オリジナル要素を入れられず、しばらく原作とほぼ同じ流れになっています。
ご承知おきください。
CADは伝統的な補助具である杖や魔導書、呪符に比べて高速かつ精緻、複雑、大規模な魔法発動を可能とした、現代魔法の優位性を象徴する補助器具だ。
しかし、全ての面において伝統的な補助具に勝っているかというと、そうではない。
精密機械であるCADは、伝統的な補助具に比べてより
特に、使用者の
これ以外にも、CADを使いやすくするポイントはたくさんある。
CADの調整は魔工技師の仕事であり、腕の良い魔工技師が重宝される理由だ。
ところで、
だから、本来は毎日使用者の体調に合わせた調整を行うのが望ましいが、CADの調整にはそれなりに高価な専用機械が必要になる。よって、中小企業や個人のレベルで自家用の調整環境を整えることはまずできない。そういうところに所属する魔法師は、魔法機器専門店やメーカーのサービスショップで月に一、二回定期点検を受けるのが一般的だ。
第一高校はこの国でもトップクラスの名門校だけあって、学校専用の調整施設を持っている。生徒は教職員とともに、学校でCADの調整を行うのが普通だ。
だが達也の自宅には、ある特殊な事情から最新鋭のCAD調整装置が備わっていた。
夕食後、地下室を改造した作業室で自分のCADの調整をしていた達也は、たった一人に等しい同居人に声を掛けられて振り向いた。
「遠慮しないで入っておいで。ちょうど一段落ついたところだから」
その言葉は嘘ではない。また、一段落つくタイミングを見計らっていたからこそ、深雪は彼に声を掛けたのだろう。
「失礼します。お兄様、CADの調整をお願いしたいのですが‥‥‥‥」
彼女の手には、携帯端末形状のCAD。
近づくにつれて心地よく鼻をくすぐる、ほのかな
病院の検査着のような、簡素なガウンを身に着けている。
これは、本格的な調整を行うときのスタイルだ。
「設定が合っていないのか?」
「
過度な賞賛はいつものことだから、特に改めさせようともしない。
だが、フルメンテナンスは三日前に行ったばかりだ。いつもは一週間のインターバルなので、不安を覚えずにはいられない。
「すみません、実は、起動式の入れ替えをお願いしたいと思いまして‥‥‥‥」
「なんだ、そういうことか。本当に遠慮は要らないんだよ。かえって心配になるから」
妹の髪を軽くかき乱し、手の中からCADを抜き取る。
深雪は少し恥ずかしそうにうつむいた。
「それで、どの系統を追加したいんだ?」
凡用型CADに登録できる起動式は一度に九十九本。これは最新鋭機をさらにチューンアップした深雪のCADでも同じだ。
一方、起動式のバリエーションは、どこまでを起動式に組み込み、どこから自分の魔法演算領域で処理するかによって事実上無数に分かれる。
一般的には、座標、強度、終了条件を変数にして、それ以外は起動式に組み込んでおくというパターンが採られる。
しかし深雪の場合、できるだけ定数項目を減らして融通性を高めた起動式を登録するようにしていた。十五歳にして、一人の魔法師が習得できる魔法数の平均値を大きく上回る多彩な魔法を使いこなす彼女には、九十九という制限数は少なすぎるのだ。
「拘束系の起動式を‥‥‥‥対人戦闘のバリエーションを増やしたいのです」
「お前の実力があれば、わざわざ拘束系を増やす必要はないと思うが?」
多種多様な持ち札の中でも、深雪は特に減速系魔法を得意とする。減速系魔法のバリエーションである冷却魔法では、近似的に絶対零度を作り出すことができるほどだ。
「お兄様もご存じの通り、減速魔法の場合、部分作用式は発動に時間が掛かり過ぎます。今日の試合を拝見して思ったのです。スピードに重点を置いた、最小のダメージで相手を無力化できる術式が、私には欠けているのではないかと」
「うーん‥‥‥‥深雪はそういうタイプじゃないと思うけどなあ。お前の場合は絶対的な魔法力で圧倒できるんだから、領域干渉を用いた正統派の戦法の方が合っているんじゃないか?」
領域干渉は、自分の周囲の空間を自分の魔法力の影響下に置くことで相手の魔法を無効化する技術だ。
達也の言う通り、深雪の領域干渉は極めて強力である。魔法戦で受けに回っても、ダメージを被る可能性はほとんどない。
「ダメでしょうか‥‥‥‥?」
しかし、
「いや、そういうことはない。手持ちの魔法を削らなくても済むように、同系統の起動式を少し整理してみよう」
深雪にねだられて、達也が拒めるはずもないのだ。
「じゃあ先に、測定を済ませようか」
そう言う達也の顔は、技術者のものになっている。
深雪は一歩下がると、ためらいなくガウンを脱いだ。
現れたのは、あられもない半裸の姿。
計測用の寝台に横たわる深雪の身体を覆うのは、一対の白い下着のみ。
清楚な純白が、この上なく扇情的な色に変わるシチュエーション。
それが
だが、隠せない羞恥に目を
今の彼は、観察・分析し記録する、生身の身体で構成されたマシン。
感情を生じさせることなくあるがままの事象を認識する、魔法師の目指す一個の理想形を今の達也は体現していた。