本日三話目です。
基本書き溜めを修正しているだけなので、書き溜めがなくなるとペースが落ちます。
ご了承ください。
では、どうぞ。
深雪の答辞は、予想した通りの見事なものだった。
「皆等しく」やら「一丸となって」やら「魔法以外にも」やら「総合的に」やら、結構際どいフレーズが多々盛り込まれていたが、それらをうまく建前でくるみ、
その態度は堂々としながらも初々しく慎ましく、本人の並外れて可憐な美貌と合わせて会場
を虜にしていた。
深雪の身辺は、いつものように明日からもさぞかし賑やかなことだろう。
入学式を終えて、達也たちはIDカードを受け取るために窓口へと向かった。
受け取ると言っても、あらかじめ個人別のカードが作成されているわけではない。個人認証を行い、その場で学内用カードにデータを書き込むのだ。ゆえにどこの窓口でも作ることができるのだが、ここでも一科生と二科生とで綺麗に分かれていた。
ちなみに、深雪は主席としてすでにカードを受け取っているので、今頃は人垣に囲まれているに違いなかった。
「ねえねえ、司波君は何組?」
カードを受け取った後、講堂の隅でエリカが達也にそう尋ねた。その表情は何かを期待しているものだった。何を期待しているのか達也には分からなかったが、別に隠すような事でもないので答えにためらいはない。
「E組だ」
「やった!あたしもE組なんだ~」
達也の答えに、飛び跳ねて喜びを表現するエリカ。ちょっとオーバーリアクションだと達也は思いつつも、隣で同じような雰囲気の(行動にはしていない)美月を見て、これが普通なのかと思い直した。
「私も同じです!よかった、クラスで一人ぼっちになることはなさそうですね」
達也としては、一人になることが少なかった中学時代を思い出して、美月の発言には賛同しかねた。少しくらい一人になれる方が、達也にとっては楽だったからだ。
「俺もE組だが‥‥‥そんなに喜ぶようなことか?」
入学式の直前に自己紹介をして以降、龍はずっと口を閉じたままだった。しかし、内心では達也と同じようなことを思っていたらしい。
「龍、あんたね‥‥‥」
そんな龍に、エリカは呆れを隠そうともしない。その様子を見て、達也は思ったことを口にしないでよかったと思ったのだった。
「私はG組」
「あたしはF組~」
残る二人は別のクラスのようだが、彼女たちにがっかりしている様子はない。一学年八クラス、一クラス二十五人。一科生と二科生で分かれてはいるものの、その辺りは平等だ。
彼女たちはまだ見ぬクラスメイトに思いを馳せているのか、ホームルームへ向かうと言ってこの場から移動していった。
「ねえねえ、それじゃあ私たちもホームルームをのぞいてみない?」
「いいですね。司波君もどうですか?」
盛り上がっているエリカと美月には悪いが、達也にその気はなかった。
「悪い。妹と約束をしているんだ」
今日はもう授業も連絡事項もないと分かっている。
達也は諸手続きが終わったらすぐ、深雪と一緒に帰る予定だった。
「へぇ~、司波君の妹かぁ~。さぞかし可愛いんだろうな~。なんて言ったってお兄ちゃんがこれだけカッコいいんだから」
「千葉さん、別にお世辞はいいんだが」
「エリカ、あまり人様の用事に首を突っ込むんじゃない」
龍がエリカの態度をたしなめた。どうやら寡黙というわけではないらしいが、それでエリカが止まる様子はない。
「お世辞じゃないよ!十分カッコいいって!」
「‥‥‥もしかして、妹さんって新入生総代の司波深雪さんですか?」
さすがに恥ずかしくなってきたのか、美月が話題を変えてきた。達也に美月を困らせて楽しむような趣味はないので、すぐその質問に頷いた。
「えっ、そうなの!?じゃあ、もしかして双子?」
エリカの反応から見るに、彼女は達也と深雪が兄妹だとは思っていなかったのだろう。達也にしてみても、お馴染みの質問だった。
「よく言われるが、双子じゃないよ。俺が四月生まれで、妹が三月生まれだからね」
「そうなんだ。でもそれって、複雑なんじゃない?」
「エリカ、お前って奴は本当に‥‥‥」
龍に言われるまでもなく、エリカはすぐに『しまった!』という顔をした。
エリカの発言には、心配とも侮辱ともとれる意味合いが含まれていたからだ。
もちろん達也にもその意図は伝わっていたが、エリカも悪気があって言ったわけではないと分かっていたのでスルーする。
「それにしても柴田さん、よく分かったね。司波なんてそう珍しい名字じゃないのに」
「いやいや、十分珍しいって!」
達也の気遣いが伝わったのか、エリカも必要以上に気まずくならずに済んだ。だからこそツッコミを入れることができたのだろう。
「面差しが似てますから」
「そうか?」
達也は、身内贔屓を抜きにしても、深雪は美少女だと思っている。しかし、そんな深雪と自分が似ているとは一切思っていなかった。
だから美月の評価に疑問を覚えたのだ。
「いえ、顔もそうですが、お二人はオーラの面差しが似ています。凛とした雰囲気とか、そっくりです」
「そうそう、オーラよオーラ!」
「‥‥‥千葉さん、君って意外とお調子者なんだな」
「えー、そんな事ないよー!」
「こいつ‥‥‥司波、すまん」
「いや、大丈夫だ」
お決まりのような抗議は聞き流しつつ、龍の謝罪を軽く受けて達也は美月に向き直った。
「それにしてもオーラの面差しが分かるなんて、“本当に目がいい”んだね」
達也のこの発言に美月の顔が青ざめ、エリカの顔が疑問に染まった。龍は一人納得顔で頷いている。
「目がいいって、美月は眼鏡を掛けているよ?」
「そういう意味じゃない」
エリカの疑問には答えずに、達也は心の中で決意した。美月の前では、なるべく力を使わないようにしようと。
「龍、あんたはどういう意味かわかった?」
「分かったが‥‥‥これは本人が話すべき事柄だな」
そして同時に、龍に対しても警戒度を上げたのだった。
つい先ほど気が付きましたが、思ったより見てくださっている方がいるようですね。
ありがとうございます。
‥‥‥‥表現力が足らず、淡々としたお礼になってしまいました。
こんな私ですが、これからもよろしくお願いいたします。