劣等生と落伍者   作:hai-nas

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 初めまして、hai-nasです。
 あらすじにも書きましたが、この作品は処女作になります。
 稚拙な文章になっているかもしれません。
 更新も不定期ですが、やさしく見守っていただければ幸いです。


第一章 入学
第一話 幕開けは兄妹喧嘩?


 西暦二〇九五年、四月八日。

 国立魔法大学付属第一高等学校は、入学式当日を迎えた。

 新入生の誰もが緊張と興奮を覚えつつも、気持ちを同じくして入学式に臨む――

 

「やはり納得できません!」

 

――訳ではなさそうだった。

 校門を少し過ぎたあたりで、少女の声が響き渡る。その声に、周りにいた生徒たちが振り向いた。

 元々注目を集めていたので、この表現は適切ではないかもしれないが。

 なぜなら、声の主は並外れた美少女だったからである。

 名前を、『司波(しば)深雪(みゆき)』という。

 

「どうしてお兄様が補欠なのですか!!入試の成績だって、トップだったじゃありませんか!!」

 

「まだ言っているのか‥‥‥‥」

 

 そして声を浴びせられているのは、お兄様と呼ばれる相手だった。

 深雪がお兄様と呼ぶからには、その相手は彼女の兄なのだろう。従兄や近所の親しい年上の男性という可能性もあるが、彼は間違いなく『司波深雪』の兄なのだ。

 それほど似ている兄妹ではない。が、全く似ていないという事でもない。

 兄である『司波(しば)達也(たつや)』は、妹の深雪ほど見目麗しいとは言えなかった。しかし、高い身長と切れ長で理知的な目元、歳のわりに深い声が相まって女子人気は高そうだ。

 

「何度だって言いますよ!お兄様が補欠なのはおかしいのです!!」

 

 そんな兄に向かって、深雪はそう言い放った。

 事実、司波兄妹にとって、このやり取りはすでに両手で数えられないほどしているのだ。

 だから達也は冷めているし、深雪も普段以上に苛烈になることはない。

 それでも、深雪は自分よりも達也の方が優れていると思っているので、何度も熱くなって同じことを言っている。

 達也にもそれは分かっているが、こうなった妹を宥めるのは容易ではなかった。

 

「新入生総代は、私ではなくお兄様がするべきです!」

 

「あのな深雪、ここは魔法科高校だ。ペーパーテストの結果より、魔法技能が優先されるのは当然だろう。それに、俺の技能からすれば補欠でも下から数えた方が早いのは確実だからな」

 

 達也のセリフは謙遜ではなく本音だった。魔法科高校の試験では、達也が得意としている魔法を見せることができないし、そもそも評価対象にはならないのだ。

 

「そんな事言って、お兄様に勉学や体術で勝てる人間などおりません!」

 

 深雪の方も過大評価ではなく、高校生レベルで達也に勉学や体術でかなう人間などそうそういない。

 だが次の言葉は、達也にとって到底看過できるものではなかった。

 

「本当なら魔法だって――」

 

「深雪!!」

 

 突如声を荒げた達也に、深雪ははっと息をのみ、傍観していた生徒たちはビクついた。それだけ達也の声には迫力があり、それまでの口調からは想像できないほどの圧力が含まれていたからだ。

 二人が兄妹だと気が付いていない周りの生徒たちはそれを見て、聞き分けのない彼女に彼氏が怒ったと勘違いした。

 

「あのな深雪、これは言っても仕方のない事なんだ。お前だって、本当は分かっているんだろう?」

 

 そう言って達也は自分の左胸のあたりを指さし、続いて深雪の左胸のあたりを指さした。そこには八枚花弁のエンブレムが刺繍であしらわれているが、達也にはない。

 第一高校では、一科生と二科生の区別をつけるために、制服に違いがある。達也にエンブレムがないという事は、彼は二科生なのだろう。

 

「も、申し訳ありません‥‥‥‥お兄様」

 

「謝る必要はないよ。お前はいつも俺の代わりに怒ってくれる。それだけで俺は救われているんだ」

 

「嘘です‥‥‥‥」

 

 先ほどまで喧嘩しているように見えた二人がうって変わって甘々な雰囲気を醸し出し始めたので、周りにいた野次馬たちはすごすごと退散した。この甘々な雰囲気に耐えられる猛者も、そういないのだ。

 

「お兄様はいつも私を叱ってばかりですから‥‥‥‥深雪は駄目な妹です」

 

「嘘じゃないって。それにお前が俺のことを思ってくれているように、俺もお前のことを思っているんだよ」

 

「‥‥‥‥‥‥」

 

 ふと訪れた間。達也はおかしなことを言ったつもりはなかったのに、深雪が固まってしまったので多少疑問に思った。

 

「そんな、お兄様‥‥‥‥」

 

 動きを取り戻したと思ったら、今度は深雪の頬が物凄い勢いで赤くなっていく。達也はますます疑問に思った。

 

「私のことを想ってくださっているなんて」

 

 そこで達也はやっとニュアンスが致命的に違っていると気づいたが、訂正することはなかった。そんな事よりも、達也には片づけておきたい問題があったからだ。

 

「深雪」

 

「はい」

 

 達也の声色が変わったのを感じ取り、深雪は瞬時に気持ちを切り替えた。

 

「たとえお前が答辞を辞退したとしても、俺が代わりに選ばれることはない。そんな事をすれば、お前の評価が下がるだけだ。賢いお前になら、分かるだろう?」

 

 達也は二科生なので、新入生の代表に選ばれることは万に一つでもありえないのだ。そのことは深雪も十分分かっている。

 

「はい。では、そろそろ打ち合わせの時間なので失礼します」

 

「ああ、行っておいで」

 

「でも、ちゃんと見ていてくださいね!」

 

 一言付け加えてから、深雪は事前に指定された場所へと去っていった。

 新入生総代のお供を終え、達也はこの後入学式までどうやって時間を潰すか考えながら校舎を見上げた。

 


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