そんな事で今回は番外編として、杉山慎一の過去の話を書いてみました。
1人の少年が母親と思しき女性に叩かれていた。少年は泣いているが女性は叩くのをやめない。周りには誰もいない。この光景を俺は体験した。この少年は幼い頃の──
俺だ。
急に目が覚め、少し息が荒く、鼓動が早いのに気づいた。時計はちょうど深夜2時半頃をを指した時だった。目が覚めたし、今寝るとまた悪夢を見てしまいそうなで緑茶を淹れ、少しずつ飲んで気を落ち着かせる。そして洗面所に行って顔に冷水を2、3度打ち付けるようにかける。目の前の鏡には見慣れた男がいる。自分のことを最もわかってくれて、いつでも会える、1番最初の友達がいる。
「あの時……俺は門限の7時を守らなくて叱られたんだ。門限を守らなかった俺が悪かったんだけど、母親には腕が腫れるまで叩かれたっだっけ」
洗面器に寄っ掛かりながら鏡の向こうの自分に語りかける。友達がいなかった小学生時代からやっていることだ。嫌なことや母親のことを鏡の向こうの自分に話すことで少し気が楽になる。自分でもおかしいとは思ってるが。
「父さんは単身赴任で滅多に帰ってこないし、お正月やお盆の時も帰ってこないことがあったっけな。そうそう、先生は俺が虐待を受けているの知っているけど何もやってくれなかったんだぜ」
思わず鼻で笑う。誰も助けてくれなかったんだっけな、あの時。何度も死のうかと思ったけど、それでも今こうしていられるのはきっと生きたかったからなのかもしれない。
「結局母親に捨てられたんだっけ。小六の時。行くあてもなくただ歩いていたんだっけ、あの夜、あの田んぼの中のあぜ道を」
無理やり家から放り出され、ドアには鍵をかけられ、どうしようもないから歩き出したんだ……あてもないのに。
「そして気づいたらあの家に居たんだったな。確か倒れていたところを拾われたんだ」
それまではまともなご飯ももらえなかった──朝食が水だけの時や夕食がない事もざらにあった──だからあの時食べたご飯の感動は今でも覚えてる。
「みほやまほちゃんと出会って初めて女子で本当の友達が出来たんだ。そして優しい母さんもいた」
その時に気づいたけどみほやまほちゃんと同じ小学校だったらしく、別のクラスのまほちゃん、一個下の学年のみほは俺を知っていた、いつもいじめられている人だって。
「事情を知った母さんはうちに来て母親と1時間以上話し合った。そして母親は逮捕されて、俺は母さんの養子として引き取られた。父さんは事情を知っていたが日本にいなかったんだ」
「小学校の方に母さんは俺が西住家の養子になったこと、それにいじめのことを伝えてくれて結局いじめていた奴らは転校したんだったな。」
急に俺の名字が"西住"になってクラスの人たちはみんな驚いてたっけ。
「結局あの家族には3年半くらいお世話になったな。東京の高校への入学が決定して引っ越しの準備していたらみほたちがプレゼントくれたんだ。人からもらったものって捨てられないよな」
みほはボコっていうぬいぐるみ、まほちゃんは森鴎外の高瀬舟をくれた。まるで他人と喋ってるように独り言を話す自分が馬鹿みたいだ。
「高校からは1人暮らしをしていたけど、母さんが仕送りしてくれて、アルバイトをしてたけどそれのおかげで生活してた部分が大きかったし、本当に感謝だよな……」
でも秋くらいに父さんが帰ってきてそれからは2人暮らししていたから仕送りも止めてもらったんだな。竹賀谷 健斗と出会えたのは良かったけどやっぱりあの時の3人で遊んでいた時が1番楽しかった時期だと今でも思う。
今みほは何をしているんだろう?
そんな事を考えながら洗面所の鏡をまた覗くと相変わらず俺の顔が映っている。洗面所から離れベットに腰をかけるとだんだんと眠くなってきた。もう寝ようと思い目を瞑る。
次の日、まほちゃんの電話で起こされた……
いかがだったでしょうか?本編で書ききれないものは番外編として書いていきたいと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。