後悔なんて何度してきただろう。
止められなかった争いに、いつも心を焦がされる。
いつもそうだ。
『一の方針を定め、十を想定し、百案練って、千を予測し、万事に気を配る。』
先生から受けた訓示。
私は1つも出来なかった。
口だけだと揶揄されたことだってある。
でも、今だけは。
神様、お願いします。
今だけは、あの人を止める力をください。
もう後悔なんてしない。
幾つもの戦いを乗り越えて、なんて言えないけど。
今だけは、勇気をください。
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「良一。どうして、なんてもう遅いね。」
「ああ、七。これは重桜の、俺たちのためなんだ。」
「・・・その耳、似合わないよ?その尻尾も、角だって・・・似合ってない。」
「・・・・・・」
「貴方は、私が止める!」
海は荒れている。
戦いの予感に波は高く、風は躯を刺す。砲身に反射する日の光は2人の譲れぬ境界線に線を引くように輝く。
ロイヤルでの会合中、知らせを受け取って駆けつけると、五航戦は既に倒れ、三笠は刀を杖にようやっと軍神の風格を保に至る。
「赤城さん!加賀さん!何故貴女たちが!」
「天城さん、出雲さん、貴女方も・・・」
飛龍は狼狽し、蒼龍は半ば諦めたように眼を細めた。
「全ては指揮官様のご意志。」
「我等は臣下としてお支えするのみ。」
この時、三笠の指示は的確だった。
外へ出ている蒼龍。姉がいなければ飛龍の戦闘能力は半分以下になる。無理に一航戦と戦えば桃瀬が帰還した時に反抗戦力はほぼ瓦解したと言える。
ならばと自らを盾に、五航戦を中心に反撃指揮を執ったが、不意打ちもさることながら、流石は一航戦。心は堕ちても鉄の翼は墜ちず。僅かな時間で悉くを凌駕された。
三笠を支えたのは軍神の意地か、はたまた、敵の情けか。
「三笠さん、長門ちゃんは?」
「陸奥と江風と共に戦闘中のこの海域から出た。お前が来なければ、叩かれていたやもな。」
「他のみんなは?」
「案ずるな、戦力は残してある。私はお前に賭けたのだ。」
黒河の姿が無い。既にやられたか、いや、白波についたか・・・彼に限ってそれはないだろう。桃瀬は溜息1つ吐き白波艦隊を睨んだ。
足場は海に浮かぶ浮桟橋は、指揮官が前線に出る際に使われる明石の特製品だ。
波の飛沫を感じながら、すーっと潮風を肺に吸い込んだ。
そして叫ぶ。
「二航戦!!戦闘準備!!!」
「大鳳!!お願い!!力を貸して!!!!」
「摩耶!!!!伊吹!!!!北風!!!!貴女たちもお願い!!!!!!!!」
叫んだ後一瞬の静寂と共に、現れる。
現反抗戦力最強の桃瀬艦隊。
「飛龍!!兎に角やるしかないわ!!!」
「はいっ!!!!」
三笠の推察は当たった。飛龍の迷いは消えた。姉の鼓舞?いや、最早桃瀬に託すしか無いと開き直った顔つきだ。信頼とも言える。
「七、遅かったな。ぼくはいつでもいけるぞ!!!!」
「ふふ・・・七を虐めるのはどこの狐さんかしらぁ・・・?」
「主殿、前衛はお任せを。敵の全てを一刀の錆にしてご覧にいれましょう!!」
「指揮官よく戻った・・・会心の一撃受けてもらおうぞ!!!」
他の面々も士気を上げ突撃を仕掛ける。
白波艦隊のKAN-SENも迎撃の態勢に移る。
しかし、どこか余裕そうなのはなぜだろう。
三笠と桃瀬は一考した。
他のKAN-SENの子達が見えない。それは黒河の部隊に所属であったり、混乱して動けない者もいるだろう。桃瀬はそう考えるにあたり、三笠を見る。三笠は全てを察し首を横に振った。(実はこの時、長門が暴走する重桜艦隊を沈めていたが、桃瀬や三笠はまだ知らない。)
白波の表情からは察することが出来ない。
悲哀のような、かと思えば全てを諦めているような・・・
ここで桃瀬と三笠に唐突に答えが明かされた。
海の向こうから煌めいた砲撃。それは鉄血、東煌、北方連合の艦隊からのものだった。