劣等生と落伍者   作:hai-nas

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皆様こんにちは、hai-nasです。
昨日に引き続き投稿いたします。
それではお楽しみください。


第二十二話 模擬戦直前

 傲慢な服部の断言口調に、摩利は冷ややかに答えた。

 

「確かに風紀委員会は実力主義だが、実力にもいろいろあってな。達也君は、展開中の起動式を読み取り発動される魔法を予測することができる」

 

「‥‥‥‥何ですって?」

 

 起動式を読み取る。そんな事ができるはずがない。

 それは、彼にとって常識だった。

 

「つまり彼は、実際に魔法が発動されなくても、どんな魔法を使おうとしたかが分かる」

 

 しかし、摩利の答えは変わらない。それが事実であると、疑いもなく語っていた。

 

「当校のルールでは、使おうとした魔法の種類・規模によって罰則が異なる。彼は、今まで罪状が確定できずに軽い罰で済まされてきた未遂犯に対する強力な抑止力になるんだよ」

 

「しかし、違反の現場で魔法の発動を阻止できないのでは‥‥‥‥」

 

「そんなものは一科の一年生でも同じだ。それに、私が彼を委員会に欲する理由はもう一つある」

 

 これには、服部もさすがに返す言葉をすぐには見つけられずにいた。

 

「君の言う通り、今まで二科生が風紀委員に任命されたことはない。それはつまり、二科生に対しても一科生が取り締まってきたということだ。これは一科生と二科生の間の溝を深めることになっていた。私が指揮する委員会が差別意識を助長するというのは、私の好むところではない」

 

 服部はついに摩利に自分の主張を通すことを諦めたのか、真由美の方へ向き直り、直談判を始めた。

 

「会長。私は副会長として、司波達也の風紀委員就任を反対します。渡辺委員長の主張に一理あることは認めますが、風紀委員の任務はやはり校則違反者の拘束と摘発です。魔法力の乏しい二科生に、風紀委員は務まりません。どうかご再考を」

 

「待ってください!」

 

 達也は慌てて振り返った。度重なる服部の吐く毒に、ついに深雪が耐えられなくなったのだ。

 制止しようとしたが、すでに口を開いている深雪の方が早い。

 

僭越(せんえつ)ですが副会長、兄の魔法実技が芳しくないのは、実技テストの評価方法に適合していないだけなのです。実戦ならば、兄は誰にも負けません」

 

 確信に満ちた言葉に、真由美と摩利が軽く目を見開いた。

 だが深雪を見返す服部の目は、真剣味に欠けている。

 

「司波さん、魔法師は常に事象を冷静に、論理的に認識できなければなりません。身贔屓に目を曇らせることのないように心掛けなさい」

 

 口調はあくまでも親身だが、視線は深雪だけにむけられている。

 それがますます深雪を熱くさせる。

 

「お言葉ですが、わたしは目を曇らせてなどいません!お兄様の本当のお力をもってすれば――」

 

「深雪」

 

 達也から掛けられた言葉で、深雪は我に返った。羞恥と後悔にうつむいて口を閉ざす。

 達也は深雪が止まったことを確認すると、服部の正面に移動した。

 

「服部副会長、俺と模擬戦をしませんか」

 

「な‥‥‥‥思い上がるなよ、補欠の分際で!」

 

 言葉を失ったのは、直後に罵声を浴びせた服部だけではなかった。真由美と摩利も、呆気にとられた顔で二人を見つめている。

 しかし、罵声を浴びた達也は薄く笑っていた。

 

「何がおかしい!」

 

「魔法師は常に冷静を心掛けるべき、では?」

 

「うぐ‥‥‥‥」

 

 自分が発したセリフだけに、服部は言葉に詰まる。それでも、達也は止まらない。

 

「別に風紀委員になりたい訳ではありませんが、妹の目が曇ってなどいないことを証明するためならばやむを得ません」

 

「‥‥‥‥いいだろう。身の程をわきまえることの必要性を、たっぷりと叩き込んでやる」

 

 服部の目に映るのは、憤怒。

 すかさず、真由美が模擬戦を認め、摩利がそれに追従する。その宣言に、部屋の隅で小さくなっていたあずさが慌ただしく端末を叩き始めた。

 

 

 

 

 模擬戦の会場として指定された第三演習室の扉の前で、達也はぼやいた。

 

「入学三日目にして、早くも猫の皮が剥がれかけたか‥‥‥‥」

 

「申し訳ありません‥‥‥‥」

 

 後方から、泣きそうな声。

 

「お前が謝ることじゃないさ」

 

 振り返り、達也は妹の頭を撫でた。

 

 

 

 

 演習室で達也を出迎えたのは、審判に指名された摩利だった。

 

「君が案外好戦的な性格で意外だったよ」

 

 そういいながらも、摩利の目は期待に輝いている。喉元までこみ上げてきた深いため息を、達也はのみ込んだ。

 

「それで、自信はあるのか?」

 

「ある、といえばいいですか?」

 

 ため息の代わりに、多少嫌味を含んだ発言が飛び出したのは仕方ないだろう。

 もっとも摩利にはこたえた様子もなく、ニヤリと笑っていたが。

 そのまま彼女は中央の開始線へと歩いて行った。


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