「フッ」
短く息を吐き、素早く打ち出した拳が空気を引き裂き葡萄のような形をしたノイズを貫き爆散させる。
「ラァッ!」
鋭い蹴りがノイズを横へと両断し、高くあげた踵を勢いよく振り下ろし地面を陥没させるほどの衝撃で纏めてノイズを吹き飛ばした。
「やはり数が多いな」
場所はどこかの工場内。
その敷地はかなりの広さで、マスク越しでもわかるほどのオイルや薬品の匂いで火気厳禁だと思いつつ飛びかかってきたノイズへ裏拳を叩き込む。
かれこれかなりの数を倒したが、元気が衰える様子のないノイズたちに軽く鬱陶しくなってきた。
だが奴らを野放しにできないために作業とも言える駆除を繰り返す。
長い間こうした害虫駆除みたいなことをしてくると、もはや悟りの境地に至りそうだと思いつつ力を込める。
「仕方ない。 一気に決めさせてもらおう」
呟き、右手を横へと掲げようとした時にコーカサスゼクターが声を発する。
───気をつけよ総司。 上からなにか来るぞ
「む?」
掲げた手をおろし、アイロンのような手で殴りかかってきたノイズの攻撃を受け流し、短い足をひっかけ体勢を崩した所に手刀で地面諸共貫き消滅したところで迫る気配へ視線を向ける。
見えたのは空高くに滞空していた戦闘ヘリから飛び降りるふたつの乙女。
感じるのはフォニックゲインの奔流。
荘厳なる星星の煌めきの中で2人の歌姫がその歌を口にする。
絵画のような場面にマスクの下で息を飲む。
「"Imyuteus amenohabakiri tron"」
「"Croitzal ronzell gungnir zizzl"」
落下する2人の歌姫を光が包み、純白のプロテクターが装着され華麗に着地する。
清廉にして荘厳なる美しき戦姫。
これがシンフォギア……
───ほう、まさかここで奴らと遭遇するとはな。 どうするのだ総司?
不敵な声に飛来してきた飛行型ノイズの攻撃をカウンターの回し蹴りを放ち、蹴り砕きつつ答える。
「どうでもいい。 掃除の邪魔をしなければな」
───フッ、それもそうだな
「おーおー、相変わらずの蹂躙ぶりだなー」
こちらに目もくれず戦い続ける重装甲に身を包んだ戦士を見ながらシンフォギア "ガングニール" の装者、天羽奏は笑みを浮かべながら口を開く。
「それで、どうする翼? 一応ノイズ残ってるけど」
「ええ。 だけど彼には捕縛命令が下されている」
もう1人のシンフォギア "アマノハバキリ" 装者、風鳴翼の声に総司は少しだけ意識が向いた。
──当然そうであろう? ノイズには本来なら奴らの用いる聖遺物で倒せるというのが共通の常識。
だと言うのに別の手段で倒せるものがいるというのならなんとしても捕まえたくもなる。
それもそうか。
本来、ノイズには物理攻撃を無効化する位相差障壁がある。
だがそれをシンフォギアシステムの "調律" を使用し、強制的に人間世界の物理法則下に引きずり込んで位相差障壁を無効化していた。
彼の用いるマスクドライダーシステムには無論そんなものは無い。
それに、彼自身なぜノイズを倒せるか知らない。
「奏…… お願いしてもいい?」
「…… ハイハイ。 幸いアイツがノイズをだいぶ倒してくれてるから任しときな。 翼はちゃちゃっと仮面ライダーを捕まえてよー?」
「うん。ありがとう奏」
どんと胸を張る奏に翼は頬を赤くして、熱の篭った視線を向ける。
───ふむ、なにやらあそこの空気が桃色になっておるな
「ちゃちゃを入れるなコーカサス」
いくら戦ってるのが自分のため、暇だからと言ってこうも喋られると鬱陶しく感じてくる。
そうして、奏とは真逆の位置にいる近くにいたノイズを全て処理し終えた総司の元へ翼は歩き出す。
「…………」
「仮面ライダー、貴方には捕縛命令が下されています。 大人しく私たちに投降して下さい」
断れば力づくで、と刃を構える翼に総司はやれやれと言ったように首を振る。
こうなる前に方をつけたかったのだがなぁ
できる限り彼女たちとは戦闘を行いたくはない。
両手を上げ、戦闘の意思はないと伝えようとしたが、その寸前で脳裏に響と未来2人の笑顔が掠めた。
あげようとした手が下がる。
何故か彼女たちの笑顔が離れると思うと胸がざわつく。
───ならば……
「戦うしかあるまい」
人に対し拳を振るうのは己の信条を反する。
しかし、それでもとゼクターホーンへ手を伸ばし、2本の角を弾いた。
「キャストオフ」
装甲が浮き上がり、残ったゼクターホーンを横へと倒す。
『CAST OFF』
勢いよく装甲が弾け飛び、銀から黄金の戦士へと姿を変えた。
『CHANGE BEETLE!』
角がせり上がり、3つにわれると周囲へ衝撃波を放つ。
「「…………」」
両者は互いに対峙し、無言で構えをとった。
二人の間に風が吹き砂塵が僅かに舞う。
「おっりゃあ!!」
そして離れた場所から奏の戦闘音と声が聞こえ、それが戦闘開始とゴングの代わりとなる。
「ハァァッ!!」
勢いよく地面を蹴り、踏みしめた1歩だけで距離を詰め常人では回避不能の鋭い一撃が捉え───
「───」
ることはなく、刃が当たる瞬間に手甲で剣の軌道を誘導するように動かし、その攻撃を受け流した。
「なッ……!?」
零距離、額が触れる距離で翼の驚愕した顔が見える。
敵を前にしてそれは悪手だぞ?
「ハッ」
僅かにできた隙を利用し、彼女へと掌打を放つ。
その一撃は確かに翼をとらえ、後ろへとその軽い体を吹き飛ばした。
しかし手応えが少なく、僅かにそのマスクの下で眉をひそめる。
───ほーう、先の攻撃の一瞬のあいだに防御しつつ、後ろへ飛ぶことで威力の大部分を逸らすか。 まだ若いというのに大したものよ
お前は一体どっちの味方なんだ?
───無論、貴様に決まっておるだろう? だが確かな実力を持つものを称賛するのも大事だ
相棒の返答に真顔になりつつも、その意識は前方へと向ける。
「クッ、やはり一筋縄ではいかないか」
地面にぶつかる瞬間、片手でバランスをとり体操のように回転し地面へ着地した翼は鈍い痛みに呻きながら声を漏らす。
『
彼女の師であり叔父の "風鳴弦十郎" の言葉を思い出す。
別に自分の力を過信したというわけなどではない。ただ、人類を守る剣として、防人として戦う翼は目の前の存在がどうしてもわからなかったのだ。
戦場にふらりと現れてはノイズ諸共周りを掻き乱し、人類の敵かそうでないかハッキリさせない中途半端さに。
それを確かめるため、翼の内心を読み取り奏は行かせてくれた。
その事に気恥しさがあるが、自分を信頼してくれている彼女に嬉しく思う。
だから、
「私は負けるわけにはいかないんだッ!!」
叫び、その手には2本目の刀が現れる。
ダンッ!!
地面を踏み砕き、コーカサスへ切りかかる。
放たれる怒涛の斬撃。
大気を引き裂き、震わせる攻撃を休めず続ける。
その度にコーカサスは防ぐ、逸らす、避ける。
装甲に刃がぶつかるごとに火花がほとばしり、衝撃が地面を砕く。
「私は負けない!!」
双剣の柄を連結させ、刃に炎を纏わせ振り回す。
【風輪火斬】
「グッ!?」
その攻撃をはじき返す。
だが、衝撃は消しきれずたまらず声が漏れた。
「信じてくれた
後方へ飛び、瞳に炎が点る。
「今ここで超える!!」
一瞬の構えから、地面が爆ぜ姿が掻き消える。
【無月】
瞬間、目にも止まらぬ速度ですれ違いざまに神速の居合切りを放つ。
「ガァ!!?」
防ぎはした。だが、完全には威力は相殺しきれずに黄金の装甲から火花を散らし吹き飛ばされる。
──さすがに素手では厳しいか?
──ならば俺を呼べ総司。 こういう時こそ俺の出番だ
その声、"ヘラクス" か
コーカサスゼクターとは別の声が聞こえ、空間から銀色の光と1本の剣が飛び出す。
「仕方ないか」
あまり乗り気ではないが、このままではジリ貧でもある。
ゆっくりと立ち上がり目の前の地面に突き刺さった "ヘラクスブレード" を引き抜く。
銀色のヘラクレスオオカブトのようなロボット "ヘラクスゼクター" がヘラクスブレードへと自動的に装着される。
「変身」
つぶやき、ゼクターを僅かに傾いていた状態から90度回転させた。
『HENSHIN』
ゼクターから電子音が鳴り、腕を起点に全身を無数の小さな六角形が覆い光を放つ。
光を引き裂きソレは現れる。
金色だった装甲は銀色へと変化し、頭部のライダーホーンは突き出すよう変形する。
青い複眼は深紅となり、ショルダーアーマーも形を変えた。
──さぁ "仮面ライダーヘラクス" のお披露目だ小娘
ヘラクスブレードを構え、その赤い複眼を輝かせる。