紗夜のBはBitchのB!   作:本醸醤油味の黒豆

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Tは頑張り屋/頼れる先輩になろう

「以上で会議を終了します……」

 

 そう、羽沢さんに締めくくられ、会議は滞りなく……うん、滞りはなく終了した。

 ──なにせ、羽丘生徒会長の爆走を、誰も止められないのだから。滞りがあるわけないよね。

 

「いや、えげつないな、あの会長」

「確かに! 頭の回転がすげーよ」

「あはは〜、ヒナは特殊だからね〜」

 

 羽丘の空き教室で、俺の他にはリサ、トーマ、タイクーンがいた。どうやら日菜さんは俺を紗夜さんのポジションに据える気だったらしく、トーマとタイクーンを呼んでたみたい。いや、その通り俺は燐子さんのサポートになったんだけど。

 

「燐子さん……大丈夫かな?」

「ヘーキだって、あこもいるし、ああ見えて燐子ってきちっとしてるじゃん?」

「まぁね」

 

 男に関してはだらしないけど。それ以外はしっかりしてると思う。人見知りさえなければね、人の上に立つって才能と求心力は、あると思う。

 ──それは、日菜さんも。

 

「でもさ、あの会長と白金さんとじゃ、タイプが違うよなぁ」

「燐子さんはリーダーシップだけど、日菜さんは……」

「確かにね〜、ヒナは独裁タイプだ」

 

 皇帝とか王様とか、そういう気質だよね。王の素養を持った女子高生ってパワー強い。

 でも、だからこそ余計に、その傍にいた大臣(はざわさん)が可哀想だった。

 

「苦労人だよ、あの子は」

「トーマみたいなもんか」

「自覚あるならちゃんとしてくれると嬉しい」

 

 俺たち三バカの良心だもんね、トーマって。因みに他人事のように笑ってる我が幼馴染も、トーマと二人きりだとめちゃくちゃ甘えてくるし振り回してくるらしい。知らなかった幼馴染の本性に俺はコメントを失う衝撃だったよ。

 

「アンタ、つぐみに手出さないようにね?」

「……なんで俺に」

「だって、バッチリ好みのタイプじゃん」

 

 なんで知ってるんだろうね!? 俺、長くキミと付き合ってきて女の子の好みを一言も漏らした覚えないけどね? 

 

「アンタが小学生の時に好きになった子の名前、言ってあげてもいーけど? みーんな清楚な見た目でおっとりタイプだよね〜?」

「わーわー!」

 

 ホント、そういうのよくない! 俺が耳を塞ぐと中、高の恋愛を知ってるトーマとタイクーンが確かにな、と頷いてきた。ムカつく! コイツらの恋愛……ダメだ、トーマもタイクーンもバカみたいに一途だ! 

 

「あ、あの……カンベさん」

「はいっ!」

 

 そんな弄られムードの俺を助けてくれたのは、噂に上がった羽沢つぐみさん。ひょこっと顔を出してくる仕草がもう癒されるし愛らしい。

 しかし、そんなヒーラー羽沢さんの口から出たのは、俺の背筋を凍らせるものだった。

 

「生徒会室に、来て、もらえませんか?」

「……理由、は?」

「か、会長が……」

 

 天使の裏に、悪魔はいるらしい。俺は今日ほどあの子と同じ髪色と顔立ちをしたあのヒトが傍にいてくれたら、と思うことはないだろう。いたら吊り橋効果で付き合ってたかも。そのくらい、日菜さんにはいい印象を抱いてないよ。

 

「……ごめんなさい。会長は、言い出すと聞かない、頑固なところありますから」

 

 でも、羽沢さんが漏らした日菜さんを形容する言葉からは、俺のよく知った彼女の性格に合致するもので、強ばってた肩の力が抜けるのを感じた。

 

「そっか」

「あ、あはは……余裕ありますね」

「いやいや、余裕はないよ」

 

 クセは強いって言っても、なんと向こうはアイドルもやってるらしい。アイドル業界全然詳しくないから知らなかったけど、生徒会長やりながらアイドルやりながらって、やっぱり紗夜さんの妹だよね。

 そして、アイドルってことは、幾らなんでもビッチはないでしょ。

 

「そういえば、ワンドルの夏のライブ、観に行きましたよ」

「ありがとう」

「はい、ひまりちゃん……友達がファンで、特に自分と同じベースのヒトは、凄い刺激になるからって」

 

 ……ん? べースって、俺じゃん。リアクションと気付くのがワンテンポ遅れたのがツボだったのか、羽沢さんはくすくすと楽しそうに笑った。からかわれたっぽい、のかな。

 

「カンベさんが、少し羨ましいです」

「羨ましい、って?」

「そうやって肩の力が抜けてて、会長……日菜先輩を見てても、わたしって空回りしてるのかなぁって思うことも多くって」

 

 羽沢さんは、確かに肩肘張ってる、って感じするよな。頑張り屋なんだなってのは俺に見えるごくわずかな範囲でも分かるし、頑張り過ぎてるような気もする。大体、生徒会長があんなんなのが悪いよね。

 

「他の役員さんは?」

「会長には、ついていけないって」

「だよね」

 

 流石、独裁者。本人も無自覚の間にヒトを離れさせてる。先生方も手を焼いてるらしいのだが、これまた厄介なことに、その自由人本人が、羽丘の基本理念、文武両道を体現できる人物らしい。

 

「凄いんですよ! テストでは当たり前のように満点を取るし、スポーツも、経験者が手も足も出ないくらい凄くて」

「……すげ」

「芸術のセンスもあって、この間の美術なんて、先生よりもすごいの描いちゃってて」

 

 とにかく、話題性、というか才能の塊みたいなヒトらしい。天才ってみんなは日菜先輩のことを呼びます、って羽沢さんは少しだけ寂しそうに言った。なるほどね、それが他者を無意識に遠ざける要因ってわけね。

 

「だから、一昨年までの先輩は、とっても退屈そうでした」

「じゃあ、今は違うんだ?」

「はい。パスパレの仲間ができて、生徒会長やり始めて、紗夜さんとも仲直りできて。前よりもコミュニケーションもちゃんと取れるんですよ?」

 

 待って、色々気になることはあるけど、今はまだマシってこと? 以前の日菜さんを知りたいような……いや、やっぱりいいや。絶対知り合いになりたくないし関りあいたくない。マジで無理。

 

「カンベさん」

「ん?」

 

 想像して苦い顔していたら、羽沢さんが足を止めて、改まって俺の顔を見上げた。真剣な表情に、俺も羽沢さんの顔を見つめる。

 そうして数秒、羽沢さんは勢いよく頭を下げてきた。

 

「は、羽沢さん!?」

「お願いします! 日菜先輩、ホントはとっても優しくて、頼れるヒトなんです!」

「い、いきなりどうしたの?」

「だから……あんまり、離れていかないであげてください」

 

 羽沢さんが一人でヒートアップし始めた。これがリサの言ってた、ツグってる、ってヤツなんだろうか。案外突っ走りがちなところがあるらしい羽沢さんは、きっと俺がここで日菜さんを邪険に扱うんじゃないかって思ってるってことだよな。

 

「羽沢さん」

「……はいっ」

「あんまり自信はないけどさ、任せてよ」

「……カンベさん」

「クセのあるヤツなんて俺の周り、結構いるからさ」

 

 いつもつるんでるのは個性的なバカばかり、挙句は紗夜さんに燐子さんだ。今更多少性格がぶっ飛んでようが、俺は動じない……はず。やっぱり自信ないけど。

 すると、不安げだった羽沢さんの顔がみるみるうちに笑顔に変わっていく。花が咲くように、明るく、満面の笑みで。

 

「よかった……!」

「それにさ、文化祭の間限定だけど、多分燐子さんとか紗夜さんに呼び出されて花女にいるだろうから、なんかあれば言ってくれればいいよ」

「い、いいんですか……?」

「もちろん」

「じゃあ、頼りにしちゃいますね!」

 

 うわー、なんか俺、先輩してる感じ。むず痒いけど、悪い気はしないよね。

 特に羽沢さんは問題のある性格してないし、他のヒトの評価を認めるようなもんだからあんまり言いたくはないけど、タイプなのは事実なんだよね。だから思わずカッコつけちゃうんだけど。

 

「よかった、カンベさんがいいヒトで本当によかった……」

「おおげさだからね、それ」

「おおげさじゃありません!」

 

 ホント、羽沢さんは頑張りすぎというか、いいことなんだろうけど、もうちょっと。

 せめて俺がいる時くらいは、肩の力を抜いてほしいな、なんて思ったりする。

 カッコつけてるのも、あんまり変わらないような気もするけど、そこは逆に。俺は普段はほぼまったくと言っていいほど、肩の力入ってないからな。

 ──そのあとは拍子抜けで、日菜さんに紗夜さんの様子をあれこれ訊かれるだけで終わった。彼女曰く、おねーちゃんが特定の男性に興味を持つなんて一体どんなヒトなんだろうってずっと気になってたらしい。

 もしかしたら……日菜さんは、なんだか秘密に包まれてる紗夜さんをちゃんと知る、きっかけになるかも。俺はそんな暢気なことを考えていた。

 


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