やはり一色いろはが俺の許嫁なのはまちがっている。番外編   作:白大河

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※※↓↓ 注 意 ↓↓※※


このお話は番外編、いろは生誕祭ネタです。

今作は「やはり一色いろはが俺の許嫁なのはまちがっている。」本編とは一切関係がありません。
なので本編だけ楽しみたいという方は読み飛ばしても支障はありません。
パラレル要素が含まれます。

それでも構わないという方のみお進み下さい。
ご理解の程よろしくお願い致します。


※※↑↑ 注 意 ↑↑※※


番外編 いろは誕生日(パラレル)

 ブーブー。

 授業中だから、とマナーモードで充電スタンドに置かれたままのスマホが震える。

 当然俺のスマホではない、一色のだ。

 今日はやけに一色のスマホが鳴っている気がする。これが陽キャの普通なのだろうか? 俺のスマホは一日一度鳴るか鳴らないかというレベルなのに……べ、別に悔しくなんか無いんだからね! 

 そんな事を考えているとまたバイブ音が室内に響く。

 

「今日なんかあんの? 用事あんなら帰るけど?」

 

 マナーモードにしていてもバイブ音というのは意外と響くものだなと考えながら、俺は我慢できず、一色に聞いてしまった。

 いや、何か急ぎの用事なら出ていいよ? とは言ったんだけどね。

 俺かなり生徒に寄り添う家庭教師じゃない?

 学校の先生だったら確実に取り上げられてるよ?

 

「あ、いえ。今日私の誕生日なので、お祝いのLIKEとかだと思います」

 

 しかし、返ってきたのは意外な解答だった。誕生日?

 

「え?今日誕生日なの?」

「はい、四月十六日なので、プレゼント忘れないでくださいね?」

 

 一色は過去問のプリントから顔をあげると、シャーペンを頬にあて、そう俺に告げてきた。

 いや、忘れるもなにも当日に言われても何も用意出来ないですよ?

 

「そっか、それはおめでとう」

「ありがとうございます♪」

 

 とりあえず「おめでとう」と言っておいたら良い笑顔で返事が帰ってきた。これがプレゼントでいいのかしら? 案外安上がりな子なのかもしれない。

 それにしても、こいつ四月が誕生日ってことは、あと数週間早く生まれていれば同学年になっていたかもしれないのか。なんか年下って感じがしないな。

 そう考えるとちょっとだけ一色を見る目が変わった気がした。いや、実際何が変わるというわけでは無いはずなのだけど。

 

「んじゃ、そこの間違えてる問五、誕生日プレゼントで正解ってことにしといてやるよ」

「は? なんですかそれ? ……あっ本当だ! 早く言ってくださいよ!」

 

 一色は俺の言葉を聞き、問五に戻ると、慌てて答えを消しゴムで消していく。

 よし、これで誕生日プレゼント達成だ。俺ってなんて義理堅いんだろう。男じゃなかったら惚れちゃうね。今の八幡的にポイント高い。

 

「んじゃさっさと残りやってくれ、時間もあんまり残ってないぞ」

「えー、センパイ厳しいー!」

 

 一色の抗議に賛同するように、ブーブーというバイブ音が部屋に鳴り響く。

 だが俺はそんな抗議には屈しない。っていうかスマホのせいで集中できてないんじゃない? バイブもそろそろ消してもらうか……、それとも誕生日だしこれぐらいはと大目に見ておくか……。ちょっと悩む。

 

「あ」

 

 そんな事を考えていると一色が突如声を上げた。

 なにやらペンケースをゴソゴソと漁り、次に左右の引き出しを開けたり閉めたりを繰り返している。

 

「ん? どうした?」

「シャーペンの芯……なくなっちゃいました」

 

 俺が問いかけると、一色はゆっくりと振り返り、てへっと可愛らしく小首を傾げ、空のケースを俺に見せつけてきた。

 

「買い置きとかないの?」

「いや、買いに行こうと思ってたの忘れてました、センパイが来たんで」

 

 え? 俺のせいみたいな言い方してるけど絶対関係ないよね?

 はぁ……。仕方がない……。

 俺は床に置きっぱなしのカバンを拾った。

 「センパイ?」と俺のカバンの中身を覗こうとする一色を背中でブロックしながら取り出したのはまだ封も開けられていない新品のシャーペンの芯ケース。一色の使っているものとは違うが太さは同じだし問題ないだろう。

 

「んじゃ、これ、まだ使ってないから、誕生日プレゼントでやるよ」

「え? いいんですか?」

「無いと勉強出来ないだろ……。次からはちゃんと予備も用意しとけよ? テスト中とかだと洒落にならんぞ」

「はーい、気をつけまーす」

 

 一色は分かっているんだか分かっていないんだか、妙に間延びした声でそう言うと、ちょっとだけ声のトーンを落としそう言った。

 やけに不服そうだが実際テスト中にシャーペンの芯がなくなったらお手上げなんだぞ?

 隣の席の奴に借りようと『すまんがシャーペンの芯一本貰えないか?』と声を掛けると『はっ』と鼻で笑われ、『先生! ヒキガヤ君がテスト中に話しかけてきます!』と告げ口をされ叱責を受ける。ソースは俺。

 俺はあの日以来シャーペンの芯の予備を忘れたことはない。今日無くなった分も帰りにコンビニ寄ってちゃんと補充しておかねば。いつだって頼れるのは自分だけだ。

 

「でも、女の子へのプレゼントがシャーペンの芯とか普通は無しですよ?」

「んじゃ返せ」

「わー、ウソですごめんなさい! 凄い嬉しいです、超大切に使います!」

 

 俺にそう言われると、一色は慌てて封を開け、芯を一本取り出し、シャーペンに入れ替え、過去問へと戻り。パキッと芯が折ると、シャーペンの芯の破片を俺の額へと飛ばした。何そのコンボ? 地味に痛い。

 

「す、すいません」

「大切に使うんじゃないのかよ……」

「今のは不可抗力というかなんとういうか……」

 

 俺は少しだけ痛む額を摩りながら、ため息をつく。

 やれやれ。そもそも誕生日にプレゼントを二つも上げるなんて一体どこの富豪様だという話で、なんなら敬われてもいいはずだ。

 世の中には誕生日とクリスマスとお正月を一辺に済ませるご家庭もあるんですよ?

 その辺り少し自覚して、しっかり感謝していただきたい。

 あ、こいつ問八も間違ってるじゃん……割と頭いいのにケアレスミス多いんだよなぁ……。

 

 結局スマホのバイブ音で集中出来ないのか、一色は自主的にスマホの電源を落とし、残りの問題に向かったが、時既に遅し、結果は散々なものだった。

 折角問五おまけしてやったのに……。

 

*

 

 その日、センパイから貰った初めての誕生日プレゼント。

 何かの限定品というわけでも、包装されたわけでもない。特別感の何もないシャーペンの芯、そんな物をプレゼントしてくれたのはセンパイが初めてだった。

 異性への誕生日プレゼントがシャーペンの芯って一体どこの小学生だろう? いや、もしかして私が小学生だと思われてる?

 全く失礼してしまう、センパイにはもっと私のことを女の子として意識していただきたい。

 私それなりに男子からも人気ある方だと思うんだけど。センパイと一緒にいるとちょっと自信なくしちゃうよね、扱いが雑というかなんというか。

 いや、時々顔を赤らめたりしてるから異性として見てないとかではないと思うんだけど。

 

 まあ今回は誕生日のことを伝えてなかったのは私だし仕方がない。

 本当だったらもうちょっと準備をして、早めに伝えておきたかったんだけどセンパイと会う機会があるのは週に一度だけだし。むしろ今日が土曜日じゃなければそのままスルーされていた事だろう。

 とはいえ、私はちょっとした反抗心もあって、それからの授業でもその芯を惜しげもなく使っていった。

 消耗品だし、使わないと勿体無い。そう思っていた。思ってしまっていた。

 

 でも、センパイと一緒の夏休みが終わって。

 センパイと一緒の秋が来て。

 センパイと一緒の冬が来た頃。

 何の変哲もないはずだったシャーペンの芯は、センパイに恋をした私にとって、凄く凄く特別な物になっていた。

 

 それまで何気なく使ってしまったことを後悔して、気がついた時には最後の一本。

 何度眺めても増えないソレを、下手に動かして折れたりしても大変だからと、私は引き出しの奥の小箱に大事にしまいこんだ。

 センパイに会えない時は、暇さえあれば透明なケースの中身を覗き込む、そんな日もあった。

 絶対に使うことが出来ないセンパイからの初めてのプレゼント。

 

 受験の時はその一本しか入っていないケースをお守りにひっそりとペンケースに忍ばせて、気合を入れた。

 合格発表の日は一人で行くからと、格好つけながらも。本当は不安だったからずっとポケットで握りしめた。

 そして高校に入って、センパイと……。

 

 でも、それはまだ少しだけ先のお話……。




4月16日いろはすお誕生日おめでとうー!

というわけで番外編第二弾。
ちょっと短めです。

本編のストーリー上での4月16日
パラレルストーリー上ので4月16日

どうしようか悩んだんですけど後者にしました。

エイプリルフールネタの時もそうでしたけど
私の作品の性質上
4月ネタだと八幡といろは出会ってないんですよねぇ……
なので八色要素を出そうとするとどうしてもパラレルに……。

来年は頑張りますw

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