エルフと私、時々抹茶パフェ   作:裃 左右

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第38話 欠陥魔術師の決闘作法

まさか、女の子と二度もガチンコバトルすることになるとは思わなかった。

 嘘である。本当は、2度目の戦いは予見していた。

 全て予定通りである。

 

 にしても、純希くんは十分に役割を果たしてくれた。

 残念ながら、賢鷹ペラフォルンを削りきることは出来なかったが、ある程度のダメージを与えることができたし、マリンカを戦場に引っ張り出すこともできた。

 

 最悪のシナリオは、ペラフォルンが圧倒的な火力で私たちを圧倒。その合間に、マリンカが裏で暗躍し、一人ひとり落とされることである。

 

「少なくとも、私が想定する限り、最悪は避けられたわけだ」

 

 だが、純希君の方からは爆裂魔術による爆音が鳴り響いてくる。

 それもいくつもの、だ。圧倒的に不利な状況なのが伝わってくる。

 ペラフォルンを一対一で相手にして、勝てるはずがない。

 

 正直言えば、焦りはある。

 だけど、それをマリンカに見せる訳にはいかなかった。

 

背に翼を生やしたマリンカは、空から射撃魔術を斉射。連なった光弾が迫りくる。

それをテイラーがシールドで弾く。彼は、魔導器(セレクター)への適正がそれなりにあり、シールドなどの基本的な魔術であれば発動可能だった。

 

 魔力量は少なく、頼りにするには心もとないが、それは仕方がない。

 

マリンカは射撃魔術で威嚇した後、高速で接近。

2羽の輝く小鳥と連携して、サーベルを振りぬいてくる。

 

 にしても空中で自由自在に機動を取ってくるのは、今までにない敵であり、非常に戦いにくい相手だった。今までの経験が通用しにくい。

 

 かつ、彼女は『自在の弾丸(マジック・バレット)』といった射撃魔術も活用してくる。距離が離れれば、魔術射手(キャスター)として戦ってくるのだ。

 

「接近戦、射撃戦の双方が可能なオールラウンダー。 かつ、召喚術で数の差をも作り出せるわけか……。 手強いね」

「その割には、余裕そうじゃない!」

「まあ、ね」

「気に入らないわ! その態度!」

 

 マリンカ自身が突撃して、サーベルを振るう。

 小鳥との連携を警戒して、避けようとすると、サーベルから魔力が射出されて刃が飛んできた。

 

「良い不意打ちだね」

 

 私は突きを放つ。

刃を伸縮させ、魔力の刃を粉砕し、そのまま飛んでいた小鳥を串刺しにし破壊した。

相手の攻撃をつぶしながら、手数を減らす一手。

 

残りの一羽の小鳥も、返す刃で撃墜。

突きからの変形斬撃。私の得意技の1つだった。

 

 マリンカは驚愕を隠し切れないようだった。

 飛ぶ斬撃は、隠し玉だったのだろう。私の不意を打てたと思ったはずだ。にも関わらず、攻撃は防がれ、次から次に小鳥が撃墜されていく。

 彼女は、動揺しながらも、改めて輝く小鳥を召喚しなおす。

 

テイラーが、キュキュキュキュと独特な含み笑いをする。

 

「正直なところ、マリンカの手の内は読めている」

 

 テイラーの声は聞こえていないだろうが、どこかマリンカの声は震えていた。

 自信のあった攻撃パターンを防ぎ切られたのは、メンタルに来るはずだ。

 

「……よく今のをさばき切ったわね」

「君は前回の決闘でも、使った近接武器は斬撃を飛ばす剣だった」

 

つまり、マリンカはあのタイプの武器に慣れていると、私とテイラーは判断した。

私たちに合わせて、日本製の武器に変えてたとは言っても、簡単に使いこなすには訓練が必要なはずだからだ。

 

「使い慣れない武器にしては、それなりにパターンに対応できてたからね。 つまり彼女が使う剣も、同じ特性を秘めている可能性が高い……」

「あの無様に倒れてる時間も、わたしの動きを分析してたってわけね」

「ああ、そうだよ。 あの時の戦いは、私にとって布石でしかない」

 

 マリンカが怒気を放ち、私を威圧してくる。

 

「そんな目で見ないでよ、怖いったら仕方ないさ」

「よく言うわね!」

 

 小鳥と合わせて一斉に、射撃魔術を放ち始める。

 それなら、私は機動力と隠密能力を生かして、隠れて走り回るだけだ。

 同じ状況を繰り返すなら、消耗するのは彼女の魔力の方だろう。

 

 だが、魔術を扱う実力は明らかに彼女が上だ。

 使える手札の枚数も、戦える時間も、圧倒的に向こうが有利である。

 それを冷静に判断されると困るので、私は彼女を煽り倒して、ガンガンイラつかせてやろうと思う。

 

「いやあ、君はすごいね。 剣術もできるし、射撃魔術もできる。 その上、召喚まで使ってくるなんて思わなかった。 これぞ本当の才女だね」

「思ってもいないことを!」

「いやいや、本気で感心しているのさ。 ここまで出来る人なんていないって」

「ずいぶんと、よく口が回るわね。 私を馬鹿にしてるんでしょ」

「いや、違う。 油断してないからこそさ。 普通に戦ったら、勝てないだろうさ」

 

マリンカの剣術自体は、そこまで脅威じゃない。

あの輝く小鳥の攻撃と、連携を取ってくるから討ち取れないものの、攻撃を防ぐ分には苦労しなかった。おかげで状況は拮抗していると言ってもいい。

彼女の剣術は、どちらかと言えば防御のための護身剣術だ。

 

それも当然と言えるだろう。歴代魔女マリンカの経験が積みあがっているとはいえ、彼女は戦士じゃない。

魔女は本来戦いのために、生きているのではない。その道を探求する研究者だ。

それにマリンカ自身、剣術訓練も十分になされているわけではないのだろう。

 

 剣術勝負だけなら、私が勝る。

 だから、何の仕込みもないのなら、突撃してくる方が対応はしやすい。

 

だが、まるで仕留め切れない。

そんな隙が一切ない。

 

 飛燕で刃を伸縮させて、一撃を叩き込む。

 しかし、すぐにサーベルでいなされる。シールドよりも、魔力が込められた剣の方がより堅固だ。まるで打ち崩せない。

 

 連撃を叩き込もうにも、輝く小鳥たちが応戦してくる。

 私が、連撃を打ち込むには、小鳥をすべて排除したうえで追い込まないといけないが、それはマリンカもわかっている。

 

魔力をまとわせたサーベルでああも、的確に防御をされては攻めあぐねる。なにか、決め手が必要だった。

 

「吉田に、合成魔術を仕込んだのは貴方かしら? 陽介!」

「いいや、あれは彼の努力のたまものさ。 強いて言うなら、ロドキヌス師との鍛錬だね」

 

 指導教官たるロドキヌス師との訓練は継続している。

 私も強くなっているが、純希くんも努力しどんどん実力を伸ばしていたのだった。

 

「私にはまともに魔術が使えないんだ。 純希くんに魔術を教えられるわけないだろ」

「あら、いつから名前呼びになったのかしらね!」

 

 刃を交えると、左右から挟み込むように輝く小鳥が光線を放ってくる。

 2羽の小鳥は、マリンカと連携して私を追い込もうとしていた。

 これじゃ、実質3対1といったところかな。

 

 だけど、その輝く小鳥にも弱点がないわけじゃない。

 

 私は、マリンカに一太刀狙うと見せかけて、刃の形状をさらに変化。

 小鳥のうち一羽を、真っ二つに切り裂いた。その隙をついて、マリンカが追撃してくるが、『兎跳び』を発動させて、一気にその連携の間を駆け抜ける。

 

「そうだ。 そちらの包囲網が薄いぞ、陽介! 有利な位置取りで、相手の連携を崩せ!」

 

 テイラーが私に語り掛けてくる声に、耳を傾けながら私は攻撃をさばいた。

 

 私の身体能力は、ずいぶんとネズミ寄りになってきている。

 動体視力、とっさの判断。その機敏な動きはそう簡単に追いつけるものじゃない。

 それに加えて、テイラーの状況把握と指揮。

 簡単につかまるはずはなかった。

 

「その小鳥、ずいぶんと厄介だけど。 耐久力は低いね、剣でなら簡単に落とせる」

「ふざけないで! 飛ぶ鳥を落とす剣技なんて、想定外すぎるでしょ!」

「そして、エネルギー量に限界があるみたいだね」

 

 もう一羽いた小鳥は、輝く残滓を残し、突然消失した。

 魔力を使い切ったのだ。

 

 そこで一気に叩きこみを掛けようとするが、マリンカはいくつも光弾を射出しながら距離を取る。回避しながらでは、連撃に移れない。

 巧みに、攻撃の起点がずらされ、追いすがることができない。

 

「……召喚される小鳥は、最初に召喚される時に、与えられた魔力しか使えない。 それが弱点だ、時間経過か魔術の使いすぎでいずれは消えてなくなる!」

 

 本来なら、そこを狙えばいいのだが、彼女自身その弱点は把握している。

 

「そんなもの、いくらでも作り出せばいいのよ!」

 

 マリンカは、再度、2羽の輝く小鳥を召喚する。

 私に光線を放ちながら、左右に分かれて接近してくる。

 

 左右からの攻撃なんて、これ、私一人だったら、絶対に処理しきれなかったな。

 情報処理能力がすぐに限界になるなんて、目に見えている。

 

「いくらでも作り出す? そんなことは不可能だろ、君の魔力量にだって限界がある」

「そんなもの、貴方の限界の方が早いわよ。 魔力量に差があるんだからね」

「射撃魔術も召喚魔術も、明らかに接近戦するより消費が激しそうだけどねえ」

「今、貴方に心配されるいわれはないわ!」

 

 正直、私も余裕がない。

 このままだと、削りきられるのは私だ。

 彼女がもう少し冷静になったり、私の知らない手札を出してくれば、いつ負けてもおかしくない。

 

 だけど、そう思わせてはいけなかった。

 少しでも、時間を稼ぐ必要があった。

 

 遠くから声が聞こえる。

 純希君の声だ。

 

「オレは、早撃ちで負けたことがねえんだよ!」

 

 たくさんの光弾がまき散らされる。

 そのいくつかは、私たちの周囲にも飛んできた。

 

 そのどれもが、ペラフォルンに当たることもない。

 

「あっちは勝負が決まりそうね、陽介?」

「……それはどうかな?」

 

 光弾が付近の地面に、着弾していく。

 その途端、煙が噴出。辺りに充満していく。

 

「これは!?」

 

 マリンカは周囲を見渡す。

 自立式の輝く小鳥も、標的を見失った。

 そして、彼女自身たちも、煙に包まれていく。

 

 純希くんの合成魔術、『煙使い』と『自在の弾丸』の合わせ技。『自在の煙幕弾』だ。

 彼との作戦、2つ目だった。

 

 『煙使い』によって生み出された煙は、魔術探知をも阻害する。

 マリンカはもはや、私の位置を把握することなんてできない。

 

「わたしをここで仕留める気ね……。 来るなら来なさい!」

 

 私は『兎跳び』と『姿隠し』を同時起動し、姿を透明にしながら一気に宙を駆け抜ける。

 音で周囲の状況を判断、ネズミは超音波を聞き取れるほどの五感の鋭さを持つ。

 

(そうだ、敵は向こうにいるぞ)

 

 テイラーとの念話で、情報を把握。

 この状況下ですべてを把握できるのは、私達だけだ。

 

一方、ペラフォルンは羽ばたきを利用し、煙を吹き飛ばしたようだ。

 

「こしゃくな仕掛けだな、少年。 だが、それは私には通用せんぞ!」

 

 そう言いながら、純希くんに向かって警戒を怠らない。

 いつ、不意に射撃魔術が飛んできても、防ぎきる自信があっただろう。

 

「――だからこそ、引っかかるんだよなあ」

 

 私は刃を振るう。

 空を舞い回転。すべての力を持って振りぬいた。

 

「何っ!?」

 

 真っ二つになる純白の賢鷹ペラフォルン。

 最強の敵が、輝きと共に散る。

 

「私の狙いは、最初から君の方だよ。 ペラフォルン!」

 

 すかさず、マリンカが私に向かって一斉射撃。

 読んでいたために、宙を蹴り回避。しかし、避けきれない。

かなりダメージを負い削られていく。

 

 煙から、現れた翼を生やしたマリンカ。

 私は、刃を振りかざし斬ろうする。

 

 だが、斬撃が、彼女をとらえた瞬間、残像がブレた。

 召喚した妖精を変化させた『デコイ』だ。

 彼女は、偽物の分身を作り出したのだ。

 

「前と同じ手か……」

「そうよ。 でも、引っかかったわね」

 

 私は彼女のサーベルで斬られていた。

 マリンカもまた、姿隠しで私の背後を付けていたのである。

 背後からの奇襲に対応しきれなかった私は、その一撃をまともに受けた。

 

「そして、結末も同じ。 わたしの剣で落ちるのよ」

「まあ、それは構わないのだけど」

「……なんですって?」

 

 私の体から、力が抜けて落下していく。

 だが、今、私の肩にテイラーはいなかった。

 

 ――では、どこにいるのか?

 

「今だ、純希くん! 私たちごと吹きとばせっ!」

「おうよ!」

 

 煙の中から現れた純希君。

その肩には、テイラーがいた。

 彼が叫ぶ。

 

「今だ、純希! 撃ち抜け!」

 

 焦るマリンカ。

 

「させないわ!」

 

 1羽の小鳥が光線を放ち、純希君を止めようとする。

 だが、テイラーが全力でシールドによる防御。攻撃をはじいた。

 

 純希くんだけなら、攻撃は当てられないかもしれない。

 マリンカからの、攻撃も防げなかったかもしれない。

 テイラーが揃ってこそ、この煙だらけの戦場で、純希くんは力を発揮できた。

 

「食らいやがれ!」

 

 『飯綱狩り(ウィールズアウト)』による一斉射撃。

 何十という光線が殺到し、輝く小鳥ごと、マリンカを射抜く。

 それをマリンカはシールドで防いでいく。

 

「くっ、こんな攻撃でっ!」

 

 私は最後の力を振り絞り、左手にはめられた金色の小手を発動。

 髭なしナールから、受け取った『死者の手(デッドハンド)』の魔導器だ。

 

 殺傷能力はなく射程も短い。特殊な電撃を撃ち出すだけの装置だ。

 ただ、脳に直接作用し、ひたすらに相手に痛みと恐怖を与える効果しかない。

 私は左手をマリンカに向け、電撃を打ち出した。

 

「きゃぁあああああああっ!」

 

 突然の予期しない刺激に、マリンカは絶叫する。

 それを最後に、私は完全に力を失う。

 

 そこに『爆炎の槍』が着弾した。

 爆音。マリンカと私は、そのまま爆炎に包まれたのだ。

 

 正確無比、隙を見逃さない早撃ち。

 

「オレの早撃ちは誰にも負けねえんだぜ……」

 

 フィールドの煙が晴れていく。

 ……最後に立っていたのは、ボロボロになった少年。

 吉田純希くんだけだった。

 




いつも感想・評価ありがとうございます!

頭脳戦とは、なかなか難しいですね。
頑張って書いたので、楽しんで読んでくれたなら嬉しいです。

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