俺の応援はアイドルに届かない。最後に一度だけでいい、応援を届けたい。じゃないと死んでも死に切れない。

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白坂小梅ちゃんが見つけてくれた件について

 ステージの上でアイドルのまぶしい太ももが見え隠れする。最前列で見るその光景は超絶景で、昔の俺がいくら頑張っても拝むことができなかったものだ。

 なのに、どうしてだろう。こんなにもむなしい。

 歌に合わせてコールをしたり、MC中にはアイドルを励ます声かけをする。ファンの声はアイドルへ届き、それは声援となる。

 俺の声は、ひとかけらもアイドルに届かなかった。声援じゃなくて、ただの声だ。いや、音にすらなれていない。いわゆる残留思念というものかもしれなかった。

 

 アイドルのライブへ行く毎日は、夢にまで見た極楽生活だった。全推しDD、つまりD(誰でも)D(大好き)な俺にとって、どんなアイドルの応援にだって駆けつけた。

 アイドルの応援をすることが俺の生きがいだった。だから最後に一度だけ、アイドルに本気で応援を届けたかった。

 でないと死んでも死に切れない。

「なあ、今日は白坂小梅ちゃんのソロライブだって」

「幽霊と会話できる子だろ。きっと独特のステージだぜ」

「かっこいい曲が多いけれど、可愛い曲もよく似合っているんだ。歌声で脳がトロけるし、頬染めた表情にはムラムラする。幸子風に言うと、世界一カワイイ」

 通行人が何やら話している。白坂小梅、聞いたことがある。シンデレラガールズの事務所に所属している、マニアックな人気を誇る美少女アイドル。オカルトチックな言動でファンを魅了しやまないとか。

 もしかしたら、その子なら俺のことを見つけてくれるのだろうか。

 

「今日、ライブへ来てくれて、ありがとう……」

 金髪ショートカット右目目隠れの美少女がそこにいた。13歳という、少女と女性の間を揺れる肉体は不思議な色気をはらんでいる。白すぎる肌が、ライトの熱でほんのり赤く上気していた。

「色んな人が来てくれて、本当、嬉しい……。銃で撃たれたゾンビみたいに、倒れちゃわないよう、頑張るから……。みんなでドキドキ、しよう……?」

 観客がおたけびを上げて、白坂小梅の声に応える。俺も精一杯の声を上げる。

 きっと白坂小梅は「オカルトホラーなキャラ作りで成功したアイドル」であって、本物じゃない。けれどそんな嘘だって本気で楽しめばホンモノの夢になる。

 観客席が真っ赤なペンライトで血の海に染まる。赤い光を浴びて、白坂小梅は愛らしく歌い踊る。ときにゾンビのように、幽霊のように、天使のように。

 白坂小梅という少女は、奇跡のようなアイドルだった。

 だからだろうか。ライブに本気で熱中することができた。ペンライトを持てない指だけれど全力で手を振って、誰にも聞こえない声でも夢中でかけ声を行った。

 

 MCも面白い。たどたどしい白坂小梅が一生懸命話している。そんなところを、自然と応援したくなってしまう。声が届かなくて悔しいけれど、「頑張れ」と声を張り上げてしまう。

 そのたびに、白坂小梅が微笑んでいた、気がした。そんな馬鹿な。だってホラー要素はキャラ作りで演じてるだけだろう。嘘だって言ってくれ。期待してしまうから。

「ふふっ。ちゃあんと……聴こえてるよ。視えて、いるからね」

 白坂小梅と、目が合った。

 それとなしに周囲の観客から距離を開けられた気がする。え、そんな。俺の存在が認識されている?

「生きてる人も。……死んでる、人も。みんな一緒に、楽しもう」

 わあっと盛り上がる会場、耳をすませば俺以外にも異形な者の声が混じっている気がした。それも、たくさん。

 

 ライブは大盛り上がりで終わった。「やっぱライブにも幽霊っているのかなー」とか、「死んでもファンサしてもらえるだなんて、白坂小梅推しは最高に幸せだよな」という声が飛び交っていた。

 すごく、幸せなライブだった。俺の応援は無駄じゃなかったし、俺の最後の願いは叶えられたんだ。

 ふと気がつくと俺の体がどんどん消えていっていた。きっと、満足しきったのだろう。

 アンコールも終わってライブの魔法がゆるやかに薄れていくステージの袖に向かって、叫んだ。

「白坂小梅ちゃんっ。俺を、死んでいるのに見つけてくれてありがとうっ。これでやっと、成仏できる。ありがとうっ。これからもアイドル活動頑張ってっ」

 消える直前、白坂小梅ちゃんのあどけなくて蠱惑(こわく)的な笑い声が、耳元で聞こえた気がした。



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