自動車時々戦車整備   作:セメント暮し

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EP2

 無事5台の戦車を整備もといレストアさせた隼人達自動車部の面々は、部室の隣にある仮眠室やソファーで徹夜の作業の疲れをとるために床に就いていた。

 

 だが、その快適な安眠の時間は当然響き始めたジェット機のエンジン音と何かを投下したのであろう落下音によって簡単に失われてしまう。

 

「なんすか!?」

 最初に目を覚ましたのは要であった。要は、音が聞こえてきた窓の外に視線を巡らせる。

 

「……戦車が学園長のF40ぶっ潰して、走ってった……」

 視線の先には、学園長の愛車であるロッソコルサのF40がスクラップ同然に成り果て、その上を10式戦車が後退し、追い打ちをかけるかの如く踏んづけている場景があった。

 

「……す、数億円のクルマが……って、起きてください。センパイ!」

 要とは反対側のソファーで熟睡していた隼人を叩き起こし、外を見るように促す。

 

「……起こすんじゃねぇよこの野郎……あ?」

 後輩に叩き起こされ不機嫌な隼人は、渋々窓の外に目を向けた。

 

「なぁ、要よ? いつからF40はスクラップになったんだ?」

 

「ついさっきまでピカピカでしたけど……陸自の戦車に潰されました……」

 

「……戦車の人間は、さぞかし車の価値を知らない馬鹿野郎なんだろうな」

 そう言って隼人は深く息をつく。そして、キーボックスからプラスチックのタグが付けられている鍵を取り出した。

 

「朝飯買ってくる」

 

「……了解っす」

 あまり汚れが目立たないオリーブ色のツナギを纏う隼人は、要の声を聞き流してガレージ内へと降りていった。

 

 

 15分後

 

 学園艦上に店を構えているパン屋からは出来立てのカンパーニュを買い、それに挟み込むレタスやハム、チーズといった材料をスーパーから仕入れてきた隼人は、ダブルキャブでピックアップというランクル70を、壁が取り払われた隣の倉庫に頭から突っ込ませて駐車する。

 

 2インチ程リフトアップされているランクルから降りた隼人は、自身の赤みが濃く、もしゃもしゃとした茶髪の癖っ毛を両手でかき上げると、二つのレジ袋を車の中から取り出した。

 

「そういや、ブレスレットねぇな。どこにやったっけ?」

 ふと、自身の左手首に普段から着けている鮮やかな青で染色されたヌメ革のブレスレットが無くなっている事に気づいた隼人が首を傾げた。

 

「昨日の夜飯の時はあった……」

 レジ袋を持ったまま昨夜から今朝までの記憶を掘り起こす。

 

「三突修理した後に、要の四号の整備を手伝って、全車の修理を終えてから部室のソファーで横になったはず……」

 ガレージを横切り、部室への階段に足をかけ一段ずつゆっくりと登っていった。

 

「……あ〜……四号の砲塔内のレバーにかけっぱなしだわ」

 部室のドアノブに手をかけて捻ろうとした瞬間に、ブレスレットを何処に置き忘れてしまったのかを思い出す。

 

「もう訓練に行っちまったもんな。終わってから回収に行くか」

 そう言って隼人は、朝飯を待ちわびているだろう部員達の元へとカンパーニュサンドの材料を届けるのであった。

 

 

 夕方

 

 陸上自衛隊の蝶野亜美を教官に迎えての初練習を終えたみほは、同じ四号戦車の沙織達と別れ、一人で自動車部のガレージを訪れた。その手には、隼人のブレスレットとスクールバッグが握られている。

 

「……あの、赤星隼人さんいますか?」

 自身のR32に、三日月型のスリットが設けられた新品のブレーキローターを装着していたホシノは、ガレージの入り口からした声を聞き、作業を中断する。

 

「隼人なら公園で一服してると思うよ」

 ブレーキローターの交換を終え、後はタイヤを取り付けて締めるだけとなったホシノは、黒と赤のメカニックグローブを脱いで工具箱の上に置いた。

 

「公園ですか?」

 

「戻るまで待つ?」

 

「あ、公園まで行きます」

 みほはそう言うと、踵を翻し公園まで歩き出す。ホシノは、みほが視界の隅から消えるまで見送ると、車の中から携帯を取り出して隼人に連絡をした。

 

 10分後

 

 学園艦の進む広大な太平洋に沈む夕日を見ながら、隼人はシルビアのフロントに体を預け、ボトルコーヒーで一服しながらみほを待っていた。

 

「あ、赤星先輩……」

 缶の中身が無くなり車内に戻ろうとした矢先、隼人にブレスレットを渡そうと、みほがやってきた。

 

「待ってたよ」

 運転席側のドアノブから手を引いた隼人は、やってきたみほの正面に立つ。向かい合う形になったみほは、手元の鞄から四号戦車の砲塔内に掛かっていたブレスレットを取り出すと、隼人に手渡した。

 

「あの、これ……」

 

「ありがとうな。何処にやったか忘れてたんだ。助かったよ」

 みほからブレスレットを受け取った隼人は、忘れないうちにと、手首にブレスレットを着ける。夕陽が放つオレンジ色の光がブレスレットの水晶に光を灯し、キラキラと輝いた。

 

「……私もそのブレスレット持ってたんです。前の学校で中等部の頃から一緒に戦車に乗って、とても仲良くしていた人に貰って……」

 だんだんと俯いていくみほが、消えそうな声音で呟く。

 

「……妹を……小梅を、助けてくれてありがとな」

 隼人は自身のブレスレットに手を当てながら言った。その一言を聞き、みほが勢いよく顔を上げる。

 

「去年の決勝戦、水没していく三号戦車から小梅達を助けたのは君だろう?」

 今にも涙を零しそうなみほが、ゆっくりと頷く。

 

「俺は、中継を見ていた訳じゃないからあんまり詳しい事は知らないけど、君がした事は正しい。むしろ、それのせいで負けたなんて言ってる馬鹿野郎なんか人命軽視のゴミクズだ」

 昨年の出来事を思い出し肩を震わせる隼人は、言葉を吐き捨てると同時にアルミ缶を握りつぶした。

 

「君が黒森峰で戦車道を諦めた後、あの三号戦車の乗員は小梅以外みんな転校してしまったそうだ。でも、小梅は戦車道を辞めてない。なんでだと思う?」

 小梅と同じ透き通った青い瞳が、真っ直ぐにみほを見つめる。

 

「……君がやったことを誰にも否定させない、否定されたくないから続けてるんだよ」

 隼人の言葉に、みほの右目から涙が零れ落ちる。最初の涙が零れてしまうと、あとはもう取り留めがなかった。

 

「兄の俺が言うのもあれだが、あいつは芯が強くてな。一度するって決めたら最後までやり続ける、やり通すタイプの人間なんだ」

 後からあとから流れ落ちる涙はもう止まらない。

 

「小梅は、君が戦車道を続けていることを信じてる。むしろ続けていてほしいと願ってる」

 

「その期待に応えてやってほしい。頼む……」

 顔を押さえて静かに泣くみほに、隼人はそっと言葉を投げかける。

 

「……はい……」

 一方のみほも、小さな声ながらもしっかりと頷くのであった。

 

 

 翌日

 

 一日の授業を終えた放課後、隼人達自動車部の面々は、ガレージの中で車両整備に明け暮れていた。

 

「そういえば今週末は寄港日か……」

 

「松山さんの工場行ってオイルとか取りに行く人~」

 

「自分はクルマの納車日なんでパスしまーす」

 

「お、ついに今週なんだね? 何買ったのかなぁ?」

 

「納車されてからのお楽しみっす!」

 

「え~要も車買ったの!?」

 

「隼人はどうする?」

 

「金曜の夕方の便で熊本に帰るからパス」

 四号戦車のV型12気筒エンジンに積まれている12本のスパークプラグを清掃をしていた隼人が、作業の手を止めずに答える。

 

「知り合いにクルマ整備してくれって言われて行くことになった。真っ赤なSW20に乗ってる奴でな」

 

「いい趣味してるね~」

 綺麗に手入れされたサンライトイエローのEK9の腹下からぬっ、とライトを持って出てきたナカジマが言う。

 

「Ⅴ型のGT-Sで、うちの店のヤードで埃被ってたのを俺が直して売った」

 パーツクリーナーとウエスを使って綺麗にしたプラグを一本ずつシリンダーに戻し、150㎜のエクステンションバーとプラグレンチを使って回らなくなるまで締め付ける。そして、エクステンションバーにスピンナーハンドルを取り付け、1/4回転させてスパークプラグを締め込んだ。

 

「……実家のお店になんかいい車ありますか?」

 同級生である要が車を購入した事でしょぼくれていたツチヤが、虚ろな瞳で隼人を見上げた。

 

「条件言ってみろ」

 

「MTでドリフト出来るクルマ、予算は75万から85万くらいでお願いします」

 指折り数えるツチヤは、傍らに置いていた中古車雑誌をペラペラと捲り出す。

 

「あっちに行ったら何台か写真撮って送ってやる」

 エンジンフードを閉じた隼人は、四号戦車から降りると工具をそのままにして、ツナギの胸ポケットから携帯を取り出しガレージの外へと出て行った。

 

 

 

 横浜と大阪を経由して熊本に向かう連絡船乗り場には、数えるほどの生徒しかおらず、その中でも車を持ち込んでいるのは隼人だけであった。

 

「小梅にシルビア運転させるから持ってこいってどうゆう事だよ……別に家のデモカーでも問題ないはずだけどな」

 数日前に父親からあった電話の内容を口に出した隼人は、シルビアのバケットシートに体を預け、エンジンを始動させる。

 

「さっさとクルマ載せて休むか」

 丁寧に車を発進させて連絡船の積み込み口へと向かわせた。

 

 

 18時間程かけて熊本港に到着した連絡船からシルビアを下ろした隼人は、県道51号の熊本港線を真っすぐ進んで自宅兼整備工場の正面スペースに車を停める。

 

 整備工場の正面スペースには、Z33や30ソアラ、ER34といった車達がプライスカードを掲げられて置かれているが、隼人はそんな車達には目もくれずに工場の事務所へと足を進めた。

 

「お疲れ様です」

 事務所の中では、お客と先輩従業員がタブレットを交えながら中古車を探している。

 

「あれ、はーちゃん帰ってきたんか?」

 

「はーちゃん呼びしないでください。それより、ヤードの鍵あります?」

 はーちゃんというあだ名で呼ばれている隼人が顔を顰めつつ鍵の場所を聞いた。

 

「社長が今ストックヤードに行ってるからないよ」

 

「じゃ、あっちに持ってくクルマありますか?」

 

「工場の中に白のマークⅡがあるからそれ持ってって」

 事務所のカウンターから、JZX100 マークⅡの鍵と書類の挟まったバインダーを取り出した隼人は、それを小脇に挟みつつ事務所から工場に移動する。

 

「エアロはノーマルだけど車高はそれなりに下がってるし、キャンバー角も付けられてるけどいい人がオーナーだったんだろうな」

 工場の照明によってますます純白に輝くマークⅡは、このままヤードに持っていくのが惜しいほど綺麗に乗られていた車だった。

 

 運転席に座った隼人はドリフト車両にお馴染みである水中花のシフトノブに手をかけ、差し込んだキーを捻る。

 

「意外と静かだ」

 サイレンサーによって低く抑えられた1JZエンジンのエキゾースト音を聞きながらマークⅡをゆっくりと発進させた隼人は、工場から少し離れたヤードへと車を走らせた。

 

 

 数時間前に隼人がS15と降り立った熊本港のフェリーターミナルには、多くの黒森峰女学園の女生徒達がバスや家族のクルマを待っている中、隼人の妹である小梅は母親からのお下がりである白色のマツダ・ベリーサの運転席で車列が動き出すのを待っている。

 

「お兄ちゃん帰ってるかな……あっ」

 白のカットソーにジーンズ、ブルー系のシャツワンピースで着飾る小梅がセンターコンソールの小物入れから振動しだした携帯を取り出し、耳に当てる。

 

「もしもし、港に着いたよ。少し寄っていく所があるからお昼ごろになるかも」

 手早く母親との連絡を済ました小梅は、ベリーサのアクセルを静かに踏み込み目的地へと発進させた。

 

 純白の外装を纏ったマークⅡを運転する隼人は15分ほどで四方を壁で囲われた自動車保管に使用しているストックヤードの入口に到着した。

 

 ヤードの出入り口にある扉を開けマークⅡを進入させると、そこには店舗には出していない車や部品取りとなって積み上げられている車両がある程度綺麗に並べられている。

 

「こいつは倉庫の中だよなぁ……」

 マークⅡをヤード内の倉庫前まで進めた隼人は、エンジンをかけたままのマークⅡから降り、扉が開いたままの倉庫へと入っていった。

 

 

 倉庫の奥では、隼人の父親である鷹臣がエンジンスターターを装着した日産・パルサーGTI-Rのエンジンを始動させようとしていた。

 

 クラッチペダルを奥まで踏み込み、キーを回すとシルビアと同じSR20DETエンジンが唸りを上げて倉庫内に音を響かせた。メーカー出荷時の230psから20ps程アップさせたSR20エンジンは大した異常はないぞと伝えるかの如く調子のいい回転を続けている。

 

「相変わらずいい音させんね」

 書類を挟んだバインダーを小脇に抱えながら隼人はパルサーの運転席を覗き込むと、あまり人前で笑顔を見せない鷹臣が少年のような快活な笑みを見せた。

 

「だろう?」

 

 

 パルサーのエンジンが正常に作動するのを確認した鷹臣は、ギアをローに入れてパルサーを発進させ、倉庫の扉近くまで移動させる。その間に隼人は、マークⅡを後進させて、パルサーが収まっていたスペースに戻す。

 

「こんなもんか」

 ギリギリ過ぎず遠すぎない絶妙な間隔で駐車した隼人は、ボンネットオープナーのレバーを引いてからマークⅡを降りる。

 

 ボンネットを開けエンジンルームを一通り眺めると、自前のツナギの尻ポケットからソケットが装着されたラチェットレンチとコンビネーションレンチを取り出す隼人に鷹臣が声をかけた。

 

「シルビアの調子はどうだ?」

 

「ぼちぼちってとこ」

 手際よくバッテリーを取り外し始めた隼人が答える。

 

「そうか」

 

「デカいとこだとインタークーラーとかオイルパンとか変えた。細かいとこだとエンジンマウントのブッシュ変えたり、シフトノブ変えたりしたわ」

 大洗学園に入学する直前に鷹臣が与えたドノーマルのシルビアは、隼人の手によって大幅なカスタムが施されていた。まずは、外装を純正からST-Garage製のAXCENTに交換し、それに伴い足回りの部品を純正品から変更。VERTEX製のフルタップ式車高調や社外品のサスペンションアームを組み込み、街乗りから峠といったワインディングロード、ドリフト走行といったことに幅広く対応できるようにしていったのである。

 

 また、駆動系にはCUSCO製2WAYのLSDに、マニュアル車には必要不可欠なクラッチ板もATS製カーボンブレードクラッチに交換されており、外装から中身まで大幅に変更されているのであった。

 

「LSDとかも弄ったんだろ?」

 

「14に乗ってたセンパイから譲ってもらって今年の春先に付けたところ」

 バッテリーを外し終え、ボンネットを閉めると隼人は周りに置かれている車を眺め始める。

 

「そうだ……親父? 俺の後輩の女子が車探してるんだけどなんかよさげなのある?」

 

「条件はなんだ?」

 

「MTでドリフト出来るクルマだとさ」

 先ほど使った工具をツナギの尻ポケットに戻した隼人は真っ白に輝くマークⅡのボンネットを撫でながら言った。

 

「予算は?」

 

「75から85万くらいだったな」

 

「ちなみに、その子の腕はどんくらいだ?」

 腕を組み、鷹のように鋭い目を向ける鷹臣に隼人は息を吐いて答えた。

 

「センスの塊みたいな奴さ。俺の15では朝飯前、ホシノの32でも簡単に横向けやがる」

 後輩のツチヤをべた褒めする隼人に鷹臣は苦笑する。

 

「ホシノちゃんの32でもドリフト出来るとか将来有望だな」

 ちなみに隼人とホシノの関係は両方の親公認であり、同棲も許可済みであったりする。

 

「普段はにへらにへらしてやがるくせに、ドライバーズシートに座った瞬間雰囲気がガラッと変わっちまう」

 

「お前だって人のことは言えんさ」

 

「……」

 鷹臣の言葉に隼人はバツの悪そうな顔を見せた。

 

「それはいいとして、車の方なんだが、75から85だとそれなりのクルマが結構あるし、業オクで落とした金額プラスαで納車できるんだが……」

 

「何台かうちの在庫からリストアップして渡してみるわ」

 隼人のツナギの中で薄型の携帯が音を立てて震える。ポケットから取り出し通話のボタンを押すと画面の向こうの相手の声が流れてきた。

 

「もしもし、隼人です」

 通話の相手は店で整備作業をしていた先輩従業員であった。

 

「親父に用があるなら変わりますよ……え、違う? は、俺の15が欲しい客が来た?」

 通話内容に親子で顔を見合わせる。

 

「そのお客さんに待っててもらえますか? 今すぐ親父連れて戻るんで」

 流石に、自分が愛車としている車をいきなり売ってくれと言われて、はい構いませんよとは答えられない隼人は、客に待ってもらうように頼むと通話を切った。

 

 

 15分程で店に戻ってきた隼人は、正面スペースに停めたシルビアをじっくりと眺める女性の姿に目を奪われる。その女性は、肩甲骨辺りまで伸ばした暗めの茶髪を首の後ろで結い、とても淑やかな印象を醸し出していた。

 

「……綺麗な人だな」

 その場にホシノがいたならば脇を小突かれるか長尺のスピンナーハンドルでたたかれるであろうセリフを隼人は呟いた。

 

「このシルビアドンピシャなんだけどなぁ~」

 一月ほど前にJZS161アリストを売却し、次は何に乗ろうかと思案中だった大学生のメグミは、熊本の演習場で予定されていた戦車道の練習試合が急遽無くなり、暇になってしまった一日を有意義な一日へと変える為、市内にある車屋のなかでもスポーツカーを数多く置いている車屋を何件も渡り歩いていたのだ。

 

「やり直すならそれなりに軽くて素直なシルビア系統がいいのよねぇ~」

 故郷である長崎のサンダース大学付属高校に入学した当時から、純白のボディに6速MT換装が施されたアリストを駆ってドリフトの世界にのめり込んだメグミは、戦車道のスポーツ推薦で大学に進学してからも戦車道の訓練の合間を縫ってドリフトを続けていた。

 

 だが、とある走行会直後からどんな走り方をしても面白くなくなってしまったのである。そこでメグミはマンネリ化した自分のドリフトを変えるためにクルマを変える選択をしたのだ。

 

「俺のシルビアが欲しい人って貴女ですか?」

 

「え、このシルビアのオーナーさん?」

 メグミの問いに隼人は深く頷くと、ポケットからNISMOのキーホルダーを付けたシルビアの鍵を取り出し、ドアを解錠した。

 

「乗ってみてもいいですよ」

 手出してくださいと付け足し、メグミの差し出した手に鍵を置いた隼人はそのままシルビアの助手席へと向かって歩き、ドアを開けて乗り込む。

 

「ほんとに乗っていいの?」

 視線でどうぞと訴える隼人に降伏したメグミは、運転席のドアを開けBRIDEのフルバケットシートに体を委ねた。

 

「ラフィックス付けてるなんてレースカーみたいね……って、ニスモのフルスケールメーターじゃない!?」

 Defi製の追加メーターが居並ぶダッシュボードの上にあったNARDIのステアリングをステアリングボスに装着しながらメグミは驚きの声を上げる。

 

「油温、油圧、水温、ブースト、パワーFC……社会人ってすごいわね……」

 

「社会人? 俺まだ高3ですよ」

 

「高3って……あたしより年下じゃない!?」

 助手席から飛んできた発言にメグミは大きなため息をついた。

 

「そんなことより貴女はこのクルマが欲しいんじゃないんですか? 横向けてもいいんで俺に見せてくださいよ……貴女のクルマにかける思いを」

 隼人の挑発的な言葉によって、メグミの中の走り屋魂に火がついた瞬間であった。

 

 




どうもセメント暮らしです。
なんというか……すごい時間がかかってしまいました。
スランプやら時間が無かったりやら等は、言い訳にしかすぎないかもしれません。
ですが、エターナルにはならないようにしていきたいと思いますので、どうぞ拙作をよろしくお願いいたします

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