憑依ワカメ奮戦記   作:ワカメモドキ

46 / 49
しゅぽーん(投稿音)

ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい(シドゥリさんロス再発)
いやぁ、今週のバビロニアは地獄でしたね(血反吐
あの新人類の声は誰なんでしょうか…人類悪(金朋)さんかな?AOIネキかな?
それはそうと剣式さん用の塵寄越せゴルァ!(豹変


ともかく、今回も独自設定のオンパレード
いつものように世界線変動率が10%超えてる謎時空ってことでオナシャス!
え?剪定事象?ハハハソンナバカナハハハ



File.13 贋作

 視界は闇に染まっている。けれど、不思議と恐怖は感じなかった。これが頻繁に見る夢の前兆だと、頭のどこかで理解しているからということもあるだろう。体──と言うべきかは甚だ疑問だけれど──を包む暖かな熱もその原因の一つかもしれない。暑すぎず、冷たすぎない。ぬるま湯のような闇に浸された意識が、微かに形をとっていく。

 形をとるといっても、複雑な思考ができるほどのモノではなく、この闇の中に自己が存在することをかろうじて認識する程度、まさしく泡沫の夢と言ってもよいほどの希薄さだ。何をするでもなく、黒で塗りつぶされた世界を、クラゲの様に揺蕩いながら、ゆるりと過行く時間に身を任せる。そうやって暖かな闇の中に浮かんでいると、待ち望んでいた変化までの時間は酷く長く思えた。

 突然、ぼう、と目の前に十字架のような白い光が姿を現した。大きさは1mを少し超えた程度、十字の形をとった本体は直視できないほどの光に包まれ、その周囲を恒星のコロナのような白銀のヴェールが複雑な軌跡を描きながら纏わりついている。

 その幻想的な風景は刻一刻と姿を変え、ピンボケのカメラの焦点を合わせるようにゆっくりと光のヴェールがほつれてゆき、その中におさめられた存在を浮かび上がらせていく。

 柄は深海に似たダーク・ブルー、豪奢ではないが黄金を纏った鍔、そして幾億の光条を纏う、担い手の精神性を象徴するかのような……

 

「……シ……! ……よ? ……ロウ!」

 

 突然、視界にノイズが走ったような感覚を覚えた直後、これまでの変化を巻き戻すかのように解れ始めていた光の軌跡が刀身以外が露になった剣へと収束していく。それと同時に、坂道を転がり落ちるかのように後ろへと引っ張られる感覚を覚え、手が届きそうなほど近くにあった剣は見る見るうちに小さくなっていき、闇へと飲み込まれていった。

 ああ、今夜こそ全貌が見れるかもしれなかったのに、という不満が反射的に湧き上がるが。一方で、まだ見るべきではないという意味不明な確信めいた安堵も存在していた。どうにも形容しがたい不思議な感覚を覚えるのも、もはや目覚め前の儀式染みるほどに習慣化している。

 そんな考えが頭をよぎったのがスイッチになったのか、これまでとは比べ物にならないほど意識は急速に凝固してゆき。

 

「い! い! か! ら! 起きなさぁぁぁぁいっ!」

「うげっぼっほぁ!?」

 

 あ、やばいと自分の危機察知機能が警鐘を鳴らすが、時すでに遅し。聞きなれた少女の怒声と共に腹部に強烈な衝撃が降ってきて、微睡の中で形作られていた意識は有無を言わさず現実へと放り投げられた。

 

「あ、起きた?」

「人一人降ってきたら誰でも起きるわっ! このおてんば娘!」

「あっ酷ーい! 折角起こしに来てあげたのに、レディ相手におてんば娘はないでしょ!?」

「レディはボディ・プレスで起こしに来ねーよ!?」

「ふふん、これこそアインツベルン流よ」

「廃れちまえ、そんな流派」

「ふにゅ!?」

 

 全体重を乗せた渾身のジャンピング・ボディ・プレスをかましたままの体勢。ようするに自分の腹の上で渾身のドヤ顔を浮かべる”同居人”のほっぺを軽くつねる。病的、と言うよりは白磁の陶器を思わせる頬はマシュマロか何かと思う程柔らかく、簡単に変形する。しばらく報復代わりにグニグニと弄んでいると、”むっ”とした表情を浮かべた少女に腕を引きはがされた。

 

「もとはと言えば、シロウがちゃんと起きないのがいけないんでしょ?」

 

 避難がましい紅色の瞳に射抜かれ、実際その通りなので言葉に詰まってしまった。

 

「う、まあそれはそうだけど。もうちょっと起こし方ってものがあるだろう。そのうち怪我するぞ。土蔵にクッションなんてないんだから」

「自殺同然の修行続けてるシロウにだけは言われたくないわ」

 

 半目になったルビーには怒りの感情と共に、確かな悲哀が込められていた。

 それは、何度止めても自殺まがいの修行と、到底届くはずのない理想へ向けて手を伸ばし続ける愚行に対してだろう。この少女のこんな目を見るのは今日に始まったことではないが、決して見ていて愉快な表情ではなかった。顔の筋肉が無意識に緊張し、自分の顔が険しい顔になっていくことだけがわかった。

 けれど、どうやら対面する相手の表情が好ましいものではないと思ったのは自分だけではなかったらしい。

 トン、と眉間に衝撃を感じ、油断していたからか微かに頭がぶれる。目の前にあったのは、つい先ほどまでの憂うような表情を消し、いつもの、もっと言えば居間や学校で見せるような悪戯好きの雪の妖精と言った顔になっていた。

 

「なんて顔してるのよ。私は、朝からそんなシロウの顔は見たくないんだけどなー」

 

 なんて横暴、と呆れるのは簡単だ。でも、長年この少女と共に暮らしていれば、これが彼女なりの歩み寄りだということもわかってくる。対人関係において、妙に不器用なところをのぞかせる部分は、いったい誰に似たのだろうか。

 まあ、そんなことを口に出してしまえば、いきなり腹を触られた猫と同等の怒りを見せるので、ここは「誰のせいだよ」と苦笑いを浮かべて流し、いつもの定型句を口にすることで空気を換えることにする。ついでとして伸ばした手が細く柔らかい少女の髪を梳き、撫でられた方はほにゃりと相貌を崩す。朝の光を浴びた上等な絹糸のような彼女の髪は、夢の中で見た光条のような美しさを備えていた。

 

「おはよう、イリヤ」

「うん、おはよう。ねぼすけシロウ」

 

 今度こそ、冬の聖女の忘れ形見たる雪の妖精は、花のような笑みを浮かべ、上半身だけを起こした自分に抱き着いた。年齢的には自分よりも1歳だけ上ではあるが、ぎゅむ、と抱き着いてくる少女の体は小柄と言うほかなく、感じる重量は頼りないほどですらあった。

 しかし自分の体を包む熱は、この少女が確かに生きているということを認識するのに十分以上のモノでもある。

 

「シロウ、汗臭ーい」

「む、それは失敬。……ていうか、自分から抱き着いていうセリフかそれ?」

 

「紳士たるもの、常に身だしなみには気を付けてもらわないと」と何故か説教臭い口ぶりで──実際、彼女にとっては説教なのだろうが──言い放った少女は、ひとしきり抱き着いて満足したのか、タタンッと軽やかに跳ねるように立ち上がる。穗群原学園高等部の女子用制服のスカートが微かに揺れた。

 パッと見の肉体年齢と人種を無視──ついでに、それらを無視することの違和感も無視──すれば、どこにでもいる女子高生と言った風貌だ。だが、今のその顔に浮かんでいる表情は1秒前までの少女のモノではなく、酷く冷徹な魔術師としてのソレであり、柔らかな光すら放っていた紅玉は恐れすら抱かせるような冷たい視線に変わっていた。

 

「で、昨日の成果はコレね?」

 

 見た目年齢相応の純真無垢さ、精神年齢相応の包容力と共に、魔術師としての才能相応のシビアな面を即座に使い分ける彼女の性質は今に始まったことではないが、この緩急の落差にはまだ慣れそうにない。”三重人格というより、すべてが並列した万華鏡”というある寺の息子の弁が結構的を射ているんじゃないかと思う今日この頃だ。

 触れれば切れそうな怜悧な視線を追った先に置かれているのは、昨日自分が投影した一振り。

 

 長さは115㎝程度、浅いU字型に湾曲した鍔と刀身に対して少々短いような気もするダークブルーの柄。刀身は華美ではないが品のある彫刻が施された両刃の剣だ。日本の地方都市の土蔵に見合わない、武骨さと流麗さが同居したかのような剣こそ、今の自分の到達点であり、遥か彼方の理想へと続く道標でもある。

 

 ジロリ、と土蔵の床に横たわった剣を睥睨したイリヤは徐にツカツカと歩み寄ると柄へと手をかけ、もう一方の手を開いてその上へ刀身を乗せて持ち上げる。精巧な西洋人形のような少女の細腕が持つには少々重すぎる代物だが、魔術によって重力をごまかしたからか、落としたり手を切ってしまいそうな危なっかしさは微塵も感じられなかった。朝の光を浴びながら自分と大差ない長さの刀剣を検分する白髪の少女、という非現実的にも程がある光景は、見るものに絵画を見ているような印象を与えた。

 

「…………」

「…………」

 

 開け放たれた土蔵から差し込んでくる白い光の中。正真正銘の真剣を手に持ち、角度を変え、視点を変え、矯めつ眇めつ眺める少女。彼女がその手に持った剣の角度を少し変えたり、遠ざけたり話したりするごとに、刀身に反射した太陽光が、埃っぽく薄暗い土蔵の中を跳ね回る。

 そうして検分すること約2分。一通り納得がいったのか軽く頷いた少女は数歩移動し、そのうち修理しようと思っていたガラクタ(ストーブ)の前へ。大きく集中するように深呼吸した後、ゆるりと緩慢な動作で剣を大上段に構え、そして。

 

「ちぇすとぉぉぉぉぉぉッ!」

 

 藤ねぇ仕込みの何とも気の抜ける気合と共に振り下ろされた剣は、ストーブの真正面に斜め45度の角度で直撃した瞬間。がいんっ、とこれまた何とも気の抜ける金属音と共にはじき返された。

 刃が衝突した部分は盛大にへこみ、塗装が削り取られてしまっている。うん、自分が鉄パイプをフルスイングした方がもっと威力が出るだろう。

 

「ふーっ……なるほど」

「今日は」

 

 何点? と聞こうとした瞬間に「20点」と鋭い採点が飛び出し、心に突き刺さった。

 いや、確かに昨日作ったそれは会心の出来とは言えないものの、それなりにいいセンを行ったように感じていたのだ。がっくりするのは許してほしい。

 そんな自分の嘆きも知らず──知っていたところで手心を加える少女ではないが──つらつらと改善点を上げ連ねていく。

 

 曰く──バランスはとれているけど柄の作りが少々軟い

 

 曰く──刀身にまだまだムラがある。シロウの実力で魔力を通せば爆散する

 

 曰く──神秘は全くと言って感じない、前回から進捗無し

 

 総論──ただのよく切れて頑丈なデカい剣。一昨日きやがれ

 

 

 実際の言動は微かにオブラートに包まれた言い方だが、彼女の評価はおおむねこの通りだ。

 毎朝の日課とはいえ、見た目年齢ローティーンの少女の酷評は中々クるものがある。当の少女は一仕事終えた達成感と共に、自分が投影した剣を地面に突き刺して、杖の様に体重を預けていた。

 

「まあ、作るたびにコロコロ変わっていた最初に比べれば雲泥の差だけど、形が定まってからはこれといった進歩がないわね。いっそのこと、もっと抜本的な変革が必要かも」

「抜本的っつったって。形はこれでほぼ正解なんだろ? だったら後は、強度とか材質とかの問題なんじゃないのか?」

「そんな事ばっかりに意識が行ってるから、いつまでたっても見た目だけは完璧なコスプレ包丁なんでしょ?」

「ぬがっ!? ……コスプレ包丁はないだろコスプレ包丁は……」

「そうね。切れ味はそれなりにあるんだから、コスプレで使うにはちょっと危ないし」

「ちがうそうじゃない」

 

「解ってるわよ」とケタケタ笑うイリヤに、強烈な脱力感を覚えてしまう。

 

 自分──衛宮士郎の魔術はかなり特殊だ。あるモノにより変質した起源の影響で、自分の肉体は極限まで剣を造ることに特化されていた。

 そのおかげで、自分が主に扱う投影魔術は一般的な魔術師が見れば眩暈を覚えるほどの異常性を持っている。

 投影魔術(グラデーション・エア)というものは、魔力を用いてオリジナルの鏡像を物質化させる魔術だ。物質化と言っても、可能なのは外見だけのレプリカであり、持続時間は数分間程度。それを過ぎれば世界に修正されて消えてしまうし、そうでなくてもイメージがぶれれば霧散してしまう。非常に効率の悪い魔術であり、この魔術でレプリカを造るぐらいならば、ちゃんとした材料でレプリカを作成した方が余程実用に耐え、手軽ですらある。このため、魔術としては野外で儀式を行う際、代用品を緊急で用意するぐらいしか出番がないほど、真っ当な魔術師に言わせれば”微妙”な代物だった。

 ところが、自分の場合投影した物品はどういうわけか世界の修正力を受けずに、破壊されるまでは半永久的に現実に残り続ける。まともに機能する投影品は剣しか作れないが、一度目にした剣ならばどのようなものでも投影可能であるなど、規格外と言うほかない性質を有していた。もっとも、慎二やイリヤ、遠坂曰く”純粋な投影魔術ではない”可能性があるらしいが、そんなことはどうだっていい。

 

 

 

 重要なのは、自分がこの魔術をうまく使えるようになること。そして……イリヤや、藤ねぇや舞弥さんを守ることができる剣を、力を手に入れることだ。そのためならば、毎夜行っている自殺染みた修行も、疲労でぶっ倒れるまで、自分の限界に肉薄して行う一日一回の投影も苦ではない。

 

 

 

 

「ま、まだまだ修行が足りないってことね。失敗作は……あ、居た居た」

 

 慰めなのか本心なのかわからないセリフを吐いた後、白い少女はきょろきょろと土蔵を見渡した後、柱の陰から這い出てきた一頭の巨大なカマキリを見つける。体は長くその風貌と色合いは枯れ枝を思わせる。一方、体を支える4本の肢は、本当に歩行ができるのか心配になるほど頼りなく細い。例外的に前脚はカマキリ目の生物に違わずよく発達してはいるが、力強いペンチというよりは、しなやかな日本刀と形容できそうな見た目だった。

 序列52位、魔術蟲アロケル。オオカレエダカマキリに異種羽化を遂げたこの統率個体は、衛宮邸を含めた冬木市の管理を一手に担っていた。と言っても、本来ならば衛宮邸、間桐邸、遠坂邸それぞれに統率個体と1個師団の警護が付くが、今日に限っては慎二の動員令により他の2個師団も駆り出され、アロケルの師団が一時的に肩代わりをしている状況だった。

 

「じゃあこれお願いね。贋作でも無駄に頑丈で切れ味は凄いんだから。運ぶときは注意するよーに!」

 

「なんでお前がちょっと得意そうなんだよ」と言う突込みを飲み込み、自分も立ち上がる。直後、ズビシっと目の前に白い指が突きつけられた。

 

「シロウは一回シャワー浴びて着替えてきなさい。汚れたツナギ(そんな恰好)じゃマイヤが怒るよ?」

「りょーかいりょーかい。先に行っててくれ、先に片付けちまうから」

 

 周りを見れば、手慰みに直したガラクタや直しかけたガラクタ、直されるのを待っているガラクタが散乱している。このまま土蔵を出ていく気にはならない。最悪でも、昨日使った工具の類は元に戻しておかねば。

 

「あんまり遅くなったら、タイガけしかけちゃうからね」

 

 ニンマリと笑って最悪の釘を刺す少女に「わかってるって」と手のひらを振れば、「じゃあ、お先に」と入り口から侵入する朝の光に溶けるように土蔵を後にしていく。残ったのは初夏の朝にふさわしい爽やかな空気と、微かに聞こえてくるセミの鳴き声。ガラガラと引きずるような音はアロケルが失敗作を運んでいく音か。その音を聞きながら足元に転がったスパナを拾おうとして”はた”と止まる。

 時間を確認、一度だけならば構わないか。

 

「わりぃ、ちょっと待ってくれ」

 

 アロケルに断りを入れ、巨大なカマキリから失敗作を受け取る。

 

 いつの間にか心地よく感じるようになってしまった重さを手に受けながら、先ほどのイリヤとは異なり正眼に構え、深呼吸と共に目を閉じ集中。

 自らの意識を細く、鋭く、ひとつに束ねていく。

 呼吸を重ねるごとに五感を研ぎ澄まし、失敗作たる剣の切っ先にまで意識を染み渡らせていく。

 そのまま静止していると、徐々に風やセミの声が消えていき意識はついに静寂に包まれた。

 何もない無音の空間。目を閉じた自分の意識が感じ取れるのは、剣とそれを担う肉体だけ。固定化された時間が過ぎゆく中で、ナニカが目の前を通り過ぎるのを合図とした。

 閉じていた眼を開いた瞬間、爆発するかのように拡大された意識(視野)の真正面に映ったのは、宙に舞う使い切り、穴があけられたガス缶。距離も、角度も申し分ない。

 短く吐息を吐き出すとともに、振り上げた刀身を一息に振り下ろした。

 

 ガギン。と金属同士がぶつかり合う音が響いたかと思えば、両断されたガス缶の残骸が回転しながら騒々しい音を立てて土蔵の中を跳ね回った。数回あちこちにぶつかった挙句、目の前に転がってきた片割れは、押し切られたかのように切断面が楕円形に変形してしまっている。もう一つの片割れも似たような状況だろう。自分の腕が未熟なのは重々承知してはいるが、これが真に迫った剣であるならば、もう少し綺麗に切れるという確信があった。何のことはない、これが失敗作であることを自ら証明しただけのことだ。

 自身で振ってみてより実感できたが、やはりイリヤの見立ては正確だ。確かに之では、目指すものと比べることすらおこがましいだろう。

 けれど、進歩ではあるのだ。劇的なブレイクスルーはないが、それでも、微かに進んでいるという実感はあった。それが感じられれば、とりあえずは良しと……するべきではない。

 失敗作の剣を慎重にアロケルへと再び手渡す。異形の蟲の前肢の中で、日本人にはあまりなじみのない西洋剣が微かに光を反射した。

 

「人々の願いの結晶、星の聖剣、か……」

 

 曇り一つない刀身には、赤銅色の頭と鋼にそっと触れる指先を映している。

 

 ──世界を敵に回しても大切な人を守るには、最強の剣ぐらい作れなきゃ話にならないよな

 

「まだまだ先は長いけど、いつか、必ず」

 

 我ながら傲慢にも程があると苦笑しながら踵を返し、足元に転がったスプレー缶の残骸を手に取った。

 土蔵を片付け終えるころには、星の聖剣のデッドコピーを抱えたカマキリは影も形もなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ──閣下

 

 冬木市の直下に十重二十重に張り巡らされた地下通路の一角。倉庫と言うよりは廃品置き場的な使われ方をしている大深度地下空間にて、今朝に受け取った剣を収めようとするアロケルの背後から眷属が姿を現した。

 

 ──指導者が、遂に戦端を開いたか

 

 眷属が言葉をつづける前に、その意をくみ取る。魔術蟲のネットワークにより事前に知っていたわけではなく、これはただ純粋な予測の賜物だった。眷属の方も、毎回毎回報告を主に先読みされることはもはや日常と化していたため、特に驚くまでもなく肯定する。

 

 ──まもなく、我が主は目標と接敵するかと。しかし、第2戦線が芳しくありません

 ──フォス魔導官は優秀ではあるが、真正面からの戦闘で敵を圧倒する戦い方ではない。しばしの時間がかかるだろう。どの道、敵は礼装と肉体、精神がそろわねば村を脱出しない。足止めは不要だ。

 ──では、我が主は勇み足をしていらっしゃると? 

 

 そうではない。と静かに眷属の間違いを正す。その口調にいら立ちはなく、ただひたすらに、いっそ機械的なほど無機質なものだった。

 

 ──足止めは不要ではあるが、それだけを理由に足を止めるべきではない。奴の戦闘能力はいまだ未知数、”最悪”の状況になる前に威力偵察を行うことは理に適う。しかし、指導者も体勢が整い切っているとは言い難い、少々の損害は覚悟せねばなるまい

 

 微かな音に眷属の視線が揺れる。どうやら、統率個体が鎌を閉じたため、棘と刀身が擦れあったらしい。

 

 ──閣下……

 ──指導者の窮地に駆け付けられぬ事は、統率個体として無念ではある。が、我々に与えられた職責は未来への布石だ、故に、失敗は許されぬ。現地の戦争は英吉利方面軍に任せればよい、我々は我々の責務を全うする。ゆめ忘れるな。

 ──御意

 

 眷属が頭を下げると同時に、倉庫の中へと放り投げられた投影品は、数秒の自由落下の後鋭い金属音と火花を最後に闇へと消えていく。その際に弾けた火花は刹那の時間だけ、折り重なるように堆積する夥しい数の星の聖剣のレプリカを浮かび上がらせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁっ……はあっ……はあっ……ちょ、ちょっと……待って……」

 

 ようやく絞り出した声と共に、前を進む金髪の少年が振り返ったことを確認して立ち止まる。

 心臓は今にも爆発しそうなほど早く強く鼓動し、大量の空気を吸っては吐いていた肺は焼けるように痛い。足の筋肉は微かに痙攣するほど酷使され、喉は乾ききり油断すれば張り付いてしまうような不快な感覚に襲われていた。

 死神の鎌(グリム・リーパー)の身体強化無しにここまで走り回ったのはいつ以来だろう。酸素を求めてあえぐが、自分の頭は酷くかすみがかったような状態から回復しない。酸欠に近いような朦朧とした意識の中、エランが「ここまでくれば少しは時間も稼げています。少し休みましょう」という言葉を言い終わる前にペタリと崩れ落ちた。

 

「グレイさん、大丈夫ですか?」

「……はい……大、丈夫、です」

 

 心配そうに目線を合わせてのぞき込んでくる彼の視線を躱す様にうつむく。視界に映るのは自分の足と、手汗と泥で汚れてしまった自分の両の掌。熱気が籠っているからか、初めてこのフードの存在が不快に感じてしまう。

 その直後、パサリと軽い音がして頭を包んでいた熱気が瞬時に霧散し、視界が開ける。目を上げればエランの笑みが見えた。どうやら、自分を気遣ってフードを上げてくれたらしい。それでも反射的にフードを戻そうとした自分の腕を、彼はやんわりと押しとどめた。

 

「今は、まだ被らないほうがいいです。熱がこもって倒れてしまいますからね」

 

 自分を気遣って言ってくれているように聞こえるが、それでも、フードを下ろしたくて彼の手を振り切って再び顔を隠す。それは異常な状況の中で、少しでも普段と同じ環境に身を置きたいと考える自分の弱さの表れなのだろう。フードの端を掴んで引き下ろした際に、自分の手が震えていることに気が付く。原因は疲れもあるが、それ以上に原因不明の不快な感情が主だった。

 

 ──魔術協会の人間が、いきなりこんな辺鄙な村を訪れて、貴女に目を付けて手紙を交換し続けるだなんて。“おかしい”とは思いませんでしたか? 

 

 知らず知らずのうちに、歯を食いしばってしまう。

 エランの言葉は正論だ。嘘偽りはない。高々2年に満たない文通での交流。それも、奇妙なほどに自分を気に入ってくれたような手紙、自分の事を理解してくれるような都合のよすぎる人物。方や、生まれてから今までなんだかんだと付き合いがあった。村人たちの態度が変わった後も、変わらず交流を持ってくれた幼馴染。ああ、そうだ、最初から、自分を助けてくれたのは

 

 本当にそうだろうか? (ギシりと、ナニカがひび割れた)

 

 視界がぶれ、全身に原因不明の震えが走る。

 理由は解らないが、突如としてあの納屋からここまでの自分の選択が、全てにおいて間違っているかのような強迫観念染みた負の感情が、頭と心の中でゆらりと鎌首をもたげた。まるで、今までお気に入りだった暖かな絵が、見方を変えれば凄惨極まりない悪趣味な絵画だったことに気づかされるような、何もかもが一瞬で反転してしまったかのような恐怖。

 

 お前は、いったい何をした? (ギシりと、ナニカがひび割れた)

 

「グレイさん?」

 

 エランの心配そうな声も、どこか遠くで響くノイズのような無意味な音に変換されている。

 胸の中で何かが蠢いているのを感じた直後、それらは、今までの自分の行動を一片の容赦もなく糾弾し始めた。反射的に、理性が胸の内に巣くった怪物を抑え込もうと打ちかかる。

 こうするしかなかった、初めから自分は彼に騙されていたのだと、借り物に過ぎない理屈を並べ立てていく。

 

 ──借り物? 

 

 そこまで考えた瞬間、足元がガラガラと音を立てて崩れていくような感覚に陥る。愕然とした意識は、知らず自分の掌を見つめた。汗と泥にまみれた手のひらは先ほどと何ら変わりがない、微かに震えていることを除けば。

 何をした? 自らを割くような自問があふれかえり、血を吐くような自答(こたえ)を絞り出す。

 自分は、彼に裏切られた。騙された。だから、逃げた。助けてくれるのはエランだけだと確信して。

 

 ──さっき、もう一度君の顔を見て確信した。君は、グレイだ。アルトリア、もといアーサー王じゃない

 

 雪のちらつく空を背景に、微かに微笑んでそういった彼の姿がフラッシュバックした瞬間。頭を、思い切り殴られたような衝撃が走った。手の震えが俄かに大きくなる。

 

 ──魂と精神が君のままならば、君はグレイだ。

 

 自分を殺すため、信用を得るための出まかせ。そう断じるには、頭の中に次々と浮かんでは消えていく思い出は自分にとって大きすぎる。次第に、手の震えが体に伝搬していった。

 

 ──顔はともかく、声は全然違う。似ても似つかない

 

 茶化したような言葉で、いったいどれほど自分は救われたのだろうか。肉体が赤の他人になり果てる恐怖を、そんなものは人を構成する要素に過ぎないと笑い飛ばしてくれたのは、そんな考え方もあるのだと教えてくれたのは誰だったのだろうか。理性がついに怪物を抑えきれなくなり、頸木から解き放たれた怪物は、ゴゾリとおぞましい音を立てて柔らかな精神に深々と鉤爪を突き立てる。

 

 ──けど、まあ、なんだ。とりあえず、君がまだ君自身で本当に良かった。いや、身長は少しだけ伸びたか

 

 全身を包む震えの中、思わず体を掻き抱いた瞬間。虚しさと遣る瀬無さが吹き出し、今ここで自分の心を蹂躙しつくしている怪物の正体をようやく理解する。

 

「大丈夫ですか? グレイさん。水をどうぞ、恐ろしいのは解りますが。もう少しの辛抱です」

 

 本心からの心配を露にし、どこからか取り出した水筒の水を差しだす幼馴染。ノロノロと視線を上げて視界にとらえたその様子は、いつもと変わらない。村人たちからの態度が一変するあの日よりずっと前から、変わらない。あたかも、()()()()()()()()()()()()かのように。

 暖かな救いの絵画を構成していた情報(ピース)が砕け、瞬時に並び替えられていき別の絵を浮かび上がらせた。そうして、目の前にあったのはある意味で”怪物”の予想通りのモノ。愚かな自分が選択した先にあったのは、仮初の善意で舗装された地獄への道であった可能性にようやく気が付く。心臓が、痛いほど跳ね、呼吸が浅く、速くなり始める。体の震えは視界すら揺さぶり始めた。

 いらない。という言葉が乾ききった喉に張り付いた瞬間、右から轟音が響き、目の前に差し出された水筒が内容物をまき散らしながら左の暗闇の方へとすっ飛んでいく。反射的に視線をやった先、いつの間にか自分をかばうように。半ば抱きかかえるように身を挺したエランの肩の向こうにいた人物を見た瞬間、思わず息が詰まり、呼吸を忘れる。

 

「鬼ごっこに給水ポイントはないだろう? エラン・コルト」

 

 自分が見たこともないほどの冷たい目と、硝煙がたなびく見たこともない銃の銃口をこちらへと向ける蟲使いの姿。可能ならば会うべきではなかった(会いたくなかった)、目の前の敵を刈り取る捕食者が闇の中から姿を現していた。

 

「しつこい男は嫌われますよ。蟲使い」

 

 不愉快そうな感情を微かににじませたエランが立ち上がると。少し前にちらりと見えた淡い青の刀身を鈍く光らせる剣を取り出した。少なくとも、さっきまでそんなものは持っていなかったのは事実。エランが魔術師であると強制的に理解させられてしまう。

 一方は銃を、一方は剣を構え対峙する。彼の後ろには無数の蟲が控えているのか赤い光がぽつぽつと無数に浮かび蠢き始めた。そんな中、彼の眼が一瞬自分を捉え、安堵したかのように一握りの哀しみを浮かべるかのように微かに緩む。同時に、再び怪物の爪が心を引き裂いた。

 

「嫌われるのには慣れてるさ。……最後の警告だエラン・コルト。グレイを開放し、投降しろ」

 

 

 今回ばかりは大丈夫と、不安極まりない太鼓判を押されたネタ兵器を片手に降伏勧告をしてみるが、目の前の騎士様にとって銃を突きつけられるのは脅威でも何でもないらしい。村の地下通路で銃を構える男と剣を構えて少女を後ろにかばう男。うん、どう見てもこっちが悪役だよな。グレイの目からハイライトが消えているような気がしたが、気のせいだと思いたい。

 

「拒否します。来りて取ればよろしい」

 

 知ってた。と内心独り言ちる。後ろに控えた蟲に”やばくなるまで手出し無用”と伝え、攻撃を誘うために口を開いた。

「それは残念」と一つ芝居がかったように肩をすくめた瞬間、その隙を待っていたかのようにエランは大地を蹴り、自分へと向かってすっ飛んでくる。それも、狙いを付けたアイアンサイトから逃れるように微かに軌道を変えて。トリガーを引きながら照準を合わせるなどと言うバカげた行為に走ることはなく、瞬時に偏差を見極め角度を修正、発砲。

 一体どのようなこだわりなのか理解に苦しむが、給弾口を下ではなく上側に配置しなおしてまでサドルマガジンを搭載したL85A1PD Mod.2なるゲテモノは、給弾不良も廃莢不良も起こすことなく、5.56x45mm NATO弾を景気よく吐き出していく。短銃身の宿命として集弾率は高くないが、ここまで至近距離であれば外すほうが難しい。もっとも、マズルフラッシュと共に飛び出した対霊体用のエンチャントが施された弾頭は、エランが手にした剣によりことごとくが明後日の方向へと飛び去ってゆく。お前はどこの13代目だ、とか、びっくり人間自重しろ、とかツッコミを入れたくなった。

 当然、接近によって射出から着弾までの時間は短くなる。迎撃可能な弾丸の数と被弾する面積は反比例し、慎二もエランの急所を狙うのではなく体全てを標的とするように照準を調整した結果、剣士の進撃は一瞬途絶えた。

 豪雨の様に降り注ぐ銃弾と、嵐のごとく振るわれる剣戟。高々数m程度しか離れていない二人の魔術師の間で閃光が瞬き、切り飛ばされ、弾き飛ばされた弾頭が剣士の周りに突き刺さり、魔銃から吐き出された空薬莢が蟲使いの足元に山を造る。しかし、弾丸を消費する飛び道具を用いた以上、エアポケット染みた隙は確かに存在した。虚数魔術による拡張を施された300発入りサドルマガジンと、銃身の強制冷却機構により生み出された鋼の暴風は30秒程度で限界を迎える。

 最後の1発を打ち切った薬室で、撃針が空振りする空虚な音が微かに響いた直後、雌伏の時を耐え抜いた剣士は一息に蟲使いの首を断ち切ろうと姿勢を低くしながら跳躍。金と青の弾丸が迫る。

 再装填、不可。銃本体打撃による迎撃、効果なし。回避、無駄なあがき。近接武器による迎撃、可能。

 

 

 

 彼の手には弾切れの銃しかなく、自分を殺すために剣を振りかざすエランを冷たい青い光が見据えている。自分は傍観者であるのに、その一瞬を当事者の様に酷く遅く感じてしまった。胸の内に生じた”後悔”と言う名の怪物が下卑た嘲笑を上げるのをどこか遠くに聞きながら、自分勝手にも程がある愚かな自分自身に殺意すら覚えながら、思わず零れ落ちた静止の言葉は、強烈な金属音にかき消されてしまった。

 

「な、に?」

 

 ここにきて、初めて困惑したかのようなエランの言葉が耳朶を打った。「せ、え、の!」と彼の掛け声とともに金属同士がこすれあう耳障りな音が響く。力任せに振るわれた彼の剣の力を利用して後ろに飛び、距離をとったエランの背中には、見たこともないほどの怒りが渦巻いていた。

 

「どう、して……」

 

 絞り出された言葉には、身がすくむような殺意が込められている。背中しか見えない自分ですらこれほどの激情を感じているというのに、この世のものとは思えないほど見事な黄金の剣を手にした彼は、興味深そうな笑みすら浮かべていた。

 

「いやはや、危ない危ない。こんな事もあろうかとって言うのは、もう少し余裕をもって言いたいセリフだよな?」

 

 放たれた言葉は、意図的に彼の神経を逆なでするような声色で。手にした剣を無造作に肩に担ぐ。それすらも、エランの怒りを煽る一手に他ならなかった。

 

「どうして貴様がっ! その剣を……星の聖剣(エクスカリバー)を持っている!?」

「ああ、泉で拾った。って言っても信じてくれないよな?」

「ふざけるな!」

 

 剛剣一閃。先ほどまでとは比べ物にならないほどの火花が散り、邪悪な笑みを浮かべた慎二の顔がはっきりとグレイの瞳に焼き付けられる。その目の中に自分は存在せず、ただ目前の敵に歓喜する悪魔と言う感想が浮かんでしまった。

 

「おいおい、穏やかじゃないな。こんなもの、タダの剣じゃないか。時代遅れの鉄くずだよ。それとも何かい? やっぱり裏切り者で紛い物かつレプリカかつデッドコピーであっても、菓子の箱(騎士王の肉体)に対する忠誠心は微塵も衰えていないというのかな? Elan Colt(エラン・コルト)。いいや」

 

 息を飲んだような風音は、自分のモノか、それとも、つばぜり合いを続けるエランのモノだったのか、そんなものは即座にどうでもよくなってしまった。

 続く彼の言葉に、エランですらもアーサー王の化身だと見ているという疑念が確信へと変わり、絶望の二文字が体の内側を侵食し、体温が根こそぎ消えたような錯覚に陥ったのだから。

 

Sir Lancelot(ランスロット卿)?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





あれ?このワカメ、無意識にグレイたんにとどめ刺してね?(主人公の屑
ま、まあええわ(震え

エラン・コルトはランスロットのアナグラムだったんだよ!

Ω ΩΩ<ナ、ナンダッテー!

ここまですっごく長かったゾ…


士郎君がエクスカリバー投影してますが
蟲の戦闘記録を脳に叩き込んで投影してるので
完全に解析どころか結構あやふやなイメージを早めのアヴァロンで
補強しながら作り上げてる
コピーのレプリカのデッドコピーの更にモンキーモデル以下の代物
特に代償とかはないですがビームぶっぱはもちろん
意図的にそういう風に魔力を流さないと黄金にも光らない
強度と切れ味も、まあよくある名剣レベル
ガワだけ完璧な聖剣です

ロリブルマ曰く「エクスカリバーじゃなくてエクス仮バー」


ま、エラン君はエクスカリバーを伝承やら一族の言い伝えやらで
もちろん知ってますが本物は見たことがないので
ガワだけは無駄に再現度の高いソレ+ワカメ君迫真の煽りで
絶賛勘違い中

中途半端な知識は身を亡ぼすってそれ一番言われてるから(特大ブーメラン

 ▲ページの一番上に飛ぶ
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。