いきなり私事になり恐縮なのですが、この作品がUA2000越え、お気に入り20件に達しました。読者の皆様、ありがとうございます。
文章力が低い上にミスも多い未熟者ですが、これからも誠心誠意が頑張っていきますのでどうかよろしくお願いいたします。
結局あの後氷華は龍にベタベタと甘えだし、一同激しい胸やけを覚えて解散する流れになった。
そのまま達也たちは家に帰ってきたが、声を掛けてくる、もしくは声を掛けるべき相手はいない。
平均的な家庭に比べると大きなその家に、兄妹二人で住んでいるような状況なのだ。
達也は自分の部屋に戻ると、制服を脱ぐ。
手早く着替えを済ませ、リビングに行くとそこには部屋着に着替えた深雪がいた。
「お兄様、何かお飲み物をご用意いたしましょうか?」
「そうだね、コーヒーを頼む」
「かしこまりました。それでは失礼します」
きちんとお辞儀をして、達也の前から移動する深雪。その様子を見ながら、達也は今日出会った血の繋がっていない兄妹の事を考えていた。
名字が変わっているのに『百済』を名乗り、全国にその名を轟かせる“神才”である事を隠す兄、龍。
元々許嫁だったとはいえ、その兄に対して依存心が強すぎる妹、氷華。
二人の間には、何かがあるように達也には思えた。
とはいえ、興味本位で人様の関係に詮索を入れる事を彼は好まない。
それが深雪や自分にとって悪影響を及ぼすものだと判断するまで、そんな事はしない。
達也はそういう意味で言えば冷めていた。
だからコーヒーが出来上がったことにもすぐに気が付く。
「お兄様、どうぞ」
サイドテーブルにカップが置かれ、深雪は反対側に回って達也の隣に腰を下ろす。
もちろん達也のコーヒーはブラックで、深雪が手に持つ方はミルク入りだ。
「美味い」
賞賛に多言は不要。
その一言で、深雪はニッコリとほほ笑む。
そして安堵の表情を浮かべて自分のカップに口をつける。これが深雪の常だった。
そのままコーヒーを嗜む二人。
会話はないが、間が悪い思いはしない。
兄妹は二人きりの家で隣り合い、ただ静かにカップを傾ける。
「すぐにお夕食の準備をしますね」
空になったカップを持って、深雪が立ち上がった。妹が伸ばした手にコーヒーカップを預け、達也も立ち上がる。
こうして兄妹二人、いつも通りの夜が更けていった。
場所は変わり、東京近郊のとある地下室。
所狭しと様々な機械が置かれ殺伐としている中に、一台の旧式のモニターがある。
その前には、一人の人物が椅子に座っていた。
「ご報告は以上でございます」
モニターに掛けられる声は、人のものと思えないほど低い。
だが、そこに映る女性には、はっきりと届いた。
「そう。とりあえず、初日は上々の結果だったと」
女性の声は恐ろしく事務的で、感情が入る余地がない。
しかしそれはモニターのこちら側にいる人物も同様で、表情を隠す仮面を被っている分、余計に感情を読み取ることができなかった。
「ええ。少々のアクシデントはございましたが、ご報告の通り本件に直接関わる事ではありませんのでご安心ください」
「心配はしてないわ。貴方の作戦にどうせ抜け目はないのでしょうから」
「もちろんでございます」
直後、通信が切断され、モニターに何も映らなくなる。
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
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「‥‥‥‥‥‥‥‥」
部屋に無音が満ち、そのまま全ては夜の闇に紛れていった。