ニャル様が行き先を間違えて友人兼眷属の主人公が割りを食う話   作:ヒイラギP

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あああ、遂に原作主人公を出してしまった。変なところはないだろうか怖い怖い。
と震えながらの投稿。変なとこあったら教えてください。


拾われて役人

「ねぇ!君は他の生徒みたいに校庭で踊ったり、互いに訳のわからないことを叫びあったりして狂ってしまわないのかい?」

 

教室の中でこの惨劇に一枚かんだことは間違いない女性が俺の顔をのぞき込む。そして何故俺が狂わないのか、なんて聞いてくるんだ。まったくもって無責任だ。狂えるなら狂ってしまいたかったのに。そうしたら昨日まで隣の席で話をしていたやつが水を入れ続けた水風船のようにはじけ飛ぶ姿なんて見なくて済んだし、厳しくも丁寧な授業をしてくれることでみんなに人気のあった先生が、気味の悪い、いやらしさが張り付いたような表情で言葉の暗黒を振りまきながら窓から自殺を図ることもなかった。そんな中でそれがおかしいって言ってるのは自分だけで周りのやつらはから回った眼球で俺を見ながら「%$$Φ#%$△$%#$##」なんて口をそろえて言うんだ。何言ってんだかわからないって。

 

「俺はなんか大丈夫です。でも安心しました」

 

確かに無責任な女だけど、この人の発言が今の俺の支えになってるのがわかる。当の本人はなにが安心かわからないとでも言いたげな目をしているが。

 

「安心?こんな状況下で何に安心するんだい?」

 

こてりと首を傾けて自分の疑問をぶつけるその人に笑いかけて言う。

 

「あなたが『狂ってしまわないのかい』と聞いてくれなかったら、ずっと俺は何が正気で何が狂気かわからなくなってしまったままだった。あなたが俺の正気を証明してくれたんだ。あのままじゃ学校の人とは別の意味でおかしくなってたかもしれないよ。ありがとう。」

 

たとえこの大惨事にあなたが関わっていようとね。と最後に一言付け足すと女性は一瞬間だけ驚きを見せたが、すぐに笑顔になった。あぁこの表情は毒なのだろう。俺には甘すぎて頭まで回ってもう致死量だ。この笑顔がもっと見たいと思った。この人のために俺がしたいこと、できることはなんだろうか。考えても仕方ないのに答えなんてきっと出すもんじゃない、碌なことにならないって直感でわかってるのに、俺の運命を信じる少し少年な心が温かな南風を予感して突き抜けた。

女性はもう扉に手をかけて教室からいなくなりそうだ。急いで呼びかける。

 

「あ、ッ待ってください!」

 

女性が振り向く。そんなことだけで空まで跳ね上がりそうな位心臓が自己主張してくるのがうっとおしい。校庭の血まみれ先生がその命を使い果たして静かになるのと同時に意を決して半ばダメもとで言う。

 

「またここで、友達として会いましょう。ぁ、あの、まともな人、二人だけだし、俺心細いしで・・・どうですか?」

 

うまく言葉が紡げなくて、言いたい言葉だけが溢れてくるからしどろもどろで情けなくて、冷汗がつぅと流れ落ちる。女性はさっきとは比べられないくらい驚いて、それはもう口をあんぐりさせて数秒間固まってしまった。何か変なことでも言ったのかと思っておろおろしていると、女性は笑った。それはもう子供みたいに、口を開けることを恥ずかしがる様子もなく腹を抱えて、あははと大声で壁をゴガンゴガンとグーで叩きながら校舎を揺らして笑った。

 

「笑わないで!冗談で言ったわけじゃないよ!本気であなたとここでまた友達として会いたくて、いや!ここでだけって訳じゃなくてあなたが嫌になるまでずっと友達になりたいってことでって何言ってるんだ俺、恥ずかしい」

 

今まで友達がいないわけじゃなかったのにこうして空回りして暴走してしまうのはきっと、自分から友達になって欲しいなんて一度も言ったことが無かったからじゃあないかと思う。今までは自然にできているものだったから自分から言うなんて照れくさい。散々笑った後すぅはぁと深呼吸して、それでも時々笑いを漏らし、女性は息も絶え絶えになりながらもわかってるからと弁解し、

 

「いやぁ、こんなのレアケース中のレアケースだ。僕の悪意の中で平然としているうえに友達って、君よく変人って呼ばれるでしょ。絶対そうだ。うーん、楽しませてもらったしいいよ。僕たちは僕が飽きるまでずっともだね」

 

君は耐えられる?と挑戦的な目をした女性は後ろのドアからするりと抜け出し、廊下を走って前から入る。そして目に入ってくる光景に驚いた俺は、足が絡まって机を倒しながら盛大に転倒する。大げさだと思うかよ、でも仕方ないだろだって

 

「さっきまで女の人だったよね?間違いないはずうん。でもってなんでイケメンになってんだぁぁ!?」

 

「ふふふ、よろしくね。僕の人間のお友達一号君」

 

校庭と隣の校舎の狂人たちの声が聞こえないくらい、この不思議な出会いに俺は高鳴っていた。

 

 

 

 

「んんんー・・・懐かしい夢を見たぞ。本当に懐かしい。よりにもよって人間だったころの記憶か、あの姿になったの久しぶりだったからな。精神が人間のままでいようとして夢を見せたのだろう」

 

 

ベッドから降りようとしたときにそう言えば自分たちの家は布団だったなと気づく。となると一つ不可解なことがある。それはもちろんここはどこなのかで、だんだん目が覚めてくると部屋の広さも窓の外の景色も何一つ一致しないことが分かった。おそらくというか絶対に誰かにダンジョンの中で倒れていたのを助けてもらった類だろう。

起きてから十数分か経って、状況整理が終わり家主にお礼を言って立ち去ろうとした時だった。

 

「あれ、もう目を覚まされたんですか。よかったです」

 

入ってきたのは、男にしては小柄で、白い髪に赤い目。そして何より、その赤い目の中にある強い意志がこの世界の中でも非凡なものであると分からせるのに十分な命の輝きを秘めていた。それはまるで元の世界の探索者たちのようで、というか俺は忘れていない。ミノタウロスを倒しに行ったときに隣をすごいスピードで走り抜けた奴だ。

 

「はい。ベッドを貸していただいてありがとうございます。お礼と言っては何ですが、何か手伝えることはありますか?」

 

とにかく、お礼は欠かせない。何かいいことをしてもらったら何かして返すのは人間時代からの俺のポリシーなのだ。ついでにこいつがニャル様に害をなす存在か見極めておかなくてはならない。こっちが本題ってわけじゃない本当だ。

 

「ええと、ついさっき起きたばかりなのですし、もう少し休んだほうがいいですよ。朝ご飯ができたら呼びますから、本調子になるまでに何か手伝ってもらうこと見つけておきますね」

 

そう言うと、家主は部屋を出て行った。それにしても物腰の柔らかな子供だと思ったが案外頑固者というか、あの赤い目が部屋から一歩も出るなと言っているかのようで、俺としたことが気圧されてしまった。

ふと部屋の隅に目をやると、俺がダンジョンにいた時の装備がそのまま置いてあった。家を汚したくないだけかもしれないが、付いていたはずの泥や埃の汚れが多少取り払われている。もちろん中を確認したが、いじられた形跡はなかった。そもそもシャンタクバッグは俺とニャル様以外には許可なしでは開けられない特性があるので取られる心配がない。だが今日はいつもとは違って予備のバッグにあのミノタウロスの魔石が入っているのでそれだけが心配だったが、それも無事に手元でキラキラ輝いている。

ほぅと一息ついてベッドに腰掛ける。そして魔石を眺めながらミノタウロスとの激闘に思いを馳せる。家族の亡骸でもある魔石を食って自身を強化したアイツはそこいらの魔物より圧倒的に強かった。あのまま人間体で殴られていたらあっさり死んでしまったことだろう。

更には擬態封印を解除したときには高ぶっていて気づかなかったが何者かに力を押さえつけられている。本来なら呪文なしで好きなように魔法も打てたはずだし、ほかの形態にはなれる気配すらしない。俺に組み込まれた邪悪な生物達が総じてその真価を封じられているせいもあってか通常形態の能力も半分くらい死んでいた。

試しに擬態封印を限定解除して槍の創造を使ってみると問題なく発動した。肩辺りから飛び出した触手が鋭利な矛を持つ槍に変わる。槍を消して、次は体組織のゲル化を試そうとしたがこれがどうも上手くいかなかった。別形態への変化もこのあたり、ショゴスと呼ばれる怪物の能力に異常をきたしているらしい。うろ覚えだが血液を用いた透明化、これは星の精の能力だが、これは透明化する時間が少ない。これは余談だが星の精は基本透明で吸血をすることでその姿を現す怪物だ。ニャル様はこの怪物に『反転する』術式を使ったとか存在の定義に虚数を割り込ませるだとか何とか言っていたがよく分からなかった。

 

「朝ごはんで来たので呼びに来ました。えーと、どうお呼びすればいいですかね」

 

赤目の少年が訪ねて初めてまだお互いの名前も知らないことに気づいた。これはいけないと少年に自己紹介をする。

 

「俺は役人と言います。先日は助けていただいたようで申し訳ない。あなたの名前は?」

 

「昨日のことは気にしないでください。僕はベル・クラネルと言います。よろしくお願いしますヤクトさん」

 

ベル・クラネル…かこの世界では横文字っぽい名前が主流なのか?だとしたらミスかもしれない。もし勘のいい相手だった場合は違和感を持たれたら長いこと、下手したら一生怪しまれることになってしまう。

 

「ベル・クラネル・・・うん、ベル少年、ベル少年と呼ばせてもらってもいいか」

 

ベル少年はどう呼んでも構わないと快諾し、食卓へと俺を案内する。すでにテーブルには先客がいるようでスプーンや食器の奏でる音が聞こえてきた。そこへと視線を向けると、・・・

 

はっ!理解しがたいものを目撃したせいか思考回路が一瞬働くことを嫌がった。なんと言うことか、俺の目の前には、肩を出し、胸を強調し、長い髪を頭の両側で纏めたつまりは痴女がいたのだった。しかもこの気配、神様である。この世界に来て驚いたことの一つに神様の肉体が思いっきり人間スケールだということがあげられる。俺自身ニャル様以外の神様を近くで見るのは初めてなので、改めて元の世界とは神様の在り方が違うのだと驚かせた。

そんな感じでベル少年のファミリアの主神をじろじろ見るのも不敬かと思い、

 

「あーえっと、ベル少年に助けていただいた役人と申します。この度はご迷惑をおかけしました。この度は食卓を共にさせていただきたく・・・」

 

「そんなに硬くならなくていいよ。たまにはお客さんが来るのも賑やかで悪くないさ」

 

包容力を感じさせるその言葉にこの神様が俺のことを拒絶していないことが分かった。このファミリアは主神も眷属もお人よしのようだ。

 

「ところでヤクトさんはなぜあんな所で倒れていたんですか?やっぱり魔物に?」

 

ベル少年が訪ねる。まあ当然の疑問だろう。嘘をついても仕方ないので素直に答える。

 

「ダンジョンにいた強い魔物とタイマンはっ・・ごほんっ、一対一で戦っていたのですが、戦闘で負ったダメージが思ったよりも大きくて、勝利は収めたのですが力尽きてしまいまして。いやぁあのままでは死んでいたかもしれなかったので、本当に感謝しています」

 

過程のことは一切話さない。魔物相手に虐殺決め込む人間なんて警戒されるに決まっていることくらい想像に安い。流石に看破されないだろうが、神様相手に隠し事をすることに無意識ながら抵抗があるのか冷汗が出てきた。これもニャル様と積んできた経験が生存本能と強く結びついたおかげだろう。全然うれしくない。

 

「でも、ヤクトさんがいたのは大体九階層目でしたよね。いったいどんな魔物がいたのか聞いてもいいですか」

 

もし上層で強力な魔物が出たとしたのならば、危険なので情報が欲しいといったところだろうか。朝ごはんを食べながらでもとベル少年に進められるがままに「いただきます」と言ってから食べ始めた。焼いたパンとそれに挟まったハムは若干質素ながらも安心を与える味で徒党を組んで感情的な美味に作用する。元の世界で食べた朝食のそれを思い出して、それに付いてくるように大家さんと家賃のことも思い出した。

 

「それでどうなのさ。ヤクト君、君を気絶まで追い込んだ魔物っていうのはどんな奴なんだい?」

 

口に残っていたパンとハムを飲み込んで、水を一口飲んでから、その魔物がミノタウロスであること、賢くて力も他と比べて段違いであったことを説明すると、ベル少年がぎょっとして

 

「ミ、ミノタウロスゥ!?ヤクトさんはミノタウロスに勝ったんですか?」

 

と身を乗り出さんばかりに聞いてくるもので、これは因縁でもあるのかなと思い、ベル少年の中でミノタウロスの価値が下がらないようにフォローしようとして、

 

「はい、やはりとても強かったです。俺途中で壁にめり込みましたもの」

 

なんておどけて見せたが、そんな攻撃食らってなんで生きているんだ的な目線を二人共から受ける羽目になってしまった。

そんなこんなで朝食を食べ終わった後ベル少年に予備のバッグに入っていたあのミノタウロスの魔石を見せてしまったのは、やはりベル少年が見るもの見るものに正直なリアクションをしてくれるので、気が大きくなって自慢したくなってしまったからに違いない。

うん。やっぱりこの魔石は綺麗だ。

 

 

 

昼過ぎごろになってベル少年の主神が働きに出るというのでここぞとばかりに手伝いを申し出た。これでもアルバイトはやってるほうだったし、嫌いでも無かった。

 

「手伝ってくれるのはいいけど、いいのかい?君はお客さんなのに」

 

とベル少年の主神が気にかけてくれたが迷惑がられていなければそれでよいのだと言って、ダンジョンに行くからと席を立ったベル少年とも一緒に外に出た。

 

 

 

 




次回予告
人ごみに負けないで!

拾われて編が終わればまたニャル様との異世界スローライフ(?)が待ってるんだ!

頑張れ役人。じゃが丸を売りさばけ!

次回、役人じゃ丸との会合

※内容は変更される場合がございます。

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