雷霆の孫   作:Fice

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第51話 英雄を継ぎし者(ベル・クラネル)

 

 

英雄になりたい青年が、猛牛(ミノタウロス)に攫われた王女様を救いにいく物語。

 

時には悪い人に騙され、時には王様にも利用され、それでも騙されていることにも気づかない。

 

友人の知恵を借りて、精霊から武器を授かって、なし崩し的に王女様を助けてしまう……。

 

滑稽な英雄の物語……。

 

 

 

「う〜〜〜〜っ……」

「どうした、ベルよ?そんなカワイコちゃんのナンパが失敗したような顔をして? これは、儂のお気に入りの英雄譚だぞ?」

「でもおじ……ししょー、かっこわるいよぉ? さいごには王女さまにも助けられちゃって……こんなのありぃ?」

 

僕がそう尋ねると祖父はおおらかに笑う。

 

「はっはっはっ。なぁに、まだまだコイツはこれから」

「? もうおはなしはおわっちゃったよっ?」

「いいや、終わっとらんとも。ああ、続いとる。全てな。儂はコイツが今度は何をするのか、何を起こすのか……楽しみなんじゃ。出会った時から、ずっとな」

「ししょー?」

 

急に振り返った祖父を前に疑問を投げると、祖父は僕の目線までしゃがみ、両肩を叩く。

 

「いいか、ベル。何度でも言うぞ。他人に意志を委ねるな。誰の指図でもない。自分で決めろ。お前は、お前がしたいことをしろ。これは、お前の物語(みち)だ。お前が紡ぐ──お前だけの英雄譚(ものがたり)だ」

 

 

なんてことはない、遠い昔に祖父と話した会話を思い出す。

そう、僕は始源の英雄(アルゴノゥト)の英雄譚が最初の頃、どうも好きになれなかった。

だけど、僕が歳を重ねていくことにつれ、段々と好きになっていき、今では1番のお気に入りだったりする。

 

そして、今、僕は始源の英雄《アルゴノゥト》と同じようにミノタウロスと対峙している。

しかも通常のミノタウロスではなく、馬鹿みたいに強い猛牛(ミノタウロス)だ。

そんな相手に僕は物語(みち)を進む。

 

そう。これは、僕だけの英雄譚(ものがたり)だ。

 

 

 

 

 

僕とミノタウロスは(しき)りに互いの立ち位置を入れ替えた。

4本の足が草原を踏み締め、蹴り貫き、何度も何度も交錯していく。

絡み合う2つの動きは止まらない。

 

僕はミノタウロスの猛攻を防ぎ続け、隙を見つけては攻撃の主導権を貰う。そんな攻防を続けていた。

 

このミノタウロスは上手い。自分の肉体を巧みに使い、攻撃のタイミングや方向性を隠しながら大剣を振るう。

だが僕は今までにないほど視界が鮮明(クリア)で、かつてないほどに相手の動きが手に取るようにわかる。

 

先程まで防戦一方だったミノタウロスの攻撃を見切って避ける。絶対に当たらない。僕は持ち前の速度()付与魔法(ケラヴノス)の力を最大限に稼働させ、ミノタウロスの大剣を《ヘスティア・ナイフ》で()なす。

 

「……さっきから何なんだ、あのナイフは?自分(てめぇ)よりずっとでけぇ大剣を弾いてやがんぞ?」

「いや、武器の性能もそうだが……」

「上手い。ミノタウロスの力の向きを利用して受け流している。技で攻撃を(さば)いてるよ」

「本当によく凌いでいる。でも……」

「攻めきれない」

 

ミノタウロスの剣撃を右手の《ヘスティア・ナイフ》で迎撃した僕は左手から雷を放つも、避けられる。

ミノタウロスは荒い鼻息を出して、すぐさま僕を(ふところ)から追い払う。先程までの攻防で超近距離戦(インファイト)は不利と悟ったのだろう。

 

「あれはアイズと同じ付与魔法?」

「雷属性の付与魔法みたいね。見た限り速度と火力に特化された付与魔法だし、対人戦に特化してそうね」

「ねぇ、彼の胸辺り、なんか燃えてない?」

「恐らくもう一つの魔法だろう。まさか二重魔法(ダブルマジック)が使えるとは」

 

仕切り直し、今度は僕から仕掛ける。

僕はミノタウロスへ正面から仕掛けに行く。

 

『ヴゥムゥウウウウウウウウン‼︎』

「はああああああああっ!」

 

正面にいるミノタウロスからの横薙ぎをスライディングで躱し、鋭い雷を頭を狙って放つ。無論当たるとは思っていない。問題は次だ。

 

『ヴゥ……ッ⁉︎』

「ふっ‼︎」

 

僕はスライディングの勢いを使い、ミノタウロスの足の間をくぐり抜け背後に回る。雷は目眩しだ。狙いは大剣を持っている右手首。僕は《ヘスティア・ナイフ》を右手に叩き込む。

グズリと漆黒の刃が右手首に埋まり、骨も、筋繊維も断絶する。

硬い。けどここで決めないと後がない。

僕は雷を右手に集中させ、思い切り刃を捻り、ありったけの力で大剣ごと右手を空へと斬り飛ばす。

 

血飛沫が一気に舞う。

 

『ゴ、ォオオオオオオオオオオオオオオォッッ⁉︎』

 

絶叫を上げるがそれでもミノタウロスは左手で僕を殴ろうと反撃をする。僕はそれを跳んで躱す。そのままミノタウロスを踏み台にしてさらに中空へ飛翔する。目的は僕達の真上で宙を舞っている血塗られた大剣。

フォンッ、フォンッ、と空中で円を描く長大な剣の柄を掴み取り、そのまま縦に一回転。大剣の重さを活かし、下へ振りかぶる。

そして付与魔法の雷をありったけ大剣につぎ込む。

 

「くらえええええええええええ‼︎」

『ヴッ、ヴォアアアアアアアアアアッ?』

 

ミノタウロスは避けきれないと思ったのか自身の角で迎撃を図る。

ミシッ、と片角が砕ける音。

同時にピシッ、と銀塊の砕ける音。

大剣はミノタウロスの角を両断した後、僕の雷の負荷がとどめを刺したのか砕け散ってしまう。

即座に大剣の柄の部分をミノタウロスに投げつけ、そのまま斬りこもうとするが、ミノタウロスはそれをバックし躱して後方へと間合いを取る。

 

『フゥーッ、フゥーッ……⁉︎ ンヴゥオ……‼︎』

 

ミノタウロスは目を真っ赤に染め、片腕を地面に振り下ろした。

頭を低く構え臀部(でんぶ)の位置は高く保たれ四つん這いになるその姿、恐らく切り札である角を利用した強力無比なラッシュであろう。

だが助走は足りないはず、僕が有利だ。

 

『──』

 

もう片方の角がベルの見張られた瞳をギラリと焼いた。

眼球の奥底に届く視線の矛。

無言の疎通。

溶け合う意志と意志。

どうやらこれが最後のようだ。

 

なら、僕も切り札を出そう。

祖父に1つだけ見せてくれたあの技を。

今なら模倣できる、そう確信を持って。

 

僕は《ヘスティア・ナイフ》を鞘に納め、体勢を低くする。

その時、僕の右手首から上、淡い輝きを灯す純白の光が取り巻いていた。

雪の結晶より更に小さい光の粒が、一定間隔で右手の中に吸い寄せられ、かと思うとまた新しい光粒(こうりゅう)が生まれ、また吸い込まれていく。

光は収束しては収斂(しゅうれん)を繰り返す。

また、リン、リン、という高くか細い音が生じていることにも僕は気付いた。

あの不可思議な力だ。恐らくスキルにあるチャージ実行権。今になって漸く出来るようになったらしい。

まだだ、まだ足りない。

僕は自身の付与魔法と浄化魔法を右手に全部移動させる。

《ヘスティア・ナイフ》は燃え、そしてチチチと雷が迸る。

 

「なにあれ⁉︎」

「綺麗……」

 

炎、雷、光が僕の右手に渦巻く中。

僕とミノタウロスの眼光がかち合う。

 

そして、

 

「しいいいぃぃぃぃああああああああああッ‼︎」

『ヴヴォォオオオオオオオオオオオオオオッ‼︎』

 

突っ込む。

 

寸分狂わず同時に発進する。

瞬く間に、決着の一撃が邂逅(かいこう)した。

迫り来る巨体と角。

だが、僕はそれを凌ぐ速度で、一閃。

鞘で貯めていた《ヘスティア・ナイフ》を抜き放つ。

 

「火雷天神」

 

聖火と雷、そして純白の閃光に世界が染まる。

 

『──────────ッッ⁉︎』

 

凄まじい断末魔が炸裂し、ミノタウロスは粉々に弾け飛ぶ。

響く轟音。

音を立てて、猛牛の破片が地面を転がっていくそんな最中(さなか)

空高く舞い上がり、その身を回転させていた特大の魔石が、ザンッと地面に突き立った。

 

勝った。

勝ったぞ。

僕の勝ちだ。

 

そして僕は勝利の美酒に誘われるまま、意識を手放すのだった。

 

 

 

 

 

 

「勝ち、やがった……『強化種』に……」

呆然と、ベートは呟いた。

信じられないものを見るかのように、視線の先でたたずむベルを見つめる。

こちら側を向く、その少年の背中から喚起(かんき)される自己への問い。

 

自分がミノタウロスを倒せるようになったのは、いつの頃だった?

いや、単独であのモンスターを倒せるまで、どれほどの時間がかかった?

しかも相手は『強化種』だ。

そう考えた矢先、ベートの顔と体が真っ赤に煮え滾る。

腹の中心から沸き起こるどうしようもない苛立ち、羞恥が、全身の隅々まで行き渡った。

 

「……精神枯渇(マインドゼロ)

「た、立ったまま気絶しちゃってる……」

 

《ヘスティア・ナイフ》を振り抜いた体勢でピクリとも身じろぎしないベルに、ティオネとティオナの姉妹も唖然と呟きをこぼした。

文字通り力の全てを最後の一撃に出し尽くした少年の姿に、ともすれば畏怖(いふ)を覚える。

 

まるで物語のワンシーンを切り抜いたかのように、冒険者は1体の彫刻と化していた。

 

「っ……! 質問に答えろ、小人族(パルゥム)! あのガキは一体っ……⁉︎」

「ベル様……ベル様ぁっ!」

「おい⁉︎ ……ちッ!」

 

覚束ない足取りで駆け出していったリリにベートが舌打ちをする。

説明できない情動に(さいな)まれながらその光景に目を運ぶ。

視線の先には防具を剥がされたベルの背中。ボロボロになった黒のインナーは敗れ落ちる寸前で、肩甲冑辺りで網のように残っている生地によってなんとか繋ぎとめられている状態だった。

そして、その破れた箇所から(おびただ)しく刻まれている【神聖文字(ヒエログリフ)】が姿を覗かしていた。

 

「──! リヴェリア、あいつの【ステイタス】を教えろ!」

「私に盗み見をしろというのか、お前は」

「あんな堂々と晒しておいて盗み見になるかよ! あれをこのまま放置しておけば、お前が見たくなくたって他の奴等が目にするだろうぜ!」

 

ただ視界に入っただけ、違反をするわけではないと、そんな(てい)のいい言い訳をベートは声を荒げて【神聖文字(ヒエログリフ)】を解読できるリヴェリアに詰め寄った。

博識のエルフは嘆息しながら、それでもやはり興味があるのか、すっとベルの背に視線を走らせる。

 

「おい、まだかよっ」

「待て、もうすぐ読み終わ──」

 

リヴェリアはそこで中途半端に言葉を切る。

ベートは顔を(いぶか)しげにし、聞き耳を立てているティオナ達も不思議そうに彼女を見る。

すぐしないうちに、笑い声が彼女の口から漏れ始めた。

「……くっ、ふふ、はははっ」

「何なんだよ、オイ⁉︎ ったく、アイズ! お前もちったぁ【神聖文字(ヒエログリフ)】が読めんだろ! 何かわかんないのか‼︎」

 

心底おかしそうに肩を揺らすリヴェリアにベートは悪態をつき、代わりに問答をアイズに変えた。

直立不動を続ける彼女の視界には少年以外何も見えていない。

金の双眸(そうぼう)は剣のように、鋭く構えられていた。

 

「……S」

「はっ?」

「全アビリティ、オールS」

『オールS⁉︎』

ベート達が驚愕の声を揃える。

彼等は今度こそ言葉を失った。

 

しかし、彼女は1つの事実をベート達に伝えていない。

今もリヴェリアの喉をくすぐっている、SS──アビリティの限界突破という、目を疑う現実を。

 

「このガキの名前は?」

「彼の名前はベル・クラネルだよ」

 

ベートの質問に対し、フィンが昂りを隠せない表情で答える。

 

そんな中、アイズはベルに近寄っていく。

大切なものを見つけたような表情で。

 

 

 

「おかえり、ベル」

 

 

 

 






ベル・クラネル
 LV.2
 力 :S971→SSS1100
 耐久:S920→SSS1136
 器用:SS1063→SSS1223
 俊敏:SS1097→SSS1386
 魔力:SSS1124→SSS1421

幸運:I

≪魔法≫
雷霆(ケラヴノス)

付与魔法(エンチャント)
・雷属性。
詠唱式:【目覚めよ(アウェイクン)

竃の聖火(ウェスタ・フローガ)

・持続回復魔法。
・浄化魔法。
・対象指定可能。

詠唱式:【闇を打ち消す篝火よ、魂の炉を灯せ】
解呪式:【決意は満たされた】

≪スキル≫
英雄功業(アルケイデス)
・早熟する。
懸思(おもい)が続く限り効果持続。
懸思(おもい)が続く限り効果向上。
能動的行動(アクティブアクション)に対するチャージ実行権。

闘牛本能(オックス・スレイヤー)】(暫定)
・猛牛系との戦闘時における、全能力の超高補正。




少し小ネタ

・火雷天神

居合状態のまま相手に加速し、抜刀。
炎のような揺らめいた静と雷のような動のチェンジオブペースで相手が気づいた頃にはすでに切られている抜刀術。
ゼウスは『火雷天刃』と名付けていたが口頭であり、刃が神になっている。過去、素早い動が上手く出せなかったため、ベルは完全に習熟できていなかった。

明星の矢(オーリ・オール)
ベルが:=<5と一・+した後、60秒のチャージ実行権、浄化の力を使用し、投擲した遠距離必殺技。
その投擲は絶対必中の光。
命名は&¥€3○がつけたのだがなんか釈然としなかったベルがそれっぽくもじった。

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