紗夜のBはBitchのB!   作:本醸醤油味の黒豆

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向き合うD/薄暗い建物の中で

 待ち合わせ、俺はなんだかんだで三十分前にはその集合場所にいた。髪にも服にもいつも以上に気をつけた。相手のことをなんとも思ってなくても、それくらい気を付けないと相手に失礼だからね。相手がどんな格好をしてくるのか、なんて知らないけど。

 スマホを触りながら紗夜さんから散々メッセージが届いてくる。何かあればすぐに連絡してほしい、と。まぁ、最初からそうするつもりですけどね。

 

「ふうん、デートするのに他の子と連絡取るんだあ、ふうん」

「……花音さん。おはよう」

「うん、おはよう」

 

 何せデート相手はこのヒト。童貞キラーのDサイズのビッチさんこと松原花音さんだから。からかうような口調はスルーしておく。俺はあなたのカレシでもセフレでもないんで、誰と連絡しようが勝手だと思うんだ。

 

「でもデートする女の子ほうっておいて連絡取ってたら、はいさよならされちゃうよ?」

「お付き合い相手だったら、注意します」

「……そうじゃあないんだけどなあ」

 

 まるでわかってないなあとばかりにため息をつかれた。そして俺の腕を取りながら、花音さんはにっこりと俺に現実を突きつけて、刺し殺そうと言葉を紡いでくる。

 

「だから童貞なんだよ、カンベさんは」

「は?」

「大体今日はそういうのを直すためにデートするんだから」

「へ?」

 

 いや聞いてないし。どういうこと俺に問題があるってこと? 俺がモテない理由についに触れられるのか。

 さっそくダメ出しモードに入った花音さんは、まず、と右手の人差し指を俺に向けてきた。仕草はいちいちかわいいですね。

 

「もうちょっと楽しそうな顔してほしいなあ」

「花音さんじゃなきゃ」

「私でも、だよう」

 

 もしこれが羽沢さんだったら俺はマックステンションだし、終始ニコニコしていられる自信があるけどね。花音さんかぁ……花音さんなぁ。

 だって花音さんだしなぁ。

 

「なんでそんな難しい顔してるの……?」

「警戒してるんです」

「大丈夫だからね? よしよし」

 

 頭をなでなで。ほんわか雰囲気でこう、優しくされるとわかるけどこのヒトも燐子さんに負けないくらいの母性(バブみ)を秘めているらしい。相手がビッチの危険人物じゃなきゃ赤ちゃんになれそう。

 

「それで、どこに行くんですか? 俺、聴いてないんですけど」

「水族館」

「……え、やっぱ帰っていいですか」

「ダメ」

 

 だって! 水族館と言えば、暗い! 暗いと人目につきにくい! するといちゃいちゃしやすいからデートスポットに最適! と、花音さん相手だと危険な香りしかしないじゃん! 俺、まだ清い身体でいたいんです! 

 

「なんか偏ってるし、勘ぐりすぎじゃないかなあ?」

 

 紗夜さん知識です。あ、偏ってる気がしてきた。だって脳内ピンクの紗夜さんだもんね! 

 でも、それじゃあ水族館を選んだ理由ってなんだろう。女の子の扱い的な講座に便利だからとかその辺の理由? 

 

「私が好きだから、水族館」

「……えぇ」

「それがフツーのデートだよ。好きなところに行って、好きな人と過ごすこと」

 

 特別なことはなくていいよ、と笑う花音さんに、俺は思わず口に出して成程って言ってしまう。いわば紗夜さんといつも喫茶店やファストフード店に行くようなノリでデートってことでも大丈夫ってことかな? 

 

「そうそう。そうするとカンベさんって結構デート上級者ってことだよね」

「そう……なのかな」

「ほら、試しにどんな会話をしてるのか、私でやってみよ?」

 

 なるほどね! うんうん、それなら俺も上級者なんだ! なんか他の童貞に一歩進んでやった気分だぜ、ふふん。

 えっと、紗夜さんとの普段の会話か、とりあえず直近の会話を思い出していこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ♪ ♪ ♪ ♪ 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カンベさんは漫画は読まれますか?」

 

 それは燐子さんとあこちゃんが羽丘でゲームの話をしていたことを説明していた時だった。いつも通り羽沢珈琲店でポテトをつまみながら、紗夜さんはそんな切り口で俺に問いかけた。

 

「読みますよ」

 

 少年誌は好きだよ。海賊が様々な人間に触れあって大冒険したり、魔法使いがスタイリッシュに闘うようなバトル物も、嘘の恋人関係から始まったのがどんどん距離が縮んでいったり、ひょんなことから美少女たちに勉強を教えることになったりする恋愛ものも読むからね。

 

「なるほど、つまりエロも読むのね」

「断定するね?」

 

 読むけどさ。そりゃ健全な男子高校生ですし、もう18歳ですし。

 ただ最近ビッチに搾られる的なヤツが読めなくなったんですよ。誰のせいですかね? どうお思いでしょうかビッチの紗夜さん。

 

「それはさておき、ありがちなネタですが、ここで童貞にはつらい事実を伝えなければなりません」

「うん、もうツッコむのも疲れたから続けていいよ」

 

 どうせ止めても続けるもんね。だったら聞き流しながら相手をした方がマシだということに気づいた。

 紗夜さんはだというのに全く気にした様子はないようにカランカランとグラスの氷を揺らしながら今日のタメにならない知識を植え付けていく。

 

「断面図ってありますよね」

「……うん」

 

 あれね。詳しいことは言わないけどあれね。

 流石に俺だって見えないことはわかってますよ。それが見えたらファンタジーすぎる。

 

「あれでよくある描写といえば?」

「よくある……?」

「そう、膣内射精(なかだし)描写ですね」

 

 何も言ってないし思いつかなかったんだけど。しかし紗夜さんはそんな俺のリアクションを完全無視した状態で、話を続けていく。実はさっき流したこと怒ってますね? 紗夜さんは感情を表に出さずに言葉で反撃してくるから厄介だ。

 

「ただ、あの描写には明確な問題があるんです」

「この会話にも問題あると思うんですよ」

「それは射精している場所にあります」

 

 場所? と俺は今度こそ意味がわからずに首を傾げた。何か悪いところがあるんだろうか、と俺は思わずその描写を思い浮かべた。それを素早く見抜いた紗夜さんはそこに疑問文を差し込んでくる。

 

「どこに出してますか?」

「どこって、子宮?」

「はい、そこが問題なんです」

「えっと……わかんない」

「実は、どれだけ奥に挿入しても、子宮に直接は精子を送り込めないのです」

 

 え、そうなの? と俺は驚きの声を上げた。あげちゃった。紗夜さんはふふんと俺がノってしまったことを確信し、少しだけ嬉しそうにトーンを上げて解説を続けてくれた。ううん、内容が内容じゃなきゃ好感が持てるんだけどなぁ。

 

「女性器の内部構造は断面図ほど単純ではないのです」

「えっと、じゃあ……奥まで、とかは何処に当たるの?」

「それはポルチオですね。この子宮口のちょっと飛び出たところですね」

「そうなんだ」

 

 紗夜さんのスマホに映し出された、エロというよりは完全に医学的な断面図を示され、素直に感心してしまった。なるほどね、子宮は柔軟だから奥の飛び出たところに引っかかって、それが開発されると快楽になる、らしい。紗夜さんの説明によると。

 

「……タメになりましたか?」

 

 なった、とは言いたくないけど、知らなかったことではある。もしも誰かと初めてセックスをした時に勘違いしていたかもしれない。奥にコツコツと当たる感触はあるからそれで男のヒトは勘違いしやすいみたい。

 

「正直Pスポットは開発に時間がかかりますから、お手軽ならやはりGスポットですね」

「それなら聞いたことある単語だ」

「この辺りにありますね」

 

 先ほどの断面図を使って説明される。まぁ酷い会話だけど、紗夜さんの表情が分かりやすくてかわいいな、と思えるのがこの瞬間だから、やめられないのをなんとかしたいところだよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ♪ ♪ ♪♪ 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──というあらましを、ちゃんと小声でしました。今は水族館内部なのであまり通行人の皆様には聞こえてないかと思われます。

 さて、同族ビッチの花音さんの反応や如何に。

 

「……それが、普段の会話?」

「はい」

「……えと、うん……なんていったらいいのか、わかんないや」

 

 困ってしまわれた。どうやらやはり俺は紗夜さんに調教済みらしい。ガッデム。

 そんな困り顔の花音さんはけれど、なるほどね、と呟いた。何かわかるんだ、すごい。俺は何にもわかってないのに。

 

「何かわかりましたか?」

「うん。紗夜ちゃんって、もの凄くカンベさんのことを想ってるんだなあって」

 

 それでわかるもの? え、俺がおかしいの? 

 そう戸惑っていると、だってそれは性知識で、童貞くんに足りないものでしょ? とごもっともなことを言われた。そうですね、足りてないものです。不本意ながら補充されちゃってますけど。

 

「カンベさんにはハードルを下げてほしいんだと思う」

「ハードル?」

「うん。ハジメテのえっちでも、それを知ってればいいんだってこと、それと、セックスは怖いものじゃないよってこと」

 

 少し直接的すぎるけど、と付け加えられて苦笑いだけど、あれは紗夜さんなりの優しさでもあるだろうか。それにしては強引で直接的だけど。

 そこで直接的にしかできないのは紗夜さんが紗夜さんだからなのかもしれない。あのヒト、実はとんでもない不器用な気がするから。

 

「いいなあ、私もカンベさんのカノジョに立候補しちゃおうかな?」

「やめて」

 

 これ以上ビッチを抱えるのは流石にキャパオーバーです。俺は羽沢さんみたいな子がいいの!

 抗議すると花音さんは更に俺に纏わりついてきた。

 

「私は実技担当になってあげるから……ね? イチからジュウまで、手取り足取り」

「それヤってますよね」

「実技だから」

 

 意味ないし。というか当初の目的から逸れてる気がするんですよ、俺は。

 そして俺は誰かのセフレになるつもりは毛頭ないから。俺にとってセックスは本当に大切なヒトとする大切な行為だと信じてるから。

 

「そんなことより、紗夜さんのこと、というか花音さんの思考回路を教えてくれるんじゃないんですか?」

「紗夜ちゃんと私は違うよ?」

「それでもいいから」

「……じゃあ、移動しよっか」

 

 花音さんは俺の腕を引いて歩きだす。おどけた仕草は消えて、でも余裕な微笑みだけは残っていて、俺は暗闇を奥へ奥へと進んでいく。

 その先にあるものが、たとえ受け入れがたいものだったとしたら、俺は……その時は、きちんと覚悟を決めなきゃ。

 


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