劣等生と落伍者   作:hai-nas

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皆様こんにちは、hai-nasです。
またしても二週間経ってしまいました‥‥‥‥。連休中に少しでも多く投稿する予定なので、ご容赦ください。
そしてご報告があります。この度、この「劣等生と落伍者」がUA10000を突破しました!投稿し続けていればいつかは、と思っておりましたが、こうして一つの区切りを迎えられたことは嬉しい限りです。この小説を読んでくださっている読者様に、感謝しております。これからも、「劣等生と落伍者」をよろしくお願いいたします。


第二十三話 達也VS副会長

 達也は入学以来の人間関係にため息を漏らしながら、CADのケースを開ける。

 その中には、拳銃形態のCADが二丁収められていた。

 一方を取り、弾倉にあたる部分のカートリッジを別の物と交換する。

 

「お待たせしました」

 

「よし、では今からルール説明をする」

 

 達也と服部がCADの準備を終えたことを確認した摩利が、模擬戦におけるルールを説明していく。なお、半分以上棒読みだったのはこの際置いておくことにする。

 

「それでは、以上だ」

 

 達也と服部、双方が頷き、五メートル離れた開始線で向かい合う。

 この時点で、服部の顔には余裕が垣間見えた。

 こういう勝負は通常、先に魔法を当てた方が勝つ。魔法によるダメージを受けながら冷静に魔法を構築できる精神力の持ち主など、そうはいない。

 そして一科生(ブルーム)である自分が、二科生(ウィード)の、しかも新入生に負けるはずがない、と服部は確信していた。

 服部が所持しているのはスタンダードな腕輪形態の凡用型CAD。達也が所持している特化型CADよりスピードは劣るが、一科生(ブルーム)二科生(ウィード)の差が埋まるなど考えもしていなかった。

 二人はCADを構え、摩利の合図を待つ。

 場が静まり返り、静寂が立ち込める。

 

「始め!」

 

 合図と同時に、服部の右手がCADの上を走る。

 単純な操作とはいえ、その動作には一切の淀みがない。

 模擬戦とはいえ、戦闘は戦闘である。それなりに経験値を積んでいなければできるものではない。

 それは、彼が学内屈指の実力者であることを証明していた。

 スピード重視の単純な魔法式は即座に展開し、一瞬で服部は発動体勢に入る。

 その直後、彼は危うく悲鳴を上げそうになった。

 対戦相手が視界を覆い尽くすほど迫っていたのだ。

 慌てて発動座標を修正し、魔法を放つ。

 そのまま相手は基礎的な移動魔法によって十メートル以上吹き飛ばされ、その衝撃でノックアウトする、はずだった。

 だが、魔法は不発に終わった。

 敵の姿が消えたのだ。

 発動座標自体はそれほど厳密性を要することはないが、対象が認識できなければエラーは避けられない。

 慌てて左右を見渡す服部の背後から、激しい「波」が襲い掛かる。

 それは服部の体内で大きなうねりとなり、彼の意識を刈り取った。

 

 

 

 

 勝敗は、一瞬で決した。

 

「‥‥‥‥勝者、司波達也」

 

 摩利の声も控え目である。

 達也は表情一つ変えず、軽く一礼してからCADのケースを置いた机に向かう。

 

「待て。今の動きは、自己加速術式をあらかじめ展開していたのか?」

 

 その背中を摩利が呼び止め、問いかけた。

 

「そんな訳がないのは、先輩が一番良くお分かりだと思いますが」

 

 これは達也の言う通りだった。摩利は審判として、想子(サイオン)の流れを注意深く観察していたのだ。

 

「しかし、あれは‥‥‥‥」

 

「魔法ではありません。正真正銘、身体的な技術ですよ」

 

「私も証言します。兄は、忍術使いでいらっしゃる九重八雲先生の指導を受けているのです」

 

 摩利が息をのむ。対人戦闘に長けた彼女は、九重八雲の名声をよく知っていた。摩利ほど八雲のことを知らない真由美や鈴音も、身体技能のみで魔法によるアシストと同等の動きを可能にする古流の奥深さに驚きを隠せずにいた。

 もっとも、驚いてばかりではなかった。鈴音が新たに、魔法師としての見地から疑問を呈する。

 

「では、あの攻撃に使用した魔法も忍術ですか?」

 

「いえ、あれはただの想子(サイオン)の『波』です」

 

「ですが、それでは魔法師が立っていられないほどの想子(サイオン)波など‥‥‥‥」

 

 達也の答えに、鈴音はさらに考え込んでしまったのか口を閉ざしてしまう。

 その代わり、先程からチラチラと達也の手元をのぞき込んでいたあずさが、意外にも口を開いた。

 

「あの、もしかして司波くんのCADって『シルバー・ホーン』ですか?」

 

「シルバーって、あの謎の天才魔工師トーラス・シルバーのシルバー?」

 

 真由美に問われ、あずさの表情が一気に明るくなる。

 時に「デバイスオタク」とも揶揄(やゆ)される彼女は、嬉々として語りだした。

 

「そうです!その本名、姿、プロフィールの全てが謎に包まれていて、世界で初めてループキャスト・システムを実現した天才エンジニア!あっ、ループキャスト・システムというのはですね、通常の起動式が魔法発動のたびに消去されていたのを、特殊な処理を付け加えることで、魔法師の演算力が許す限り何度でも連続して魔法を発動できるようにした起動式のことなんです!理論的には以前から可能とされていたんですが魔法の発動と起動式の複写を両立させるのがどうしてもうまくいかなかったのを」

 

「ストップ!ループキャストのことは知ってるから」

 

「そうですか‥‥‥‥?それでですね、シルバー・ホーンというのは、そのトーラス・シルバーがフルカスタマイズした最新鋭の特化型CADのモデル名なんです!ループキャストに最適化されているのはもちろん、他の点でも高評価を受けていて、特に警察関係者の間では凄い人気なんですよ!しかもそれ、通常のシルバー・ホーンよりも銃身が長い限定モデルですよね?どこで手に入れたんですかっ?」

 

「あーちゃん、ちょっと落ち着きなさい」

 

 息が切れたのか、胸を大きく上下させながらあずさは達也との距離を半分ほどに縮めていた。真由美にたしなめられていなければ、顔がくっつくほどの至近距離にまで近寄っていただろう。

 一方、鈴音は新たな疑問に首を(かし)げた。

 

「おかしいですね。ループキャストは、あくまでも全く同一の魔法を連続発動するためのもの。『波の合成』に必要な振動数の異なる波を作り出すことはできないはずです。もし実行するにしても、座標・強度・持続時間に加えて振動数まで変数化しなければなりませんから。‥‥‥‥まさか、それを実行しているというのですか?」

 

 今度こそ驚愕に言葉を失った鈴音の視線に、達也は軽く肩をすくめた。

 

「多変数化は、実技試験で評価されない項目ですから」

 

 真由美と摩利がマジマジと見つめるその先で、彼の口調はそれまでと何も変わらない。

 

「なるほど、テストが本当の能力を示していないというのは、こういうことか‥‥‥‥」

 

 達也の言葉に応えたのは、うめき声を上げて起き上がる服部だった。

 

「はんぞーくん、大丈夫ですか?」

 

「大丈夫です!」

 

 少し腰をかがめてのぞき込むように身を乗り出してきた真由美に対し、服部は顔を赤くし慌てて立ち上がる。

 その行動は何というか‥‥‥‥ある種の感情が容易に推測できるものだった。

 そしてどうやら、真由美自身、服部が自分に向けている感情をしっかり理解しているようである。

 それを横目に見ながら、達也は摩利に呼び止められて中断していた作業を再開したのだった。


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