白燐に煌めく光の下で   作:柏コア

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第22話 根本の相違

太陽も高く登り始めた中、その太陽の光を追いかけるように走り出した。

道ゆく人は波に逆らって一人走る俺に目線を向ける。

走っているならきっと20分くらいで着く距離なのだ。

だが彼女の事を思うたび、起こり得る事態を考えるたびとてつもなく遠く感じる。

でもこの街並みを抜けた先に彼女が居るのなら、居ると思わせてくれるならどこまでだって走る。

 

口に溜まった少し血の味がする固唾を飲み込んでさらにスピードを上げる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局20分すらかからず見覚えのある住宅街に入った。

最近のことのはずなのに意識が回らない

この前ここに来た時はどんな気持ちだったんだろう

確か不安だったのかな?それとも…

鮮明に覚えていなくても分かる、きっと同じ人を助けようとこの住宅街に入ったんだろう。

住宅街の中央に堂々と聳え立つあの家を目指して

でも今日は全てが違う気もする。

今日俺が選択肢を間違えれば全てが終わる……でも、俺に正しい判断が出来ればきっと終わりが訪れ全てが始まりに戻る。そんな自信があるんだ

 

 

「はぁ、はぁ……っ」

 

鮮明に思い出した事がある。絶対にだ。

こんなに他人の家から何かを感じたのは初めてで、それは前回は無かった。

 

何か、中から溢れ出る悍ましいものを感じる。

この中で何かが起こっていること、起こったことを物語っているようにだ。

気付かなかった。いくら目を向けても気づけなかったんだろう、彼女に限界が訪れるまで。白金燐子という仮面が壊れるまで。

 

 

ガチャ

 

 

運命は待ってくれないみたいだ。

 

目の前に飛び込んできた光景に声を上げる

 

 

「行こう!!」

扉から逃げるように出てきた動揺が治らないであろう彼女の手を引き走り出す

 

 

「い、行こうったって……何処に!?」

 

「来ればわかる!走るぞ!!」

 

そうして真夏を香らせるほど高く登り切った陽の下でもう一度駆け出す

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

「和士君……大丈夫?」

 

急に駆け出した俺に、彼女がついて来れるとも初めから思ってもいなかった。

結局は彼女を背負ってここまで走ってきた訳だ。

 

 

「俺は大丈夫だ。それより、ここに見覚えがないか?」

 

「ここは……初めて来た所だけど……!もしかして!」

 

彼女なら心がどう移り変わっても、どんな境遇に飲み込まれそうになっても覚えてくれてる小さな確信のようなものがあった。

とっさに現れた彼女をここに連れてきた1番の理由、それは…

 

 

「大きな丘の公園!!」

 

素直な彼女に戻ってもらうためだ。

この丘の上に2人で腰を下ろし、浮かび上がる過去の記憶

 

 

 

 

 

俺と燐子が出会ってから一年、よく大きな丘のある公園で2人で遊んだ。

特に遊具もなく人気も少ない、ただだだっ広い丘のある公園で遊んでいた。

ある日彼女はこう言った

 

 

「何処か遠くの場所に、ここみたいに大きな丘のある公園があるんだって!」

 

「マジで!?なら大きくなったら絶対行こうぜ!」

 

「うんっ!約束ね!」

 

 

その日からいつしか、ここではない大きな丘のある公園が2人を繋ぐ言葉のようになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

今に至るまで二度、三度と彼女との繋がりが切れてしまうかもと思わせる出来事があった。

それでも、もう早6年程の月日をまたごうとも俺と燐子の間には結びついて離れなかった記憶があった。

本当はめちゃめちゃ嬉しい。でも、今はそれを喜んでいる場合ではない。

 

 

「覚えててくれたのか。もうあの約束を果たす日が来てたんだよ。」

 

「懐かしいね……私たちは……」

 

 

 

 

「なぁ燐子、何があったか話してくれ。」

 

「だからなんでも無いって……」

 

「ならよ!!」

 

「っ!?」

 

「昔のように濁りのない笑顔を見せてくれよ!この約束の場所で!!」

 

「……和士君、私はね……」

お父さんに、許されないみたいなんだ。

 

 

そう言った彼女の目はとても潤っていて、滴を溢すまでそう時間はなかった。

 

 

「燐子、俺は何があっても受け止めるよ。それで、今日ぐらいは味方にならしてくれよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのあと燐子は自分の身に起きていたことを全部話してくれた。

 

彼女がここ最近背負い続けきた問題。その元凶となる人物は。

 

燐子の父親だ。

 

いわゆる虐待に染みたものを日々受けていたのだ。

 

その内容は聞くたび想像を絶するようなものだった。

 

聞くたびにそれでも俺や他の人たちに愛想笑いをしていた彼女に微かな怒りさえ感じた。

 

 

 

 

????????

 

頭の中の過去の記憶が違和感を伝えてくる。

 

何かが違う。燐子の話すことと俺の記憶の何かが

 

 

 

 

 

「…………!?そんな!?嘘だろ!?」

 

「和士君……?何が……和士君!後ろ!」

振り返り様にはもう遅かった。

 

「やめろっ!誰だっ…」

何者かの腕が俺の首に回っている

 

「お父さん!やめて!!」

 

 

「安心しろって、こいつやったら次はお前だからな。なぁお前、イキリやがってよぉ。危うく台無しになる所だったじゃねぇか」

 

「うっ……」

大人に首を絞められるとこんなにすぐにも意識が薄くなるのかとつくづく感じる。

動けはしない、ここで終わるならコイツの顔ぐらいは…

 

 

「っ……!?」

遠のきはじめている意識の中、確信を覚えた。

 

 

 

 

 

目に映ったのは燐子の父親ではなかった。

 

ソイツの顔は俺が確実に見たことのある奴で…

 

 

 

「中野っ!?」

どうにか拘束を解き、抜け出して正対する。

 

 

「こうやって話すのは初めてかもなぁ、品崎。しかし残念だなぁ……出来ればバレないうちにやりたかったけどなぁ。」

 

コイツは正真正銘燐子のクラスの担任だ。

 

 

 

 

 

ん?待てよ?

 

そうなると絶対に引っかかる所がある。

 

 

「燐子!お前は……」

 

燐子に顔を向ける、そして彼女は怯え尽くした顔でこう言う

 

 

「助けて和士君!!!」

 

 

そう言ってからは早かった。構えるまもなく中野の拳が飛んでくる。

噂には聞いた話だが、体育の教師だけあって空手の上級帯を持っているらしい。

その噂を肯定するかのように動きのキレが半端ではない。

しいてスポーツしかやってない俺に勝機はあるのか?

 

そうは考えようとも俺がコイツに負けたら燐子も終わる。完璧なバッドエンドだ。

なら、ハッピーにはならなくともトゥルーにするために。

 

 

「このっ!」

 

何発かかろうじて避けた後に、顔を上げた隙を突いて眉間に入れる。

 

行けるかもしれない、そう思った最中の事だった。

 

 

「っ!?」

何者かが後ろから俺の肩を掴んで後方に引き落としてきた。

俺にはそうとしか感じられないことが起きた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神様。どうか幸運を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




大変長らくお待たせしてしまい、申し訳ありませんでした。
本当にリアルが大変になってきて書く時間が取れず内容も浮かばない、そんな最悪な期間でした。
これからも待ってくれる方がいてくれるなら、僕は全力で頑張ります。



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