PSO2_epIF バタフライエフェクト   作:トロイトロール

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 その後ペルソナは残り二つのクラリッサの欠片をアムドゥスキアとリリーパで回収したが、特別ほかの周回と変わったことはなかったため割愛しよう。

 

 クラリッサの欠片を集め終えた後、いつも通り刀匠のジグを頼りクラリッサの修復を依頼した。その帰り、ペルソナはいつものようにメディカルセンターを、つまりマトイの元を訪れていた。

 「こんにちは、本日はどのようなご用件で……ああペルソナさんですか。いつもお疲れ様です。マトイさんを今呼んできますね」

 「頼みます。いつもありがとうございます」

 ペルソナはフィリアにマトイに取り次いでもらい、暫く待合室で待っていると、すこし早足でペルソナの方に向かう足音が聞こえた。

 「お待たせっ」

 「問題ない。雑用を済ませていたから。お昼は済ませたか?」

 「ううん、まだだよ。この間おいしいのを見つけたから一緒に食べに行こ?」

 「それは楽しみだ」

 そんな会話をしながら、二人はメディカルセンターを後にした。ペルソナはこんな日常を心から楽しんでいた。ペルソナにとって、果たして何百、何千回ぶりなのだろうか。このようにマトイの隣を歩き、昼食を一緒に楽しむという日常を送れるのは。最後にアークスとして彼女と一緒に食べた食事の内容は、もう遥か彼方の記憶の果てに消えてしまっていた。

 

 ペルソナがマトイと一緒に昼食を堪能した後、マトイからある相談を受けていた。それは、マトイが現れたあのナベリウスをもう一度訪れたいというものだ。すっかり体調も回復し、ナベリウスやアムドゥスキア、リリーパといった惑星の冒険譚をペルソナから聞いていたマトイは、自らも先に進むためにまずは記憶の手がかりを探したいのだという。

 「しかし、それは非常に難しいだろう。まず民間人を同行させるのに七面倒な手続きを踏まなければならないうえ、ナベリウスは現在、ダーカーの出現が確認されていて余計に許可が下りにくい。さらに加えるならば、君の安全も保障できない」

 「だよね……。なにかいい方法はないのかな」

 「なら、私の方でも何か考えてみよう」

 「じゃあお願いしてもいい?」

 「いい案が出るとは限らないが、なるべく善処しよう」

 そういいながら、ペルソナは天井に目線をやって暫く思案する。考えるとは言ったものの、これがなかなかに難題で、答えを知っているペルソナでも現時点でマトイができることはすぐにはあまり思いつかなかった。

 「頭の片隅に入れておいてくれたらいいなぁってくらいだから、あまり無理に考えなくても大丈夫だよ?」

 「いや、これは大切なことだ。暫く空いた時間に考えてみる」

 「分かった。じゃあお願いね?」

 「任された」

 そうペルソナは軽く砕けた調子で言うと、普段のイメージとは違う様子にマトイはくすりと笑みをこぼした。

 

 

 

 さてそれから暫く経って。ペルソナのもとにある通知が来た。内容は民間人の護衛および惑星調査任務。同行は次期六芒と言われているコハナと、ペルソナを相棒と呼ぶ仲の良いアフィン。護衛対象はマトイ。

 幾たびの繰り返しの中で、このようなイベントが起こることも0ではなかったが、非常に珍しいケースであった。そして大抵、これは別の重大な事象を発生させるためのキーとなり得た。

 「シオン、今回は遺跡の件のフラグはこれで合っているな」

 当日の朝、ペルソナはいつもの装備に着替えながら背後にいるであろうナニかに話しかける。

 「その理解で相違ない。貴方がこの事象に対処することで、幾つかの事象が連鎖的に引き起こされるだろう。それらは貴方の予想の範囲内であり、それを逸脱することはない。アトラクターの中でも安定したものであるからだ」

 そしてペルソナの予想通りにいたシオンは、そう返した。

 「アカシックレコードの保証付きならば安心というものだ。さて、では出発するとしよう」

 そんなシオンにペルソナは軽口を返すと、レスレクシオンを背負い、部屋を後にした。

 「健闘を祈る。時を渡る者、私の知る最後のアークスよ」

 ペルソナが部屋を出る直前、そんなシオンの声が聞こえてきた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 「相棒、こっちにはいないみたいだ」

 「こちらも……、いや、アフィン、マトイを此方に近づけるな」

 「何かあったのか?」

 「随分と酷くやられている」

 それで色々と察したアフィンは、顔を真っ青にしながら露骨にしかめる。そしてアフィンがマトイをそこから離れさせると、ペルソナが管制へと通報した。管制からは、ダーカー因子汚染の可能性のある遺体からは離れるよう指示が下り、暫くして回収班が遺体を収容していった。

 「あれは刃物による傷跡だった。ここいらで見かけるダーカーや原生生物のものじゃない。何か別のヒト型のエネミーか、はたまたアークスによる可能性ですらある」

 「マジかよ相棒、勘弁してくれよ……。次期六芒均衡って呼ばれてたような人だぞ、それを殺せるのがあたりをうろついているなんて考えたくもないぜ」

 そう言ってアフィンはへたり込み、管制へと回線を繋げた。

 「管制、こちらアフィン、現場の指揮官死亡により任務続行は不可能。帰還許可を」

 アフィンは懇願するように言ったが、おそらくそれは受理されないだろうとペルソナは思っていた。

 その予想は裏切られることなく、許可は下りず、アフィンが悪態をつく。

 「上が帰ってくるなというのなら、続けるしかないだろう。一先ず寝床を見繕わないとどうしようもない」

 ペルソナが切り替えるようにそう言うと、アフィンはのろのろと立ち上がって、ああと重く頷く。そして軽く体を伸ばすと、アフィンはわざとらしい明るい声でならそんじゃさっさと行こうぜ、相棒、とペルソナに言った。

 

 

 

 事は惑星調査のためにナベリウスに降り立って暫く経ったころ、マトイが現れた地点を訪れたり、マトイがそこでなにか引っかかりを覚えたり、ペルソナがゲッテムハルトに絡まれたりしたこともあったが、特筆するべきはコハナの暴走だった。

 マトイの出現地点から暫く歩いた場所でダーカーが密集しており、そこを殲滅したあとのことだった。コハナは獣のように唸り、目を赤く爛々と光らせ、突然ペルソナに切りかかった。ペルソナがそれを蹴り飛ばして壁に激突させると、コハナは立ち上がって頭を抱えた後、どこかへ行ってしまったのだ。

 そして目的がコハナの捜索になり、暫くして先ほどの記述の冒頭につながる。

 先ほどコハナの遺体が収容された場所から更にかなり歩いたところで、ペルソナたちは野宿の場所としてはあまり悪くない場所を見つけた。あたりにある枝を拾い、火をつけて暖を取る。そして軽い食事を済ませた後、マトイは疲れから一言謝ってすぐに横になって寝てしまった。

 ペルソナは護身用にマトイにロッドを持たせるべきか、などと考えるがルーサーへの情報の漏洩を考えるとその案を一蹴した。

 「マトイはもう寝たのか?」

 「ああ。かなり疲労がたまっているようだ。少しでも回復してくれると助かるが」

 「そっか。俺ももうくたくただよ」

 「疲れたのならアフィンも休め。見張りは私がやろう」

 「いや、流石に相棒だけに任せられないから、俺も起きてるぜ」

 「そうか」

 そうしてしばらくの沈黙の後、アフィンが沈んだ表情で「色々おかしいと思わないか」と切り出した。

 「マトイを同行させるってのも可笑しいのに、コハナさんが死んでも任務続行だなんて」

 「前の試験の時にした話をまだ覚えているか?」

 「いや、どんな話だっけ」

 「組織の暗い部分なんて、ひとつやふたつあるだろうという話だ」

 「ああ、そういや相棒とそんな話もしたな」

 懐かしむように、アフィンは返す。

 「それにしたって、俺たちに降りかかってこないでもいいのにな」

 「全くもってそうだ」

 お互いに苦笑しながら、二人はぱちぱちと目の前の焚火の燃える音を聞いていた。

 「相棒。前にさ、アークスになった理由を聞いたよな」

 「ああ。結局あの時は襲撃で言いそびれたが」

 「なら相棒はなんでアークスになったんだ?」

 アフィンのその問いに、ペルソナは少し考えた後、「守るためだ。大切なものを守るため」と返す。

 「いい理由だと思うぜ、相棒」

 アフィンは少しまぶしいものを見るようにペルソナを見た。

 「アフィンは確か人探しだったか」

 そんなアフィンにペルソナがそういうと、アフィンはああ、と頷いて肯定の意を示した。

 「探しているのはさ、家族なんだ。10年前に行方不明になった姉」

 「そうか」

 そういってペルソナはそれ以上の反応を示さないので、アフィンが反応が薄いと冗談めいた突っ込みを言った。

 「まあいろんなところを回って姉貴を探そうとしてアークスになったら、こんなことに巻き込まれてさ」

 「それは災難だったな」

 「本当だぜ」

 お互いに笑う。でもその場の雰囲気は先ほどとは違って、とても穏やかなものだった。

 

 

 翌朝。爆音とともに叩き起こされたアフィンにマトイのことを頼むと、ペルソナは爆音の元へと向かう。

 そこには大量のダーカーや大型ダーカー、ダークラグネと対峙する一人の少女。クラリスクレイスだ。

 「あの程度なら造作もなく片付くだろうが、【若人】の因子回収も兼ねて少し狩るか」

 そんな少女を見て、ペルソナはそう呟いた。そして崖から足を踏み出そうとしたとき、後ろから声を掛けられる。

 「近づくと危ないわよ」

 その声の主はサラ。アークスのようなものでアークスではない彼女は一目見て勝気だと分かる笑みを浮かべてペルソナを見下ろしていた。

 「忠告感謝する。だが問題ない」

 ペルソナはサラに向かってそう言い放つと、崖から飛び降りる。

 「あっ、ちょっと」

 そうサラはペルソナを呼び止めるが、もうペルソナの姿は崖の下に消えていた。

 「まあ、情報が本当なら死にはしないか」

 そう言って、サラはペルソナの行動を観察し始めた。

 

 ペルソナが全速力で森を駆け抜けると、開けた場所に出た。そこは先ほどからクラリスクレイスがダーカーを爆破している場所だ。

 丁度ダークラグネが爆破され、その攻撃の主であるクラリスクレイスのもとへ向かって歩いているのが見えた。

 ペルソナはダークラグネの後ろに向かって駆け出す。気づかれる前の刹那、ペルソナが後脚の甲殻を破壊した。堪らずダークラグネがたたらを踏むと、その隙に前脚の残りの甲殻も木っ端微塵に吹き飛ぶ。

 突然の乱入者に一瞬唖然とするクラリスクレイス。しかしペルソナがダウンしたダークラグネの核を殴りつけているのを見て、横取りする気かと激昂する。

 そして次の瞬間、核周辺のフォトンが異常に励起され、ペルソナが飛びのくと、ダークラグネの核の周りで大爆発が起きた。

 「流石の爆発だな」

 ペルソナは自分に向かって歩いてくるクラリスクレイスを見ながらそうぼそりと呟いた。ペルソナはダークファルスに堕ちてからもはや覚えてないほど何度もその炎を浴びていた。

 「おい貴様、ワタシの獲物を横取りしようとするとは狡い奴だな」

 そんなペルソナにクラリスクレイスは指をさしながら甲高い声で叫んだ。

 「助けようとしただけだ。一人で大勢のエネミーに囲まれていたようだったからな」

 そう真面目な口調で返すペルソナの言葉が一瞬理解できなかったのか、きょとんとした表情をすると、次はなにか余程面白かったのか、クラリスクレイスはゲラゲラと笑い始めた。

 「助ける?ワタシを?貴様面白い奴だな」

 「お前だと知っていたら来なかった。六芒の五、クラリスクレイス」

 そう嘯くペルソナに、クラリスクレイスはムッとした表情で睨みつける。

 「貴様、ワタシに対するケイイが足りないぞ」

 「はいはい万歳万歳」

 そう適当にあしらうペルソナに余計ムキになって癇癪を起こすクラリスクレイスであった。

 

 

 「シャオ、確かにあの人は明らかに動きが可笑しい。新兵の練度じゃない」

 「あの情報は本当だったんだね。ならばペルソナの目的も、望みも、あの通りなんだろう」

 「何のこと、シャオ」

 「なんでもないよ。こっちの話。引き続き、ペルソナには留意しておいて。サラ」

 

 

 

 


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