紗夜のBはBitchのB!   作:本醸醤油味の黒豆

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Bアフター
彼女はBではなく/変化と成長


 めでたく、今年の春から大学生活が始まることになった。やったぜバラ色の大学生活。しかも、素晴らしいことに音楽系のせいか男女比率が3:7で全体的にレベルが高め、ランスがめちゃくちゃ羨ましがっていた。いやお前更に偏差値のいい文系行くじゃん、そこで正しくヤリすぎな性活……もとい生活でも送っていてください。

 

「そんなことを言いつつ……カンベこと赤坂陽太、彼は彼で美人でかわいくて、その上セックスがとっても上手なカノジョと爛れた性活を送っているのだった」

「送っていません、捏造です」

 

 失礼な俺はまだ清い身体です! そもそも勝手にモノローグを変えないでね? しかも多分に自画自賛のようなものが含まれていた気がするのですがいかがでしょうかその美人でかわいいのは事実だけどいざという時には臆病になるカノジョさん? 

 

「セックスは積極的ですよ」

「そういう話をしてるんじゃないから!」

「試してみますか?」

 

 だからそういう話じゃなくて……となんとか振り払う。この事実として美人な女性は氷川紗夜。普段は聡明で生真面目で清楚な雰囲気を漂わせるギタリストだけど、今の紗夜にはそんなオーラは皆無の元Bサイズのビッチさん。最近成長したので今はCサイズのビッチさんです。

 

「一途なのに」

「そういう意味でのビッチじゃないから」

「ひどいわ」

「今の会話のどこに擁護する要素があるのかな?」

「美人で聡明」

「ふざけんな」

 

 こんなどうしようもなく下ネタを放つ、どうしようもないビッチだけど、実は俺の恋人だったりする。というわけでピカピカの童貞だった俺もついにハジメテのカノジョができたわけだった。

 

「ところでカンベさん?」

「ん?」

 

 紗夜は未だに俺のことをカンベさんと呼ぶ。そっちのが呼びやすいから、と言われるとそうかとしか言いようがないけど、うーん、俺だって本名に愛着くらいあるんだけどね。

 けど、紗夜が呼ぶカンベさん、は特別だから許してる。って今はそこよりもっと大事なことがあるんだった。

 

「いつになったらセックスしてくれるの?」

「……まだ付き合って二ヶ月だよ」

「両想いになったのはもっと前よ」

「でも二ヶ月しか経ってないから」

 

 そう、俺と紗夜は二ヶ月前に付き合ったばっかりだ。そりゃお互いの気持ちを確かめ合ったのはその更に二ヶ月か三ヶ月前だけどさ。でも、俺はやっぱり付き合ってから二ヶ月、ゆっくり進めていきたいよね。それを紗夜は不満に思ってるんだとしてもさ。

 

「シたい」

「デートならしてるよ」

「セックス」

「口だけみたいになってるからね?」

「口だけじゃなくてちゃんとコッチでも──」

 

 はい出た紗夜のいつもの下ネタスイッチ。ソファに座ってのんびり人気スイーツとやらのテレビを見てたのに、紗夜は脚を開いてスカートをめくってくる。いやいやパンツ見えてますよお姉さん。ジト目で指摘すると、紗夜さんは唇を尖らせた。

 

「……前はパンツ見たら赤くなって慌てふためいていたわ」

「何回も同じものを見せられたらそりゃフツーは慣れるから」

「新品の勝負下着なのよ?」

「色柄の問題じゃないからね!?」

 

 いや確かにバラをあしらった鼠径部を覆う黒のレースとか、光沢のある紫のショーツはドキリとはするけど、パターン化された誘いは飽きちゃうからね。もっとも同じヒトに同じパターンの誘いなんてやったことのない紗夜さんは唇を尖らせてソファの上で脚を折りたたんで拗ねていた。

 

「紗夜?」

「しゃべりかけないでください」

「紗夜」

「……ふん」

 

 余裕のない顔を見せてくれるようになったのはそんなに前のことじゃない。前はもっと鉄面皮でセックスをスポーツか何かのように、愉しむために男と寝ていたのだと思っていた。けれど、今はこうやって俺と同い年らしい顔を見せてくれる。それが俺は好きだった。

 

「紗夜ってば、こっち向いて」

「なんですかもう……っ!」

 

 だからこういう時は俺からスキンシップを取ることを決めている。こっちに向いた隙に肩を抱き寄せて唇を重ねる。あんまり長くすると舌を入れられるので短めに。キスはもう何度かしちゃってるから、俺の中でハードルが低くなってるのが最近の悩みだったりする。

 

「……バカ」

「ごめん……でも俺はまだその覚悟ができてないんだ」

 

 紗夜はまだ少しだけ、昔の傷を引きずってる。だからこうやって俺がゆっくりとしてることに不安にさせてるんだってこともわかってる。

 でもいざカノジョができても、童貞たる俺は何をどうしたらいいのかわかんなくなっちゃうんだよね。紗夜は紗夜で、どうやらリードするんじゃなくて俺から誘ってほしいみたいで、いつもこうやって引き際はいいんだよね。拗ねちゃうけど。

 

「白金さんと、先にシてないわね?」

「紗夜がハジメテ、でしょ。そもそも燐子さんと浮気なんてしないから」

「私の後なら、いいわよ」

 

 燐子さんとの交流は続いてはいる。俺としてはいくらキスをしたり、好きになってしまった過去があるとはいえ、不誠実かなとは思ってる。けれど紗夜が燐子さん本人に付き合ってからのスキンシップの許可を出している以上断れぬまま、実は何回かキスをしていたりもする。ただしきちんと毎回報告している。キスは平気なのにおっぱいの話をするとちょっとだけ不機嫌になったりもする。

 

「今日は泊まりでもいいかしら?」

「ダメ、送ってくからちゃんと帰って」

「どうして」

「紗夜が襲ってくるかもしれないからさ」

 

 そんなの、もちろん嘘だ。俺が紗夜を襲いかねないからだった。いくらチキンでヘタレでクソ童貞な俺だって、隣で常に準備万端(オールオッケー)を公言する紗夜が寝てたら迸る劣情を抑えられるわけがない。俺は健全な男子なわけですよ。紗夜ならそれでもと言うだろうけど、俺としてはまだまだ、クソ童貞の理想の童貞の捨て方は捨てられないままだった。

 

「そんな顔をしないでよ、紗夜」

「だって」

「紗夜は俺のハジメテの女になるんでしょ? 心配しないでよ」

 

 時折、こんな言い合いはするけれど普段は結構ラブラブカップルしてると思う。紗夜は紗夜で結構甘えてくるし、俺は俺で紗夜に自分の気持ちを伝えていたいから言葉にしていく。帰り際に玄関で抱きしめて、紗夜は俺の胸に顔を押し付けてはぁと息を吐いた。

 

「ずるいわ。そんな風に言われたら、もう帰るしかないじゃない」

「ん? うん?」

 

 なんのことだろう。時々考えのない俺の言葉は紗夜に意図しない効果を与えていくようで、いや基本的には紗夜の眉が厳しく吊り上がってしまうことばっかりなんだけど、今は逆に下がっていた。

 

「それじゃあ、泊まっていいと言われる時を……楽しみにしているわ」

「え……あ、そういうこと」

「……ええ」

 

 逃げ場を塞がれ、ついでに唇も塞がれた。やっぱりこのヒトには勝てる気がしない。今まで通りの静けさとその表情を変えないままの妖しさにこんな風に頬を染められ、恋をされたら俺はもうキャパオーバーだよ。

 

「あ、それともう一つ」

「なんですか……」

「あなたと同じところに通えること、堪らなく幸せに感じるわ」

 

 そうやって紗夜は自分の家へと帰っていった。どっちがずるいんだか、仕返しのつもりだったなら間違いなく成功してるよそれはさ。

 いつも、俺はこのヒトに振り回されている。あっちこっちに幸せ手の鳴る方へ。

 ──けど、これで終わりだったら、幸せで終わりだったらこんなこと語る必要もないんだ。ただただ紗夜とイチャイチャするだけの物語なら、きっと未来への第一歩の時点で終わっていてそれ以上のものはないはずなんだから。

 

「うう……寒っ、早く帰ろ」

 

 風はまだ冷たい空気を運んでくる。きっとすぐにこんな寒さを忘れたように、風は上着を一枚脱ぎたくなるような熱を運んでくるだろうけど、それはまだまだ先のことのように思えた。そしてその風は、厄介な熱も運んできたらしい。

 スマホが震えて、俺はそのディスプレイに表示されている名前に目を見開くことになった。てっきりブロックされてると思い込んでたから。ああ、いやちょっと前に和解したことになるから大丈夫なのかな? ()()()()()()()()()()()()()んだから、結局気まずいままだったし。

 

「……もしもし?」

 

 けれど、そんな気まずいであろう相手にわざわざ電話を掛けてくる、しかももうクラスメイトでもなんでもない相手に、ということは何かがあると判断し、俺は警戒をしながら電話に出た。

 

「……カンベ?」

「うん、カンベだけど」

 

 その相手は、俺の初恋相手、飯倉美鈴だった。鼻を鳴らす声が聞こえる。いったいどうしたんだろうと首を傾げた。

 そして次の瞬間、美鈴は少しだけ迷った素振りを見せてから、やがてゆっくりと息を吐きながら言葉を紡いできた。

 

「……別れた」

「え?」

「カレシと……別れちゃった」

 

 それが、今回の始まりの合図だった。

 高校三年生の時、俺と美鈴との間に亀裂が走った時に比べればほんの些細で小規模だけど、紗夜と付き合ってすぐの頃に起こった事件の、始まり。

 


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