特殊な改造手術を受け、特殊な加工がされた特殊な鉱石を持ち、特殊な環境下で特殊な呪文を唱える事で初めて使える特殊な個性   作:重言 白

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どうしてこうなった。

追記:学年を修正しました


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 私には生き別れた兄さんがいる。

 母さん曰く、私と兄さんが4歳のころに突然、置き手紙を残して突如消えてしまったらしい。

 警察にも連絡したものの、結果は生き別れた現実がある時点でお察しである。

 あれから10年。

 私は中学生3年生になり、来年の受験を考えなければならない時期だ。

 

「進路調査の結果だが……どうせみんなヒーロー科だよね!」

 

 そういってついさっき集めた進路希望調査の書類をばらまく担任。

 私、ヒーロー志望じゃ無いんだけれど。

 不特定多数の他人よりも、家族の方が大切だから。

 だからヒーロー科のない普通の高校に通い、就職率の高い大学に入ってお金を稼ぐ。

 その過程で兄さんの捜索もするつもりだけれど、きっと見つからないんだろうなと思ってしまう。

 

「それから緑谷は後で職員室に来ること。良いな」

 

「今日は母さんのお見舞いに行く予定なので無理です」

 

「お前の母親、元気だろうが。絶対来いよ」

 

 ふぁっきん。

 

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 

 

「だから、緑谷みたいな優秀な生徒には是非とも雄英に行って欲しいの。頭脳明晰、品行方正、そして何より強い個性! 雄英ヒーロー科のトップ合格だって夢じゃないっていうのに、もったいないとは思わないのか?」

 

 まただ。

 大抵の人が私と会った時、ただ強い個性を生まれもったというだけでヒーローになれと強要しようとする。

 そこに私の意思は存在せず、私がどれだけ鍛えたかなんて考えすらしない。

 親しい人の中で、私にヒーローにならなくて良いと言ってくれたのは母さんと父さん、そして兄さんの3人だけ。

 一応友達を名乗る人もいるが、結局のところ彼らは強い個性の私とつるむ事で自分に箔を付けたい馬鹿ばかり。

 

「とにかく、受験にかかる費用全部学校側が負担するから受けるだけ受けてくれよ。そうしないと俺が教頭に嫌味言われるんだよ」

 

 …………ハァ。

 

「受けるだけですからね」

 

 進路希望を無視した挙句、半ば脅迫に近いことをして生徒の進路を変えさせる教師。

 クビになれば良いのに。

 

 

 

「女の隠れミノ……」

 

 そうして遅くなった帰り道。

 人通りの少ない細道を歩いていると、突然後ろのマンホールからヘドロが湧き出てきた。

 ヘドロは私の身体にまとわりつき、口から鼻から入ってこようとする。

 

「私に触れるな!」

 

 私の個性『貪恣掌』の効果は単純明解。

 私が欲しいと思ったものを引き寄せ、嫌なものは弾き飛ばす。

 昔は良く暴走していたので、今は手を向けるという動作で発動のコントロールをしている。

 が、やろうと思えば意識を向けるだけで発動可能なのだ。

 

「全く、イライラしている時に限って更にトラブルがやってくるな」

 

 私に襲いかかってきた全身ヘドロで構成された推定(ヴィラン)を壁に抑えつけ、携帯で警察に連絡……しようとした瞬間、ヘドロが湧き出てきたマンホールが吹き飛んだ。

 新手かと思いそちらにも手を向けたが、下水道から出てきたのは誰もが知ってるNo.1ヒーロー、オールマイトだった。

 

「HAHAHAッ! 敵退治に巻き込んでしまってすまない! しかし、自衛の目的以上に個性を使っちゃいけないぞ?」

 

「そんなことより早く捕まえて下さい」

 

 説教は良いから、早よ。

 

 

 

「いやー、助かったよ。なかなか逃げ上手の敵でね。しかし君の協力もあって無事、詰められた!」

 

 そういって掲げられたのは気絶しているヘドロ敵がパンパンに詰まった、コーラのペットボトル。

 こうなってしまっては、いっそ哀れでさえある気がする。

 ん?

 

「あの「では、私はこの敵を警察に届けねばならんので。液晶越しにまた会おう!」

 

 そういって彼は飛んで行ってしまった。

 ……ペットボトルのキャップが開き掛けだったから、伝えようと思ったんだけれど。

 まあ、オールマイトだから大丈夫でしょ。

 その考えが甘かったと気付くのは、この10分ほど後である。

 

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 

 

 あの後帰りにおつかいを頼まれた私は商店街に来ていた。

 ついつい目的の物とは違うものも買ってしまうな。

 揚げたてのコロッケの香ばしい匂いと、安くしとくよって言葉の組み合わせは反則だと思う。

 おつかいに頼まれた商品を片手に、コロッケを食べながら帰るこの夕方。

 平和だなぁと思っていると突如、裏通りで大爆発が起きた。

 事故か? そう考えているとBOOOM! BOOOM! と爆発音が連続して聞こえてくる。

 ……聞き覚えのあるこの爆発音はまさか。

 

「ぉぉぉぉおおおオオオオ!!」

 

 路地裏から飛び出して来たのはさっきのヘドロ敵。

 その体内には腐れ縁である爆轟勝己(嫌いな奴)が埋まっていた。

 身体を乗っ取られているのか、ヘドロ敵の手から連続して爆発が起きている。

 やっぱり空中移動中にキャップが外れて逃げられたようだ。

 オールマイトや巻き込まれた市民には申し訳ないないが、あいつがやられているのを見ると心がスッとする。

 

「この個性があれば奴も、あの女もぶっコロせる!」

 

 ターゲットの1人は私らしいのでさっさと逃げる事にした。

 資格を持たない市民が個性を使う事は原則禁止だから、自分が襲われているわけでもないのに使う気はない。

 現場からさっさと避難して野次馬の中に紛れ込んでいると、ようやくヒーローが登場し始めた。

 

「私二車線以上じゃなきゃムリー!」

 

 なんで来た。

 

「爆炎系は我の苦手とするところ……! 今回は他に譲ってやろう!」

 

 仮にもヒーロー(英雄)を名乗るなら、苦手分野くらい対策しておこうよ。

 

「そりゃサンキュー。消火で手一杯だよ! 消防車まだ!? 状況どうなってんの!?」

 

「ベトベトで掴めねえし、良い個性の人質(こども)が抵抗してもがいてる! おかげで地雷原だ、三重で手を出し辛え状況!」

 

「ダメだ! これ解決出来んのは今この場にいねえぞ! 誰か有利な個性(やつ)が来るのを待つしかねえ!」

 

 報連相が出来ることは良いことだと思う。

 明らかに無理だとわかっている事態に突っ込めなんて無茶を言うつもりはない……が、だから待つという選択は悪手だろう。

 例えば、思い当たる有利な個性(やつ)に連絡をするという選択肢もあるはずだ。

 被害を抑えるにしても、さっさと野次馬を退かせばできることも増えるだろうに。

 いつものように無能なヒーロー達を見て、そろそろ帰ろうかと考え始めたその時だった。

 

「____そこまでだ」

 

 気づけば声がした方向に振り向いていた。

 ほかの野次馬もヒーロー達も、ヘドロ敵でさえも。

 そこから現れたのは私と同年代くらいの男だった。

 

「器物損壊、傷害、放火、公務執行妨害……よくもまあこんな短時間でこれだけ罪を重ねたものだ」

 

 誰も言葉を発する事が出来ない。

 パチパチと燃える炎の音が響くなか、彼が歩く音が何故か響く。

 そんな中、真っ先に正気に戻ったのは敵だった。

 

「ンなもん知るかよ! もう少しなんだから、邪魔するなああ!!」

 

 振るわれるのは、この場にいるどのヒーロー対応できないヘドロの爆破。

 私や出遅れたヒーロー達は凄惨な結果を連想して目を閉じて……

 

「……お前のような、自分を無敵と思っている液体型の異形系の対処は楽で良い。繋がってない部分は基本的に、強く意識しなければ動かない。ならば、その間の繋がりを切ってしまえばいいだけだ」

 

 何故か聞こえない爆発音。

 何故か聞こえる彼の声。

 それは、この場のどのヒーローも対応できなかったあの腕に対応できているという証明であり。

 

「そして身体を構成する液体の殆どと接続が絶たれると、意識を失う。先ずは人質の接しているヘドロ(貴様)。その全てを弾き、削ぎ落とす」

 

 人質が抵抗しているせいでそれ以外の攻撃を持たないヘドロ敵には、もうどうしようもないということで。

 あとはもう、劇的な事があるわけでもなく。

 まるで手慣れた作業のように、逆転の目など一切ないまま。

 ヘドロ敵は捕縛され、人質は解放された。

 

 この後散ったヘドロ敵はヒーロー達や警察の手で回収され、無事警察に引き取られた。

 彼はヒーロー達や野次馬が集まるより早く消え、逆に人質になってたアイツはタフネスと個性を賞賛され、ヒーロー達の勧誘を受けていた。

 私は熱に浮かされたように、フラフラとしながら家に帰った。

 心配する母さんの声も雑に対応してしまった事を後で謝らなきゃと思いつつ、ベットに入って夕方の事を思い出す。

 今思えば、よくあの場で欲望のままに引き寄せなかったと思う。

 

「__ハ、あは」

 

 あの場の誰よりも雄々しく、そして誰よりも誰かを救うことに本気だった彼に強く強く惹かれた。

 きっかけはわからない。

 もしかしたら、一目惚れというやつなのかもしれない。

 攫って監禁したかったが、何故か再会できるという確信があったから自制できた。

 

「雄英受験、少し本気出そうかな」

 

 何故雄英かって?

 女の勘というやつだ。

 彼が不合格になるはずもないし、私は当たり前のように合格できる自信はある。

 でも、本気を出さずに適当に過ごしている姿を彼に見られるのが、恥ずかしく思う。

 昨日までの自分に怒りすら湧いてくるな。

 

「決して逃がさない。他の誰にも渡さない。__彼のすべてを私が奪う」




チトセネキ+本気おじさんみたいになってしまった。

追記:検索から除外してるのに、なんでUA付いてるん?
というわけで、公開にしました。

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