風鳴翼は目の前で起きた予想を超えた出来事に驚愕した。
ライダーが空間から現れた機械的な見た目の剣を握ったかと思うと、銀色の光が剣の峰部分へ装着される。
それは突然だった。
剣を起点に全身を無数の小さな六角形が包み込む。
閃光を放ち、シルエットが少しずつ変化したかと思うと次の瞬間には光を引き裂き姿が一変した戦士がそこにはいた。
黄金から銀へ、拳から剣へ。
拳士から剣士となった戦士は自身の状態を確かめるかのごとく、剣を振るう。
「ッ!!」
たったそれだけだと言うのに、剣士として翼の本能が警鐘を鳴らす。
──アレは野放しにしてはまずい、と
先に動いたの翼の方だった。
再び一瞬の構えから距離を零にし、不意打ちのように必殺の居合を放つ。
【無月】
その流れるような美しき一閃は確かに仮面ライダーを捉え、傷をおわせ切断しかねない一撃であった。
誰もがそうおもえるほどの一瞬の攻撃。
だが、当人を除いてだが。
「なっ…… に……?」
【Rider Slash】
予想に反して手傷を負ったのは翼の方だった。
切りかかる、神速の抜刀術を放ったのはいい。だが、それよりも速く、正確な攻撃を放ったのだ。
翼が切りかかるやいなや、やつは剣の峰にセットされていたヘラクレスオオカブトのようなものが180度回転させ振り抜き一閃。
己の動体視力を超える雷を纏わせた刃の一撃に翼は数十メートルも吹き飛ばれる。
だが、体勢を崩さずすぐにも持ち直したのは風鳴としての意地かそれとも彼女の技量か。
ピシリ、小さな音だがたしかにそんな音が自身が握るアームドギアの刀身から響いた。
「剣の心得すら…… 持っているのか……!」
半ばから折れた刀身を見つめ、翼は気圧されたように叫ぶ。
深夜の時間、極寒とまでは行かないはずだが冷える時間だと言うのに翼の背中に汗が伝う。
ただ無言で剣を構え、姿の変わった仮面ライダー。
気圧された翼だが、怖気付いた訳では無い。
寧ろ同じ土俵に立たれたことで余計に負ける訳にはいかない理由ができてしまった。
「風鳴翼、推して参るッ!!」
──おい総司、お前手加減しただろ?
当たり前だ馬鹿野郎。 今までだって殺さないよう手加減していたのをお前は…… 勝手にライダースラッシュッを発動させやがって彼女を殺す気か?
──こういうのは最初が大事だろ? それにこれでやられればその程度の相手だったというだけだ
お前なぁ……!
好戦的な性格のヘラクスゼクターに頭を抱えたくなる。
だが双剣を操り、お姫様の激しくなった攻撃を最小限の動きで捌くのに意識を割いているためそれ以上の返答ができない。
──クックックッ、これだけの相手と立ち合える。心が踊るではないか!!
こ、の
──フハハハハ! 強者と命をかけた戦いこそが俺の生きがいである!!
ええい!!
つばぜり合いに持ち込み、刃がふれあい火花が暗闇を照らす。
こちらを見下ろす形で剣を押し込む仮面ライダーを睨み付ける。
「お前はなぜ戦うんだ!」
「…………」
「それだけの力がありながら!」
「ノイズを壊すだけなら器用な技など必要のないはずだろう!?」
切り払い、後ろへ逃げようとしたライダーに肉薄する。
「ッ!!」
「ハァァァアッ!!」
【蒼ノ一閃】
【1】
【2】
【3】
ヘラクスゼクター内部で生成、貯蓄されたタキオン粒子が刀身へ供給。
タキオン粒子がプラズマとなり巨大なエネルギーブレードを形成する。
【Rider Strash!】
エネルギーの奔流が互いを喰らい合い、波動となって周囲をつつみ爆発する。
そして、青い影が落下し地面へと墜落する。
それとは対照的にゆっくりと地面へ着地するのは銀の光。
──届かなかった……
全身の装甲がヒビ割れ、ダメージに呻きながら翼はこちらを見下ろすヘラクスを見て悔しげに歯を食いしばる。
悔しい、これだけ自分が全力を出しても奴はそれ以上の力を持って叩き潰す。
底の見えない強さに翼の心に暗雲が立ち込める。
「お前の…… お前の目的はなんなんだ…… 仮面ライダー!」
何もせず見つめる赤い複眼は答えず、こちらへ背を向ける。
「敗者には…… かける言葉すら無いというのか……!」
「翼ァ────ッ!!!」
暗闇を引き裂き、天から無数の光が降り注ぐ。
声は工場の外、はるか上空から聞こえた。
槍の雨と言えるそれは等しく破壊をもたらし、翼の心に生まれた闇をヘラクス諸共飲み込んでいく。
【STARDUST∞FOTON】
瞬く間に無数の槍で作られた山と砂塵に消えたヘラクス。
呆然とした様子の翼にひとりと歌姫が側へ降り立つ。
「奏、どうして!?」
「ちょろっと嫌な予感がしてな。 急いでノイズども蹴散らしてきたんだよ。 んで案の定だ…… こっぴどくやられたな翼」
「ッ、ごめんなさい…… 送り出してくれたのに私は」
「そう自分を責めるなよ。 それなら行かせた私も同罪だっと…… オイ、聞こえてるんだろ仮面ライダー! あとはアンタだけだ!!」
答えるように山の一角が爆ぜ、砂塵を引き裂き銀の戦士が現れる。
「ハハハ、わりと全力でぶっぱなしたのにああも無傷だと自信なくすわな。オイ」
威風堂々と現れたヘラクスに奏は静かに舌打ちする。
ノイズなら簡単に破壊できる最大の一撃を受けてなお、確実に地を踏み、その鎧に傷一つ付けられないことに変な笑いが込み上げてくる。
「オイオイ、まさかアレ全部切り払ったのかアンタ?」
奏の問に返答とばかりにヘラクスはその手に握られた光の槍を握り潰す。
ゆっくりと
遊びは終わりだ、と言わんばかりに。
これから始まるのは真の殺戮。
愚かにも立ち向かった乙女を細切れにすべく向かってくる。
だが、退くわけにはいかない。
それはなぜか?
それは2人はシンフォギアを纏う戦士だからだ。理由はそれだけで十分。
「奏、やつは別格。1度見せた技は通じないと思って」
「おうさ。 さっきの攻撃を簡単に見切られたからな」
2人は覚悟を決め剣と槍を構える。
到底自分たちがかなう相手とは思っていない。だが!
ノイズに怯える弱き人々を守るため、唄を歌う戦士として退くわけにはいかない。
自分たちが退けば誰が戦う? 誰がノイズから人々を守る?
確かに1人ではあの戦士に刃が届くことは無い。しかし、2人ならば!
剣と槍を重ね、片翼ではなく双翼となるならば!
『ツヴァイウィング』の翼ならば大空をはばたける───!!!
「行くよ奏!」
「おうさ! そっちこそ途中でへばんなよ翼!」
武器を構える2人の歌姫。
第2ラウンドが始まるかと思えたが、それに水を刺したのはあろうことか仮面ライダーの方であった。
「…………ッ!!!」
戦意を高める2人を無視し、工場の外へ視線を向ける。
明らかな隙、だというのに2人は切りかかることは出来なかった。
理由は不気味であったり、なにかの罠だったりといくつもあるが何よりも奇妙な感覚が胸を走ったからだ。
最初に駆け出したのはヘラクスであった。
もはや歌姫たちは眼中になく、工場の外へと駆ける。
翼と奏は顔を見合わせ、声を荒らげてヘラクスを追いかける。
「待てコラァ! おいあれだけ煽っておいて逃げんなァ!!」
「速い!?」
『翼、奏、緊急事態だ!』
するとインカムから荒らげた風鳴弦十郎の声が聞こえ、2人は立ち止まる。
「なんだよ旦那! いまあたし達は忙しいんだよ!」
『ノイズの援軍だ! デカいぞ!!』
「なッ!?」
その時、おおきな地震がおこる。
急いで工場の外に出ると、見えたのは多くの遮蔽物があるというのにひときわ巨大な影であった。
「でッかぁ…………」
「うそ……」
十五メートルは超えるであろう巨体に絶句する。
まだ数メートルほどなら対応はできる。だが、あれほども巨大さともなるととてつもない耐久力を持っているだろう。無論、攻撃力もあの巨体通りだというのなら想像もしたくない。それが2体だ。
ノイズの恐ろしさは大きさではなく、その数だ。だが、あの巨大なのはそんな次元ではない。
絶対にあのノイズを街に出してはならない。
出してしまっては途轍もない被害が出てしまう。
ここで食い止めなれければ。
翼は刀、奏は槍を。各々は武器を握る手に力を込める。
2人は覚悟を決め、走り出す。
その時、
『いいか2人とも、反応は2つ。片方は彼にまか───』
【Clock Up!】
…………………………………………
【Clock Over!】
『なッ……! 反応が全て消失しただと!?』
地響きが地面を揺らす。
そこには片方の大型ノイズが体を煤へと分解されていく。
上空にはヘラクスが剣を逆手に持ち、装着されたゼクターの足を順に押していく。
【1】
【2】
【3】
「…… ライダーアバランチ」
360度ゼクターが回転し、ヘラクスが呟くと同じようにゼクターから声が発される。
【Rider Avalanche!】
「ハァアァァァアッ!!!」
大量のタキオン粒子がヘラクスブレードへ供給。
プラズマとなったタキオン粒子がエネルギーを発生させ、翼が受けたものとは巨大なエネルギー刃が形成される。
『■■■───、■■■■■■─────!!!?』
空間を歪ませるほどのソレはノイズへと突き刺さり、内部から破壊していく。
あちこちからエネルギーを放出し、もはや原型を留めないほどに破壊し尽くされてなお真っ二つに両断され、煤へと還る。
そして、爆発。 煤や工場の薬品を巻き込み更に炎上し爆発を引き起こす。
連鎖的な爆発は2人の視界を奪い、爆発音が聴覚を奪う。
微かに見えたのはこちらを見つめるヘラクスの姿。
「ま、待って!!」
翼がヘラクスへ駆け寄ろうとするが、すぐに彼女へ背を向け炎の中へと消えていく。
聞こえるのは彼が現れることを表すエンジン音だけだった。
『俺が戦う理由。 それは贖罪だ』
炎に消える前、翼の耳には確かにそんな声が聞こえた気がした。
「……」
胸元を握りしめ、翼はどこまでも後悔や怒り苦しみといった感情の籠った彼の声に苦々しく顔を歪めた。
〇
「仮面ライダー、完全に信号をロストしました」
「そうか…… 二次災害拡大の恐れがある。 避難地域の拡大、避難誘導を急げ」
「了解しました司令」
弦十郎の言葉に職員は慌ただしく動き始める。
彼が見るのは巨大なモニターに映し出され黄金から銀へと変化した仮面ライダーの姿。
だが、すぐに風鳴翼と天羽奏が映し出された。
2人の無事を確認し、弦十郎は安堵の息を深く、そして長く漏らす。
翼の方は見たところ打ち身や擦り傷だけで、先程の戦闘の激しさからは想像できないほどの軽傷で明らかに彼が翼に手を抜いていたのが理解出来る。
翼が仮面ライダーに戦闘をしかけたと聞いた時は喉から心臓が飛び出しかねないほど肝が冷えたし、自分が何度前線に出ようとしかけたことか。(実際出ようとして職員の大半が引き留めようやくやめた)
だが、これにより確信に変わった。彼は人を殺めるという考えはないということに。
「お前は何を目的に戦うんだ?」
脳裏に映るのはかつて家族とはぐれ、ノイズと遭遇してしまった少女を身を呈して守る仮面ライダーの姿。
人身売買や違法な人体実験を行う組織を壊滅させ、子供たちに囲まれ右往左往している姿。
「お前の守るものはなんなんだ…… "コーカサス"」
〇
「うわー、某大企業の工場な原因不明のガス爆発で一帯が壊滅的な被害ですよ総司さん!」
「ああそうだな。 あと近い」
響たちの学校が休みの日、でかでかと印刷された朝刊の記事を響が机に乗り出してそのページを見せてきた。
それを未来が注意する。
「もう、響! 行儀悪いよ?」
「ごめーん。 それにしてもまたガス爆発…… ガス会社の人たちも大変だね〜」
「そうだね。 ここら辺も少し前にあったらしいし……」
「ズズッ……」
モーニングコーヒーを啜り、ぼんやりと記事を見る。
──クハハ、随分と派手に暴れたなヘラクス
──心が踊る立会であったぞコーカサス
お前らなぁ……
2体のゼクターの会話にこめかみを押え、苦虫を数百匹まとめてかみ潰したかのような表情で天井の照明に隠れてるコーカサスとヘラクスを睨みつける。
そのとき、
──まったく、2人とも余り総司くんを困らせてはいけませんよ?
温和な男の声が脳内に響く。
──む、その声 "ケタロス" か
──おお、ケタロスか! 昨晩の立ち会いはじつに心が踊る時間であったぞ!!
ケタロス、お前からもこいつらに何か言ってくれ……
少しの希望を込めたように言うと、ケタロスは。
──総司くん、次はもうちょっとローアングルで頼みます。 彼女達の絶対領域をこのメモリーにやきつけry
ダン! 思わず総司は額を机にぶつける。
「うわ! どうしたんです総司さん!?」
「大丈夫ですか……?」
「あ、ああちょっと昨日寝不足でな」
──美少女2人が一人の男性を心配する顔…… 最高ですね
ケタロスゼクター、こいつも例に漏れずほか二体とおなじ少し…… いや、かなりどうしようもない
ケタロスゼクター登場なり