白燐に煌めく光の下で   作:柏コア

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結夢ヶ崎コアです。
更新のスパンを、半月以上と長い間開けてしまい申し訳ありませんでした。
次回からは、しっかり常識の範囲内の期間で投稿できるよう頑張りますので、今後ともよろしくお願いします。






第20話 火花

 

 

負の連鎖が起きていた現状。

その始まりは、氷川さんとの衝突だった。

否、そうとも言いづらい現実もある。

それを思わせるのは、今目の前にいる母の事だ。

ここ数日色々あった。確かに色々あった。そんな中でも母親という存在はいかなる時でも自分の中で一番であるのだなと感じさせられた。

 

 

今は目の前のことに集中しないと。そう思っても気づけば1日も母の見舞いを欠かしたことはなかった。

怖かったんだと思う。自分の知らないところへ母さんが行ってしまいそうで、もう会えないんじゃないかと思って。

意識不明と言われてからは毎日が長く感じた。

母さんのいない家では、唯一父さんだけが静寂を破っていてくれた。

そんな中で、耐え抜いていたのは俺だけなはずがなかった。

自分が一度心から愛した相手が目を覚まさないかもと思ったらどうだろうか。正気でいられるだろうか。

俺は思う。正気でいられる方がきっとおかしい。

父さんは正常だった。お金は振り込むとだけ伝言を残して会社に住み込みで働くようになった。

治療にはお金が必要だから住み込みにしたんだろうとも思えるし、愛人のいない日常に耐えられなかったのだろう。だから俺は止めはしなかった。

 

 

俺か母さんが何かを発さない限り、この病室に響く音は規則正しい電子音のみ。

この電子音が、母さんが俺の母さんで居てくれていることを証明できる唯一のものだった。

 

 

正直、この前の氷川さんとの事も時間が解決してくれるだろうと心のどこかで思っていた。

母さんの事もそうだ。かなりショックを受けたが、時間さえ経てば元気になって戻ってきてくれる。そうとすら心の奥で思っていた。

前者も後者も、そんなはずがなかった。

放っておけない事柄なら尚更だ。今まで俺の人生というキャンバスを彩ってくれていた色が一色消えたのだ。

気持ちはそこに向く。時間が解決すると思っていた俺には途方もなく長すぎる時間に感じた。

 

 

ピーッピーッピーッ

 

 

「母さん!?」

 

俺が考え込んでいる最中、規則正しく電子音を鳴らしていたはずの機械が甲高い音を鳴らし始めた。

すぐにナースコールを押し、それと同時に看護師の方も来てくれて母さんを運んでいった。

 

 

 

さっきとは一風変わった状況。目の前には丈夫そうな銀の扉。その上には"手術中"と表されたランプがあり、点灯している。

俺にはボーッと願いながら、扉を見つめる事しか出来ない。

 

 

「品崎和士君、であってるかな?」

 

ひたすら扉を見つめている俺に気を使ってくれたのか、白衣を着た人が話しかけてきた。

相手は俺を落ち着かせるために話しかけてきてくれたのかも知れないが大切な存在を失うかも知れないという中、落ち着いてなど入れるはずがなかった。

 

 

「先生!母さんは……!母さんは大丈夫なんですか!?」

 

そうは聞いてみた。だが、白衣を着た男の表情は晴れない。

何かを察してくれと言いたげな切ない表情を見せてくる。

 

 

「脳に腫瘍があるんだ……品崎冬菜さんには」

 

脳の腫瘍。その言葉がはっきり聞こえた時、俺の脳は過去のニュースのキャスターの言葉を思い出した。

 

〜〜不治の病と言われる脳腫瘍が〜〜

 

不治の病……?

そんなキャスターが放ったたった一言だが、俺をおかしくさせるには十分すぎる起爆剤となった。

 

 

「なっ……なんで!?母さんが不治の病に!!」

 

「和士君!?落ち着い……」

 

「母さんは!!母さんはなんで!?」

 

「和士君!!!落ち着きなさい!!」

 

白衣の男はそう言いながら俺の両肩を掴んでくる。

 

この時……どこか安心を覚えたんだ。

俺の肩を握っている手は、どこか確かな実力を感じさせるような力強さがあった。

 

 

「すみません……俺……」

 

「大丈夫だ和士君、無理もないさ。それに、私たちにまかせてくれ。不治の病と言われていたのは昔の事だ。」

 

「じゃあ、母さんは……」

 

「絶対に私たちが救う。だから……」

 

"安心してくれ"

 

 

この一言が俺の心をどれほど動かしただろう。

父さんも母さんも家にいない今、俺は安心できる行き場を無くして気づかぬうちに甘えの感情を忘れてしまっていたのだろう。

 

 

「母さんの事、頼みます」

 

「あぁ、私たちに任せてくれ」

 

そう言って先生は手術室に入っていく。

勝利を確信しているかのような後ろ姿に憧れすら覚えた。

 

そんな時、頭に浮かんだのはかつての親友が真面目に話していた事だった。

 

 

"なぁ和士、夢を進ませるものって知ってるか?"

 

普段おちゃらけたような奴が急にこんな事を言い出して、初めは心底驚いた。

 

"夢ってどんなに強く願ったり思ってても、その人自身の勇気だとか確信がないと叶えられないって言うんだ"

 

この時のアイツの言葉は全くデタラメに思わなかった。まっすぐな視線で青空を遠く見つめながらそう語った

 

"俺はどんな形であれ人を助けたい。近い将来であれ遠い未来であれ、それが俺が抱く夢だ"

"だからよ、俺はそのためだったらなんだってしてやる"

 

 

 

アイツは良からぬ形で俺たちを裏切った。

優しいやつだとも思った。信頼できてそんでもってちょっと狂ってて。

最低な奴だ。

今でもずっとそう思っている。

それでもそんな最低な奴に心を動かされてばっかりだ。

俺にたくさんのことを教えてくれて……。

 

 

「本当に最悪だな、お前ってやつは」

 

俺はそう言葉をこぼしながらこの場を去った。

 

 

 

 

 

病院の外に出た。むわっとした空気が吹き付けると同時に咄嗟に手で視線を塞いでしまう。

誇らしく夕影に煌めく夕日は、地平線に沈みかけているもののとても強く見える。まるで"明日もこの世界を照らしに来る"と言い放っているかのような。先ほどの医師も同じだ。自分の行動に自信を感じさせる後ろ姿だ。

そしていやがうえにも、次はお前の番だと言われているように感じる。

 

もう俺は迷わない。すぐにスマホを取り出して少し打ちなれたような手つきで番号を押す。

 

「もしもし、急に電話かけてごめん。明日会えないか?」

 

「うっ……ねぇ、たすけ」

 

「おい!大丈夫か!?おい!」

 

まずいぞ…

ここまで続いて順に解決していこうとしている負の連鎖。そのゴールラインを切る事は、心底難しいことになるかもしれない。

とにかく今は走るしかない。母さんを医師の人たちに任せて

俺の足、止まるんじゃねぇぞ

 

 

 

 

 

 

 

十分ぐらい走った頃だろうか。探していた人物は意外にも早く見つかった。

 

俺はある人の家に向かって走っていた。その途中の公園を通りかかった時、見たことがある人物を見かけた。

その人はうずくまっていて、足元には……

血だ……。血が垂れていた

そしてその人物に気付いた時、頭が真っ白になった。

 

 

「燐子!!」

 

俺の幼馴染であり、求めていた人物。

俺が名前を呼ぶとまるで血が回っていないような顔色でこちらを見上げ、咄嗟に表情を変えた。

 

 

「か、和士君?どうしてここに」

 

「そんなことはどうだっていい!大丈夫なのか!?」

 

「うん……」

 

「大丈夫じゃなさそうだな、話聞くぞ?」

 

 

燐子から話を聞いた。どうも原因は分からないが急に頭痛や吐き気が起きることがあるらしい。

原因は分からない。そうは言っているものの、俺にだって原因は分かる。

……ストレスだ。重度のストレスに悩まされた患者に起こる症状だ。

 

 

「重度のストレスだと思う。心当たりあるか?」

 

「う、ううん……特にはない……」

 

「ちゃんとお母さんに言ったか?」

 

「ううん、お母さんには言えてない……」

 

「なんで、それは言わないと……

 

「わかってるよ。でも……心配かけたくないんだ……お母さんも忙しそうだし……」

 

「燐子……それじゃあ」

 

「私のことは大丈夫だから」

 

「っ…!?」

 

そう一言、呟いた燐子の顔に強い恐怖を覚えた。

まるで怯えた小動物を見下す肉食動物のように、睨むように見てくる。

 

 

「じゃあ私、帰るね」

 

俺は何も言えず立ち尽くしているままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この時ちゃんと止めれていたら、どんなに良かっただろうか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







タグに、少しのシリアスが仲間入りしました。





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