岩のような冒険者   作:語り人形

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タイトルの無理矢理感が否めない。
実質ステイタス回です。


岩竜が如く

 いつの時代、いかなる世界でも、過酷な地を旅する戦士達にとって己の傷を癒す術を持つことは必要不可欠な要素である。

 

 不死たる勇者達でも秘宝たるエスト瓶無くして死地を潜り抜けることは叶わず、最高位の冒険者達でも携帯せずに迷宮へ潜る愚行はしない。

 たった一度の使用に限れども、回復の手段を持つことは心に余裕を持たせ、瀕死に陥りようともそれが起死回生につながる唯一の生命線と成りうるのだ。

 

 不死者(かれら)とは異なり、本来定命の者は一つにしか命を掛けられないのが常理。自身に使うのであれ、仲間の為であれど凶悪な怪物(モンスター)達が跋扈する迷宮は補給がままならず、使い果たした先で嘆く暇を、『ダンジョン』は与えない。

 

 ─故に、迷宮都市(オラリオ)の冒険者にとって回復薬(ポーション)は探索における必需品であり、それは馬鹿げた耐久性(カタさ)を誇る岩のような冒険者でも例外ではない。武器と同じく厚い需要があるポーションは下位から高位と幅広く生産されている人気商品なのだ。

 

 …………但し、

 

 冒険者が必ず購入する代物だからといって、それを()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()─ことは無い。

 

 

 

 …………

 

 

 

 西の大通りから外れた路地裏に位置する寂れた店舗─【青の薬舗】。

 五体満足の人体が描かれた看板(シンボル)が示すファミリアはかつては都市内の大通りに店を構え、それなりに栄えていたが月日は流れ、今やその栄光は見る影なく極僅かな者が利用している状態であった。

 

 赤焼けた空の下で屋根にいる閑古鳥が鳴く中、光源が乏しい店内で犬人(シアンスロープ)の女性─ナァーザは一人店番をしていた。眠たげ気な目をしながら時折ゴソゴソと物品を整理するだけの平穏(たいくつ)な時間を過ごしていると、カランと鈴が鳴り店のドアが開いた。

 

「いらっしゃ─あっ、ミアハ様。随分早い帰宅……あれ、ハベルも一緒?」

「ただいま、ナァーザ。ああ、広場でハベルと会ってな。早めに切り上げて二人で帰ってきた」

『久方ぶりである。ナァーザ殿』

 

 入店してきたのはファミリアの主神であるミアハと、大鎚を肩から下ろして低めに入るファミリア唯一の稼ぎ頭の団員─ハベルであった。

 

「お帰り、ハベル。見た感じいつも通りそうね。探索はどうだった?」

『フム、奴らに群れごと迫られたことは幾度かあったが、肩慣らしに丁度良い程度だ。それと、これが此度の探索の稼ぎだ。受け取って欲しい』

 

 ドサッとハベルは卓上(カウンター)に金貨の入った一袋を置く。中身にたっぷりとした量が詰められているのがわかる重みのある音をナァーザは犬耳で聴くと、うっすらとした微笑みをハベルに向けて感謝を述べた。

 

「ホントに、いつもありがとうね……ハベル。これで、暫くは生活に困らない」

 

 後ろでしっぽをパタパタと左右に揺らしている様子からも、彼女が見た目以上に喜びを感じていることを表している。

 

 本来ミアハファミリアは生産系、主にポーション類を始めとした製薬関連のファミリアであるが、悲しくも本業である商品の一日の売り上げはあったとしても『名も無き戦士の大きなソウル』がやっとであった。

 只でさえ薬の製造には金と手間が掛かるというのに、肝心の客入りは立地の悪さで店の存在自体がマイナーな状態下にあり期待出来ず、外で商品を販売してみるも主神の善意で無償配布されて消えるのが殆どであり、ハベルの稼ぎが無かったらファミリアの家計は骨の車と化していた。

 

 もしハベルがいなかったら今頃、純朴な少年を騙してでも採算をとっていただろうとナァーザはあり得た未来を想像する。

 

『金銭以外に、薬の素材が足りなければ我が迷宮より取って参る。いつでも申してくれ』

「すまないな、ハベル。お主に負担をかけさせてしまって」

「……自覚があるのなら、今後は商品を真面目に売るようにして下さい、ミアハ様。誰が作っているとお思いで?」

 

 とことんファミリアに忠を尽くすハベルにミアハは感謝と申し訳なさが入り交じった思いを口にするも、自分自身が経営難の原因の一端を担っていることに自覚が薄いことをナァーザに忠告されてしまった。

 

「う、うむ。わかった。─おお、そうだハベル! 夕食にする前にステイタスの更新を先に済ますか? 一ヶ月間ダンジョンに籠っていたのだ。お主も気になるであろう!」

 

 暗い、生暖かなジト目を向けてくる眷属の視線から逃れようと、ミアハは慌てた様子で無理やり話題の矛先を変える。幸いなことにハベルにしても己がどれ程成長したか興味があったことで了承してくれた。

 

 そそくさと部屋の奥に入る二人をナァーザは見送ると、ボソッと呟く。

 

「ウチのファミリア、そろそろ探索系に改めるべきなのかな……」

 

 

 

 …………

 

 

 

 Lv2 

 

 力:A853 耐久:A876 器用:F311 

 

 敏捷:I44 魔力:I0 対異常:I

 

《スキル》

 

怪重乱武(ヘヴィ・ストロング)

 

 ・一定以上の過重時における力と耐久の補正

 ・能力補正は重量に比例

 ・装着装備の耐性強化

 

無尽活精(フル・バイタリティ)

 

 ・疲労軽減及び持久力強化

 ・活動時間の継続力強化

 

 

 

「相も変わらず、見事なまでの偏りぶりであるな」

 

 ハベルの更新した、最新のステイタス表を一瞥したミアハは若干の呆れを抱いて呟く。アビリティの成長具合は個人の才能による違いこそあれど、いつしか限界域に到達すると幾戦を経ても僅かしか伸びないのだが、駆け出しの時からハベルのステイタスは力と耐久が良く伸びる傾向にあった。

 Lv2にランクアップして以降もその成長ぶりに変わりなく依然として衰えないのは、常日頃から装着している専用の重装鎧一式に加え、更に重量級の大型武具を携えていることが成長に一役買っているのだろうとミアハは推測した。

 尤もその反面、器用と敏捷……特に敏捷は彼自身の戦闘事情もあって著しく劣っている。その為にハベルが迷宮においてモンスターから『逃走』することはほぼ意味を成さず、同業者から群れを怪物進呈(パス・パレード)されようとも全てを迎え討たなければ為らなかったこともしばしばあったが。

 

「既にランクアップの条件も満たしている。もしかすると年内にはランクアップするのもあり得るな」

『されど、その為には偉業─己の全ての実力を振り絞らなければなるまい。最低限、我が大竜牙の一撃に耐えうるモンスターでなければ話にならぬ』

 

 医神の恩恵を授かる以前からハベルはLv1の冒険者を凌ぐ怪力と強靭な肉体の持ち主であった。それらが恩恵の能力補正で向上したに留まらず、前述の『怪重乱武(スキル)』の効果で更なる強化が施されたハベルは例えるならば『岩の竜』。

 

 並みいる冒険者とモンスター達の攻撃を弾く程の堅牢な岩の装甲と、階層主(ゴライアス)の硬い皮膚を内部の骨ごと打ち砕く大竜牙を振るう様は、さながら単体でも古代より猛威を振るい、現代に至るまで最強の怪物種と謳われる(ドラゴン)を彷彿させると云う。

 

 前回は24階層に棲まう『木竜(グリーンドラゴン)』の討伐に成功してランクアップを果たしたが、今回も同様なことをするならより強い相手を求めて下層に赴く必要がある。偉業を果たすには必ずしも強大な敵を制する必要がある訳ではないが、自らの殻を破るにはこれ以上にない単純な内容だ。

 

「精進するのは良いことだが、努々油断はせぬようになハベル。お主が無事に帰ってくるだけでも、私とナァーザは喜ばしく思っているのだ」

 

 五体満足で生還を果たせられることの大切さをミアハは説く。

 以前、ハベルは恩恵により主神は眷属の安否がいつでも分かるのでは? と聞くと、ミアハはこう返した。

 

「確かに神は自分の眷属ならば、どれだけ離れていようと繋がりを感じ取れる。しかし、神々(私たち)に分かるのは生死の判別のみだ。その者が無事か、危機に瀕しているか、その状態を知るには至らないのだ」

 

 ハベルが自身のLv以上の実力をもつ強靭な戦士なのはわかっている。中層でも彼に掠り傷を負わせられるモンスターは皆無と聞いている。しかし何が起きるか神でも予想がつかない迷宮を、単独(ソロ)で長期的な探索に赴く彼に不安を抱かずにはいられないのがミアハの本音だ。

 かつて心身に深刻な傷を負い、冒険者を引退した眷属がいるからこそ五体満足で帰還出来る有りがたみを男神は知っている。

 

「お主が望むなら、ロキのようなより探索に力を入れているファミリアに改宗(コンバート)させても私は構わないと思っている。そこでならばお主の実力は大いに生かせられるであろうからな」

 

 経歴不明、何処から流れてきたのか定かでなく、それでいて古代の英雄めいた強さを秘めている岩のような戦士は、この人と神で溢れるオラリオでもその特異性からかなりの注目を浴びている。今でもハベルの下にロキファミリアを始めとした大手探索系から誘いがあるくらいだ。

 

 ミアハとしてはハベルの今後を案じての発言であったが、本人は“否”と応えた。

 

『愚問だ。誓約を交わした日より、我は貴公に仕えると決めた。報酬目当てに易々と主を違えるような気はない。─安心せよ主、我とて力の程は弁えている。亡者のように本能に身を任せ、無思慮に未知の領域に踏み入れた挙げ句無駄に(ソウル)を散らかす気はない』

 

 かつてとは異なり、不死の呪いから解放された今のハベルは定命の『人間』。

 一度迎えた死に二度目の生は無い、されどそれが常世の理。

 

 

『我はハベル、ミアハ・ファミリアの戦士なり。たとえ我が身が倒れ伏しようとも、此所より生み出された『ポーション』が我に生きる力を与えよう』

 

 

 




ステイタスはハベルの戦士の特徴を強化させた感じです。

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