4月の第一週土曜日。
ー頑張市営第一球場ー
ザワザワ…
男木「チッ、観戦だけとかマジだりぃな…」
蒔田「仕方がないよ。1年生はどちみち選ばれないしね…しかも僕達だけじゃ無いしね…」
観客席にて観客となる黒龍館大のベンチ外部員達。
だが、凄い観客数。
8大学の部員は勿論、一般客等を含めると一万人はいる。
蒔田「す、凄いお客さんだね…」
男木「そりゃあ、アタリめーだろ?なにせ、この第一球場の方に三強全部来たんだからよ」
試合は第一球場と第二球場の2場所で行われる。
マンボ鈴木「ねみぃ…てか、自分らの学校の試合だけじゃ駄目なのか?てか、藤山の野郎は?」
蒔田「あ、なんでも今から始まる大学に先輩が居たから挨拶しに行くって」
マンボ鈴木「カァ~、よくもまあ、そんなメンドクセー事出来んなオイ」
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ー通路ー
藤山「金剛先輩!お久しぶりです!!」
金剛「ん?お前は………あー!藤山!藤山かオイ!」
この方は金剛先輩!
俺の2つ上の先輩。
俺以上の力強い真っ直ぐと俺と違って変化球も投げれる憧れの先輩だ。
多分、高校時代誰よりも意気投合出来た唯一の方だが、残念ながら1年しか一緒に入れなかったのが悔やまれる。
金剛「まさかお前も進学とはな……しかもその格好…黒龍館大か?」
藤山「ッス!先輩は?」
金剛「ん?見りゃ分かるだろ?ほねおり工業だ」
“ほ”と掛かれた帽子に白と緑を主としたユニフォーム。
8大学中、理系の学校の一つで、その名の通り工業関係に力を入れている大学。
金剛「しかしお前が黒龍館大か~。こりゃまた、キッツイ所に入ったもんだな~」
藤山「そうッスか?1日練習は休みの日だけで、後は自由参加ッスよ?」
金剛「いや、練習量ならウチも負けてはいねーと思うが、お前のチームは只でさえ馬鹿みたくに打ちまくるくせに、今はあの鬼頭までいやがるからなぁ…」
藤山「鬼頭先輩って、そんな凄いんッスか?」
金剛「ああ、なにせ去年1年でベストナイン取りやがった化物の一人だからな」
藤山「一人…?」
一人という単語とあの金剛が化物と比喩する言葉を耳にし、目の色を変える藤山。
鬼頭は初見で自分の直球を捉えた一流バッター。
そして自分の尊敬する、あの金剛が化物と称する他の者にも興味が湧く。
金剛「そうだ。お前の所に居る鬼頭を含めて四人、1年のくせに受賞した奴らがいる…
先ずお前の所のキャッチャーの鬼頭、強肩もそうだが、一番はやっぱあのバットコントロールだな。アイツ、最初はフルスイングで大振りなんだが、追い込まれたら時のヒット狙いになった瞬間打つ事打つ事。ったく、追い込んだと思った瞬間打つとか、マジでドSだぜ…
次にパワフル大のショートの常盤。派手じゃねーが、兎に角守りが堅い。それに打つ方も、走る方も他のショートと比べて差がねーから、守備の分勝っているって感じだな。
次はあかつき大のセンターの宇田川。女のくせに目茶苦茶脚が速い。それに肩もレーザービームの様な強肩で本当に女か疑うレベルだな。
そして最後に……」
藤山「?
どうしました先輩?」
不意に金剛の会話が途切れ、顔がにやつく。
金剛「噂をすればなんとやらだ。お出でなさったわ」
藤山「………!?」ゾクッ
背後から強大な威圧感を感じる…
そして振り返る事が出来ない!?
藤山(だ、誰だ!?まさか…清本か!?
いや、アイツよりも更にデカイ威圧感だ!?)
今まで出会った人物の中で一際威圧感を放った清本を連想する。
だが背後に居るモノはその清本以上だ……
一体…
?「おー、金剛殿ではないか!今日はお手柔らかに頼みますぞ!」
金剛「オイオイ、テメーら相手に手加減出来る余裕なんか有ると思うか?ましてやベストナイン様が相手なんだぜ?」
?「ガハハ!心配なさるな!ワシは今日は控え、先発は下井じゃ!」
金剛「下井か…まあ、誰であれ全力で叩き潰してやる!そんでテメーをマウンドへ引きずり出してやる!!」
?「その意気込みや良し!
だが……貴殿だけで、この“王”に果たして辿り着けるかな?」
藤山「!?」ゾクッ
更にプレッシャーが強まる…
み、身動き所か…こ、呼吸が…
金剛「お、オイ藤山!しっかりしろ!?」
藤山「え…?」
気が付くと金剛先輩が俺の眼前に居る。
王「お~、済まない済まない。ちょっと、威を放ち過ぎたようだな(笑)」
金剛先輩の頭上から見下ろす、先程から絶大なプレッシャーを放つ者を視界に捉える。
まるで獅子を連想しそうな鬣(たてがみ)の様なヘアースタイルに、身長は優に2mは有り、鍛え抜かれた金剛先輩が細く見える程の見事な逆三角ボディーを誇る。
藤山「お、俺は一体…」
ついさっきの記憶が途切れ途切れ…
金剛「いや、お前何も覚えてねーのか!?急に倒れやがったんだぜ!?」
藤山「た、倒れた!?俺が!?」
王「藤山と言ったか?お前はワシが金剛殿に放っていた威に耐えきれなかったのだ」
藤山「威…」
王「そうじゃ。
それはそうと、お前は1年か?」
藤山「あ、ああ…そうッスけど…それが?」
王「(ほぉー、1年ながらワシの5割程の威には耐えたか!今年入った、あの生意気な小坊主共と同じ位だな。まあ、まだ金剛殿に放った8割には遠く及ばないがな)
ふぅん、こりゃ秋が…否、ウチのガキ共とのフレッシュリーグが楽しみじゃな」
藤山「?」
王「では金剛殿!貴殿の実力、とくと観させて頂くぞガハハ!」
最後も豪快な高笑いをし、王は廊下の奥へ消えていく…
藤山「金剛先輩…誰ッスかあの人は?」
金剛「奴が最後の四人目、帝王のエース、王だ。チッ、年下のくせに上から目線の嫌な野郎だぜったく…
だが実力は今の頑張リーグで間違いなくNo.1だ。感じただろ?奴のプレッシャーを?」
藤山「……」
素直に首を縦に振る藤山。
とてもでは無いが、今の自分とは差が有りすぎる。
金剛「さてと、お前の所を助ける義理は無いが、俺の可愛い後輩の為だ。
下井をノックアウトにして、奴を登板制限で出れなくしてやるか♪」
藤山「金剛先輩!」
金剛「じゃあ、そろそろ俺も行くからな。
藤山!大学は高校と違って、間違いなくお前と戦うチャンスが有る!その時俺らがどんな状態かはさておき、全力で行くぜ?」
藤山「はい!挑む所ッス!」