バンドリ世界に転生したからオリジナルバンド組もうぜ!   作:霜降りまいたけ

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Afterglowとは別の夕焼け

マイクに歌声がしっかり乗っている。

ギター・ベースの2人ともアイコンタクトを交わす。最初に仲間になってくれた友人たち。悩んだ時も楽しい時も、必ず一緒にいてくれた相棒たちだ。

ドラムも普段は走りがちなリズムを、今日はバッチリのタイミングでリズミカルに叩いている。華奢な身体に似合わず力強く、メロディの屋台骨を担ってくれている。

キーボードはいつも通りの曖昧な笑みでいつも通りの演奏だ。こいつは良くわからん。

 

そうこうしている内に最後の曲。全力を出してるからか喉はカラカラ、汗でびっしょり、肩で息をしている。

会場は盛り上がってる。熱気十分。東京の片隅にあるライブハウスには、これ以上入らないくらいパンパンにロックファンたちが集まっている。

ラスサビの半音上がる部分で興奮はピークに差し掛かり、そして……。

 

 

「■■■■でした!ありがとう!!お前らこの後も盛り上がって行けよ!」

 

 

ワッ、と湧き上がる歓声を背に、仲間たちとハイタッチ。今日も最高のライブだった。

俺がバンドを始めたきっかけ。それは3年前まで遡る。

 

 

 

 

 

--------------

 

 

 

 

 

突然だが俺は転生者である。

とは言っても、別に異世界に転生したとか、不思議な力があるとか、そんなことは一切ない。前世も今世もあらゆる意味で一般人。何かスポーツで賞を取ったりだとか、前世の知識を活かしたチート知識で一儲けとか、そんなこともなく2度目の中学校生活をしている身だ。

 

俺も最初は株やら勉強やらスポーツやらで良い人生にしようと目論んだものの、前世はFラン大出の無趣味底辺営業マンだったわけで……結局すべてそこそこで終わってしまい、生前の焼き直しをしているかのようだ。

 

ってかマジで前世の知識とかろくに役立たないからね!?

社会人になって2年もすれば学校の勉強とか忘れるし、そもそも前世はあったガ●ホーとかナム●とかの有名企業が無いし、漫画やアニメ・ゲームも見たことないのばっかり!

事前知識がないからせっかく現代東京に転生したのに普通に「ニューゲーム」状態だよ!

 

だから普通の、ちょっと違った現代世界に転生したんだなと思ってたわけ。

そんなとき、友達たちとボーッと見ていた文化祭のバンド演奏で見た名前には、まさに目ん玉飛び出るほど驚いた。

 

 

『あー、あたし達”Afterglow”……今日は盛り上がって行くよ!』

 

 

そんな拙いMCもそこそこに、ノリの良い音楽とパワフルな歌声が鼓膜を震わせた。先ほどまで気怠そうにくっちゃべってた友人AとBも、無言でステージに目をやり、終盤には周りとともに盛り上がっていた。

アンコール!と叫ぶ友人たちをしり目に、俺は思わず口を突いて出る言葉を、飲み込むことができなかった。

 

 

「この世界、バンドリの世界かよ……」

 

 

アプリやってましたとも。アニメも見ましたとも!でも普通の日本だと勘違いしていたよ!

まさか創作物の世界だとは今更思っていなかったから驚きだ。現在は別にガールズバンド一色って感じでもなかったから、完全に思い当たらなかった。

 

 

「そういや音楽は今までやって来なかったな……」

 

 

前世で好きだったバンドやアイドルはこの世界に存在しておらず、あの名曲たちを聴くことができないと嘆いたのはもうだいぶ昔のこと。立身出世も今の今まで諦めていたが、バンドリ世界に来たからには音楽やるしかないんじゃないかな!

 

まずは自分の楽器からだ。そして仲間を募り、前世の好きだった曲をこの世界に蘇らせる!

年甲斐もなくワクワクしてきたが、第一目標は自分の好きな曲をいつでも聞けるようになること。

よっしゃ、さっそく練習始めるぞ!

 

 

 

その後、お袋にものすごく呆れられながらお年玉貯金の引き出しと、ついてきた友人AとBと共に楽器店へ。

奴らもAfterglowの曲に当てられたようで、目をキラキラさせながらギターやベースを眺めている。お前ら金あるのかよ。

今まで特に楽器に触れて来なかった俺は、何を練習するべきか迷う迷う。そんな時目についたのが、渋い木目調のどっしりとしたギター。派手な色のものよりも、落ち着いた色合いが渋カッコいい……。

 

 

「あ、EpiphoneのSGですね!初心者にも悪くない、使いやすい型ですよ!良かったら試しに弾いてみますか?」

「じゃあ、ちょっとだけ……」

 

 

若い眼鏡の店員さんがスッと近づいてきて、簡単に説明してくれたので、思い切って試してみることに。もちろん知識もないのでジャラーンと音を鳴らしてみるだけだが、アンプから流れてくる音圧に、身体の芯からゾワゾワしたものが上がってきた。

思えば一目ぼれだったんだろう。帰り道、なぜか手にギターとベースを持つ友人たちと共に、俺は木目調のギターを持って歩いていた。

 

 

「最初はコピーバンドみたいな感じかな~」

「そうだな、そうそう作詞作曲なんて出来るもんじゃないし」

「あー、早く練習してぇ!」

 

 

空を見上げれば綺麗な茜空。そういえばAfterglowも夕焼けって意味じゃなかったっけ。文化祭後にググった覚えがある。

音楽を始めるきっかけになった夕焼けか。ちょっと感傷的で良い雰囲気だ。

楽器初心者3人並んで見上げる夕焼け。ふと、前世で好きだった歌のフレーズが頭に浮かんできた。

 

 

「溜め息の訳を聞いてみても 自分のじゃないから解らない」

 

 

”真っ赤な空を見ただろうか”

有名バンドの夕焼けをモチーフにした曲。まだメロディを乗せられてはいないが、練習して必ずこの曲を……いや、色々な曲をこの世界に蘇らせよう。

最後のフレーズまで歌い終わると、友人AとBの2人が飛び掛かって肩を組んできた。動物園の猿かというくらいに、大興奮して口々に何事か言ってくる。

 

 

「おいリュウ!お前めちゃくちゃ歌上手いじゃん!」

「感動した!なんて人の曲だよ?」

「あ、いや……昔聞いたような聞いてないような曲を思い出して」

 

 

俺が作ったと言おうものなら、この猿どもは作曲しろしろ煩くなるだろう。もちろん事実として俺が作ったわけではないので、空想の足長作曲おじさんに作ってもらったことにする。

あ、ついに呼ばれた今世の俺の名前はリュウで通っています。以後よろしく。

 

 

「お前もうボーカルした方が良いだろ!」

「いや、そこまででは無いだろ」

「俺も普通に聞いてて上手いと思ったぞ!」

 

 

褒められ慣れていないからか、嬉しくはあるが素直に認められない。

しかし、この時の俺には着実と、”ギターボーカル”という選択肢が頭に根付いていった。

卒業までの残り半年、俺はその間友人たちと集まったり、自宅に引きこもったりして、ギターと歌の練習をして過ごしていった。

時は、高校入学に進む。




ネタバレ:友人AとBは3年後のバンドメンバーではありません。

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