天然でも人工でもない隻眼は   作:並美

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小説とか投稿するの初めてで、とりあえずそれっぽくしたくてプロローグって書きましたけど、実際そんなプロローグって感じじゃなかったですね。。。
まあ、そんなことは置いておいて、やっと第一話です。遅くなってすみません。
【】は音を表現するための擬音を入れています。それとひらがな・振り仮名多めです。


第1話

『――カくん』

 

『―タカくん』

 

 声がきこえる。俺の名前を呼ぶ声。

 

 どこか聞き覚えのある、女の人の声。

 

 とても綺麗(きれい)で、大好きな人の声。

 

 でも、思い出せない。

 

 知っているはずなのに、大好きなのに、わからない。

 

 自分でもキモイと思うけど、どうしても恋焦(こいこ)がれてしまう、かなわないはずのこの気持ち。

 

 もし、この声の主があの人だとするならば、目の前にあの人がいるかもしれない。

 

 案外普通に、あの人の友達になっていたりするのかもしれない。

 

 もし、目を開けてあの人が目の前にいたら。

 

 神さま、俺がひとつの恋物語の主人公になることを、許してくれますか。

 

 

   ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

 

 【パチっ】

 目を開けると、そこは見慣(みな)れない部屋だった。

 

「ん?」

 

ここは、、、病院?

 あー、えっと、、こういうときは、、、、、そうそう、記憶(きおく)の整理をするんだ。

 俺が覚えていることは――、車の前に人がいて、父さんが急ブレーキをふんで、そのあとは、目が熱くて、、そうだ、目にはしがささったんだ。

 そう思い出して、はしがささったはずのはずの右目をさわる。

 

「…眼帯(がんたい)?」

 

 わりばしがささったであろう右目には、眼帯がついていた。

 

 時計を見ると、12時前。俺が今いる部屋には4つのベットがあり、俺は部屋の入り口から見て左奥のベットに寝ていた。部屋には俺以外誰もいない。なんか(さび)しいな。こういう時っておとなりさんとかとしゃべって仲良くなったりできるんじゃないの。それに一人だと夜とか怖いじゃねぇか。病院だぞココ。

 

 とりあえず起き上がろうと右ひじをたてたときに手にチクり、と少しの痛みを感じる。反射的(はんしゃてき)に痛みを感じた右手の(こう)を見ると、針のようなものがついていて、そこからのびるくだは背の高い(ぼう)の一番上に()()けられた袋につながっていた。まぁどうみても点滴だけどそれっぽい解説を入れてみた。よく見ると左手の甲、左手の(ひじ)の内側には注射を打った後に()られる保護シールがついているし、右手にはさらに人差し指に洗濯ばさみみたいなものがついている。そこからコードみたいなのがのびていて、(つな)がっているのは何やらいろいろ表示されている機械。その一番上には一定(いってい)間隔(かんかく)で波打つ緑の線、その線の(となり)に大きく緑で「87」と表示されている。病院に関して全く無知(むち)の俺でもわかる。俺の脈拍(みゃくはく)ってやつだろう。

 87って普通なのかな。

 

 え、つーか父さんたちは!?事故にあって意識ない人を一人にするかね普通?!起きたとき戸惑(とまど)うとか考えない?それに、ぶつかった人はどうなった。無事なんだろうか。いや無事ってことはないか。あの距離じゃブレーキはどう考えても間に合わない。そう思わせるほど本当にすぐ目の前に...いや、そもそも何で気づかなかったんだ?あの人は普通に立ってて、飛び込んできた感じはなかったから、ちゃんと前を見ていれば人がいるのくらいわかるはずだ。そういえば父さんはとびだしてきた猫をひいちゃった日からいやに安全運転で、車で30分もかからない場所に行くのに50分かけたりすることもあったし、猫が急にとびだしてきたんだから父さんのせいじゃないって何回言ってもすごい落ち込んでたし。。。とにかく父さんが前を見ないような、そんな運転をしていたとは考えにく、い...けど、、、父さんが猫ひいちゃったのって、思えばもう5年以上前だし、もしかすると気が抜けて、ついよそ見しちゃったのかもしれない。俺達もまともに前見てなかったし、父さんひとりの責任にするわけには......そもそもあの人の目的は何なんだ?自殺?いやまあそれしかないか。つーか、そんなことに他人を巻き込むなよ。だいたい、何で自殺なんかするんだよ。親に(もら)った大切な命だろうに。もっとだいじに・・・いや、何も知らないのにここまで言うのは良くないか。そんなことっていちゃったけど、ちゃんと事情があるんだろうし、何より本当にするにはそれなりの覚悟がいるはずだし、、、、、、

 

 ・・・・・・・・っ!!

 

「はーーーーーーっっ!ダメだ、めんどくさいっ!」

 

 大量(たいりょう)疑問(ぎもん)に父さんへの(うたが)い、全く知らない人の心配まで。まったく、()()がりにすることじゃねぇよ。つーかまだ上がってすらないのに。

 

 こういうときは一番最初に家族の心配をするもんだろうが。何やってんだ、俺。

 

「ああ、もう、疲れた。・・・寝よう、もう寝る!」

 

 俺しかいない病室の中で、誰に言うでもなくただ口に出し、ガバッと布団(ふとん)をかぶる。

 

「イタッ」

 

 いきおいよくしたせいか針がささってる右手の(こう)が少し痛む。点滴めんどくせー。

 そんなことを思いつつ目をつぶるのだった。

 

 

   ♦

 

 

 そのあと(まった)(ねむ)ることはなく医者と看護師がやって来た。まあ寝始めて3分もしないうちに来たからあたりまえか。

 いはく、車にぶつかった人は重症だが死んでおらず、家族は全員かすり傷ひとつなく無事、俺は、角膜(かくまく)の表面を(おお)っている上皮(じょうひ)などが()がれてしまい、さらに角膜(かくまく)も傷ついたため角膜移植(かくまくいしょく)をし、成功。おそらく目は見えるだろうが、一時的(いちじてき)保護(ほご)のため眼帯をしている状態らしい。

 

 その説明の後、昼飯がきたのだが、なんだか食欲がでず、一口も口につけなかった。

 

 

「あれ?たべてないんですか?」

 

「あ、はい。起きたばかりで食欲がわかなくて…」

 

「食欲がないのはわかりますが、食べないと元気になりませんよ?」

 

「ああ、すいません…。」

 

 少し申し訳なかったが、体調もあまり良くないし、戻してしまうともっと申し訳ないと思い、結局昼飯は食べなかった。

 

 

   ♦♢

 

 

【ガラガラ】

 病室の扉が開き、とても見慣(みな)れている2人が入ってくる。

「あ、兄さん、起きたんだ。」

 

心傘(こがさ)。ああ、少し前にな。」

 

「あ、タカ、大丈夫?」

 

「姉さん。体調だったら、とくに問題ないよ。」

 

【ガラガラ】

 さらに病室の扉が開き、同じく見慣れた2人が入ってくる。

「お、暖傘(たか)、眼帯かっこいいな!」

 

「ああ、父さんもやる?目にはしぶっさしてあげようか?」

 

暖傘(たか)、病院でそんなこと言っちゃだめでしょ。」

 

 心傘(こがさ)と姉さん、父さんと母さんだ。本当にとくにケガはしていないようで安心する。

 そこで姉さんが口を(ひら)き、

 

「あ、あのさ、タカ、ごめん。。。。」

 

 突然あやまってきた。たぶん、目のことだと思う。

 

「いいよべつに。手術で治ったんだろ?」

 

「まあ、傷はあさいほうだったらしいし。それに、あの程度(ていど)の痛さで気絶する人はほぼいないらしいから、気にすることはないよ。」

 

「え...?」

 

 姉さんを(なぐさ)めるような心傘(こがさ)の言葉に(おどろ)きを(かく)せない俺。

 

「ありがとー()()()()()!ていうか、やったの私だけど、もっと深くえぐれたような気がしたんだけど...」

 

「は?兄さんの傷がどれだけ浅かろうと姉さんが兄さんの目を傷つけて手術までさせたことに変わりはないから。手術費と入院費くらい自分のお小遣(こづか)いから(はら)えよ?」

 

 あれ、心傘(こがさ)こんなに口悪かったっけ。まあ、それほど俺の事心配してくれてるってことだよな!

 

「まあ僕ももっとぐしゃっといった気がしたんだけど、その深さでも気絶する人はだいぶ少ないらしいけどね。」

 

()()()()?何が言いたいんだよ」

 

「はあ?言葉にされなきゃわかんない?痛みに弱すぎるってことだよ。あの程度で気絶とかマジで大げさすぎるんだけど。バカかよ分かれよこのくらい虫でも理解できるだろ」

 

「………」

 

 やばい、なにこれめっちゃ()ずかしい。つまり勝手にはしが()さったと思って勝手にめっちゃ痛がって勝手に気絶しちゃったってこと...?!えぇ!?め、めっちゃはずい。

 ていうか心傘(こがさ)の口が急に悪くなった。そんなに『こがたん』(きら)いかよ。可愛(かわい)いと思うけどなー。

 

 まー、それにしても、ほんとに少し目が傷ついただけなんてなあ。

 

 その(あと)いろいろ普通の会話をして父さんたちは帰っていった。

 

 俺も明日の朝退院らしい。

 

 

   ♦

 

 

  -男子トイレ-

 

【ジャーーーー】

「それにしても、眼帯、か。」

 

 俺は、手を洗いながら目の前の(かがみ)(うつ)る自分と眼帯を見ていた。

 

「たしか、金木は左目だったよな。」

 

 じっと自分をみつめながら、『東京喰種』の主人公である『金木』を思い出す。

 なんだか急に金木みたいだとおもってきた。

 

「いやまあ、金木ほど〈悲劇(ひげき)〉じゃないけど。つーか金木くらいの悲劇の人生をおくったやつってこの世にいるんかねー。・・・まあこの世界に喰種がいないから話は別か。」

 

 そこでいったん思考(しこう)を切り上げて部屋に戻る。

 もしも金木みたいなんがいたら......そりゃあカワイソウだ。同情(どうじょう)することしかできないけど。

 

 

   ♦

 

 

 その後、食事がきたのだがいつのまにか寝てしまっていたようだ。

 

 

   ♦♢♦

 

 

「ん?ふあ~、、、、、。あ。」

 

 目を開けるともう周りは明るく、朝だと言う事がわかる。

 昨日の夜、いつのまにか寝てしまっていたらしい。となるともう二食抜いてしまったことになる。まあべつにたった2食抜いただけで死にゃあせんから大丈夫だろ。ゆーてお腹すいてないし。

 

【ガラガラ】

「あ、雨宮さん。昨日の夜も食べてないんですよね。」

 

「ああ、眠かったもので...」

 

「今日退院なんですよ?大丈夫なんですか?」

 

「まあ、家で食べますよ。」

 

 そうか、今日退院か。なんだか入院した実感(じっかん)があんまないな。

 そう思いつつも退院の準備をする。

 

 

   ♦♢

 

 

「ありがとうございました。」

 

「はい。お大事に。」

 

「暖傘君、ちゃんとご飯たべてくださいね。」

 

「はい」

 

 まあ、食事をとってないのは本当にたまたまだから、大丈夫だとはおもうけど。、、、、、?

 

 んー?‥‥‥あ、そうだ。違和感があると思ったら、昨日は苗字(みょうじ)にさんづけだった看護師さんが名前で呼んだから、か。みんな雨宮だもんな。

 

 

   ♦♢

 

 

【ガチャ】

「ふ~、ただいまー」

 

なんだか物すごく久しぶりな気がして思わず誰もいない家に向かってそんなことを言う。

 

【ガチャ】

「おかえりー!」

 

 と、後ろから来た姉が言う。

 

「・・・」

 

「・・・フッ」

 

「・・・・・(なにコイツ)」

 

【ガチャ】

「はー、おなかすいたねえ。遅いけど、朝ごはんにしよっか。」

 

 俺は退院の準備のせいで朝ごはんを食べていなかったのだが、みんなも食べていなかったとは。ああ、母さんが化粧(けしょう)してたのな。まったく、何でうちには母さん以外ご飯作れるやつがいないんだよ。パンくらいかんたんに焼けるだろ。俺はできないけど。

 そう思いながら朝食ができるのを待つ。

 

 

   ♦

 

 

 白飯はもう()けていたらしく、準備は意外に早くでき、いまは食卓(しょくたく)に並べている最中(さいちゅう)だ。

 朝はたいていパンなのだが、今日は米だ。あまり腹がすいていないのが残念ではあるが、久しぶりの食事で楽しみなのだ。

 

 ひととおり並べ終わり、みんなが食卓をかこむ。

 

「「「「「いただきまーす」」」」」

 

 みんなで合掌(がっしょう)した後に、はしをとる。

 

『たしか、金木は左目だったよな。』

 

『金木みたいだ』

 

 ふと、昨日トイレで思ったことを思い出す。

 

 金木は、手術を受けてから病院食がまずく感じ、そこから変だと思い始めたんだったか。

 

 俺は、手術から一度も食事をとらず、食欲もわいていない。

 

 ぴた。と、白米を口に運ぼうとしていた手が止まる。

 

 もし、これがまずかったら...

 

 いや、待て、冷静に考えよう。まず角膜の移植手術を受けただけの俺の味覚(みかく)がかわるなんてことがあるわけがない。そしていくらあの物語が引き込まれそうなくらいとてもよくできた物語だったとしても、あれはフィクションだ。この世に喰種は存在しない。てゆうか俺が受けたのは目の手術だ。金木みたいな赫包(かくほう)を移植とか絶対できない。だからこれを食べるのには全く問題ない。はずなんだ...

 

 だけど何だ、この得体(えたい)のしれない不安感は。

 

 全てがこの一口で解決することなのに、なぜか脳が目の前のものを口に運ぶことを拒否(きょひ)しているような感覚に(おちい)る。

 

 それがまた俺の不安を()き立てる。

 

 意を決して、米をくちにいれる。これで、全てが分かる。

 

「………」

 

 口に入れてすぐに分かった。おいおい

 

「...嘘だろ。」

 

【ガタッ】

「俺、ちょっとトイレ。」

 

 そういって、立ち上がる。

 

【バタン カチャ】

 トイレに入り、カギをかける。

 

「最悪だ...。いや、なんで...」

 

 たった一口の米。それすら俺には耐えがたいほどに()()()()()

 

「おえぇ」

 

 さっきは涙が出そうなのを必死にこらえていたうえに、もしかしてと身構(みがま)えていたからからか、なんとか気付かれなかったはずだが、もしもふつうに食べていたら不味さのあまりひざまずいて(さけ)んでいたかもしれない。

 これは金木がオーバーリアクションと言われるのも無理はないかもしれない。

 

 そしてそれは、これからの俺の食事が全て[人間]になるかもしれないと言う事を示しており、これから出会うであろう困難のことを考えると、口からはもうためいきしか出なかった。

 気づけば目から涙も出ていた。




最後まで読んでくれてありがとうございました!
振り仮名が多いのは作者が昔から漢字読むの苦手で分からない漢字があるたびにコピペして調べてたからです。すこしでも難しいなと思う漢字があったらガンガンルビ振っていこうと思っています。なのでどこかでミスして変な記号が入っているかもしれませんがその時は「作者はこんな字も難しいと思うほどのやつなのか」と思いつつ誤字報告してくれると嬉しいです。評価や感想、アドバイスなどコメント待ってます!

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