悪徳の街と小さな怪盗   作:望夢

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途中で設定の手直しをして改訂もしたけど漏れがいくつもあったみたいで、知らせてくれた兄貴にはイエローフラッグで冷えたビールをご馳走してあげたい。

元々スランプだったから今回は描写は思い浮かんでいるのに文章構成が稚拙過ぎて皆さんをがっかりさせるかも知れないことを始めに謝っておく。

取り敢えずこれで導入は終わりにして次から原作に一気に入った方が良いのか悩む。なにしろ導入の終わりが見えないんだよ。


逃げるのは得意でも怪我をしないわけじゃない

 

 風呂敷に包んだ金を背に、ワイヤーを伝って外壁に沿って降りていく。逃げることも考えるとそこまで大量に札束を包むわけにもいかなかった。札束十数束。50万ドルにも届かないだろうが先ず先ずか。

 

 これが貯金箱代わりのコーサ・ノストラやマニサレラ・カルテルの事務所なら根こそぎ頂いて100万ドル楽勝に稼げるものの仕方がない。欲をかいて命を落としちゃ成仏できない自信がある。

 

 未だに真っ暗闇のお陰と、スーツが黒いお陰で簡単にはバレないと思う。

 

 正面も裏口も塞がれている。建物の中は既に催眠ガスで制圧済みだ。光がないからガスも見えにくい。停電を作戦に組み込んだのはこの為だ。流石に警備員がわらわら居る中を行くのは骨が折れる。

 

 そういう盗みに対するスリルは今回は持ち込まない。それを味わえるのはむしろ金を頂いて逃げる最中だ。

 

 カジノの見取り図も施工会社に忍び込んで入手している。あとは従業員を調べて金を使って金庫の在処を掴むだけ。さすがに店番に遊撃隊やら直属を割く程バラライカに余裕はない。

 

 袖の下から先は簡単だ。しかも此方はロアナプラで今現在パーフェクトを更新中の泥棒だ。盗んだ金の一割を条件にすればレコードの様にペラペラと喋ってくれた。

 

 ダイヤル式の金庫を開けるのは朝飯前だった。

 

 トータルの犯行時間は10分も掛かっていない。

 

「っ、ヤベ…ッ」

 

 サーチライトが点灯し、壁に沿って降りていた姿を捉えられた。

 

 ワイヤーから手を離して命綱なしのフリーフォール。とはいえ10mを切っていれば着地に不安はない。

 

 銃弾がすぐ後ろを掠めていく。

 

 走りながらサーチライトを撃つ。

 

 今回は手加減だとかしている余裕はない。

 

 サーチライトの傍らで光るマズルフラッシュへ向けて撃ち込む。そうすれば一瞬その方向からの銃撃が止む。

 

 直ぐにカバーリングが入ると言うことは、相手は上等らしい。制圧射撃の合間を抜け、鉛玉の嵐の中を駆け抜ける。

 

 撃ち出された銃弾が過ぎ去る風を感じる程の紙一重の隙間に身体を通す。

 

 その僅かな隙間を作り出す為に腰から抜くのは肩に掛けた紐から垂れ下がる鞘から抜き放つ刃だ。

 

 刀の腹で弾丸を打ち返して反撃する。

 

 そのまま退路を確保する為に目の前の建物を斬り倒す。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 リトル・ルパンの今までにない行動パターン。

 

 まさかロアナプラの半分を停電させてくるとは思わなかった。そして今日は月の明かりもない。普通なら夜目が利き難く戦闘行動に支障が出るだろうが、それは我々には当て嵌まらない。

 

「侵入から7分で目標を制圧か。手際が良い」

 

 制圧時間からしてガスを使ったのだろう。停電にしたのはそれを悟らせない為だろう。ガスマスクが幾つか配備してあったはずだが、店内の闇の中ではガスが流れてくるのを見極めるのは困難だろう。

 

 ただのコソ泥かと思いきや、その仕事はやはり軍事訓練を受けた人間の動きのソレだ。

 

 電力供給を断ち、暗闇に身を隠してのゲリラ戦。

 

 ただそれだけに留まらない奥の手をリトル・ルパンは持っていた。

 

 追跡している車両を、その手に持つ(ソード)で真っ二つにした。

 

 制圧射撃もほぼ無意味。弾丸を切り裂かれている。狙撃班の攻撃は最初から射線を警戒されていて通らない。

 

 極めつけには3階建ての建物を根本からバッサリと斬り倒した。

 

「私はいつからジャパニーズアニメーションを見ているのかしらね」

 

 路地を作る建物も壁もすべてが無意味だった。なにしろ文字通り切り開いて駆け抜けていくのだから。

 

「だが大局はまだ我々の手の中にある」

 

 道を自前に作れてしまえても、包囲網を狭めていけば逃走方向をコントロールする事は可能だ。

 

 たったひとりに手駒をすべて投入するという状況。

 

 兎を狩るのに戦車を持ち出している様なものだ。

 

 これで取り逃がした日にはホテル・モスクワはロアナプラ中で物笑いの種の仲間入りだ。

 

  

 

◇◇◇◇◇ 

 

 

 

 逃げる方向を作られている。それに気付いたのは遊撃隊と撃ちはじめてすぐだった。

 

 銃がほぼ無意味であると判断されてから爆発物まで使って来る始末だ。人間ひとりに浴びせる量の火力じゃない。気を抜けば即ミンチの出来上がりだ。

 

 右も左も、後ろも、時には上からも、思い出した様に時に前から。

 

 鉛玉のスコールから身を隠すために路地の影に飛び込む。その先に待っていた遊撃隊が弾幕を張ってくるものの、1個小隊程度の火線ならば問題はない。

 

 場を満たす殺意が自分に重圧を与え、否応にも集中しなければならない状況だ。

 

 極度に高まる緊張が世界を白黒に染め上げていく。

 

 スローモーションの様にゆっくりと迫り来る弾丸の合間を擦り抜けて、抜き放つ刃で武器を切り裂き、返す刀は浅めに斬り込む。

 

 峰打ち、等というのは彼らに失礼だろう。直ぐに手当てをすれば助かる程度の太刀を浴びせる。

 

 後ろから迫っていた遊撃隊が追いついた。

 

 決して味方は撃たぬように、しかしこちらに対する正確な射撃。

 

 マズルフラッシュで見える僅かな身体の線。

 

 銃と足か腕に1発ずつの計2発の弾丸を撃ち込んで黙らせる。防弾ベストを着ていても銃弾の衝撃はどうにもならないだろう。

 

 あえて負傷者を残すやり方は、それによって敵の攻撃や進撃を妨害する狙いを込めたものだが。それが意味を成しているかはわからない。負傷者に構わず追っ手は迫って来ているからだ。

 

 足を撃たれて片膝を着く遊撃隊のひとりが手榴弾を投げてくる。それを他の隊員は拳銃を抜いて援護する。

 

 その弾丸に対処すれば手榴弾にまで手が回らない。仕方がなくバックステップで距離を開けて、手榴弾の爆発に紛れて背中を向けて全力疾走。

 

 恐らく誘導されている先に本隊が居るのは間違いないだろう。

 

 今夜はただ盗むだけ、ただ逃げるだけじゃ終わらない。

 

 それだけで良いのなら刀を抜く必要もない。何時ものように雲隠れすれば良いだけだ。

 

 だがあのバラライカを納得させなければ今日は徹底的に追い掛けてくるだろう。

 

 路地の両隣の建物の壁を蹴って上に登る。

 

 屋上に出るとスナイパーの集中砲火が始まる。それを切り抜け、屋上伝いに一直線に駆け抜ける。

 

 包囲網と自身が誘導されていた方向へ向けて屋根の上を駆け抜けていけば、終着地点は噴水のある公園だった。

 

「見事なものね。曲芸師として食べていけるんじゃないかしら?」

 

「あいにくだが、見世物じゃないんでな」

 

 噴水の前に佇むバラライカの言葉に返しながら、背中の風呂敷を降ろす。

 

「金を置いていくから見逃してくれ。とでも言うような雰囲気じゃないわね」

 

「それで見逃して貰えるのなら御の字だがな」

 

 左手に鞘に収まる刀を握り、いつでも抜けるように構える。

 

「走り回るのも飽きてきたところだ。そろそろケリを着けようぜ」

 

 休む暇もなく追いかけ回されたお陰で体力的に厳しいのが本音だ。それでもまだ数が居るバラライカの兵隊すべてを相手に出来ると思うほど楽天家でもない。

 

 現実的な話。ここで勝負を決めなければ詰みだ。

 

「あらそう。でもね坊や。私は貴方に付き合う義理はないのよ?」

 

 そう。バラライカにはサシで勝負をする理由などない。それこそ周囲に配置している遊撃隊を総動員して押し潰せばそれで済む。

 

 それでも、自分の命が尽きる前に目の前の彼女の首を斬る事は出来る。既に縮地の間合いの中だ。刀の間合いに彼女は居る。

 

 そしてそれはこちらも同じだ。3ヶ所程にスナイパーが待機している。更に目の前の彼女もそう易々と殺らせてくれる相手でもない。

 

「どっちが殺るのが早いと思う?」

 

「おれに銃は利きゃしねぇよ」

 

「そうかしら? 散々走り回って疲れ始めた今の貴方になら2、3発は叩き込めるわ」

 

 そうして彼女はスチェッキンを抜いて此方に狙いを定めてくる。

 

 此方が疲れてきているのもお見透しと来ている。更に言うと、マグナムも弾切れだ。

 

 この場合、自分から出てきたというよりは引っ張り出されたと見る方が正しい。もちろん向こうがマグナムの残弾を知る由もないが、屋上伝いに駆け抜けている最中に反撃できる場面で反撃していない。此方が弾切れである事を知られている可能性は大いにある。

 

「年貢の納め時よ。覚悟は良いかしら?」

 

「フッ。おれから年貢を徴収したいならICPOのとっつぁんを連れてくるんだな」

 

「ICPO?」

 

 ICPOの名を聞いて一瞬だけ逸れたバラライカの注意に差し込む様に縮地で前に出る。それでも直ぐにバラライカは引き金を引いてくるものの、間合いは既に此方の距離だ。

 

 跳躍しながら腕と脇腹に1発掠めながらスチェッキンを両断する。

 

 そのままバラライカの頭上を抜けると、スナイパーから狙撃される。

 

 身を捻って銃弾を叩き伏せ、噴水の上に着地する。

 

「グ…ッ」

 

 肩を駆け抜ける痛みと熱を感じながら更に噴水を蹴って大きく跳躍し、路地の中に転がり込んだ。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 決着の場として設けた公園から逃亡したリトル・ルパン。追跡をさせているが恐らく見つけることは出来ないだろう。

 

 銃を破壊される事も織り込み済み。忍ばせていた予備の銃で手傷を負わせた手応えはあった。

 

 それ故だろう。この公園から逃亡したあとの消息がまったく掴めなくなった。

 

「ICPO……か」

 

 何故あの場でICPOの名を口にしたのか。

 

 此方の気を逸らすハッタリと片付けるには、口にした時の雰囲気が引っ掛かった。まるで己の宿敵の名を口にする様な。そして、その相手以外には決して捕まらないという意地が見えた。

 

 現に今、見つけられていないのも恐らくはその意地を貫く為か。

 

「中々、かわいいところもあるじゃないか」

 

 久し振りに筋の通った。骨のある相手だった。

 

 勝敗としては我々の勝ちだと言えるだろう。しかし長期的に見ればしてやられたという結果が沸き上がる。

 

 遊撃隊の1/3を即応不可能にさせられた。戦死者は居ないものの、たったひとりの子供にやられたにしては酷い有り様だ。

 

 油断もなく、侮る事もなく、我々の総力をぶつけても逃げ遂せた怪盗。

 

 その健闘に免じて、今夜は見逃しても良いだろう。と言うより、見逃さざるを得ない状況になった。

 

「なんのつもりだ。張維新」

 

 此方がリトル・ルパンを見失ったタイミングで仕掛けてきた三合会。

 

 応戦に問題はないが、リトル・ルパンの捜索は打ち切らなければならなくなった。

 

 リトル・ルパンを逃がす為に三合会が動いたのか。

 

 はじめから裏で繋がっていたのか。

 

 予測は立てても確証に繋がる証拠がない。

 

 今は迎撃を優先し、部隊を再編した後に反撃を開始する。

 

「機会があれば、また遊びましょう。坊や」

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 その日は一晩中銃声が鳴り響いてとても眠れたもんじゃなかった。

 

 寝不足気味で不機嫌に歪んでいるだろう顔を浮かべながら、寝床にしているボロ屋から身を乗り出す。

 

 この辺りには水道はない。顔を洗うのも近くの井戸にまで足を伸ばさないとならない不便な場所だ。ロアナプラでも最下層の最下層。塵屑が行き着く場所が自分の居場所だ。

 

 清々しいとも言えない、肥溜めの様な臭いのする場所に新しい臭いがあった。

 

 建物と建物の間の路地。その臭いはもう嗅ぎ慣れた臭いだ。

 

 血と、硝煙の臭いだ。

 

 ただこの辺りで銃を持っている人間は少ない。自分以外にそんな臭いをさせる人間も居なかったはずだ。

 

 だから少し気になって足を運んでみた。それはただの好奇心だ。

 

 日陰で暗い路地に紛れている黒い服。近くに寄らなければ気づかなかっただろう。

 

 地面に広がる血が臭いの出本らしい。

 

 黒い髪の毛と黒い帽子。全身黒ずくめだから余計に目立たないその姿。真新しい硝煙の臭いに昨夜の銃撃戦の参加者だろうと辺りをつけ、金目の物を頂こうと手を伸ばした時だった。

 

「ッ――!?」

 

 伸ばした手を掴まれた。その手も血塗れで、地面に広がる血から見て生きてちゃいないだろうと思ったから少し驚いた。

 

 帽子の影から覗く眼は、真っ直ぐ自分を見つめてくる。

 

「んだよ…。まだくたばってなかったのか?」

 

 その言葉にニヤリと口許に笑みを浮かべた。何がおかしいのか。その死にかけのツラを拝んでやろうと帽子を取ってやれば、自分よりもいくつか年下のガキの顔があった。

 

「……医者、呼んでくれ」

 

「はっ。アタシがレスキューに見えるってのかい?」

 

「タダとは言わねぇよ。嬢ちゃん」

 

「生意気なガキだな。別にアタシはくたばったテメェから身ぐるみ剥いだって構わねぇんだぜ? その方が面倒がなくて良い」

 

「そいつは…、困るな。一張羅なんだ……」

 

 もう限界なんだろう。言葉が途切れ途切れになって来た。

 

「まぁ…、後悔は、させない…、さ…」

 

 そのままずるずると地面に横になったガキ。帽子も、着ているスーツもこの辺りじゃ見られない上等な物だ。良い所のガキが銃撃戦に巻き込まれたってだけなら色々と金儲けになりそうだが、このガキはそんな生易しい事情の人間じゃないだろう。

 

 出血のし過ぎで気を失ったのか、一応まだ生きてはいるらしい。

 

 助けても面倒ごとを背負い込むのは御免だ。

 

「ったく、胸クソわりぃ」

 

 寝不足気味の頭の所為にして、地面に寝転がるガキを抱えあげる。お陰でこっちの一張羅も血塗れだ。あとで弁償させてやる。

 

 ならなんで手を出したのか。

 

 ハッキリとした理由はない。ただなんとなくの気紛れだ。或いは自分と同じ臭いをさせながら目が死んじゃいないのが気に食わなかったからか。 

 

「つうか重てぇなこのガキ…! なんなんだいったい」

 

 寝床に連れ込んで転がしたあと、服を脱がせて見ればいったい何に使うのかガラクタがあれやこれや出てきた。

 

 脇腹と左腕に銃弾が掠めたあとがあった。ただそれよりも深いのは背中の銃創だった。

 

 薬なんて上等な物はない。医者も居ない。止血はしたものの、あとはガキの体力次第だ。

 

「ちっ、血でシケてやんの」

 

 スーツの上着から見つけたタバコに火を点ける。

 

「リボルバーなんて古臭い得物を使ってるからだアホ」

 

 腰のホルスターに納められた二挺のリボルバー。荒野のガンマン気取りのガキが痛い目を見ただけの気がしてこのまま金目の物を頂いて放っぽりだそうかと思ったが、何故かそれは負けた気になる気がして止める。

 

「このアタシの手を煩わせたんだ。くたばったら犬のエサにしてやるからな」

 

 そう煙と一緒に吐き出して、スーツの内ポケットに収まっていた札束を拝借して立ち上がる。

 

 この街では無意味に等しい人助けをしたのだから、その料金を徴収する権利は此方にある。たまにはマトモな朝飯を食っても罰は当たらないだろう。

 

「アタシはメシ食って来るからな。生きてたらあとで会おうぜ、カウボーイ」

 

 

 

 

to be continued…


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