生まれる世界を間違えた   作:桃屋

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和服好き(隙自語


十一話 からかい下手の楯無さん

 

 

 

 

 

 

 太陽の光が窓から部屋に差す。微かに聞こえる枝葉が擦れる音が心地よい。久方ぶりの布団の温もりを感じながら赤戸は目を開けた。

 

「あっ、起きた? わたしにします? わたしにします?それとも、わ・た・し?」

 

 裸にエプロンを着た楯無(バカ)がベッドの脇で体をくねくねさせながらそんなことを言っている姿が赤戸の目に飛び込んできた。未だ微睡みの中に浸っていて頭が働いていない彼でも目の前の少女にタチの悪い揶揄いをされていることが分かったし、同時にコレはその域を超えているとも感じた。間違っても男に対してするものじゃない。目の前のバカを少しばかり懲らしめてやろうと赤戸は楯無の予想を裏切る行為をする。

 

「では、遠慮なく」

「へ?」

 

 呆ける楯無の手を掴み、ベッドに投げ倒して組み伏せる赤戸。体術に長けている楯無にすら反撃を許さない一瞬の出来事に彼女は何が起こったのか分からず目を丸くして辺りを見渡し、状況を理解した途端にサァーと顔を青くした。

 

「据え膳食わねば恥とやら」

「ひゃっ!?ごめんなさいごめんなさいッ! 許して!お願い、もうしないから!や、ややや、やだっ!」

 

 マジな目になっている赤戸を見てやり過ぎたと後悔してももう遅い。涙目になって謝るが一向に力を抜いてはくれず、ビクともしない。そもそも相手はISを生身でぶった斬るような男だ。それを為し得ている筋肉が常人の域に留まっている訳がない。

 

 水色の髪がベッドにしな垂れる。瞳にはうっすらと涙が浮かんでいる。いつもは人を揶揄って反応を楽しんでいる少女が今だけは弱気な表情で此方を見つめている。人によっては煽情的に映るのだろう。

 

 こんな状況であるのに冷めた瞳で彼女を見つめる彼の手がゆっくりと楯無の顔に伸び、彼女は訪れるであろう悲劇に体を縮こませながらギュッと目を閉じる。

 

 そして…………

 

 

「ッ〜〜!?」

 

 

 

 パチンと軽快な音が部屋に木霊した。

 

 

 同時に額に衝撃が走ったかと思うと身体が軽くなっている事に気付いた楯無。恐る恐る目を開くと自分を押し倒した男は洗面台と向かって顔を洗っている最中だった。

 

 額がヒリヒリするのはデコピンされたからだろう。

 

 

「安心しろ、お前を襲う気は無い……怖がらせたか?」

「め、めちゃくちゃ怖かったわよっ!」

「でもお前が悪い」

「うっ、そ、それは……」

 

 

 楯無は言葉を詰まらせる。軽く揶揄うつもりがこんな事になるとは思っていなかった。そういう事に全く興味がなさそうな赤戸が相手だったので、自分が押し倒されるとはつゆとも思っていなかったのだ。

 

「これに懲りたらやめておけ。 一夏にもしない方が良い」

「…………」

「遅かったか」

 

 呆れた口調にならざるを得ない。一夏なら大事にはならないし、彼の場合逃げ出したかも知れない。誰だって目の前に痴女が現れたら怖くなるものだ。

 

「仮にも女子なら節度くらい持て」

「仮にもは余計よ!」

 

 やいやい言う楯無をジト目で見ながらそう言うと赤戸は歯を磨き始めた。久方ぶりのミントの香りが鼻腔を擽る。磨き終わると口の中を濯いで一息ついた後に側にいる楯無に話しかけた。

 

「それで何をしに来た?」

「貴方、ちゃんと話聞いてた?昨日服を持って行くって言ったでしょ?」

「ああ、そういえばそうだったな」

 

 服を持って来る前にお前がちゃんとした服を着ろと思ったが、言うだけ無駄だと思って彼女の持って来た服を見た。

 

「色々あるけど好きなのを選んでいいわ」

「明らかに女物があるが」

「……何のことかしらね」

 

 とぼけながら扇子で顔を隠した楯無。確信犯に違いない。

 

「お前が着ろ」

「へ?」

「その変な格好は目に毒だ、何でもいいからさっさと着替えろ……ほら」

 

 彼の怒気を感じ取ったのか先程のこともあって楯無は体を強張らせる。最近、茶化し過ぎた所為で赤戸がイラついているのかもしれない。

 

 そんな彼女の考えとは裏腹に赤戸本人は特に怒ってはいないし純粋に目に毒だと思ったので早く着替えて欲しいと思っているが、楯無は一度痛い目に遭わされたのもあって彼の語気が強いものに感じられた。赤戸に対して彼が例を見ない人間だからなのか楯無はポンコツ化しがちである。

 

「ま、待ってこんなの着れるわけ」

「ん」

 

 赤戸は女物の服を持つと楯無に押しつけるように渡した。有無を言わさない圧力に彼女もその場の空気に流されるかのように。

 

「の、覗かないでよ!」

 

 そう言って楯無は服を持って別室に行ってしまった。冷静沈着な彼女は何処へやら。どうにも一度押し倒された所為で未だに混乱しているようだ。攻めるのは好きだが攻められると滅法弱いタイプなのかも知れない。

 

 残った服の中から赤戸は適当に手に取ったものを着る事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 ◾︎

 

 一通り着付けが終わった赤戸は自分の姿を鏡で見た。肌に密着するタイプの黒いシャツと浅葱色を基調とした着流し。幼少期の服装とよく似ていたが違和感は無かった。古風な家系だったので家にある服の殆どは和服だった赤戸は久しぶりの着慣れた服に何処か懐かしさを覚えていると、ガチャリと扉を開ける音が鳴った。

 

「……ま、待たせたわね」

 

 心なしか声が震えている楯無だが、彼女の姿は今までのイメージと良い意味で懸け離れていた。所々に白いレースがあしらわれた黒を基調としたフリッフリッのゴシックロリータ、所謂ゴスロリに身を包んだ彼女は羞恥の為か顔を真っ赤にしてモジモジと落ち着かない様子だった。

 

「では行こうか」

「ちょっと感想くらい言いなさいよっ! これ着るのすっごく恥ずかしかったのよ!?」

 

 裸エプロンは恥ずかしくないのかと突っ込みたくなった赤戸。

 

「大体貴方も………」

 

 揺れる瞳でやっと赤戸を視界に入れた楯無だが、思わずそっぽを向いて震える声で“いいんじゃない?”とだけ言った。

 

 右側を着崩した着物から見える彼の右腕と胸筋と腹筋はピッチピチな黒いシャツの所為で強調されており、鍛え抜かれた筋肉と相まって非常に魅力的に映える。服を着た事により前と比べて変態度が上がっている気がするが、楯無は悔しい事にちょっとだけ良いと思ってしまった。

 

「良いだろう? まさか、和服を用意してくれるとは思っていなかった。 これが一番動きやすい」

「動きに拘るなら裸が一番良いんじゃない?」

「皮膚の上に一枚あれば肉を断たれるより先に行動が出来る。 だから服は必要だ」

 

 普通の人間には何を言っているのか理解出来ないがある程度彼と一緒に居た彼女には何となく何が言いたいのか分かってしまった。

 

「早速剣を振りたい。 案内してくれるか?」

「……ホントに頭の中はそればかりね。 分かったわ、付いて来て」

 

 相変わらずの赤戸に溜息を吐きつつも前を歩いて案内する楯無。ゴスロリの所為で少し歩きにくそうだった。

 

「そうだ、言い忘れていた」

「何よ?」

 

 そんな彼女の姿を見て思い出したかのように赤戸は言い放つ。

 

「似合っている。 私は嫌いではない」

「ッ〜〜〜!? な、ななな何よ今更っ!!……(調子狂うわね)

 

 

 急に言われた言葉に反応して楯無は顔に熱がこみ上げるのを自覚した。彼は純粋に本心からそう言っているのが分かるので、それが何だかむず痒い。朝の一件もあってか今日は調子が狂う。思い通りの自分を演じられない自分がいる。

 

 ただ彼の邪気のない褒め言葉が純粋に嬉しかった彼女は袖で顔を隠ししどろもどろになりながらも短く返事を返した。

 

「でも、まあ……その……あ、ありがとう」

 

 

 目的地に着くまで楯無の顔から熱は消えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◾︎

 

 

「……ふふ」

 

 この世界の何処か、それは遠くか近くかも分からない。誰も知らない場所で純然たる悪意は密かに渦巻いていた。

 

「愛しいなぁ……どうやって手に入れようかなぁ」

 

 モニターに映し出される栗毛の少年の映像を濁った瞳で見つめながら時々艶っぽい溜息を漏らす女。

 

「今は完全に嫌われているみたいだけど、いつかはデレてくれるよね……ねぇ? クーちゃんはどう思う?」

 

 女が尋ねたのは絹のように滑らかな銀髪を湛える少女だった。彼女は突然の質問に狼狽ながらも言葉を返す。

 

「赤戸様もいつか束様の元に来てくれると思います」

「だよね! あっくんってば最初会った時からずっとツンツンしてるからきっとデレたら凄いよね! 想像しただけで束さんお腹がきゅーってなっちゃったよ」

 

 クーちゃんと呼ばれた女の子の言葉に束は喜色を浮かべて賛同する。

 

「早く欲しいけど、あっくん強いから捕まえられないんだよね。 それにこの女の元で保護されているみたいだし……メンドくさいから潰しちゃおっかな?」

 

 狂気は膨れ上がり無邪気な悪意は迸る。薄ら寒い微笑を浮かべた女は頬杖をつきながら食い入るようにモニターを凝視している。

 

「……クーちゃん分かるかな? あっくんがやっていることって私並みに凄いことなんだよ?」

 

 モニターに映った赤戸を指差して束は言葉を続ける。

 

「15回、何の数字か分かる?」

「……すみません。 私にはさっぱり」

「コンマ一秒であっくんが斬った回数だよ。 スローモーションなら分かるでしょ?」

 

 そしてモニターとは別の画面で表示された映像は赤戸の斬り込みの一挙一動を全て映していた。だが、その速さが可笑しい。スローモーションであるにも関わらず目で追うのも厳しいくらいに速いのだ。

 

「私だけなんだよ……あっくんを理解してあげられるのは、あっくんに寄り添ってあげられるのは彼と同じバケモノの私だけ……はぁ、早く会いたいなぁ」

 

 愛おしそうに口を緩めてモニターの赤戸を見つめる束。側から見れば恋する乙女に他ならないが、彼女の本性を知っている者たちからすれば悍ましいほどの邪悪な笑みに見えて仕方ないだろう。

 

「束様は本当に赤戸様がお好きなのですね」

「あったりまえじゃん! 私の常識をぶっ壊してくれる男にどうしようもなく恋焦がれるのは自然の摂理だよっ、むしろ惚れない方が可笑しいと思うよっ、あぁ、早く触れたいなぁ、早く彼の温もりが欲しいなぁ、側にいて欲しいなぁ……苦しめるのは簡単だけど楽しませるのは難しいから束さんも早く花嫁修業をして立派な花嫁にならないとねっ!」

「流石です束様」

 

 暴走気味の束だが、彼のことを話している時の顔は間違いなく一人の男に恋い焦がれる乙女の顔だった。

 

「とりあえずこの映像は永久保存だね……って、ええっ!? 目が合ってる? もしかしなくても目が合ってる!?」

 

 束は驚いた。モニター越しにいる赤戸がなぜか此方を凝視しているのだ。あり得ない。学園中に設置したカメラは自立式小型カメラであり、それこそあると分かっていて注視しない限り絶対に発見されない場所に居るのだ。これに気付くということは路傍に転がっている石ころを一つ一つ注意深く見るのと同じくらいあり得ないことで、普通なら無意識の所為で見落とすはずなのに赤戸はしっかりと此方を見ていた。

 

 

「これはもう運命だよねっ、愛してるぜあっくん。挙式は君の好きなところで構わないよっ、君と私とクーちゃんで幸せな家庭を築こうぜ! もちろん箒ちゃんとちーちゃんといっくんはお隣さんでよろしく!」

 

 

 一人舞い上がって妄想を垂れ流す束だがとても幸せそうだ。当の本人に聞かれたら間違いなく拒絶されるが、彼女の頭の中では既に家族になっている。

 

 こうして赤戸の知らないところで話は進んでいくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「どうしたの?何かあるの?」

「……いや、何でもない。 早速続きをしよう」

 




【赤戸】やっと服着た。これで斬られる前に斬れる(謎
【楯無】ゴスロリ姿を不特定多数に見られた。死にたい。
【束】やったね!たb(ここから先は血が滲んで読めない)

楯無の裸エプロンシーンってとてもエッッッッッッですけど、思春期の男子からしたら堪ったもんじゃないですよね。一夏きゅんすごい。

楯無にゴスロリは似合う(確信)

赤戸がやっと服を着ました。長い道のりだった。

束の口調が難しい。早く主人公と会わせて超反応させたい(キチスマ

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