Spring Rain -Return- 作:月夜るな
仕事等、リアルの都合で遅れました。申し訳ないです。
今回のお話は春雨と白露のお話です。若干のシリアスあり(?)
司令官の部屋を後にし、次は姉さんたちを探そうと廊下を歩く。それとは別に、司令官は後で私のことをこの鎮守府に居る憲兵さん含む全員に紹介するとか言ってた。
・・・決まったら教えてくれるそうで。所謂あれだ、歓迎会? っていうもの。そう言えばここの艦娘たちには見ただけで話したりとかはしてなかったな。
ただ、春雨の記憶としては普通に話しているものもあるから新しく増えた艦娘以外であれば、通用すると思う。
「あ! 春雨、気がついたんだね!」
そんなことを考えながら歩いていれば聞き覚えのある声。振り向けばそこにはボブヘアーでカチューシャを付けている少女・・・白露姉さんがこっちを見ていた。
「お陰様で。白露姉さんが司令官に伝えてくれたんですよね? ありがとうございます。あと心配かけてごめんなさい」
素直に私は白露姉さんにお礼と謝罪をする。
そもそも、だ。白露姉さんたちは一度、私を失った瞬間を、その目で間近で見ている。そんな姉さんたちに更に心配かけてしまって本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
「ううん! 春雨が無事で良かった! 燃料切れだったんだって?」
「司令官からはそう言われましたね・・・」
「本当に、心配したんだから。・・・
最後の方に小声で何か言っていたみたいだけど、流石に聞き取れなかった。でも、心配してくれていた、というその事実がどうしようもなく嬉しい。・・・申し訳ない気持ちもいっぱいになるが。
「ごめんなさい。でもこの通り、大丈夫です!」
両手を上げて元気です、というようなアピールをしてみる。少し曇りのかかっていた白露姉さんの表情もこころなしか、明るくなったように見えた。
「良かった。・・・春雨はどこに行こうとしてたの? まだ病み上がりなのに無理しちゃだめだよ?」
「あ、いえ。明石さんが私の艤装を見ているって司令官から聞いたので見に行こうと思いまして」
「あーなるほど。・・・それならあたしも一緒に行っていい?」
素直に話せば、白露姉さんから予想外の答えをもらう。単に艤装を確認しに行くだけなのだが・・・特に断る理由もないのでいいかな。それに、また倒れたらあれだし・・・。
「えっと大丈夫ですけど、単に艤装を取りに行くだけですよ?」
「知ってるよ! ・・・それに、少しでも長く一緒に居たいから」
「え? 最後なんて?」
「あ、ううん! 何でも無いよ! さ、行こ行こ! あたしがいちばーん!」
・・・私の艤装だけでそこまでテンション上がるものなのだろうか。でも、白露姉さんも元気で良かった。何処と無く本当の春雨も安心していような・・・そんな気がした。
「あ、そう言えば白露姉さん」
「どうしたの?」
一緒に廊下を歩いて工廠へ向かう途中、まだ言ってないということに気がついて白露姉さんにそれを伝える。何をかと言えば、勿論、ここに所属するということだ。
「今日からここにお世話になります。よろしくおねがいしますね」
「え? それってここに所属するってこと?」
「はい」
そうニッコリを笑って見せれば白露姉さんは驚いた顔で少し固まっていた。
※ ※ ※
(そっか・・・また、春雨と一緒に居れるんだね)
白露型駆逐艦1番艦の艦娘である白露は、さっき妹・・・春雨から聞いた言葉に心から喜んでいた。
白露は正直なところ春雨は無所属のままで、このまま去るのではないかと思っていた。ついこの間出会った漂流艦である艦娘。そして別であるとしても彼女は確かな妹である春雨。
3年前に失ってしまった妹。
白露は春雨と出会った時は心底驚いていた。それだけではなく、何の偶然かその出会った場所はこの鎮守府が昔あった場所・・・3年前にあった島付近。
運命の悪戯。
そう思うのも無理ないだろう。当然、その春雨は白露たちのことは覚えておらず、やはり別の個体なんだな、と寂しさで溢れてしまった。
轟沈した艦娘は戻らない。
これは艦娘全てに言えることだ。一度失ったその個体は二度と復活はせず、記憶も引き継がない。そういう運命だからだ。
同じ艦娘が生まれるのは普通であるが、同じでも個体としてみれば別だ。その証拠に、性格が全く違う時もある。勿論、ほぼ一緒なときもあるがあくまで別の存在であり、一切の記憶を持たない。
それは白露自身も良く知っていることであり、確定されたもの。目の前の春雨はあくまで別だと言う事実だけが残る。
(それでも・・・今度は守りたい。お姉ちゃんとして)
白露の知る春雨は3年前に目の前で白露たちを庇って大ダメージを受け、そのまま沈んでしまった。
『好きで庇ったことですから・・・姉さんたちが無事で良かった』
それがその時に春雨が白露たちに言った言葉だった。
『村雨姉さんも・・・今度は先に、行きますね』
これを最後に、目の前で春雨は轟沈した。その時のその言葉、それだけでもう手遅れであるというのはもう白露も時雨も村雨も夕立も分かっていた。
当然、白露は沈んでいく春雨の体を懸命に引っ張って持ち上げいた・・・だが、それでも沈むのは全然止まらなかった。
所属初期からずっと一緒だった妹の一人がここで居なくなったのだ。
深海棲艦の攻撃はそれでも止まず、このままでは白露たちも沈む可能性もあった。ここで沈んでしまえば、春雨が4人を庇ったその行為が無駄になってしまうと、そう思った4人は春雨を掴んでいた手を離した。
・・・その時の春雨の表情は忘れられなかった。勿論、完全に意識をなくしていたが、表情が笑っていたのである。
「・・・」
その後は分かる通り、白露たちは無事に逃げられ別の艦隊と合流、襲ってきた深海棲艦の艦隊は壊滅。春雨という1人の犠牲を出してあの事件は終息した。
本来ならもっと、それこそ白露自身が沈んでいた可能性もあった。それは、時雨や村雨、夕立たちにも言えることだ。もしかしたら5人揃って轟沈する可能性もあっただろう。
「・・・どうかしました? 私の顔になにかついてます?」
「あ、ごめん、ちょっと考え事してた」
今、白露の前の前にはその春雨が居る。所属もするということで嬉しかったのは事実だが、それでも記憶はないのだろうと少しがっかりしてしまう。仕方がない、そういう運命なのだから、と白露は思う。
・・・諦めていた。
だがしかし、次の春雨の言葉に白露は更に驚くことになる。
「そう言えば、6年前に私と白露姉さんで一騎打ちの演習しましたよね」
「え?」
「あの時は私も所属したてで、全然戦えなかったけど、白露姉さんは色々と教えてくれましたよね。ふふ、その後は時雨姉さんや村雨姉さん、夕立姉さんも加わって、わいわいしてましたね」
「な・・・なんでそのことを?」
そう、目の前の春雨が知らないはずの、遠い昔の思い出のこと。それを懐かしそうに語る、そのことに白露は驚いたのだ。おそらく、今日一日で一番の衝撃であっただろう。
「さて、どうしてでしょう?」
悪戯っぽい笑みを見せる春雨に白露は困惑する。
(なんで、そのことを知ってるの? ・・・あの春雨なの?)
「演習もそうでしたけど、実戦の時も助けてもらってました。懐かしいです」
「・・・春雨、なの?」
「私は白露型駆逐艦5番艦の春雨ですよ、はい」
「ど、どうして6年前のことを?」
「・・・何から話しましょうか」
春雨は一度黙り込み、頭に手を当てて考えた後、白露を見て再び笑う。
「司令官にも言ってるので白露姉さんたちにも言わないと、ですね」
そして春雨は白露に向き直り、語りだす。表情も真面目なものになり白露もそれを真面目に聞くように向き合った。
白露編()です。
と言ってもあと1話か2話で終わりますが←
え? 他の姉たちとの話はないのかって? ・・・いえ、正直似たような内容になる可能性があってちょっと考え中です。
不定期で申し訳ないですが、生暖かい目で見てやってくれると幸いです。
春雨(主人公)とのエピソードが欲しい姉妹艦は?
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