紗夜のBはBitchのB!   作:本醸醤油味の黒豆

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Rが来たりて/理想の違い

 そして、念願のRoseliaと、俺のバンドWonderersの顔合わせは、それからすぐ行われた。場所はSPACEが閉じられた今、新たなガールズバンドの聖地と囁かれる、CiRCLEのテラスの喫茶。言うならば向こうのホームってことだな。

 招かれた以上、俺たちが先に着くとあんまりよろしくないだろう、というメンバーの言葉に従い、ピッタリになるように行くと、そこには見知った顔が二人。

 本来なら緊張するところも、あんまり緊張しなくて済むな。

 

「来ましたね」

「……こ、こんにち、は」

「どうも~っ!」

 

 燐子さんの隣にいるのは初顔。まぁ消去法と見たことがあるからすぐに誰かは分かるんだけど。Roselia最年少にしてドラマーの宇田川あこさん……んー、印象的にはちゃん、の方が正しいかも。確か今年で高校一年生だったはずだけど、ロリ体型のロリボイス。燐子さんと仲がいいことも知っているけど、並べるとより凹凸がハッキリするね。

 というかそれより、三人しかいないけど? 紗夜さんに友希那は? と問いかけようとしたところで、その後ろ、CiRCLEのドアをくぐって、冷ややかで良く通る声が響いた。

 

「揃ったようね」

「ごめ~ん、まりなさんに無理言わせてもらっちゃってさ~」

 

 銀の髪を靡かせてモデルもかくや、というまっすぐで芯の強い歩き方でこちらへとやってくるのが、ボーカルの湊友希那。そして隣にいる茶髪のギャルが、ベースの今井リサ。共にRoseliaの根幹でリーダーとサブリーダーのような雰囲気がある。まぁ、友希那はガチのリーダーだけど。

 

「無理って?」

 

 と、ウチのギタリストが首をひねった。彼に対してリサは少しだけ弾んだ声で、砕けて事情を説明する。

 

「ほら、ここってガールズバンドオンリーじゃん? スタジオで今日だけでもキミたちを入れられないか~ってさ」

 

 顔見せのために、リサはそんなことまでしてたんだな。相変わらず気が利くというかなんというか。そもそも俺らの集まる丁度いいところにあるスタジオがここくらいしかない、って問題もあるんだけど。

 

「それじゃあ、お互いに自己紹介からで、いいですね?」

「ええ、いいわよ」

 

 おお、今日は紗夜さんがきっちりモードだ。冷ややかな友希那に負けず劣らずの冷ややかさとキリっとした雰囲気である。あれが俺の前だと下ネタを食事中にガンガンぶっ放してくるビッチだって言っても絶対に信じてもらえないレベルだ。

 

「ドラムのアイスです、よろしくお願いします」

 

 まずは、淡々と自己紹介していくアイス。コイツは割と無口だからな。淡々としててドライだから名前もドライアイスからとってアイスだし。

 

「ふっふっふ~、わらわは闇の女王あこ! 今宵……えーっと」

 

 中二病真っ盛りというよりはもはやRoseliaの宇田川あこ、と言えばこういうキャラとして成り立ってるから、それでいいんだろうな。ただ語彙力が足りないのか途中で頭を捻って燐子さんに語彙を補填してもらってる。

 

「ギターのトーマです」

「同じく、ギターの氷川紗夜です」

 

 トーマの短い自己紹介の後に、紗夜さんが短く続く。トーマはサバサバしてるしあんまり人付き合いは得意じゃないらしいし、ただ、とあるヒトに影響されて頑張って見た目を変えて、そのとあるヒトの隣を歩いても変じゃないように思われるようになりたいって一途さのあるバイト戦士の主人公くん。

 

「キーボードのランスです」

「白金……燐子……です」

「よろしくねっ」

 

 ランス、カッコいい名前とは裏腹の少年のような快活さに女装してもかわいい160センチ前半の身長に女顔のお目目パッチリのランス。

 ただコイツはセフレ含みで九股ヤリチン野郎なんで割愛。俺の敵。だから(ランス)だし。

 

「ボーカルのタイクーンです! 本日は友希那さま、えっと湊さんに会えて光栄ですっ!」

「……そう」

 

 タイクーン。本名に君付けが略されてできた文字通りウチの大君(リーダー)。そもそもこのバンドはタイクーンと俺が立ち上げたものだからな。

 俺はモテたくて、コイツは、湊友希那に近づきたくて。ただ友希那様呼びはやめようね。友希那も若干引いてるし。

 

「ベースのカンベです」

「リサでーっす☆」

「適当だな、自己紹介なのに」

「そっちこそ~」

 

 リサは、俺の幼馴染の一人でベースの師匠。普段はリサ、なんて呼ばないしなんならお前かアイツ、くらいしか呼ばないけど。それはリサも一緒だよな。名前呼ばれた覚えがない。

 

「嫌な予感はしたけれど……あなただったのね」

「文句ならそこのギャルに言ってほしいけど」

 

 自己紹介が終わったところで、友希那がそうやって口を開いた。そして、何かを考えるような仕草をする。

 ──そして、友希那はたった一言、ごめんなさい、と謝った。

 

「あなたたちとは、一緒に演奏できないわ」

「え!?」

「湊さん?」

 

 タイクーンと紗夜さんがほぼ同時に反応した。声に出したのが二人、というだけで、その全員が驚きの表情をしている。

 そりゃそうだ。実力を聴いてから、そういう約束だったはずだ。だから俺たちも十八番を持ちだしてきて、やる気十分だったのに、その前に友希那は首を横に振ったんだからな。

 

「ちょ、友希那~?」

「私たちは、頂点を目指しているの。遊びや趣味なんかでRoseliaはやってない。だから陽太のいるバンドとは、無理よ」

 

 それは無慈悲な宣告で、俺たちの誰もが口を閉ざしてしまう言葉だった。

 向上心はあるし、最近はファンも増えてきたから、プロ意識みたいなものも当然ある。でも、それでも俺たちのバンドは部活やサークルの延長線上にしかない趣味だ。友希那の言うことは正しいんだ。

 ──そう間違ってないんだ。

 

 

 

 

 

 ♪ ♪ ♪ 

 

 

 

 

 

 その日の夜、俺は紗夜さんからいつになく真剣そうな声色で連絡をもらい、リサ同伴の上でそれを許可した。夜に二人きりにはならないと決めているので。

 

「ごめんね、友希那が」

「まぁ、こうなるかも、とはトーマが先に言ってたしな」

「そっか」

 

 まぁ確かに、勝手にその気にさせといて趣味でやってるようなバンドとは一緒にできない、って言うのは身勝手なところもある。けど、友希那はその辺が無頓着だからな。

 アイツは歌に囚われてるから。歌以外の全てが疎かになってるんだよな。ストイックの鬼である紗夜さんですら、多面性を持ってるのに。

 

「理想が違うんだよ、アイツが目指す理想と、俺たちがやってることは、あんまりにもさ」

「理想、ですか」

 

 俺たちは短い青春時代に相応しいことをやってやろう。思い出を作ろう。そんな勢いでやってきてる。大学でもやるかもしれないけど、バラバラになるからな、あんまり確実にとは言えないし、プロなんて目指してすらない。頂点じゃなくて俺たちは今しか見てないから。

 

「しかも友希那の方は期待してたのに、出てきたのはモテたいのと趣味でバンドやってるって公言してる俺だからな」

「カンベさんの女性のタイプは白金さんだったのに、中身は全然違ってビッチだった、というような感じですね」

「例えがわかりにくい」

 

 合ってるけど。ちなみに紗夜さんも同レベルの落胆がありますからね? 自分のことは棚に上げないでね。

 

「でも、アンタは悔しくないの?」

「いいんだよ。口で何て言われても悔しくない。俺にはコイツがいるからさ」

 

 口ではモテたいから、なんとなく、そんな趣味と惰性の集まりでしかなくても、研鑽した時間とその時間にこめられた情熱は俺と相棒(ベース)だけが知ってること。

 そしてその研鑽と情熱が生み出した結果は、聴きにきてくれたヤツだけが知ってることだ。

 

「むしろ俺とタイクーンはアイツには感謝してるくらいだし」

「感謝、ですか」

 

 最後に、あのバカは言い切ったんだよね。じゃあ次は、友希那様が聴いてもいいって思えるまで頑張ろう、ってさ。

 友希那信者であるヤツは湊友希那がモチベーションだし、それ絡みならなんだって目標に一生懸命なバカだから。そしてその熱に衝き動かれてマジになっちゃうようなバカがアイツの作ったバンド、Wonderersだから。

 驚異の意味のワンダーと、売れたら札束の、なんて贅沢は言わないからたった百円でもいいから積み上げていきたいって意味の一ドルを掛け合わせた放浪者の集まり。バカしかいないからこのバンドは成り立ってるんだよ。

 

「次のライブは、それが目標かな」

「うんうん、それでこそアンタだよね~って、紗夜? どした?」

 

 そんな謝罪をする必要がないことを伝えたところで、紗夜さんが驚きの表情のまま固まっていた。

 なに、俺そんな凍り付くようなことなんか言った? 

 

「いえ……やはり、カンベさんは情熱的だな、とおも──」

「──思わず濡れたとかやめてね」

「……先に言わないでください」

 

 こちとらそろそろ三ヶ月近くもあなたの相手をしてるんですからね。慣れがあるんだよ慣れがさ。

 

「なんで二人は付き合ってないの?」

「カンベさんが童貞を拗らせてるからです」

「紗夜さんがビッチだからです……」

 

 いやどっちも原因としては合ってる気がしなくもないけど、なるべくヒトのせいにしたいじゃん、こういうの。自分があやふやな理想で童貞を卒業したくて紗夜さんを断ってるなんて言いたくないじゃん。

 

「最近はちゃんと自重してます」

「そうなの?」

「おかげで部屋で自慰をすることが格段に増えました」

「おい」

 

 隙あらば下ネタを放り込んでくるな。

 でも、それは知らなかった。あ、前のやつは確かに燐子さんが尻尾を出すためのブラフって言ってたな。つまり? そろそろ二ヶ月くらい、シてないの? 

 

「最近、ムラっとしたりはしますが、どうしても気分が乗らないの」

「それは、なんで?」

「訊きますか? そこで理由を?」

 

 うわ、めっちゃ睨まれた。そうですね、はいはい、俺がいるからって言いたいのね。よーくわかったからこの話は終わりにしようか。

 

「けれど相手がカンベさんだと思うと、ココが疼くんです」

「いやぁ、愛だね~」

「愛で済ませていいのか、この下ネタを」

 

 だから下腹部に手を当てるなっての! 愛おしそうに擦りながら微笑むな! まだ俺は清い身体です! そこに何も注いじゃいないどころか使ってすらないからね? 

 

「そろそろ認知してほしいわ」

「違う意味に聞こえるからやめてください……マジで」

 

 紗夜さんが俺を好きだって、信じられてないからってそういう言い方で脅すのはよくない。しかも下腹部に手を当てながらだと本当に違う意味になるから、やめてほしい。童貞なのにパパにはなりたくないです。

 そんなやり取りはさておき、ライブの目標も決まったんだし、頑張ろうと思う。幸いとRoseliaに味方が多いことがあるから、友希那をライブまで引っ張るのは案外簡単そうだ。今日だけは、紗夜さんと燐子さんに感謝しとくかな、今日だけね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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