劣等生と落伍者   作:hai-nas

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皆さんこんにちは、hai-nasです。
一か月半にわたるブランクの影響か、文章が以前に増して稚拙になってしまいました。
感覚を取り戻すのにあと数話はかかると思いますが、これまでと変わらず読んでいただければ幸いです。


第十九話 生徒会勧誘

 二人のやり取りを見ていた深雪が、さりげなく言った。

 

「私たちも、明日からお弁当にいたしましょうか」

 

「深雪の弁当はとても魅力的だが、食べる場所がね‥‥‥‥」

 

「あっ、そうですね、まずはそれを探さなくては‥‥‥‥」

 

「‥‥‥‥まるで恋人同士の会話ですね」

 

 兄妹の会話を聞いていた鈴音が、爆弾発言を投下した。

 あずさの顔が瞬時に赤くなる。

 

「そうですね、血のつながりがなければ恋人にしたい、と思ったことはあります」

 

 しかし、達也に軽く返され爆弾は不発に、いや、誤爆に終わった。

 本気で赤面していたのはあずさだけではない。真由美も、摩利も、投下した張本人の鈴音も、そしてなぜか深雪でさえも赤くなっていた。ただ一人、龍だけは小さくため息を吐いた。

 

「‥‥‥‥もちろん、冗談ですよ」

 

 そんな面々に向かって、達也は二コリともせず淡々と告げた。

 

 

 

 

 

「そろそろ本題に入りましょうか」

 

 昼食を食べ終えると、真由美が真面目な表情で口を開いた。

 

「率直に言いますが、我々生徒会は、司波深雪さんに役員として入ってもらうことを要請します。引き受けていただけますか?」

 

 聞けば、主席入学者が生徒会に入るのは恒例のことだという。

 一度うつむき、顔を上げた深雪は、なぜか思いつめた表情をしていた。

 

「‥‥‥‥兄を、生徒会に入れることはできないのでしょうか?」

 

「おいっ、みゆ‥‥‥‥」

 

 一体何を言い出すのか、この妹は。

 そう思って止めようとした達也だが、深雪は止まらない。

 

「兄の入試の成績はご存じですか?」

 

「ええ、知っていますよ」

 

「デスクワークならば、必要なのは実技の成績ではなく知識や判断力のはずです。私を生徒会に加えていただけるというお話については、とても光栄に思います。ですが、兄も一緒という訳には参りませんでしょうか?」

 

 達也は顔を覆って、天を仰ぎたい気分だった。

 度を過ぎた身贔屓は、不快感しか与えないと分からないはずはないのに。

 

「残念ですが、それはできません」

 

 回答は、問われた生徒会長ではなく、隣の席からもたらされた。

 

「生徒会の役員は、第一科から選出されます。これは不文律ではなく、規律です。これを覆すためには、生徒総会で制度の改正が決議される必要があります。決議に必要な票数は在校生徒数の三分の二以上ですから、一科生と二科生がほぼ同数の現状、制度改正は事実上不可能です」

 

 淡々と、しかしすまなそうに鈴音が告げた。彼女が現在の差別的制度に対してどう思っているのか、声色だけでわかる。

 

「そうですか‥‥‥‥申し訳ありません」

 

 だからだろうか、深雪もおとなしく引きさがった。

 

「ええと、それでは、深雪さんは書記として今期の生徒会に加わっていただきます」

 

「はい、精一杯務めさせていただきますので、よろしくお願い致します」

 

 少し控えめに頭を下げた深雪に、真由美は満面の笑みで頷いた。

 

「ちょっといいか」

 

 そこに、摩利がおもむろに手を上げて皆の注目を集める。

 

「風紀委員会の生徒会選任枠が一枠、まだ決まっていないんだが」

 

「それは今、人選中よ。まだ新年度が始まって一週間もたっていないのだから、そんなに急かさないで」

 

 真由美が摩利をたしなめるが、当の本人は取り合わない。

 

「風紀委員に、一科生でなければいけないという規定はないぞ?」

 

「摩利、貴女‥‥‥」

 

 真由美が大きく目を見開き、鈴音、あずさも唖然としている。

 

「ナイスよ!と、言いたいところなんだけど‥‥‥‥」

 

 その言葉に、真由美は苦々しい表情を浮かべた。

 

「困ったわね‥‥‥‥その一枠に、本当は龍を選任しようと思っていたの」

 

「お断りします」

 

 それまでずっとだんまりだった龍から発せられたのは、明確な拒否の意思。

 真由美の表情は、さらに曇っていく。

 

「そこを何とかお願いできない?風紀委員に必要なのは、抑止力。貴方の魔法は、そういう意味では大変有効なの」

 

「お断りします」

 

「生徒会長としてだけではなく、幼馴染としてもお願い」

 

「お断りしますと言っているんです!」

 

 真由美の言葉を遮る形で、龍が声を荒げた。

 

「俺の魔法は抑止力ではありません!()()()()()()です!」

 

 彼がハッと我に返ったのは、その直後だった。

 静まりかえる室内。

 真由美も、摩利も、鈴音も、あずさも、深雪も、誰もが言葉を失っていた。

 龍はきまり悪い表情になると、今度は落ち着いた声でゆっくりと話し始める。

 

「それは貴女も分かっているでしょう、会長。いえ、それともこう呼んだ方がお気に召しますか、()()()()()()

 

 落ち着いたものから、上品なものへと、龍の声音は変わっていく。それと同時に、真由美の顔が赤くなっていったのだった。


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