其は黒円卓の死神なり   作:ここまで来たら最後までやってやる!
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死神、諏訪原に立つ

この数十年の間でいろいろと試した結果、この体質は決して抑えきることのできないものだと改めて突き付けられた。そこにいるだけで他人の命を奪う死神となる私は、結局のところ誰もいない未開の地で引きこもっているしかないのだ。それこそ南極とか、そこらへんに。

しかし、悲しいかな私は今組織の一員であり勝手な行動は許されない。

と、嘆いてみたりしつつ目の前の現実から逃避している。

 

「テレジア~」

 

デレデレとだらしなく顔を緩めているトリファ、それに容赦なく制裁を入れるブレンナー。それを少し冷めた目で見ている幼い子ども。

あの二人が、かの人外魔境の黒円卓の一員だと言われても笑い飛ばしそうな光景だ。実際子どもは何も知らない可能性が高いが。

来るべきではなかったかもしれない。トリファの誘いに乗った時点である程度の覚悟はしていたが、まさかこんな光景を見る羽目になるとは思いもしなかった。

今目の前にいるのは、子煩悩な神父と行き過ぎた神父をたしなめるシスター、そしてその二人に愛情をたっぷり注がれて育っている純真無垢な子どもだ。

 

とても世界を壊そうとしている組織のメンバーとは思えない。特に、おそらく何も知らないであろう子どもが哀れでならない。

全ての舞台が整った時に一番犠牲を強いられるのは彼女なのだ。

自分の先祖がそう決めただけで、人生のゴールが決まってしまっている。思い描いた未来は決して手に入らない。それがどれだけ悲しいことか、苦しいことか。

そうありたいと願っても、周りはそれを許してくれない。自分を愛してくれているものですら自分をだましていたというその事実が、いつか彼女を苦しめる。

トリファはどうかわからないが、ブレンナーは苦しむだろうな。

 

「この人、誰?」

 

「ああ、この人は私の古い友人ですよ。お久しぶりですね、アズ。」

 

「本当に久しぶりね、今までどこに言っていたの?」

 

「連絡しなくてごめんよトリファ、ブレンナー。気が付いたら時間がたっていたということが何回かあってね。心配をかけたわびとして、こうして顔を出したというわけさ。」

 

久しぶりに再会する友人との会話はこんなものでいいのだろうか。いまいち実感がわかない。

子どもは興味深そうに私を見ている。しかし、ゾ―ネンキントとはいえまだ子ども。私がそばにいるだけで本来なら危険極まりないのだが、そこらへんはトリファたちが何らかの対策をしているらしかった。

 

「二人の子どもかな?神父とシスターの禁断の恋というやつをとうとうしてしまった感じだね。」

 

「ち、違いますよ。この子は私たちが引き取って育てているんです。決してリザと私の子ではありません。」

 

「ええ、決して神の前で告白できないようなことはしていないわ。それよりも聞いてくれる?この人ったら玲愛に異常なまでのスキンシップをしようとするのよ。この教会の神父として恥ずかしくないようにしてほしいのに。」

 

「そ、それはですね。私なりにテレジアを大切にしようとした結果そうなってしまうだけでして。決してやましい考えは持ち合わせておりません!」

 

「はいはい、夫婦漫才はその辺にしてね。それで、その子の名前は?テレジア?それとも玲愛?」

 

演技とはいえ、だんだん妙な気分になってきた。本当はそう言ったもしもがあるのだと突き付けられている気がして、妙に据わりが悪い。

あり得たかもしれない、現実にならなかったこと。その光景の一部が、今目の前にある。

腹の中がもぞもぞする。喉のあたりに何かつまっているような気にもなってきた。と、本当に何かが喉にせりあがってきてとっさに口を押えるも間に合わず。

 

「げほ、げほっ!」

 

口から大量の赤を吐き出した。そばにいた子どもがヒュッと息を吸った音が聞こえる。ああ、最近はあまりなかったから油断した。子どもの前でこうなるとは。

そう思考している間も口からは大量の赤が流れ続けている。一度始まるとなかなか止まらないのがこの現象の厄介な点だ。今さら失血程度で死にはしないが、見ていて気分のいいものではないし、吐き出している自分もあまり気分はよくない。

そうこうしている間に子どもは別の部屋に連れて行かれたらしい。トリファが差し出した布を口元に当てて、発作が収まるのを待つ。今まで起こっていなかった反動かなかなか止まらない。

ようやく止まったときには時計の針が一周してしまっていた。

 

「今まではどうしていたんです?」

 

「放っておけばそのうち止まるから放っておいた。」

 

「ハァ、あなたという人は全く。」

 

トリファは呆れたようにつぶやくと、一気に神父の顔から首領代行の顔へと切り替えた。

それに合わせるように私もすっと切り替える。

 

「今回はテレジアの顔をあなたに見せたかったのでこちらに呼びました。うっかり吸魂されでもしたらたまりませんからね。」

 

「本当にそれだけのために呼んだのか?」

 

「・・・キルヒアイゼン卿の様子がおかしいようですが、これは私の」

 

「ならばしばらくここに世話になる。せっかく近くに来たんだ、挨拶くらいはしてもいいだろう。次代のトバルカインにも会っておきたいしな。」

 

トリファは反対しなかった。貼り付けた笑みの奥で何を考えているのかはわからないが、私の中にある魂たちが叫んでいる。この男はあの男には及ばないが、別次元での詐欺師であると。

しばらく厄介になることをブレンナーにも伝え、あとでキルヒアイゼンに教会に来るように連絡を入れてもらった。私から会いに行ってもよかったのだが、街中を歩くだけで大量の死人が出かねないため禁止された。

 

 

 

 

貸してもらった客室の一つで本を読んでいると、軽いノック音が聞こえた。

本を閉じて振り返ると、キルヒアイゼンと日本人の子どもがいた。

 

「なんだキルヒアイゼン、その年で恋愛の真似事か?」

 

「なっ、ちがいます!!この子は櫻井 戒、次のトバルカインです。私はこの子の養育係を任されているだけで、あなたの言うような関係では一切ありません!!」

 

「そんなことは知っている。お前に男ができるものか。」

 

「何であって早々そんなにひどいこと言うんですか!?私あなたに何もしていませんよね!!」

 

呆然と立ち尽くしている櫻井に椅子に座るように勧める。彼は大人しくうなずくと、キルヒアイゼンをなだめにかかった。軽く40年は年が離れているだろうに、櫻井の方が落ち着いて見えることが何とも言えないな。

いくら年月が過ぎようと変わらないキルヒアイゼンの在り方は落ち着くものがある。もっとも、年下の男に世話を焼かれているのが目に見えてわかることは何とも言えないが。

 

「トリファが心配していたぞ。最近様子が変だとな。」

 

「あの男がそんなことを。」

 

「ところで、櫻井」

 

「なんでしょうか。」

 

「キルヒアイゼンのことはどう思っている。」

 

「き、急に何言い出すんですかあなた!」

 

キルヒアイゼンのことを無視して櫻井を見つめる。別にこんなことを聞いても何にもなりはしないが、もう少しだけこの空気に浸っていたいのだ。何せ私の周りにはこういった人種が少ない。めったに触れられないのだから、少しばかり意地が悪いことになるのは大目に見てほしい。

櫻井は特に気負った様子もなく答えた。

 

「きれいだと思いますよ。」

 

キルヒアイゼンが真っ赤になってうろたえている。どれだけ生きていてもこんな組織に身を置いていればそういった事とは無縁だろう。対応になれていないことは目をつぶっておこう。

 

「仲睦まじいことで結構だ。私は少しキルヒアイゼンと話がある。悪いが席を外してくれ。」

 

櫻井はキルヒアイゼンに何事か言ってから部屋を出て行った。ケイがどうとか言っていたが、今は関係ないだろう。

 

「それで、一体何の用ですか?あなたが自分から話をしたいだなんて言い出すとは思いませんでした。」

 

「何十年も一人でさまよっていたら誰かと話したくなっただけだ。特に深い意味はない。・・・キルヒアイゼン、トバルカインが心配か?お前のことだ、情が移ってしまっていてもおかしくはない。むしろそれが正常だ。もしそうならば誇っていい。」

 

「あなたは何様のつもりですか。まぁ、そりゃ戒のことは心配ですよ。トバルカインになるということがどういうことか、あの子は知っているわけですし。なのに自分が全部背負い込むんだって意気込んで。自分が情けないですよ。」

 

「キルヒアイゼン、早まるなよ。私はお前に触れたくはないぞ。櫻井にも、トリファにも、ブレンナーにも触れたくはない。私を傍観席から立たせるな。」

 

キルヒアイゼンは何も答えなかった。何かを覚悟した目をしてこちらを見てくるものだから、もう手遅れなのではないかと予感する。

キルヒアイゼンは、今夜諏訪原市の外れで待っているとだけ言い残して部屋から出て行った。




このころからテレジア呼びだったのかは正直わからん
時系列的にはベアトリスがジークリンデたちに会いに行く前です


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