劣等生と落伍者   作:hai-nas

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UA5000突破しました。
皆様、ありがとうございます。
これからも精一杯頑張っていきますので、どうかよろしくお願いいたします。
さて、今回は氷華の実力が少しだけ発揮されます。
乞うご期待ください。


第十五話 一科と二科のいざこざ

 午後の授業が何事もなく終わり、放課後になった。

 達也たちは、深雪と合流して帰宅の路に着こうとしていた。

 そこにいちゃもんをつけてきたのが、昼と同じ深雪のクラスメイトたちだった。

 

「いい加減にしたらどうですか?深雪さんは、お兄さんと一緒に帰ると言っているんですよ。他人が口をはさむようなことではないでしょう」

 

 学校の中庭に陣取る、達也のクラスメイト三人。

 対峙するのは、深雪のクラスメイトである一年A組の面々。

 その中心で雄弁をふるっているのは、なんと美月だった。

 達也と深雪は、少し離れた場所でそれを見守っている。

 

「美月って、意外に好戦的なんですね」

 

「ああ、俺も予想外だったよ」

 

 当事者であるはずの兄妹は、冷めている。

 

「大体、貴方たちに二人の仲を切り裂く権利なんてあるんですか!」

 

「ち、ちょっと美月‥‥引き裂くだなんて‥‥‥‥」

 

「深雪、なぜそこでお前が照れる?」

 

 美月の言葉に赤面する深雪に、達也はため息を吐きそうになった。

 当初美月は正論を並べ立てていたはずなのだが、次第に引っ掛かりを覚える言い方に変わってきている。

 当然事態は混迷を深め、兄妹が望む方向とは逆方向に進んでいた。

 

「そもそも、私たちは同じ新入生でしょう?どうして一科だ二科だとそんなくだらない事にこだわるんですか!」

 

「まずいな‥‥‥‥」

 

 達也の短い呟きは、そばにいた深雪だけが聞き取れた。

 一科生のほとんどは、自分がブルームである事に高いプライドを持っている。それを否定された、ましてや格下だと考えているウィードにくだらないと言われたとなれば、大人しくしているはずがない。

 

「‥‥‥なら、教えてやる。ブルームとウィードの差ってやつをな!」

 

 学内でCADの携行を認められている生徒は、生徒会役員と一部の生徒のみ。

 学外での魔法の使用も法令で規制されている。

 だが、CADの携行まで規制しているわけではない。

 CADがなくても、スピードと効率性を犠牲にすれば魔法は使えるからだ。

 だから学校では登校時に事務室にCADを預け、下校時に返却されることになっている。

 ゆえに、下校時に生徒がCADを持っていても何の不思議でもない。

 

「特化型っ?」

 

 ただ、それが同じ生徒に向けられたとなれば非常事態だ。

 攻撃力重視となることが多い特化型なら、なおのことである。

 小型拳銃を模したCADの、銃口に当たる部分が美月に突き付けられた。

 

「お兄様!」

 

 深雪の言葉が終わらぬうちに達也が動作を起こす、その直前。

 甲高い金属音とともに、少年の持つCADが吹き飛んだ。

 静まりかえる中庭。

 CADが地面に落ちると同時に、少年がそれを持っていた手をもう片方の手で押さえる。

 

「ほんと、最低ね。女の子に手を上げるなんて」

 

 聞こえてきた声は、とても小さいながらもよく響いた。

 声の主と思しき人物とはかなり離れている。

 その距離、数十メートル。

 二つの校舎が反響板の役目を果たし、しかも物音が消えた中庭だからこそ聞こえる距離だ。

 今の現象を理解できた者は、ごく少数の人間だけだと言わざるをえないだろう。

 魔法によって作られた、たった一発の氷の弾。

 次第に近づいてくる影――南海氷華を見つめながら、達也はCADの能力を改めて思い知らされている感じがした。

 男子生徒が持っていたCADの銃でいう引き金に当たるところを、氷華は持ち手とCADに加わるダメージが一番効率よく、しかし必要最小限の威力で氷弾を命中させたのだ。

 それも、数十メートルという距離から。

 この驚くべき命中精度は、多重鎖式凡用型CADによるところが大きい。

 使用者の技量もさることながら、CADと魔法式の相対位置のわずかな誤差を極限まで減らすCADの性能がなければ実現しない。

 達也は、滅多にしない感嘆の息を吐いていた。

 

(あ~、これは非ッッ常にまずいかも‥‥‥‥)

 

 一方、いざこざの中心にいるエリカにとっては、最も登場してほしくない人物の登場に嘆息を吐きたい気分だった。

 彼女の思考が、記憶が、警鐘を鳴らす。

 今の氷華は時限爆弾のようなものだ、と。

 いざという時には、少々手荒な真似もしなければいけない、と。

 氷華は元々こういう場に口や手を出すような性格ではない。むしろ、遠巻きに静観している方だ。

 にもかかわらず魔法を打ち込むほど機嫌が悪い理由は分かりきっている。昼間、食事を龍とともにとれなかったからだ。

 他人から見ればたったそれだけのこと、なのだが、本人にはそれさえも最優先にさせる事情がある。

 その事情を知っているのはエリカと龍だけだ。

 だからこそ、このまま事態が収束に向かっていくことを期待した。それがほんのわずかな可能性でも。

 

「おい!君も一科生なら、俺たちの邪魔をするんじゃない!」

 

 CADを打ち払われた男子生徒が、やってきた氷華の制服についている紋章を見て吠える。

 

「残念だけど、私に差別ごっこなんて趣味はないわ」

 

 差別ごっこ。

 それを聞いたエリカは、わずかな可能性が潰えたことを悟った。

 

「なぜだ!なぜ、このような下等な奴らを擁護する!」

 

 少年の発した言葉に、氷華が再びCADを彼に向けた、直後。

 エリカはカバンから警棒らしきものを取り出し、氷華の手を叩いた。

 

「痛いっ!」

 

 CADを取り落とさない、ぎりぎりの威力だ。

 叩かれた右手をさすりながら、氷華はエリカに抗議の眼差しを向ける。

 

「ちょっとエリカ、何するのよ!」

 

「あはは、ちょっとね~」

 

 向けられたエリカはといえば、へらへらと誤魔化している。

 しかし達也は、叩いた直後に一瞬だけ、エリカの顔に残心が浮かんでいたのを見逃さなかった。

 突然の仲間割れじみた出来事に、深雪のクラスメイトたちにも動揺が走る。

 その混乱に乗じてか、少年の左後方にいた女子生徒が魔法を発動しようとした。

 だが、それはかなわなかった。

 魔法式が展開された瞬間、先ほど氷華が来た方からサイオン弾が撃ち込まれ、魔法式は霧散する。

 

「やめなさい!自衛目的以外の対人魔法攻撃は、校則違反以前に犯罪ですよ!」

 

 走って近づいてくる、二人分の足音。

 一人は達也にとって見覚えのある人物、現第一高校生徒会長の七草真由美だった。


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