近道する為の路地裏でこんな目に遭うとは、誰が予想しただろうか。
「あぁぁ……やっと会えた。」
背後から抱きついた男は、それはそれは上機嫌そうに囁いた。逃がさないとばかりに手は首をつかむ。
…5本の指全部で触れた時、私は死ぬだろう。
脳裏に有る日の記憶がフラッシュバックする。親戚の家に泊まりに行った日のことを。
親戚みんなで探検に出かけ、見事に私だけ迷った日のことを。
公園で一休みした時に出会った青年のことを。
「離れろ。」
「無理、無理。だって離れたら逃げるだろ?」
「私に何の用だ。」
「お前に会いたかったんだよ。あの時からずっと探してたんだぜ?」
甘く熱っぽい声は官能的で、頬に触れる手は割れ物に対するように優しい。だが丁寧に指一本だけを浮かせ添えられた手は、決して逃がさないという確固たる意志を感じさせる物だった。
「そんな警戒すんなよ。今日はちょっと話にきただけだからさ。……お前、雄英に入るんだって?」
「よく知ってるな。」
「流石に、このくらいじゃ驚かないか。」
なんで知ってんだよ!!プライバシー保護法は消滅したのか!?やめろよ怖いだろ!!!
「やめとけよ、ヒーローになるなんて。お前がヒーローを目指すって何の風の吹き回し?向いてねぇよ。」
「だろうな。」
「お前ヒーローなんて、大っ嫌いじゃん。…ヴィランと同じくらい。なに?ヴィランぶっ飛ばしたいからヒーロー目指すわけ?」
「あぁ、そうだが。」
「おいおい、冗談よしてくれよ。」
私、ヒーロー大好きだぞ……?伊達に緑谷の分析付き合ってねぇからな…?
死柄木は私の発言を、まるで軽いジョークでも言ったような反応で笑った。
「ヴィランをぶっ飛ばすだけなら、
爪が喉に食い込む。息を殺そうとする様に首を絞めあげる死柄木は、私の息苦しさなど知らないと言葉を続ける。
「なんで?……なんでそっちにしたんだよ。」
子供が泣きそうな時、確かこういう様な反応だった。
怒るような、縋るような、そんな気持ちに押し潰されそうな子供の反応。
その反応に私は──
「ヒーローも悪くないと思った。ただ、それだけだ。」
多分何答えても不味いだろうから当たり障りの無い事を言った。
助けてヒーローォ!!!と叫ばないだけ褒めて欲しい。ぶっちゃけ吐きそう。
当たり障りの全く無い、平々凡々、どうとでも捉えられる言葉。
「誰?」
「……」
「誰が、お前をそんな風にしたの。」
地を這うようなドスの効いた声で死柄木は呟いた。
締め付ける手は更に強くなり、喉の痛みに顔を顰める。おどろおどろしさを感じ肌を刺す雰囲気。心臓の落ち潰れそうな感覚に息が詰まる。
自分です。とは流石に言えなかった。
「気づいてたらこうなってただけだ。」
「………」
やっと捻り出した私の言葉に、急に死柄木は黙り力を少し抜く。
「………ま、別に良いけどさ。また何時もの気まぐれだろ?」
「好きに考えろ。」
先程の人を殺しそうな雰囲気から一転。
死柄木は手の力を弱める。
なんだか良い方向に行ったようだった。
きっと私のはぐらかしが上手かったのだろう。
ホッとしたその時。
「お久しぶりですね、狗飼野乃子。」
夜に紛れて良く見えないが、何だかボンヤリした所から低い男性的な声の男が現れる。
黒い霧のような姿に身を包んでいるのか、霧そのものなのか判別つきにくい男は、確かに金色の目らしき物を歪める。真っ黒なのと合わさって夜闇に浮かぶ三日月のようであった。
覚えている。
私はこの人と、バーで楽しく談笑した。
紳士的で話も面白い、しかも体格もしっかりしてる物だから当時の私はドストライクすぎて「こんな人と結婚したいなぁ」なんて考えた。……まぁ、監禁未遂の時の性で、今の好みは真逆の物に仕上がった訳だが。
「なんだよ黒霧。邪魔すんな。」
「失礼ながら死柄木弔。もう時間です。」
「あーなんだよ。もうそんなに居たか。」
黒霧と少し話すと、死柄木は私から手を離す。
開放感と、圧迫が急に消えた違和感で首を触る。少しヌメっとした感触がした。
「ふふ、大きくなりましたね。狗飼野乃子。」
「そうか。」
「えぇ、とても……綺麗になりました。」
朗々とした月明かりのような瞳は、夜中の月よりも不気味だ。人間らしい目でもないのに何故だがドロッとした感情が見えてしまう……ような気がする。
「目も、髪も、手足も…とても………いえ、何でもありません。」
「ひえっ」
今なんて?なんて問える筈なく。私は黙って二人の動向を見守る。
この隙に個性で倒せよ、と思うだろうが、大変申し訳ないことに変化は時間がかかる。
この前の事件でノータイムをやった事にプラスでオールマイトのパンチも影響し、で体の節々が激痛を訴え、肌がめちゃくちゃ敏感になって布が擦れるだけで痛かった。
ただただ激痛。その名残で今は無茶出来ない。
故に今成ったら一瞬で変身が解けて無様に男達の眼前で平伏すこととなる。
「…おい、黒霧。」
「すみません死柄木弔。少し興奮しすぎてしまいまして。」
「ふん、まぁいいや。」
黒い霧が人一人分程の大きさになる。
その中に片足を突っ込んだ死柄木は私を振り向き手を振った。
「
「失礼致します。」
ついに全身を霧に埋めた死柄木の姿と、黒霧の姿は消え、路地裏に相応しい静寂が舞い戻る。
いつの間にか忘れていた心臓が忙しなく動きを再開し、背中と脇には冷や汗が滴る。
奴らの目的は、恐らく怖がる私を見て愉悦に浸ることだろう。個性が目的ならばすぐ様連れされば良いものを、逃げたことも相成りああいう楽しむ方向にシフトしたのだろう。
「……よくあること、よくあることだ。」
警察に言うと後々面倒だ。
……むかし、そっち側との繋がりを疑われた事もある。
その時は…………………思い出したら悲しくなってきた。
あと下手に警察に相談してコイツらに知られたら…今度こそ死ぬ。殺される。
私はフラフラと路地裏から出ていくと、真っ先に家へと帰った。
会を重ねればヤンデレ感は増すので……許して…
オリ主のコスチュームどうしよう
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