真っ直ぐな男   作:タッチアップ

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第13話・イレブン工科大学(part③)

カランカラン

 

『いらっしゃいませー』

 

橘「1名追加で☆」

 

『かしこまりました』

 

 

六道「どうしたのだみずき?急にそんなにあわ…」

 

大久保「ん?」

 

同席で座るもう一人の少女と目が合う。

 

六道「Σはわわわわわわわわわわ!?」

 

そして突如パニクりだす。

 

橘「聖!落ち着きなさい!」

 

六道「ほ、へ、だっ、だって、みみずき……(嘘だ…なぜ此処に…)」

 

大久保「!?」

 

ザワザワザワ

 

橘「あちゃ…ちょっと場所変えよっか」

 

ボソボソと噂話が聞こえ出したので、俺も頷く。

 

そして動揺しまくる少女をみずきが介抱し、店を後にする…

 

 

~広場~

 

橘「はぁ…落ち着いた?」

 

六道「す、済まない…」

 

ベンチに座り落ち着きを取り戻した六道が二人に一礼する。

 

気が付けば真っ暗となっており、自分達以外誰もいないベンチを街灯が照らすのみ。

 

橘「全く…聖があんなに取り乱すなんてね(笑)」

 

六道「わ、笑うなみずき!だって…」チラッ

 

軽く横目で俺を見る、聖と呼ばれる少女。

 

橘「(ニヤリ)だよねー☆だって聖、大久保君のファンだもんねぇ~?」

 

六道「Σなー!はわわわわわわ!!み、みずき!!//////」

 

橘の爆弾発言に、頬を赤らめまた慌ただしくなる六道。

 

 

大久保「ファン…?

 

え?…俺の?」

 

橘「そ☆去年の甲子園なんて凄かったんだよ?地元の応援なんてそっちのけ、ミーハーアンチ、なのに県外の大久保君の高校ばかり……てか、大久保君“を”ずっーと応援してたんだよ?」

 

六道「なー!//////」

 

橘「し・か・も!

 

聖!私に黙って決勝観に行ってたんだよね?」ニヤニヤ

 

六道「はゎゎゎゎゎ…//////」

 

大久保(決勝を…?)

 

そうか…あの試合を…か…

 

 

カキーン!

 

カキーン!

 

グワッキィィィィィン!!

 

 

 

 

ビュッ

 

ククッ

 

ズバーン!

 

 

ビュッ

 

グワッキィィィィィィン!!

 

 

強い…!

 

連投と猛暑でコンディションは悪かった方だったが、それは相手も同じ事。

 

というより、清本・桑名、この化物二人が同時に居やがったのが不運過ぎた。

 

どっちかだけなら、まだ善戦出来たかも知れないが、二人同時は無理が有った…

 

なんでコイツ等は春に2回戦で負けたのか…

 

試合中はそればかり疑問に思っていた…

 

 

六道「それでだ先輩…その……こ、甲子園はどんな感じだった?」

 

大久保「どんな感じ…」

 

 

どんな感じだったか。

 

六道さんが初めてでは無く、色々な人から聞かれた質問だ。

 

緊張した、一生の思い出、プロになって帰ってきたい。

 

様々な人のインタビューを聞くと、定型化しつつ有るがしっかりと前向きなコメントをしている。

 

だが俺は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大久保「分からない…な」

 

六道「そ、そうか…」

 

橘「え~!つまんなーい。分からないって……何かこう、達成感とか無い訳?」

 

大久保「ああ…」

 

冗談抜きで、俺には本当に無い。

 

いや…今考えると、甲子園所か高校3年間の思い出ですら虚無だ。

 

厳しい練習もした、仲間達と助け合い、競い合い、悲しみ合い、励まし合いと過ごした…

 

だが……どれも心に残っていない…

 

大久保(マジで俺って最低だな…)

 

冷めていると云うより、此処まで来ると最早人形だな…

 

 

六道「先輩…その…」モジモジ

 

大久保「?」

 

六道「私……実はキャッチャーをしているのだが…」

 

コイツは驚いた。

 

てっきりマネージャーかと思ったが、まさか選手とは…

 

しかも野手のポジションの中で最もハードなキャッチャーとはな…

 

六道「それでだ……その……ゎ…(ボソボソ)」

 

大久保「ん?」

 

最後の方は全く聴こえない…

 

大久保「済まない六道さん…聴こえなかったから、もう一度良いかい?」

 

六道「Σす、済まない!

 

その…わ、私に……」

 

 

 

 

 

 

橘「あーーー!!まどろっこしいわね聖!!

 

ハッキリと言っちゃいなよ!『私に捕らせて』って!」

 

六道「!!」

 

大久保「捕らせて?

 

あー、そういう事か…」

 

どうやら、この娘は俺の球を受けたいらしい。

 

大久保(俺の球をか…)

 

恐らくこの娘は橘みずきとバッテリーを組んでいた娘だろう。

 

あの高速スクリューを放る橘みずきの球を受けれるならそれ相応の実力者だろう。

 

だが、俺と橘みずきとでは球威が全く違う。

 

しかも俺の球は…少々特殊。

 

怪我をしないか心配だが……

 

 

 

大久保(まあ、そこは加減すれば大丈夫だろう…)

 

それに…俺のファンって言ってくれた娘を邪険にしてはいけない。

 

しかも、今は女性選手も正式に認められる時代。

 

差別は良くない。

 

大久保「OKだ六道さん。だが今日はもう真っ暗だ。また後日な」

 

 

丁度良い切り上げのタイミング。

 

俺は直ぐ様帰ろうと…

 

 

 

 

 

 

 

 

ガシッ

 

は、出来なかった。

 

橘「私お腹空いた〜」ニヤニヤ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後俺は、3人分の食事代を支払う羽目となった。

 

 

 


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