今話は中途半端なところで切れます。
至らぬところばかりですが、次話まで気長く待っていただければ幸いです。
オリエンテーションが終わると、その後は昼休みまで校内を見学する時間だ。二科生は各自自由に見て回ることになっている。
先ほどの遥の行動に一人で頭をひねっていた達也は、前の席から声を掛けられた。
「達也、昼までどうするんだ?」
声の主であるレオは、さっきと全く同じ体勢で達也に顔を向けていた。
達也としては引き続き学内資料を閲覧するつもりだったが、レオの期待に満ちた目を見て予定を変更することにした。
「特に何も決めていないから、付き合おう」
「じゃあ、工房に行こうぜ」
「工房?」
魔法科高校には、魔法関連機器(主にCADなど)の製造について学ぶための工房がある。 魔法関連機器を造る魔法工学技師は魔工師とも呼ばれており、現代魔法において重要な職業なので、工房を見学したいというのも分かる。
しかし、レオは見たところ筋肉質で肩幅もあるのだ。
だから達也は意外に思い聞き返した。
「達也が言いたいことは分かるぜ。なんでこんな体格なのに闘技場じゃないんだってな。俺が得意なのは硬化魔法なんだが、これは武器術との組み合わせで最大の効果を発揮するからな。自分で使う武器くらい、自分の手で手入れできるようになっときたいんだよ」
「なるほど」
どうやらこのクラスメイトは、見た目よりはるかに自分の事について考えているようだった。
「あの、それでしたら一緒に行きませんか?」
そこに、隣の席から遠慮がちな申し入れがなされる。
「柴田さんも工房に?」
「はい‥‥‥‥私、魔工師志望なんです」
「俺もだ」
「えっ、司波君って魔工師志望なの!?」
反対側から乱入してきたのは、エリカだ。
「達也、コイツ、誰?」
「うわっ、失礼な奴、失礼な奴!花も恥じらう年頃の乙女に向かってコイツ呼ばわりするなんて!!」
「はあ?オメェはどう見たって肉体派だろうが。乙女なんぞ似合わねえよ」
売り言葉に買い言葉とはまさにこのことである。
「何ですって、この脳筋原始人!」
「なっ、なっ、なっ‥‥‥‥」
エリカの暴言に絶句し、今にもうなり声になりそうなレオ。
見かねた達也と美月が仲裁に入る。
「もうやめろよ、二人とも」
「そうですよ、会ったその日なのに」
実は二人とも相性がいいんじゃないかと思った達也だったが、そう簡単には止まらないものだ。
「ふん、コイツが先に謝ったら、許してやってもいいぜ」
「何よそれ、むしろこっちのセリフだわ。あんたが先に謝りなさいよ」
「何をっ!」
「ほら怒った。これだから単細胞は」
「そこまでだ、エリカ」
ついに、教室の後ろの方から龍までも介入してきた。エリカとレオの視線が突き刺さるが、表情に変化はない。
「お前ら、いい加減にしろ。エリカ、入学二日目からクラスメイトに突っかかってどうするんだ。そっちの君も、高校生になって感情の一つも制御できないなんて恥ずかしいとは思わないのか?」
「う、それは‥‥‥‥」
「ごもっともだな‥‥‥‥」
正論を突き付けられ、しょんぼりとする二人。彼らの反応を完全に無視する形で、龍が達也に話しかけてきた。
「工房に行くんだろう?俺も付き合うから、早く行こうか」
「そうだな、教室に残っているのが俺たちだけになってしまう」
「あっ、私も行きます!」
そそくさと教室を出ていく達也と龍に、美月が慌ててついていく。
残されたエリカとレオは、互いににらみ合ってから三人の後を追いかけていくのだった。
昼休みの校内食堂。
腹をすかせた学生たちでごった返すのは、いつの時代も変わらない光景の一つだ。
工房見学を終えた達也たちも、当然その中にいる。
対面式のテーブルに座り、半分ほど食べ終わったところで、クラスメイトたちをぞろぞろと引き連れた深雪が現れた。
レオと自己紹介を交わした彼女は、当然のことながら達也と一緒に食べようとする。
学校の施設は一科も二科も関係なく使えるので、遠慮なく食事ができるはずなのだが‥‥‥‥
「君たち、席を譲ってくれないか」
深雪のクラスメイトである男子生徒の発言にまず反応したのは、レオとエリカだった。
「おい、それを言う前に言うべき言葉があるだろ」
「順序を考えないあんたのような奴にお願いされたって、誰も譲ろうとはしないわよ」
同じタイミングで反応する二人を見て、達也はやはり二人は相性がいいんじゃないかと思ったが、口には出さない。
「ふん、二科生ごときがギャアギャアと」
身勝手で傲慢な男子生徒の振る舞いに、早くもレオとエリカは爆発しそうになっている。
この場を治めるためには、自分たちが引いた方が手っ取り早い。そう結論付けた達也は、さっさと食べ終えて席を立った。
深雪は達也たちに目で謝罪した後、彼らとは別の方向に歩み去っていった。