鬼滅の雨   作:ほにゃー

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真実を知る夜

夜になると鬼が来る

 

村の大人たちは、いつも口癖のようにそう言う。

 

時は大正。

 

時代が移り変わりゆく中だってのに、この村は何も変わらない。

 

そして――――

 

「おーい!辰二!」

 

「健一郎、なんだよ?」

 

「今から山の小川まで行くんだけど、お前もどうだ?」

 

「悪いけど、今から村周りの藤の花の世話があるから」

 

「あれか?お前も律儀だな」

 

「しょうがないだろ。ちゃんと世話しないと爺ちゃんがうるさいんだ」

 

山の小川まで向かっていく健一郎を見送り、俺は村の周囲に生息している藤の花の世話に行く。

 

俺の家、打鉄(うちがね)家は藤の花の家紋がある。

 

爺ちゃんの話だと、大昔、鬼に命を狙われていた所を、鬼狩りに助けてもらったらしく、その恩を忘れないために、先祖代々鬼狩り、所謂”鬼殺隊”の助けをしている。

 

一度だけ、その鬼殺隊の剣士を見たことあるが、どうも胡散臭い奴らだった。

 

今時、刀なんか持って、そんなもので鬼なんか狩れるのか?

 

そもそも鬼なんているはずがない。

 

そんなことを思いながら、俺は藤の花の世話を黙々と進める。

 

この藤の花の管理は、打鉄家(うち)が世話をしないといけない。

 

なんでも藤の花の匂いは鬼が嫌いらしい。

 

「花の匂いがダメな鬼ってなんだよ。そんな嘘で、騙せれると思ってるのか?」

 

ブツブツと文句を言いつつも、俺は藤の花の世話は怠らない。

 

前に一度、花の世話を怠ったら、爺ちゃんに恐ろしい程ド叱られて、一晩中庭先に立たされたことがあるからだ。

 

丁寧に世話をし、終わるころには日が暮れ始めていた。

 

「早く帰らないとな」

 

世話を怠れば怒られるが、それ以上に夜遅くまで帰らないでいるともっと怒られる。

 

藤の花の世話をしていて、完全に日が暮れてから家に帰ったら、滅茶苦茶ド叱られた。

 

あの時は、一週間藤の花の世話以外での外出を禁じられた。

 

道具を片付け、籠に入れ、村に帰ると、なぜか村が騒がしかった。

 

「辰二、今帰ったのか?」

 

家の前で爺ちゃんと数人の大人が話をしていた。

 

「うん。どうかしたの?」

 

「辰二ちゃん!」

 

すると、健一郎のお母さんが慌てた様子で駆け寄ってくる。

 

「辰二ちゃん!うちの健一郎、知らないかい!」

 

「健一郎が、どうかしたんですか?」

 

「なんでも、まだ家に戻ってないらしいんだ」

 

「もう夜にもなるし、俺たち心配で」

 

どうやら健一郎を探してるみたいだ。

 

「健一郎なら、山の小川に行ったよ」

 

そう言ったら、大人たちが青ざめた顔をした。

 

「辰二!それは本当か!」

 

爺ちゃんが凄い剣幕で、俺の肩を掴み、訪ねてきた。

 

「う、うん……藤の花の世話をしに行く途中で、山の小川まで行くって言ってて………」

 

「お前が、世話に行ったのは昼餉が終わってから。山の小川までの距離を考えると………何かあったに違いない!」

 

そう言うと、爺ちゃんは急いで家の中に戻り、そして、手に一本の刀を持って出てきた。

 

「儂は今から山へ行く!皆は、家で待っててくれ!」

 

爺ちゃんは走って山へと向かい、一瞬でその姿は見えなくなった。

 

「皆、心配だろうが仙治郎さんに任せておけば大丈夫だ。それより、もうすぐ夜だ、。家に戻って、藤の花の香を焚かないと」

 

皆口々に「そうだな」「心配だが、ワシらには何もできんしの」と言い、家に帰っていく。

 

そんな中、俺は一人、山へと向かった。

 

爺ちゃんも心配だし、何より健一郎が心配だった。

 

俺は早足で、提灯片手に小川へと向かう。

 

この前、健一郎と見つけた抜け道を使い、小川には普通の山道を使うより。かなり早く着いた。

 

「健一郎!どこだ!?」

 

「辰二か!?」

 

「健一郎!」

 

健一郎の声が聞こえ、声を頼りに探し出す。

 

すると、健一郎は小川近くにある洞窟の中で蹲っていた。

 

「健一郎!お前、こんな所にいたのか!」

 

「辰二!」

 

辰二は泣きそうな表情で俺を見ていた。

 

「こんな時間まで何してたんだよ?」

 

「そ、それが、川で足を滑らして、捻っちまったみたいなんだ………」

 

見ると、健一郎の右足首は青白く腫れていた。

 

「歩けそうか?」

 

「歩けるんだったら、いつまでもここにいねぇよ」

 

「そうだよな」

 

困ったな。

 

俺一人じゃ、健一郎は運べない。

 

どうしたら………!

 

「辰二!」

 

行き成り名前を呼ばれ、振り向く。

 

そこには息を切らせながら洞窟に入ってくる爺ちゃんが居た。

 

「この馬鹿者!夜に出歩くなとあれ程言っておるのに!」

 

「ご、ごめん!でも、健一郎が心配で………そ、そうだ!爺ちゃん!健一郎、足をひねったみたいなんだ!診てやってよ!」

 

爺ちゃんの袖を引っ張り、健一郎の前に連れていく。

 

爺ちゃんは、腰を下ろし、健一郎の足に触れる。

 

「痛っ!?」

 

「ふむ、折れてはいないようだな。だが、このまま放っておくと悪化する。すぐにでも医者に見せた方がいい。……歩けるか?」

 

爺ちゃんの問いに、健一郎は首を振ってこたえる。

 

「そうか………では、今から儂の言う通りに呼吸をしなさい」

 

そう言って、爺ちゃんは健一郎に呼吸の仕方を言う。

 

健一郎は言われた通りに、呼吸をすると、急に驚いた顔をする。

 

「足の痛みが消えた!?」

 

「え!?」

 

「今のは痛みが和らぐ呪いだ。だが、怪我してるのには変わりない。まぁ、歩けるだけましじゃろう。急いで村に………二人とも、下がっておれ!」

 

すると、爺ちゃんは刀を構え、後ろを振り向く。

 

そこには何かいた。

 

赤い目に、鋭く尖った歯に爪。

 

人間とかけ離れていた。

 

手には熊の千切れた腕があった。

 

「じ、爺ちゃん……あれって………!」

 

「鬼だ」

 

「そ、そんなの嘘だ………だって、鬼なんているはず………」

 

「現実を見ろ!まずはその考えを放棄しろ!一切の先入観を排して、そのものを見よ!」

 

爺ちゃんから一括され、俺は一瞬、ポカンとした。

 

だが、すぐに俺は爺ちゃんの言葉で冷静になった。

 

そして、目の前のソレを見る。

 

あれが………鬼………

 

「クック、久々の人肉だ。かれこれ三日はそこらの獣の肉しか食ってねぇからな。楽しみだぜ」

 

鬼は手にした熊の腕を放り投げると、俺たちに向かって走ってきた。

 

その速さに俺は驚き、腰が抜けそうになる。

 

その瞬間、爺ちゃんが素早く刀を抜き、鬼の一撃を受け止めた。

 

その刀を俺は何度も見かけたことがある。

 

爺ちゃんの部屋にいつも飾られておいてあるものだ。

 

だが、爺ちゃんが、その刀を鞘から抜くことは今までなかった。

 

俺はその刀の刀身を、初めて見た。

 

透き通るかのような水色の刀身に、“悪鬼滅殺”と彫られていた。

 

そのまま鬼を押し返すと、刀を地面と水平に構える。

 

「――の呼吸 壱ノ型」

 

爺ちゃんが何かを呟いた。

 

その瞬間、勢いよく刀が降られ、刀は鬼の頸に向けられる。

 

「うおっ!?」

 

鬼はすぐに後ろに下がって、刀を躱す。

 

「チッ……避けおったか。儂も衰えたのぉ」

 

「まさか、テメーの様なジジイが鬼殺隊の剣士とはな」

 

「元鬼殺隊じゃ。今は隠居し、先祖代々から受け継がれておる藤の家紋を守ってるに過ぎない」

 

「ハッ!ヨボヨボのガリガリの体じゃ、肉も対して美味くなさそうだな。でもまぁ、後ろのガキ共食う前の前菜にはちょうどいいかもな」

 

鬼は涎を垂らしながら、俺と健一郎を見ていた。

 

俺は、その鬼の目に恐怖し、健一郎を庇う様に後ろに下がった。

 

「待ってろよ、俺のお肉ちゃ~ん!こんなヨボヨボの力もないジジイなんざすぐに殺して、食ってやるからな」

 

「………まぁ、力が衰えたのは確かじゃの」

 

すると爺ちゃんは刀を鞘に納め、腰に差す。

 

そして、腰を落とし、刀の柄を握りしめる。

 

「寒い日は骨身に染みるし、肩も腰も日に日に痛む。按摩が欠かせん体になった。刀も、そう長時間振るえんくなった。じゃがのぉ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「力は衰えても、技のキレは全盛期以上じゃ」

 

次の瞬間、爺ちゃんは鬼の背後に立っていた。

 

「へっ?」

 

鬼が爺ちゃんの方を振り向く。

 

すると、鬼の頸が突然落ちた。

 

「あれ?なんで世界がひっくり返ってんだ?あれ?もしかして、俺、頭落ちて………」

 

そう言い残し、鬼の体は灰となって消えた。

 

「爺ちゃん………」

 

「安心せい。鬼は倒した。じゃが、急いで戻った方がよいじゃろう」

 

そう言うと、爺ちゃんは俺と健一郎を脇に抱え、一気に走り出した。

 

色々言いたいことがあったが、今は聞かず、俺は黙って、爺ちゃんに抱えられたまま村へと帰った。


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