バイオハザード:パーパルディア皇国終焉の日   作:のり弁当(税込300円)

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24.裏幕(1)

「それにしても課長、例の計画、発動した後にあの事実が発覚したのには肝が冷えましたね…」

「いやあ、本当になあ…」

 

資料を見ながら話すのは、日本国外務省フィルアデス第一課長の星野と、第二係長…つまりはアルタラス王国担当係長だ…の岩崎だった。

 

「ただまあ、こうなってみるといっそ発動後で良かったかもだなあ」

「そうですね、誰が考えたのかまでは知りませんが、これを奇貨として、封鎖までしてしまおうとは」

 


 

まだパーパルディア皇国でのアウトブレイクがそれと知られず、単なる大規模暴動と見られていた時、外務省はある計画を発動したのだ。

それはパーパルディア皇国属領への扇動だった。

 

具体的にはアルタラス王国のルミエス女王を通じ、日本・アルタラスの勝利、パーパルディアの壊滅的な敗北、そして大規模な暴動やらといった、パーパルディア皇国にとって誠に都合の悪い情報を大々的に流し、かつ属領の住人たちの叛意を焚きつけるというものだ。

 

パーパルディア皇国対策特務室からの提案を可とした外務省は、さっそく実行。

かくしてクーズ、マルタ、アルークでの武装蜂起を皮切りに、続々と属領内での革命が勃発。

 

暴動対策として属領統治軍の大部分を本国へと戻してしまっていたのが災いし、属領に圧政を敷いていた統治機構はろくな抵抗もできないまま制圧され、そしてその構成員の大部分…人間的にまともであり、属領の人々からも嫌われていなかったごく一部の構成員を除き…は、無惨だが自業自得としか言えない末路を辿ったのだった。

パーパルディア皇国の勢力を叩き出す、というよりも殲滅した旧属領73は、再独立を宣言。かくしてフィルアデス大陸には再び73カ国が加わる事になった。

 

さらには返す刀で73カ国は軍事同盟を締結。火事場泥棒に乗り出したリーム王国共々、パーパルディア皇国に侵攻するというウルトラCをやってのける。

結果、パーパルディア皇国最北端の都市アルーニは陥落、73カ国同盟とリーム王国の占領下に落ちた。

 

…この辺で、真相が判明したのである。

つまり、ロデリック・キャンベルタウンの船と死体が発見され、あの犯行声明がBSAAにより確認されたのである。

 


 

「…あのときは、本当に肝が冷えたな」

「ええ、まさかT-ウイルスなんてモノが、しかもアウトブレイクだなんて。まさかこの世界で起きるだなんて」

 

正史では、パーパルディア皇国の主要都市であるパールネウスへ向け進軍し、その途中で入った日本からの撤退要請に従い撤退するのだが、この世界では少々異なった。

 

この世界においては日本国外務省とBSAAが介入し、アルーニに73カ国同盟(+リーム王国)を留めたのである。

もちろん理由はある。日本とBSAAとしては、73カ国同盟(+リーム王国)の人間に感染者を出し、結果感染拡大という事態はなんとしても阻止しなくてはならないのだ。

さしあたり73カ国同盟(+リーム王国)からの連絡により、アルーニはまだT-ウイルス禍には巻き込まれておらず、その意味では無事だった事が確認された。

だが、この先、つまりパールネウスやその周辺、さらにその先はどうなっているかわからない。そのためとりあえず安全なアルーニに留めておいたのであった。

 

さて、日本及びBSAAの方針はもちろんT-ウイルスの拡大阻止である。

先日の説明会により他国にT-ウイルスの脅威は伝わったようで、ほぼすべての国が入港拒否に同意してくれた。

というわけで、さしあたりパーパルディア皇国と海を隔てた国への船舶経由のT-ウイルスの伝播の可能性は潰す事ができた。

 

では次はどうするか。

日本とBSAAの方針は変わっていない。であれば、今度の目標はフィルアデス大陸北部の安全確保である。

ちなみに南部、少なくとも南端部についてはすでに放棄が決定している。何しろ、バイオテロの標的となった皇都エストシラントと工業都市デュロはいずれもフィルアデス大陸南端部の都市なのだ。

であれば、もはやT-ウイルスの惨禍に遭っているのは間違いない。

 

最終段階、もしくはその前段階において、日本とBSAAはフィルアデス大陸南部を封鎖し、とりあえずT-ウイルスを閉じ込める事にしていた。

だが、だからといって無事な部分を無駄に放棄するつもりはない。

できる限り…もちろん安全を確保できる限りであるが…封鎖する地域は少なくしたいところであった。

なにしろ、できる限り難民の発生は押さえたいし、なにより封鎖地域が小さければ小さいほど、封鎖の手間も封鎖後の監視やら何やらの手間も減らせるのだ。

 

もはやアメリカ軍などの旧世界の同盟国軍の助力など宛にできない日本と、そして今や極東支部、しかもそのうち日本に駐留していた戦力だけになってしまったBSAAにとっては死活問題であった。

 

ではどうするか?

ここに、日本国外務省が持つパイプが意味を持つようになる。

 

つまり、第3外務局長カイオスとの秘密のつながりである。

 

カイオスは失脚したとはいえ、他国で言えば大臣や閣僚級の大物だった。

さらに彼には個人的に商人たちとの繋がりも深い。

 

要するに、カイオスは皇国政府有数の事情通でもあるのだ。

 

というわけで、カイオスを通じ73カ国同盟の次の進軍先となるであろうパールネウスの状況を確認したのである。

結果はシロ。ネズミも見られず、暴動も起きておらず、妙な事件も起きていなかった。すなわち、パールネウスの無事も確認された。

 

ここで日本とBSAAはある事を思いつく。それはパールネウスをパーパルディア皇国南部の封鎖の拠点とする、という構想であった。

かつてのパールネウス共和国の首都であり、エストシラントには及ばないとはいえ今でもなお多大な人口や産業を有する大都市である。

これが無傷であるなら、利用しない手はなかった。

 

とはいえ、パールネウスはあくまでもパーパルディア皇国の都市である。つまり、現時点では日本とは敵対関係にある。

ではどうするか?

確かに73カ国同盟と共に攻め落とす、という方法はないでもないが、犠牲やかかる手間などを考えると下策中の下策と言わざるを得ない。

 

そしてここでカイオスが再登場する。

カイオスの現在の状況は、エストシラントはずれにある私邸に使用人や親戚らと共に籠城しているという状況である。

現時点では感染者は出ておらず、食糧も一応余裕はあるものの、それでも時間の問題である。

というわけでカイオスはパーパルディア皇国、少なくともエストシラントからの脱出を望んでいた。

 

そこに日本とBSAAは目をつけたのである。つまり。

 

・パールネウスを日本及び73カ国同盟に降伏させる

・BSAA等が上陸作戦を行う場合にはカイオス邸を前線基地として利用する許可を出す

 

これらの要求を飲めば、

 

・パールネウス及びまだT-ウイルス禍に巻き込まれていない周辺集落の市民の生命と安全を可能な限り保障する

・現在カイオス邸に籠城している全員を救助した上で安全な場所へ移送する

 

以上2つを提供するという提案を出したのである。

協議の結果、交渉は成立。かくして、カイオスはパールネウスを降伏させる工作を行うことになり、日本及びBSAAはカイオスらの脱出支援をすることになったのである。


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