フランドール・スカーレットと名乗った少女に、ここに来た理由を聞かれた僕は、なんて答えていいのか分からなくて完全に固まってしまっていた。
どんな事を答えて欲しいのか分からないから一度心を読んで見たけど、なんでこの部屋にいるの? なんで? としか考えていなくて結局なんて答えれば良いのかは分からずじまいだ。少女の雰囲気からはやく答えないといけないという事は分かってるけど……本当にどうしようか。
……って、あれこの子の名字ってスカーレット? それに羽と気配的にこの子って吸血鬼だよね。昔会った同い年くらいの吸血鬼の名字もスカーレットだったし、一回妹がいるって話してたし、昨日あの子のバイオリン聞こえたしちょっと駄目元で名前出してみよう。
「僕は、クロエの知り合いで呼ばれたから来たんだけど、館の中で迷ちゃってね。それでクロエがいる場所を探している途中で変な魔法陣に触れたらここにきちゃってさ」
我ながら、なんて無茶な言い訳だろうとは思うけど……クロエの部分以外は嘘じゃないだよね。館にいる妖精の心を読みながら移動している最中、変な魔法陣を踏んでここに来ちゃったのは本当だし。
「……クロエ、お姉様の? あぁ、だから、お姉様は、準備してたんだ」
よかった。本当にクロエの妹だったらしくて、今の話を信じてくれたらしい。心を読んで見ても特に気にしている様子も無いし、今は乗り切れたみたい。
……あれ? いやちょっと待って。なんでクロエは僕がこの館にいること知ってるの? 準備って何の準備?
「……なら、うつろは、お客様なんだ。でも、今は、お姉様は、準備中で、籠もってるから、会えないよ」
本当に何の準備をしてるの? 嫌な予感というか、死の予感しか感じないんだけど。もしもクロエと戦ったら、多分僕死ぬよ? 彼女が持っている力って笑っちゃうほどに相性悪いし、何よりあれは心読めても意味ないし。
「……ねぇ、うつろ? お姉様の、知り合いって事は、強いんだよね? なら、あそぼうよ」
その瞬間、彼女の気配が変わって、さっきまで待機していたトランプの兵隊達が一斉に僕に向けて槍を向け、後ろにある巨大な本棚から様々な動物や不思議な生き物たちが現れた。フランドールは無邪気の子供のような顔を、戦闘欲がむき出しになったような物に変えて口が裂けるほどに笑い始めた。
……これ地雷踏んだじゃないかな僕、そういえばクロエも戦闘狂だったし、これって遺伝なんだ。
でも、何でだろうね? 彼女の顔は狂気に歪んでるのに、心は止めて欲しいって考えてるんだ。正直、僕は今のフランドールを放置して逃げる事が出来けど、助けられた音もあるし……何より、今の様子が昔のこいしに似てるんだよね。
同じ妹って事もあるし、今日はちょっと頑張ってみようなか……でも加減しないと危ないかも、斬首の記憶とかを使って下手にトラウマ作ったら後味悪いし。
「ねぇー、うつろ? いっぱい、いっぱいあそぼうヨ。はやく壊れちゃ、ワタシ嫌だよ?」
「遊ぶことは出来ないけど、止めるぐらいならしてあげるよ。でも頼むから怖がらないでね」
◇◇◇
「ねーねー霊夢、早く行こうよー」
「分かったわよこいし、はやくこの霧を出してる奴を倒しにいかないとね」
このこいしと言う少女は、異変を起こした奴の所に向かう道中で金髪の妖怪に襲われていた少女だ。妖怪らしいがかなり力が弱そうだったから助けたんだけど、それから懐かれてしまって離れないから、連れて行くことになってしまった。一応妖怪だし自営ぐらいは出来るはずだから、連れてっても問題ないかという判断でここまでつれてきたんだけど、大丈夫よね。
「あ、霊夢お姉ちゃん誰かいるよー」
「へーあんたよく見えるわね、さすが妖怪って事なのかしら」
そういいながら、こいしが見ている場所を見てみると、門の前に中華服を着たかなり強そうな妖怪を見つけることが出来た。どうしようかしらあれ、あいつ絶対接近戦得意よね、私体術系の修行はいつもサボっていたしああいう相手苦手なのよね。
こうなったら先手必勝しか無いわよね、こいしの言動的にまだ生まれたばかりの妖怪だと思うから、あまり酷い手は見せたくないけど、ここは先に遠くからぶっ放すしか無いわね……一応、こいしに確認取っておこうかしら。
「こいし、戦いの基本ってしってるかしら?」
「うーん、先制攻撃?」
「へー、よくわかってるじゃない。というわけで先手必勝【宝符・陰陽宝玉】」
私の放ったそれは真っ直ぐと門の方へと飛んでいき、敵に近づく度に速度が上がり大きくなっていく。中華服を着た妖怪が、陰陽宝玉の存在に気づく頃にはすでに目の前にあり回避や受け流しなどが出来ない大きさになっておき、ここまで聞こえるほどの断末魔を放った後門ごと遠くに吹っ飛んでいってしまった。
ちょっとやり過ぎちゃったかしら? 気絶させる程度でよかったのに、久しぶりに使ったから調整に失敗したわ。
「びくとりー! 凄いね霊夢お姉ちゃん、一発だよ!」
「そうね、あの妖怪は寝ちゃったみたいだし先を急ぎましょう」
そのまま、壊れた門の所に私は降りておき、これ修理にいくらぐらいかかるのかとどうでも良いことを考えながら紅い館に入っていった。
◇◇◇
「っ――――さすがにこれは、多すぎるぜ!」
繰り出される魔法の必死に避ける。パチュリーの放つ魔法は、もはや生きていると言っていいほど錯覚するほどの出来だ。例え躱したとしても、私に食らいつくまで追ってくるなんて、まるで蛇だ。
わたしはさっきから隙を見て、反撃しているがパチュリーの纏っている障壁が邪魔をして私の魔法が通ってくれない。
避け続けるわたしに腹が立ったのかパチュリーは、炎の魔法に変えて私の箒を習い始めた。それはただ箒を燃やすことだけに集中していて、速度が恐ろしく速く、私はその炎を避ける事が出来ずに、箒が燃やされてしまった。
「チャンスね、畳み掛けるわ【金符・シルバードラゴン】」
パチュリーが、別の魔導書を開いたかと思うと、その本が銀色の竜に変わり、箒を失った私に全てを焼き尽くすかのような銀の炎を吐いてきた。
「もう、あんまりストックが無いのに、使わせるんじゃないぜ!」
わたしは、忍者が使っていたという変わり身の術を再現できる魔法具を犠牲にしてなんとかこの攻撃を避けることが出来た。パチュリーが召喚した竜は、今の一撃を放っただけで消えてくれたが、あの魔導書がある限りまた使われると考えた方がいいな。
わたしは換えの箒を帽子から取り出して、体力を回復させる魔法薬の原液を口に含み、強制的に体力を回復させる。そのままわたしは後退するが、パチュリーの奴は展開する魔法陣の数をさらに増やしながらわたしを追い詰めてくる。
「そこに逃げるのを待っていたわ。【水&木符・ ウォーターエルフ】」
パチュリーの手から、半透明の妖精と木で出来た鏃のような物がわたしに迫り、妖精がわたしの動きを止め、その間に木の鏃にわたしは貫かれ……気がついたときには体が飛んでいた。
何メートル飛ばされたのか分からないが、わたしはどうやらか壁にぶつかったらしい。呼吸がうまく出来ず、意識が保てなくなり手足さえ動かすことができない。
あと数秒で治るだろうが、あの魔女はこの数秒を見逃すはずが無いだろう。
魔女は余裕に満ちた仕草で、虚空に文字を描き始めわたしに指を向けてくる。虚空に描かれた文字からは、この戦いを終わらせるという意思しか感じる事が出来ない。
「【火水木金土符 ・賢者の石】これで死になさい」
今まで何度も使われた五属性の魔法を全て発動され、それらがわたしを囲み命を奪うために殺到する。その瞬間わたしは、死を覚悟したが何故かわたしに魔法が届くことが無かった。
「ぐ――こんな時に貧血が。長引かせすぎたわ、でも次で決める」
彼女は再度、魔法を使おうと魔力を集めだした。だが、そこには先程までの異常とも言える魔法行使速度は無く、隙だらけだった。余程調子が悪いのか、いくつかの魔法陣は機能が停止していて、再び動き出す様子は無い。
「チャンスだぜ! 【魔砲・ファイナルスパーク】」
逃げ続けている間に溜め続けていた魔力を右手に持つミニ八卦路に全て流し、今出せる最高の火力を持って彼女へと魔砲を放った。
魔法の準備をしていた彼女は、これを防ぐことが出来ず、そのまま障壁を貫いて初めてわたしは彼女へと大きな一撃を入れることに成功した。
落ちていく彼女の姿を確認する前にわたしは、痛む体に無理矢理力を入れて切り札と言うべき魔法を使うことにした。
そのどんな魔法使いでも最初にならうような初歩的な身体強化。わたしは自分の体に謝りながら、全身へと強化を回し煙に包まれる彼女へと全力を込めて殴りかかった。
ゴンッ、そんな鈍い音が響きパチュリーが本棚の方に飛んでいく。そのままわたしは追撃を入れるために近づいて、少し焦げている彼女に何発か拳を叩き込み、最後に肘を叩き込んだ。これは、霊夢の意表を突くためだけに覚えた体術、あいつを倒すためだけに変なじいさんに覚えさせられた技はきっと彼女の意識を奪えるだろう。
「貴方……魔法使いって言うのは、嘘だったの? 魔法使いのくせに体術なんて――はん、そく」
「ふっ、わたしのモットーは、何が何でも勝つだぜ? このぐらいできないとな!」
それだけ、言って気絶するパチュリーを見守りながら、わたしはそう伝えた。彼女が倒れたせいか、空中にあった魔法陣は全て停止した。
「ふー、なんとか勝てたぜ。本当に危なかったな……もう魔力も残ってないし、これ異変を起こした奴に会えるのか? それまでわたし持つ気がしないぜ」
わたしは服に付いた埃などを払って立ち上がる。しばらく図書館を探索していると、扉の前に何者かの気配を感じたので、魔法を準備しながら、私はゆっくりと近づき始めた。
「おい、そこにいるのは分かってるぜ、早く出てきな」
◇◇◇
「マだまダ壊れないなんて、うつろは凄いネェ!」
フランドール……あぁもう長いから、フランでいいや。フランは僕の腕を引きちぎりながら心底楽しそうに笑っている。余りにも体を壊され続けたせいで、もうあまり痛みは感じないけど、直すのも大変だからはやく終わらせたいし。
でも、終わらせると言ってもどうすれば良いんだろうね? 僕が使える技って全て相手にトラウマを植え付けちゃうし、何よりそうすると今より狂う可能性があるから使えないし。
「きゅっとして」
あ、またあれがくる。
一度あれ受けた時は、本当に体が治らなかったから不死の恐怖で無理矢理治したけど、あれって使う度に発狂したくなるからあんまり使いたくないんだよね、一回使うだけで感覚が変になるし。
でもまぁあれをフランが使う直前、心の中で何処に使うかを考えるから割と簡単に対処できるから今のところなんとかなってるけど――――。
「ドカーン! ア、また避けたんだ本当に凄いねウツロォ」
「僕としてはもうそれ止めて欲しいんだけど、多分無理だよね」
「ダッテ、これがなきゃつまらないヨ?」
「遊ぶならこれで遊んでよ【遊戯・ひとりぼっちの鬼ごっこ】」
弾幕ごっこ用につくった最初のスペルカード。技としては自立するある二人の鬼の幻影を作り出す単純な物だけど、今の理性の失ったフランには丁度良いはず。フランの使える破壊の能力は対象を一つしか選択できないようだから、こうやって的を増やせば時間を稼げる筈だよね。
「ア、遊び相手がイッパイダァ!」
「あれ、これってもしかしなくても悪手?」
さっきよりも正気を失ったフランの心は、いまや狂気に染められて全く読めなくなってしまった。これ、どうやってあの力を避ければ良いかな?
でも、心の奥ではやっぱり泣いてる。自分を止めて欲しいって、心の底で願っている。
――こうなったら、あれだね。あんまり覚えてない、この妖怪生での両親に教えて貰った心に潜るやつやってみるしかないかも。あれって、狂った者には潜ってはいけないとか決まりがあったけど、僕には関係ないでしょ。
「さて、やることも決まったし。ちょっとやってみようかな。失敗したらごめんね」
「やるってナァニ、タノシイコト?」
「それはちょっと分からないかな?」
ということでサードアイ、ちょっと頑張ろうか。というかさっきから、やっと気づいたのか? みたいに僕睨むの止めてくれない? しょうがないじゃん、この技なんて使ったことないし、何より使う必要なかったし。
「ちょっと来てよ二人とも、少しの間フランの相手任せたよ」
近くに幻影を呼び戻し、そう語りかける。幻影達は、少し頷いてからすぐにフランの元まで接近して足止めしてくれてるようだ。フランは、完全に狂気に飲まれてしまったのか、今は目の前の鬼しか見えていないみたい。
さて準備を始めよう、初めてだから上手くいくのかわかんないけどあのあの二人を模した者に任せたんだ失敗は出来ない。
あれを使うには、サードアイのコードで僕の心とフランの心を無理矢理繋がないとわないといけない。親はコードを付けるだけでいいって言ってたけど、今のフランには繋がりそうにないから、サードアイを槍に変えて強制的に繋げるしかないな。
僕そう伝えると、サードアイは僕の思い浮かべた槍の形を完全に変わってくれた。この状態のサードアイに名前を付けるならなんだろうな? 【虚像・浸食の心槍】こんなのでいいかな?
僕が武器を作ると、フランは腕がなくなっている鬼の幻影達を破壊して、そのまま僕の方に急接近しながら蝙蝠の尻尾のような歪な杖を取り出した。
「玩具を出すんだウツロ。ならワタシもだすよぉ! 【禁忌・レーヴァテイン】」
その杖からは炎が飛び出して、身の丈以上の剣を作り出した。溢れる炎の熱は少し離れているこの場所に届くほど強く、周りの物を焼き尽くす勢いだ。
それを彼女は、力任せに薙ぎ払い僕の体を両断しようとしてくる。僕はそれを槍から伸びるコードで巻き取り防ぎ、そのまま彼女の心臓に狙いを付けて突いてみたけど、それは防がれてしまった。
「ねぇねぇウツロ! みてよワタシってこんなことが出来るんだよ!」
フランは、レーヴァテインと読んだ杖に手を這わせて自分の腕を傷つけた。そしてその行為によって出てきた血を自分の杖から出る炎にへと流しだす。炎はそれを燃料にしてか、一層強く燃えだして近くの物を焼き始めた。その炎に焼かれた物は、灰にすらならずに一瞬で破壊される。
これって、レーヴァテインにフランの力を纏わせたんだよね? うん触れたら絶対に駄目な奴じゃん。
「じゃあいくよ!」
そうフランが剣を僕に構えた瞬間、急にフランの姿がブレていっきに地面にへと墜ちていった。僕は何があったのかと、フランが元いた場所を見ると、そこには僕がさっき作った鬼の幻影の腕が片方ずつ飛んでいた。
どうやら、幻影達はフランに破壊される前にこんな仕掛けを残していてくれたようだ。
「ごめんね、フランちょっと痛いよ」
僕は、未だ地面に倒れたままのフランの心臓にへと槍を突き刺した。槍を刺した瞬間に僕の意識は遠のいて、心と体の境界が薄くなっていくような感覚を感じながら僕の視界は完全に消えて、気づけば僕は真っ赤な牢屋の中にいた。
あと、二話ぐらいで紅霧異変は終わりです。