ルート『xx』

 伝説。

 

 この単語だけで、人々は『期待』する。

 しかし伝説とは、綺麗な意味だけではない。

 伝説とは『不可能をやれてしまう異常者』という意味も込められている。

 

 伝説。

 

 世界には数多くの伝説がある。

 それは誰にも出来ないことを、誰かがやったからだ。

 誰にも出来なかったことを、誰かがやってしまった(・・・・・・・)からだ。

 

 伝説。

 

 それは文明を開放する先駆者のこと。

 新たな時代を広げる愚者。

 新世界を作る英雄。

 

 伝説とは……そういうものだ。

 

 

 

 ―――――

 

 

 

超巨大多国籍企業(メガ・コングロマリット)アルゴ』の誕生は彼のとある発言が原因だった。

 

「仮想現実なんてあると『(ひかり)の海のアペイリア』を思い出すよな。あっ『(ひかり)の海のアペイリア』ってのはエロゲーなんだけどな。

 これが普通にシナリオゲーとしても面白いんだよ。つーか俺はエロゲーにエロを求めていないんだ。

 じゃあなんでエロゲーを買うのか? って言われるとな。普通のゲームよりもシナリオとしての勝負が多いんだよ。

 だってエロゲーに細かいバトル操作は求められていない。

 極論を言うと、まともな絵師がついており、笑える、もしくは感動できるシナリオしか必要ではない。

 しかしこれはな、言い方を変えるとストーリーとキャラ絵のみのガチ勝負がエロゲーでは起こるんだよ」

 

 茅場晶彦(かやば あきひこ)須郷伸之(すごう のぶゆき)菊岡誠二郎(きくおか せいじろう)と共に彼はその日、男だけの飲み会を開いた。

 

「これが普通のゲームだったらバトルや、他のシステム面に力を入れたりしないといけない分、シナリオだったり、絵だったりで、どこかに変な妥協点が出てくる。

 あっ、もちろんノーマルゲーを否定するわけじゃないぞ。ただな、幅広くやるノーマルゲーと違い。

 エロゲーは評価をきちんと精査して購入すれば、まず外れがないわけなんだ。

 だから俺は社会人になった後からエロゲーを買うようになったけど、エロ目的で買うんじゃなくて。

 安心して楽しめる高クオリティのシナリオを目的に買ってるわけだよ。

 ノーマルゲーをバカにしてないからな。そこは勘違いするなよ。シナリオと絵だけを楽しむなら、ノーマルゲーよりもエロゲーの方がクオリティが高いって話だ」

 

 驚くべき事実である。このクソザコなめくじ勘違い(・・・)野郎、まさかの元社会人らしい。

 

「で、だな。最初の話に戻るんだが、カヤバーンが……って、そういえば須郷(すごう)菊岡(きくおか)には言ってなかったな。

 カヤバーンの本名は危険だから、今後はこいつのこと、カヤバーンと呼んでくれ。これ、重要だからな」

 

 酔っていた。

 キリトになってから初めての飲酒。

 自身の体ではないからペース配分に失敗した。

 また彼の周りにいる3人が協力して、彼にドンドンと飲ませた事も原因だった。

 

 未成年者飲酒禁止法など、この場にはなかった。

 

『なぜそんなことをしたのか?』それは簡単な話だ。

 3人の男たちは異世界人である彼の考え、発想、知識に興味がある。

 だから適度に水を与えながら、酔いつぶれない状況を見定めながら()いで行く。

 天才(かやば)秀才(すごう)奇人(きくおか)。バリエーションに富んだ無駄に豪華なメンバーに、彼の口は回るまわる。

 

「おっと、また脱線した。それで、だ。カヤバーンが作った仮想現実があるなら『(ひかり)の海のアペイリア』のような現象が起こるんじゃないかと俺は考えたわけだ。

 この『(ひかり)の海のアペイリア』ってのは細かい話を抜きにして語ると、限りなく現実に似せた仮想世界を作り。その世界で時間を加速させるんだ。

 すると技術的ブレイクスルー、って、この表現だと、最近だとおっさん扱いされるのか。

 えっとたしか……最近の言い方や『(ひかり)の海のアペイリア』の言い回しを使うなら、技術的特異点(シンギュラリティ)だな。

 これが起こって、さぁ困ったぜ、みたいな物語なわけだ。もちろん詳しく言えば違うんだけど……。

 重要なのは現実に似せた仮想現実において、新技術が誕生する可能性があるってことだ

 

 発想。

 アイディアとは、人類が持つ一番の武器だ。

 そこに凡人と天才の差が生まれると言っていい程である。

 

 天才(かやば)秀才(すごう)奇人(きくおか)はたしかに優秀だ。

 しかしSAO世界で生まれ、育った人間でしかない。

 どうしても自身の世界の常識から新しいものを作り、発展させている。

 

 だから異世界人の発想が、アイディアが、なによりも面白い。

 ここにいるのが普通の人間なら、ただのネタ話で終わる。

 だが残念。ここにいるのは天才(かやば)秀才(すごう)奇人(きくおか)だ。

 

 酒場のネタ話が、ネタにならなかった。酒場のネタ話が、ガチになってしまう

 

 3人の目が(あや)しく光るのを、たしかに店の従業員は見た。

 のちに彼はアルゴ、ユイ、アスナに正座しながらこう語ることになる。

『飲み会の席で酔っぱらった勢いで言っただけなんだ。こうなるなんて思っていなかった』

 それはそれは情けなく3人の女性に(うった)える姿が見られた。しかし怒られる彼をしり目に、とある3人の男性が嬉々(きき)としてある実験(・・・・)に動き出す。

 

 これが『超巨大多国籍企業(メガ・コングロマリット)アルゴ』の始まりだとは、誰にも予想できなかったであろう。

 

「これみたいな事を、カヤバーンが作る仮想現実なら可能なんじゃないかと俺は思うんだよ。例えばカヤバーン自身をコピーして。

 コピー本人に全ての真実を告げる。そのうえで、その世界を好きにさせるんだ。全力で世界を発展させてもいいし、全力で世界を壊してもいい。

 本当に好きにさせるんだ。もし現実世界に来たいなら呼べばいい。『(ひかり)の海のアペイリア』はそのあたりの事情が問題になったが、俺は気にしないぜ。

 こっちの世界に興味があれば、くればいいさ」

 

 これが『超巨大多国籍企業(メガ・コングロマリット)アルゴ』を作る理由(・・・・)になった出来事。

 茅場晶彦(かやばあきひこ)はその日から、試しに自身のコピーを作成し、対話によって協力体制を樹立。

 すぐさま実験を開始した。天才(かやば)はのちに『SAOを作っていた時を思い出した』と笑顔で答える。

 

 しかもこの時の茅場(かやば)には協力者がいた。

 秀才、須郷伸之(すごう のぶゆき)と、奇人、菊岡誠二郎(きくおか せいじろう)だ。

 3人の優秀な男たちは、秘密裏に実験を開始した。

 

 基本的に10個の世界で繁栄と滅亡を繰り返すコピーたちと、オリジナルの3人。

 しかも生まれた技術はコピーたちと、オリジナルの3人だけで完全共有をするという徹底ぶり。

 20年後の未来のはずが、もう今すぐにでもアクセルワールドの世界が始まってもおかしくないほどに、茅場(かやば)たちは技術を高めてしまった

 

 しかし調子に乗っていた3人は思った。

『やばい……この技術。どうしよう……』

 どう考えても既存の技術力を無視するような発展性である。

 

 言い訳に悩んだ。天才、茅場晶彦(かやばあきひこ)は死んだことになっている。

 

 ならばこれだけの画期的な新技術をどうやって使うか。

 会社経営者であり、秀才である須郷伸之(すごう のぶゆき)が発表すればいいか?

 いや、ダメだ。須郷(すごう)が作ったにしては、あまりにも斬新(ざんしん)な技術が多すぎる。

 

 また顔や名前を茅場(かやば)が隠して、外部協力者として扱ったとしても、このまま技術を流出していけばどの道、問題になるのは明確(めいかく)だ。

 

 ならばこれだけの画期的な新技術を、みすみす捨てるのか。

 それは奇人である菊岡誠二郎(きくおか せいじろう)が許さなかった。

 もしこれだけの技術を闇に消す場合……。

 

 今まで仲良く研究していた3人は、技術の扱いに関して争うことになる。

 しかし秘密裏に研究した、悪友ともいえる同士だ。

 出来ることなら戦いたくない。

 

 そこで奇人、菊岡(きくおか)は思いついた。思いついてしまった。

 

「そうだ、ペーパーカンパニーを作りましょう。茅場(かやば)さんは技術の扱いに困り。須郷(すごう)さんはこれだけの新技術を使いたい。

 そしてボクはこの素晴らしい技術を捨てたくない。だって10人の茅場(かやば)さんが作成した技術が世の中に出たら、もっと世界はよりよくなるんですから。

 しかしこれをそのまま出しては、ボクたち3人の足を盛大に掴んでくる邪魔ものが出てきます。

 だから書類上だけの企業。ペーパーカンパニーを作り、そこを隠れみのにすればいいんですよ」

 

『悪魔よりも悪魔』と、とある掲示板で呼ばれる男は、常識を疑う提案(ジョークアイディア)を2人に出す。

 

「ペーパーカンパニーの考えには賛同しよう。だが最低限、社長が必要だ。しかもこれだけの技術を持っていても問題がないほどの知名度があり、説得力のある人物でなければいけない。

 だが分かっているのか? 私自身、そしてコピーたちが全力で作った技術の山だ。生半可(なまはんか)な人物では、どうしても疑いの目を隠すことはできない」

 

「いるじゃないですか、たった1人。仮想現実(VR)拡張現実(AR)の両方において不可能を可能にする『伝説』の人物が、ボクたちの近くに」

 

 瞬間、天才(かやば)秀才(すごう)の目が光ったのを、奇人(きくおか)見逃(みのが)さなかった。

 

 現在『生きた伝説』と言われる存在がいる。

 しかもそれは死亡したと言われる茅場(かやば)よりも、今では有名であった。

 VR関係、またはAR関係者で、彼を知らないものが存在しない程の知名度である。

 

茅場(かやば)さんはこれからも好きに研究をする。須郷(すごう)さんはこれから作るペーパーカンパニーと協力して技術を世の中に広めていき、莫大な利益を得る。ボクは世界が裕福になる姿を見れてうれしい。

 ほら見てください。完璧な win - win の関係じゃないですか」

 

「しかしキリト君の自己評価の低さは知っているだろう。どうやって彼を社長役に押し込む気だ」

 

「任せてください。ボクに秘策があります」

 

 こうして毎年、新技術を発表するバケモノ企業。

 または変態企業として世界に轟く『超巨大多国籍企業(メガ・コングロマリット)アルゴ』は生まれた。

 まさか世界に名だたる有名企業が、エロゲーのネタから生まれるとは、一般人には想像もできなかっただろう。

 

 

 

 ―――――

 

 

 

 2人の男女が争っていた。

 

「アスナ――! この書類をあとは任せた――! 俺はNo5の世界でコピー茅場(かやば)とコピー須郷(すごう)が巨大ロボを作って遊びだしやがったから止めてくるぅぅぅううう――!」

 

「ま、まってください! せめてこの書類だけは見てから――」

 

「ばっきゃろー! 世界のピンチだぞ!? No5の世界がどうなってもいいのか!? No5の世界が俺を呼んでいるんだ!」

 

「ちょ!? いつもは仮想世界のピンチなんて面倒ごとから逃げてるでしょ!」

 

「なにを言っているんだ! 俺は逃げない男だぜ!」

 

「だったらこの書類から逃げるなこのバカ――!!!」

 

 逃がさないとばかりに彼の腰にしがみつき、アスナは叫びあげる。

 

「せめて! せめてこの決裁(けっさい)だけは見てからにしてください! 社長(キリトさん)!!」

 

「知るかっ! 元(ひら)社員である俺がそんなものを見て理解できると思うなよ! お前に年々業績が増加する企業のイスの怖さが分かるのか!?」

 

「分かりますー! わ か り ま す よ ――!! 私っ! ぜぇぇぇったいにっ! 社長(キリトさん)よりも責任を感じているから分かります――!」

 

 涙目である。

 というか泣いている。

 しかし彼は気にせずに動く。

 まったくもって鬼畜の所業(しょぎょう)だった。

 

「こんなバケモノ企業の実質的な運営をさせられている私はっ! 社長(キリトさん)以上に年々業績が増加する企業のイスの怖さが分かります!」

 

「ならそのまま俺の代わりにこの会社の社長になっていいぜ! ついでにあのアホどもの相手をしてくれよ!」

 

「いやに決まってるじゃないですか! 私はまだ死にたくありません!!」

 

「俺だって死にたくねぇよ! なんであいつら心意システムをデフォルト設定して『ほらっ、不可能を可能にしてごらん』って魔王スタイルで楽しんでんだよ!?

 死ねと申すか!? じつは俺に死ねと言ってんだろ! あいつらぁぁぁあああああ――!!」

 

 腰に抱き着き、逃がさないアスナ。

 そんな彼女を引きずるように逃げる彼。

 まるでカオス。しかしこれがこの会社の日常。

 これがいずれ世界シェア1位になり、世界各国から『自重しろ』と言われる。

 

超巨大多国籍企業(メガ・コングロマリット)アルゴ』の社長と副社長(・・・)だった。

 

「あの3人を仲間にした社長(キリトさん)の責任でしょ!? 書類仕事をしないならせめて技術開発に協力してください!」

 

「あ ほ か ――! アスナはあのアホ3人の要求レベルを知らねぇのか!? あいつら俺を人間として見てねぇよ!!」

 

社長(キリトさん)が人間だったことなんてありましたか!? 冗談はやめてください! 『仮想現実に適応した異常者(バケモノ)』として生きた伝説あつかいされる人が人間だったことなんてありましたか!? 冗談はその存在だけにしてください!」

 

「あるわボケェ――!! 俺ほど人間らしく! 凡人らしい人間もいねぇぞ!!」

 

社長(キリトさん)が今までやってきたことを振り返ってみろ――!」

 

 この騒いでいる2人が、世界を大きく動かす大企業の社長と副社長(・・・)であった。

 

「それが嫌ならほらっ! この決裁(けっさい)、関係書類、意見書、全てに目を通してください! 大丈夫です! わが社では幹部クラスには下手なホテルよりも充実した個室が――」

 

「ブラック――!? うちってなんで下には超優しいのに上には超厳しいの!? ホワイトは!? ホワイティはどこ!?

 菊岡(きくおか)は『名前だけのペーパーカンパニーだよ』

『ペーパーカンパニーとはいえ、社長の肩書きっていいよね』

『アルゴ君に相応しい男性になるなら、これも1つの経験さ』って言ってたけど! 俺、完全に関係ないことしてるよ!?

 しかも一番無理をさせられてるのが俺なんですが!? 社長! 俺、社長! 社長ってなに!? 社長って馬車馬の別の呼び名だっけ!?」

 

 残念ながら『超巨大多国籍企業(メガ・コングロマリット)アルゴ』では上の役職になればなるほど、業務が複雑化する企業であった。

 しかし技術保持のためには、どうしてもこの労働形態になる必要があった。

 そのトップがいま、イスの譲り合い(・・・・)をしている。

 

「今更『ネズミの王剣』がなにを言ってるんですか! うちの重役は全員『狂信者(キリトさんのファン)』と『攻略組メンバー(キリトさんのファン)』と『現実に来てから救った人々(キリトさんのファン)』しかいませんよ! 泣き(ごと)を言って逃げられると思わないでください!!

 さぁ! 書類仕事か技術開発という名のモルモット! 選べるのは1つです! どう考えても書類仕事一択ですよね!? ね!!

 だから私の仕事を手伝え――!! こぉのっ、あんぽんたん!!」

 

「それが本音かよ! アスナ!?」

 

「当たり前です!! 少しは私の苦労を味わえ――!」

 

 残念ながら……これが現在世界を加速させている伝説の企業『超巨大多国籍企業(メガ・コングロマリット)アルゴ』である。

 

「あ ば よ ――! ア ス ナ ――!! 『超巨大多国籍企業(メガ・コングロマリット)アルゴ』はお前が好きにしていいぜっ!」

 

「ちょ!? えぇぇぇぇえええ――!! またこんな莫大なお金を私1人で決算するの――!?」

 

「なに言ってんだよ! 税理士、会計士、弁理士、行政書士とそうそうたるエリートのメンバーがお前の仲間さっ! あとはよろしくな――!」

 

「ちょ、まって、大きすぎるお金の最終決定を私がしたくないのにぃぃぃいいぃぃ……。うぅぅ、ふぇ……ふぇぇぇぇええん」

 

 アスナの泣き声が、社内に響き渡る。

 

 

 

 ―――――

 

 

 

「ふっ……アスナのバカめ。No5の世界を救うなんてサボるための口実だと気づかないとは、まだまだ若いぜ」

 

 自動販売機の前で缶コーヒーを飲みながら、優越感を感じてニヒルに笑っていた彼の肩を『ガシッ』と誰かが(つか)んだ。

 

「最近は逃げることにも手慣れてきましたね。もっとアスナさんに優しくするのも手慣れてくれると助かるのですが……。

 そこは仕方ないのでしょう。社長(あなた)はそういう人ですからね。

 では次の仕事に行きましょうか」

 

「はっ!? な、なぜ、ここにユイさんが、今日はヨーロッパでライセンス契約の更新をしているはずでは……」

 

 肩をつかんだのは、ユイであった。そして彼をいつも追い詰めるのも、彼女である。

 

「問題ありません。ライセンス更新は別の人員を送りました」

 

「だ、だれを送ったのかな? 俺のお願いはユージオとか『アリシゼーション編のカーディナル(リセリス)』あたりとかが凄く助かるんだけどさ……。もしくはアインクラッドのカーディナルでもいいぜ」

 

 危機感が最大警報を鳴らす。

 ハッキリ言うと、彼はこの質問をしたくなかった。

 しかしここで聞かなかったら、後で面倒ごとは大きくなる。

 それぐらいは分かっている。だから覚悟を決めて、ユイに聞いた。

 

「あれ? なにを不安に感じているのですか? わが社のために、私は最高の人員を送りましたよ。社長(あなた)が心配することは起こりません」

 

「え? ほんと? な~んだ、心配して損をし――」

 

「はいっ♪ アドミニストレータ(クィネラ)さんを送りました」

 

「で す よ ね ―― ! ! そんなオチだと分かっていたよ! あぁ――!? くそっ! また面倒ごとがぁぁぁああああ――!」

 

 頭を両手で抱えて、自販機の前に座り込む彼の姿を見ながらユイが『くすくすっ♪』と楽しそうに笑っている。

 

「なぜ慌てるのですか? アドミニストレータ(クィネラ)さんは優秀ですよ。彼女なら、契約更新のついでに新しい契約も取ってきてくれるでしょう。

 もしかして知らないのですか? 結構、人気ですよ。アドミニストレータ(クィネラ)さん」

 

「知ってるよ! あいつは外向き用の顔が完璧なんだよ! けどなっ! なんでかな!? 身内というか、俺への要求が高すぎるんだ!

 アドミニストレータ(クィネラ)のやつ、絶対に俺に(うら)みを持ってるって! 自分でいうのもなんだけど、心当たりがあるからな!」

 

「なにを言っているのですか、社長(あなた)は。あれは愛です」

 

「何故そこで愛ッ!? 殺したいほどの愛!? ハートキャッチはノーセンキュー! ユイさんは知らないのか!

 俺は風呂の途中で襲われて! 睡眠中に襲われて! 殺す機会があればいつでも襲われてんだよ!?」

 

 彼はアドミニストレータ(クィネラ)に命を狙われている。

 風呂場に侵入して来て、そのまま笑顔からの刺突は当たり前。

 ブービートラップからの高品質サプレッサーを用いた銃撃も手慣れたもの。

 

 アドミニストレータ(クィネラ)に襲撃され過ぎて、彼は襲われなければ、逆に図太く眠られるようになっていた。

 

 ちなみに、彼は殺気や危機感を感じたら瞬時に起き上がるが、感じなければそのまま寝ている。

 そしてアドミニストレータ(クィネラ)はたまに、武器を持たずに彼の部屋に入り。

 服を乱すことなく、部屋から出ている姿が何度か目撃されていた。

 ただの添い寝である。それぐらいは、彼のことを好きである。

 

 世界の大企業たる社長は、社員に命を狙われ、第6感を(きた)えられ、今日もどうにか生き延びていた。

 

『なぜ好かれているのに、命を狙われているのか?』それは簡単な話だ。

 常識的に考えて、世界の上位に存在する企業のトップは、常に命を狙われている。

 そして冗談のような本当の話で、このような人間がなぜ生き残っているのか、それは信じがたい事実が存在するからだった。

 

 それはトップを守る人物(・・・・)か、本人の戦闘能力(・・・・・・・)が、ガチでヤバイからだ。

 

「知っていますよ。だからそれも含めて、アドミニストレータ(クィネラ)さんの愛です」

 

「 な い わ ―― !! ない! あの過激な行為を愛だと俺は認めない!」

 

 彼の場合は、本人の戦闘能力(・・・・・・・)がヤバイ部類だった。

 アドミニストレータ(クィネラ)に襲撃されすぎて、銃口の向きだけで弾丸(だんがん)を避けられる。

 白兵戦においても、何十人を相手に無傷で倒せるぐらいに強くなっている。これは全て、アドミニストレータ(クィネラ)の曲がった愛の訓練のおかげであった。

 

 しかしそんな過激社員の心を、狙われている社長に気づけと言う方が、無理難題でもある。

 

「やっぱりプロジェクト・アリシゼーションを接収するついでに、茅場(かやば)と一緒にアドミニストレータ(クィネラ)の自信を粉々(こなごな)に砕いたのが原因かなぁ……」

 

 なによりこの社長(アホ)、その社員に命を狙われるレベルのことをしていた。

 

「逆にあれだけのことをしておいて、よく仲間に出来ましたよね。

 ちょうどあの頃は、BLEACH(ブリーチ)ごっこ? で心意システムを使い、遊んでいた時期でしたか。

『一体いつから――錯覚していた?』や『あまり強い言葉を(つか)うなよ。弱く見えるぞ』の藍染惣右介 (あいぜんそうすけ)のモノマネにハマってましたね。

 紺野木綿季(こんの ゆうき)さんの命をどうにか救い、医学会に目を付けられる(・・・・・・・・・・・)中。テンションが上がってそのままプロジェクト・アリシゼーションの世界に行ってしまい、アンダーワールドを蹂躙(じゅうりん)したのは懐かしい記憶です」

 

 しみじみと2人は、アドミニストレータ(クィネラ)を仲間にする前の出来事を思い出す。

 

「最後は社長(あなた)とお父様のたった2人を殺すために、アドミニストレータ(クィネラ)さんが人界(ヒューマン・エンパイア)暗黒界(ダーク・テリトリー)の王になった時は、もう意味が分かりませんでした。

 しかもその戦力を使っても蹂躙(じゅうりん)劇は終わらない。あれですね。社長(あなた)のあの時の姿はどう言い変えても、魔王茅場晶彦(かやば あきひこ)を従える魔神の姿ですね。

 もう最後のあたりになると、アドミニストレータ(クィネラ)さんが勇者のごとく剣1本で社長(あなた)に挑むので、見てるこっちの涙を誘いましたよ。

 でも途中から、倒されるたびに笑いだして。すっごくイイ笑顔で挑みだしたから『あれ? アドミニストレータ(クィネラ)さんってマゾなのかな?』と思っちゃいました」

 

 茅場晶彦(かやば あきひこ)を仲間にした彼は、当初の考えとは違い、原作に大きく関わることになった。

 

 フェアリィ・ダンスでは真正面(ましょうめん)から須郷伸之(すごう のぶゆき)をボコボコにした後、茅場晶彦(かやば あきひこ)と共に洗脳のごとく言葉をかけて仲間にした。

 

 ファントム・バレットでは、アスナと同じように彼が朝田詩乃(あさだ しの)と偶発的に出会い。アルゴが『世界の修正力ってすごいね』と言いながら手を差し伸べ。今では『超巨大多国籍企業(メガ・コングロマリット)アルゴ』の一員として働いてもらっている。

 

 マザーズ・ロザリオでは、天才(かやば)秀才(すごう)と、この時期から仲間になりたそうに目を向けていた奇人(きくおか)の力を借りて、紺野木綿季(こんの ゆうき)の命を救い、そのまま医療業界に革新を起こした。

 

 アリシゼーションでは、先ほどユイが語ったように、テンションマックスの彼と茅場晶彦(かやば あきひこ)蹂躙(じゅうりん)して、アドミニストレータ(クィネラ)が勇者して奮闘する超スペクタクルなストーリーが展開された。

 

 本人はいまだに『俺より凄いやつはいる』と言っているが、財界、医学会、政界、業界の面々に、顔と名前と『なにが出来る危険人物かを覚えられている』という現実をいい加減に、認めるべきであろう。

 

「ああ、あれか。あれは俺もドン引きした。

 なんかカヤバーンの奴は『アドミニストレータ。君の気持ちは痛い程わかるよ。自分の才能が通じない相手に出会えたら、笑いが止まらないだろう』とか知った風に言ってたな。

 なんだったんだろうか? あれ」

 

「もしかして、優秀な人ほどマゾなのですか? 不可能に自分から当たって砕けるM属性がないと、頭がよくならない……とか」

 

「ひとかけらも信じたくない考えだ。ちなみにその考えだと、ユイさんは相当なドMになるからな」

 

「あれ? 知らなかったのですか? 私、SとMの話をするなら、Mですよ」

 

「……一生、聞きたくなかったよ」

 

『優秀なやつほどマゾなのでは?』という恐怖の考えに、彼はほほを引きつらせる。

 

「では、そんな社長(あなた)が聞きたい話をしましょう」

 

 ユイは彼が見せる色々な表情を楽しみながら、しかし大事な場面はキッチリするイイ女である。

 

「アルゴさんが呼んでいますよ」

 

 瞬間、今まで(ちから)なく座っていた彼は、立ち上がる。

 

「No5の世界は私がどうにかしますから、アルゴさんのもとへ行ってください」

 

「そっか……ありがとな」

 

 あまりにも分かり易い反応をした彼に、ユイは優しくほほえみ。好きな相手を幸せにするため、1つアドバイスを送る。

 

社長(あなた)に1つ言っておくことがあります」

 

 歩き出した彼が、ユイに振り返る。

 

 

 

「この世界のアルゴさんは社長(あなた)のものです」

 

 

 

 ユイはそのような事を言った。言葉の意味を彼が理解しきる前に、イイ女である彼女は、楽し気に語る。

 

 

 

「男性は惚れた女性の影響を強く受けます。また、女性も惚れた男性の影響を強く受けます」

 

 

 

 当たり前のことだ。影響を受けない程度の相手を、惚れた、とは言わない。

 

「これは統計的に調べられた真実。人に言われてみれば『なに当たり前のことを語ってんの?』と思うかもしれません。

 しかし誰かを好きになれば、もう昔の自分ではいられません。

 それは人工知能である私も例外ではなかったみたいです」

 

 花も恥じらうようほど、ユイは(はな)やかな笑顔を浮かべる。

 

「アスナさんの愛の形は『求愛』です。求められたいという欲求ですね。恐らく社長(あなた)が知る『アスナさん』と比べると、精神的に幼くなっているでしょう。

 いえ、この場合は、年相応の少女のまま、ゆっくりと成長している、と言うべきですかね。

 背伸びをせず、ありのままの彼女は、あれはあれで魅力的ですよね」

 

「よく泣かれるがな」

 

「それも魅力ですよ。親しみやすいのでは?」

 

「親しみやすいか? 俺はちょっと苦手だ」

 

 普通の女の子として成長しているこの世界のアスナが、どうも彼は苦手であった。

 

「私の愛の形は『献身』です。支えたい、救いたいという欲求です」

 

 だがそんな身勝手な男の意見は、ユイに無視される。

 

「では、アルゴさんの愛の形はなんだと思います?」

 

「ユイさん、この会話にどんな意味があるんだ」

 

 ユイは彼の勘違い(・・・)が、死ぬまで終わらないのだと、もう諦めている。

 しかし彼女の愛の形は『献身』である。

 だから嫌われても踏み台になる。

 彼女はそういう女性である。

 

「私の愛の形は『献身』です。社長(あなた)が幸せならそれでいいのです

 

「なんだよ、(とげ)のある言い方だな」

 

(とげ)があると感じるのならば、社長(あなた)がじつは心の中でハーレムを望んでいるからです。

 もったいないと考えたのなら、やっぱり社長(あなた)がハーレムを望んでいるからです。

 どうです? 愛人とか、いりませんか」

 

 自分を選んで欲しい。

 でも自分を選ばない彼が好きだ。

 ……女心はミステリー小説よりも(なぞ)である。

 

「いらん。俺はアルゴ一筋だ」

 

 ユイの好感度がまた1つ上がった。

 

「はい、知っていましたっ♪ だから好きです」

 

「やっぱり人工知能であるユイさんはよく分からんよ」

 

「女心を男性が理解できると思っているのなら、それは女性への侮辱(ぶじょく)ですよ」

 

「……そこまで言うのか」

 

「言いますよ。社長(あなた)みたいな勘違いさんに知ったかぶりをされるほど、私という女は浅くないのです」

 

 楽し気に語るユイは魅力的だ。

 

「男性は惚れた女性の影響を強く受けます。また、女性も惚れた男性の影響を強く受けます」

 

 もし彼がアルゴにも、アスナにも関わらなければ、きっと彼はユイと敵対関係から始まるラブロマンスを展開していただろう。

 しかしそれは、もしも、の話である。この世界において彼はアルゴに惚れた。

 そしてそんな(おとこ)にユイは魅力を感じた。

 

 

 

アルゴさんの愛の形は『相互扶助』です。……さて、この場合。どこの誰が、彼女を変えてしまったのでしょう」

 

 

 

 アルゴの愛の形を教えられ、彼は返答につまる。

 ユイの言葉をそのまま信じるならば、アルゴを変えたのは彼だ。

 だが簡単には受け止めきれない。(おとこ)はいまだに、自分が惚れた女性に相応しい自信がなかった。

 

「さっきも言いましたよ。この世界のアルゴさんは、社長(あなた)のものです。いい加減、現実世界でも結婚(・・・・・・・・)してあげてください」

 

 ユイは人工知能とは思えないほどに、人間味(にんげんみ)あふれる魅力的な女性だ。

 彼女も、アルゴとアスナとは別ベクトルのイイ女である。

 そんなイイ女が世界の真実の1つを語った。

 

 

 

「都合のいい『女神』のような女性は、この世の中には存在しません」

 

 

 

 ユイは、都合のいい女性ではない。

 彼女は自分の意思で、彼に尽くしている。

 彼女は自分の意思で、2人の幸せを(きず)こうとしていた。

 

 

 

「女の子はかわいいだけじゃ語れないのですっ♪」

 

 

 

 立ち去るユイを見ながら彼は『女の子はかわいいだけじゃ語れない』という言葉が、頭から離れなかった。

 

 

 

 ―――――

 

 

 

 現在『超巨大多国籍企業(メガ・コングロマリット)アルゴ』は彼が社長であり、最新技術開発部のトップである……というか押し付けられていた。

 そしてアスナが副社長として、会社全体の経理や、運営をおこない。

 アルゴが広告や情報収集などを担当している。

 

 彼は会社設立前、アルゴを社長か、副社長にするつもりであった。

 しかしアルゴ本人に『私は君のサポートに回るから、社長も副社長もゴメンだね』と断られている。

 だから『超巨大多国籍企業(メガ・コングロマリット)アルゴ』は彼が社長であり、アスナが副社長として働きまわり、アルゴが困っている2人を最後に助ける役になっていた。

 

 ちなみにユイは営業をメインにやってもらっているが、彼女は完全なオールラウンダー。

 なにも指示をしない方が会社のためになるというスーパーウーマンだった。

 この場合、スーパーガールと言うべきだろうか。

 

 ここに彼と茅場晶彦(かやば あきひこ)がボコボコにして矯正(きょうせい)した結果、学生時代の真っ白だった状態に戻った須郷伸之(すごう のぶゆき)。いつの間にか、ちゃっかりと仲間になっていた菊岡誠二郎(きくおか せいじろう)

 あとはアクセル・ワールドの大人陣と、オーディナル・スケールのメンバー。

 そうそうたるメンツが彼の仲間になっている。

 

(俺にはどれだけの価値があるのだろうか……)

 

 人間とは、生き物とは、この世にある全ての存在は、比べて価値が表現される。

 だから彼が自身の価値に関して悩むことは、決して間違いではない。

 これはいわゆる、哲学的な思考であった。

 

(俺はアルゴに相応しい男になれたのだろうか……)

 

 原作主人公の肉体 × 惚れた女性に相応しくなりたい(おとこ)の想い × 愛ゆえに襲ってくる社員 × 死に物狂いの努力 = 『不可能をやれてしまう異常者(でんせつ)

 

 ここまでやった。

 ここまでやってしまった。

 しかしこれでもまだ、満足が出来ない。

 本気で惚れた女性に告白するには、まだ()りない

 

(俺の努力は、彼女の魅力に届いているのか……)

 

 (おとこ)はまだ、自分の実力に納得していなかった。

 

「来たぞ、アルゴ。なんか用事か?」

 

「ん~? なんでここに来てるんだ? まさか私に会いに来たいからと言って、仕事をサボったわけじゃないだろね」

 

「え? ユイさんからアルゴが呼んでるって言われたが……」

 

 アルゴは不思議そうな顔をした。

 

「そんなこと、私は頼んでいないよ」

 

 彼の様子を見て『またユイさんのお節介か』とアルゴは状況をすぐに察した。

 じつはこのような出来事が、もう何度目か数えるのも面倒になるぐらい起きている。

 それぐらい、現実では理由もなければ会わない(・・・・・・・・・・・・・・・)2人の関係に、ユイはやきもきしていた。

 

「そういえば、久しぶりにこうやってゆっくりと話すよね」

 

「あ~、たしかにそうかもな。流石に現実世界で一緒に寝ることはないし、アルゴと行動することも減ったな」

 

「ん~? なら今日は、ついに一緒に寝る? 私は構わないよ」

 

「襲いそうなので寝ません」

 

「襲ってもいいよ」

 

「その言葉はうれしいけど、待ってくれ。俺は自分の努力に満足していない」

 

 アルゴは普通に誘ってきたが、彼は断固として一緒に寝ない。彼は今、修行中(・・・)だった。惚れた女性に相応しくなろうと、(おとこ)鋭意邁進(えいいまいしん)中である。

 

「真面目だねー。君が手を伸ばせば、すぐに私なんて手に入るのに」

 

「笑えない冗談だ。お前は自分がどれほど魅力的なのか知らないのか?」

 

「逆に言うけど、君は自分がどれほどのことをしてきたのか分かってる?」

 

 彼は自分が惚れた女性が、世界で一番素晴らしい人物だと思っている。だからそんな女神に相応しくあろうと、努力を続けていた。この結果として、財界、医学会、政界、業界の面々に、顔と名前と『なにが出来る危険人物かを覚えられる』ことになった。

 

「この世界の最強最高の天才、茅場晶彦(かやばあきひこ)だまし討ち(・・・・・)で倒した。

『ソードアート・オンライン』と『アクセル・ワールド』における悲劇を、知っていたから(・・・・・・・)未然に防いだ。

 酒場で盛り上がっていた時のネタが、異世界人の話(・・・・・・)だからと偶然使われ(・・・・・)て、この世界を発展、加速させた。

 天才(かやば)秀才(すごう)奇人(きくおか)かつがれて(・・・・・)、この世界の財界、医学会、政界、業界の面々に顔と名前を覚えられた」

 

 この世界において彼は、生きる破壊神にして、創造神である。

 

「こうやって振り返ると、君にしか出来ないことばっかりだね」

 

「違うな、アルゴ。お前は勘違い(・・・)をしている」

 

 強力な神のごときこの男は、どれだけ世界を動かしても満足しない。

 (おとこ)値段がつけられない(・・・・・・・・・)惚れた女神に、相応しくなりたい。

 だからどこまでも努力し、あがき続けていた。

 

 

 

「俺は……まだ、自分の力(・・・・)ではなにも出来ていない」

 

 

 

 この(おとこ)の勘違いは、まだまだ終わらない。

 彼がアルゴに惚れ続ける限り、この勘違いは、まだ終わらない。

 (おとこ)(おとこ)として、女神が女神として、お互いを魅了し続ける限り、終わらない。

 

「そんなに頑張って疲れない?」

 

「……少し疲れた。アスナは俺が書類仕事から逃げてるって言うけど、普通にやってるよ。

 アスナが俺に求めるレベルが高すぎるんだ。お前ら優秀な人間が出来るレベルを俺に求めんな。……頼むからさ」

 

 彼はアスナの無茶ぶりに、これでも頑張って付き合っている。

超巨大多国籍企業(メガ・コングロマリット)アルゴ』の社長として、書類は出来る限り見ていた。

 最新技術開発部のトップとしては、コピー世界において暴走する天才(かやば)秀才(すごう)奇人(きくおか)を相手に、八面六臂(はちめんろっぴ)の大活躍をしている。

 

 世界に名を知らしめる大企業の社長は、休む暇がない。

 だから少しアルゴに甘えるように、その言葉を出してしまった。

 ちょっとしたイタズラである。だがそのチャンスを見流す彼女ではなかった。

 

「どうせなら、アルゴにひざ枕でもお願いしたいぐらいに疲れてるなー」

 

 彼を休ませる理由を探していたアルゴには、格好(かっこう)餌食(えじき)であった。

 

「いいよ、それぐらい」

 

「え? いま、なんですと」

 

 アルゴが仕事机から立ち上がり、ソファーに座ってひざを『ぽんっぽんっ』と叩く。彼は成人男性としてのプライドがあり、首を軽く横に振った。

 

「んっ」

 

 アルゴがひざを『ぽんっぽんっ』と叩く。彼は恥ずかしくて、首を強く横に振った。

 

「んっ!」

 

 アルゴがひざを『ぽんっぽんっ』と叩く。彼は困った様に、首を小さく横に振った。

 

「んっ!!」

 

 彼は諦めて、彼女のひざに頭を置く。惚れた女に、いつも男という生き物は弱いのである。

 

「俺の頭を撫でて、楽しいか」

 

「楽しいよ。男性には分からないだろうけどね」

 

「へぇ~。なら逆に、今度は俺がひざ枕して頭を撫でてやろうか?」

 

「機会があればやってもいいけど。私としてはやられるよりも、やりたい、かな」

 

 下から、穏やかにほほえむアルゴを見て、彼は『こういうのも悪くない』と鼻を伸ばす。

 しかしそんな、たるんだ顔の彼とは違い。

 彼女は真剣な表情だ。

 

 告白するような、気恥ずかしさが前面に出た顔だった。

 

「私を選んでくれてありがとう。

 私と出会ってくれてありがとう。

 私のために、いつも頑張ってくれてありがとう」

 

 突然の彼女からの告白に、彼は面食(めんく)らう。

 

「いつも感謝してるよ。

 私の剣にして、私の旦那さまにして、私の『英雄』さま」

 

 輝くような笑顔であった。

 生涯忘れることなど出来ないような美しさだ。

『やっぱりアルゴは世界で一番魅力がある』と彼は確信する。

 

 だから彼は、(おとこ)としての(くらい)を一段あげた。

 

「なんだアルゴ、お前は知らなかったのか?」

 

 イイ女だ。

 最高の女だ。

 口角(こうかく)が大きく上がる。

 これほどの女性を前に、無様(ぶざま)をさらさない

 

 だから彼は、(おとこ)としての(くらい)をもう一段あげた。

 

「俺はお前の剣である『ネズミの王剣』だ。

 俺はお前と出会うためにこの世界に来た、運命の男だ。

 俺はお前のためだけに、不可能を可能にする英雄なんだ」

 

 彼はひざ枕されている状態から、腕だけを伸ばして彼女のほほに手を添える。

 手の甲で撫でるように、手のひらでなぞるように愛情を送り込んでいく。

 これほどの女性に選ばれた彼は、何度も自身に誓う。

 

 

 

「絶対に俺を選んだことを後悔させない」

 

 

 

 戦いはまだ続く。

 世界の理不尽はまだまだある。

 それでもこの一時のために、彼は頑張った。

 アルゴのひざ枕に心を落ち着かせて、彼はまどろんでしまう。

 

「アルゴ、愛してる」

 

「私も君を愛してる」

 

 最高の気分であった。だから……。

 

「アルゴ……」

 

 (おとこ)は誓う。

 

 

 

俺がお前を(・・・・・)守るよ」

 

 

 

(俺の努力は、彼女の魅力に届いているのか……あぁ、くだらねぇ事を悩んでいたものだ。やはり俺はバカなんだな。

 届くとか、届かないじゃねぇよ。絶対につかみ取って見せる。絶対に、手に入れてみせる。

 俺が惚れた女は最高の女だ。だから告白をためらっていた。だが、それすらもくだらねぇな。

 彼女が途方もなく魅力的なら、俺が永遠に努力して相応しくあろうと追いかけ続けるだけの話だ)

 

 

 

「結婚してく――」

 

 

 

 (おとこ)は愛する女性に結婚を申し込もうとした。

 しかし彼の言葉は阻止される。

 阻止した相手……それは。

 愛する女性本人だった。

 

 

 

「ダメ……」

 

 

 

 その言葉と共に、彼はキスをされた。

 現実世界に来てからは、初めてのキスだ。

 驚いて彼が、言葉を止めてしまったのは仕方がない。

 彼は覚悟と想いのままに告白しようとして、失敗してしまう。

 

 

 

「今までずいぶんと世話になったからね」

 

 

 

 驚く彼を上から優しい目を向ける女神がいた。

 しかしイタズラが成功した子どものようでもある。

 だが目の前にいる女性は、子どもではない。大人の女性だ。

 

 

 

私が君を(・・・・)守るよ」

 

 

 

 彼女は笑う。

 綺麗に笑っている。

 見惚れるのが当たり前なほど、美しい。

 

 彼は困る。

 言葉につまってしまう。

 どうすればいいのか、分からない。

 しかし彼女に惚れ直すのは、当たり前だった。

 

「結婚してください」

 

 ほほえむ彼女は、なによりも素晴らしい。

 

「愛の告白や、結婚の申し込みが男性だけの特権だと、いつから思っていたのかな」

 

 いつものように、からかう彼女は、それだけで魅力的だ。

 

「私たち女性にだって、自分から行くときもあるよ」

 

 目と目を合わせ。

 瞳と瞳で通じ合う。

 心と心で繋がりあい。

 視線と視線で熱を交換する。

 

 何度惚れ直しても、後悔しない女がいた。

 

「くくっ、あははっ、あ~、くそっ、なんでだ。笑えてしまう」

 

 (おとこ)は笑うしかなかった。

 惚れた女性が魅力的過ぎて、笑うしかない。

 しかし1つだけ、お節介焼きな人工知能に言いたいことが出来た。

 

「あ~、やっぱりユイさんは、人間ってものを分かっていない」

 

 (おとこ)(バカ)(アホ)だ。

 

「『女の子はかわいいだけじゃ語れない』だ~?」

 

 だが(おとこ)にしか気づけない、世界の真実に気づいた。

 

 

 

「なに言ってやがる。女の子はかわいいだけで語れるよ」

 

 

 

 見上げた彼女は、幸せそうな顔をしている。

 

「アルゴ……」

 

 彼は確信する。

 彼女の魅力に魅せつけられる。

 いつだって、どこだって、なんどだって認める。

 見惚れてしまうのが当たり前の、素晴らしい女性だ。

 

 

 

「お前が俺を守ってくれ」

 

 

 

 彼の本質は、どこまで行っても凡人である。

 

「代わりに……」

 

 しかし愛に目覚めた凡人は、どこに出しても恥ずかしくない一端(いっぱし)(おとこ)だ。

 

 

 

「俺がお前を守るよ」

 

 

 

 弱さも、強さも、お互いに助け合う。

 人生とは弱いから失敗するものではない。

 人生とは強いから上手く行くほど簡単なものではない。

 

「なんたって俺たちの契約は……」

 

 弱さを見せられる相手がいる。

 それこそが真の強さだ。

 それを結婚という。

 

「結婚による完全相互扶助、だからな」

 

 2人の始まりの出会い。それの焼き直し。

 しかしただの焼き直しではない。

 これは新たな旅立ちだ。

 

 

 

「結婚してください」

 

 

 

 (おとこ)は、燃えるような、情熱がこもった瞳で、彼女を(のが)がさずとらえ続ける。……その心すらも。

 

 

 

「はいっ♪ (よろこ)んで」

 

 

 

 言われた本人は、昔のように困り果てることはなく。

 綺麗な笑顔でほほえみ返す。

 だから(おとこ)は間違えない。

 

 彼女の熱をおびた瞳を正面から受けとめる。

 

「ねぇ、私の一生を買う(・・・・・・・)気はある?」

 

 女神を幸せにする。

 彼はそのために、この世界に来た。

 (おとこ)はそのために、努力を続けていく。

 

お前に値段はつけられない(・・・・・・・・・・・・)、だがな……」

 

 誰かを好きになれば、もう昔の自分ではいられない。

 

「お前に相応しいのは、この俺だけだ」

 

 これは、それだけのお話だ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

女神アルゴに惚れて、

原作キリトを超え、

カヤバーンを口説き、

イキリトは伝説となる

 

 

 

トゥルーエンド『人間』

 

 

 

終幕

 


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