俺の彼女が120円だった件   作:守田野圭二

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末日(木) 蛍合戦

「蛍の情報を提供してくれた天海君は誘わなくてもいいのかい?」

 

「見れるかわからないならいいって言ってたし、ミズキもう寝ちゃってるから」

 

「成程ね。それじゃあ行こうか」

 

「うん。蛍、いるかな?」

 

「時期と時間帯を考えれば、いる可能性は充分にあると思うよ」

 

 

 

 

 

「もう明日で終わりなんて、あっという間の合宿だったね」

 

「音穏も言っていたけれど、まだ削りが残っているよ」

 

「そうだけど、もっと続けばいいのになーって」

 

「今年は去年以上に楽しかったからね」

 

「そうなの?」

 

「これも夢野君や天海君が入部してくれたお陰だよ。ありがとう」

 

「そんなことないってば」

 

「実際ボクと音穏だけだったら合宿に行くことは無かっただろうし、仮に行ったとしても天海君みたいに色々な企画をすることはなかったよ」

 

「あ、それはそうかも」

 

「音穏も何だかんだ楽しんでいたし、たまにはああいうのも良いかな。来年の夏は一体どんな企画をしてくれるのか、期待して待っているよ」

 

「ミズキのことだから、今年とは違うことばっかりやりそうかも」

 

「少なくとも普通の合宿にはならないだろうね。音楽部の合宿はどんな感じなんだい?」

 

「ふふ」

 

「?」

 

「ううん。水無月さん、米倉君と同じこと聞いてるなーって思って」

 

「こんな合宿しか経験していないと、本来の合宿がどんな風なのか誰でも気になるさ」

 

「そうかな?」

 

「そういうものだよ」

 

「音楽部は…………あれ? もしかして向こうで光ってるのって……?」

 

「これは驚いたね」

 

 

 

 

 

「ねえ水無月さん、聞いてもいい?」

 

「櫻の話かい?」

 

「うん。わかっちゃった?」

 

「顔にそう書いてあるからね。こんな綺麗な光景まで見せてもらった訳だし、夢野君が知りたいのならボクも誤魔化さないで包み隠さず正直に答えるよ」

 

「それじゃあ単刀直入に聞くけど、水無月さんはどうして米倉君を避けてるの?」

 

「これはまた少し予想外な質問だったね。どうしてかと尋ねられると、強いて言うならこれ以上勘違いさせないためかな」

 

「勘違いって?」

 

「前にボクが優しくした時、櫻は好かれていると思ったらしくてね。そんな誤解をされても困るし、今は自分を本当に想ってくれている人がいると気付いてほしいのさ」

 

「それって、もしかして私のこと?」

 

「少なくともボクが知る限り、櫻に好意を寄せているのは夢野君くらいかな」

 

「米倉君のことが好きかもしれない人、私はもう一人知ってるよ?」

 

「初耳だね。ライバル出現かい?」

 

「うん。ずっと昔から……幼稚園の頃からのライバル。ね? 水無ちゃん」

 

「冗談はよしてほしいね。櫻はボクにとって、ただの幼馴染でしかないさ」

 

「ただの幼馴染なら、何で冷たくするの?」

 

「だからそれは夢野君のためであって、櫻が同じ過ちを繰り返さないようにだよ」

 

「…………そうやって私のせいにしないでほしいな」

 

「!」

 

「私はそんなことされても嬉しくないし、例え米倉君が水無ちゃんに夢中になってたとしても、自分の力で振り向かせたいと思ってる。そうしなきゃ米倉君の心の中には、いつまでも水無ちゃんが残り続けるでしょ? そんなのずるいよ」

 

「…………」

 

「それに前に米倉君、言ってたよ? 水無ちゃんは『男女間の友情は存在する会の会長』だって。水無ちゃんが冷たくする本当の理由は、自分の気持ちが変わるのが怖いから……友達のままでいられる自信がなくなってきたからじゃない?」

 

「………………」

 

「嫌いでもないのに冷たくするなんて、私は間違ってると思う。そんな風に自分を押し殺したところで、私も、米倉君も、それに水無ちゃんも、誰も喜ばないよ?」

 

「…………正直、ボクも今の自分の気持ちがよくわからないんだ。ただ櫻への態度に関しては、音穏からも似たようなことを言われたかな」

 

「雪ちゃんに?」

 

「それでもボクが櫻にどんな気持ちを抱いていようと、二人が付き合えば問題ないと思っていた。だからこそ、進展しない二人がもどかしく感じたよ」

 

「それって、もしかして嫉妬?」

 

「そうかもしれないし、違うかもしれない。ただボクは夢野君の言う通り、今まではキミのせいにすることで考えることを放棄して、櫻から逃げていただけだったね」

 

「じゃあ、これからは?」

 

「付き合うことで分かることもあるのかもしれないけれど、それは少し違う気がするかな。とりあえず以前のように幼稚園から小中高と時間を共にした理解者かつ、腐れ縁の友人としてちゃんと向き合いつつ考えてみようと思うよ。でも、いいのかい?」

 

「?」

 

「もしも櫻に対する気持ちが好意だったとしたら、ボクもアプローチを掛けるかもしれない。それに次に告白されるようなことがあれば、断らないことになるよ?」

 

「うん! 私だって負けないから!」

 

「お互いに恨みっこなしだね…………と、噂をしたら影かな」

 

「え……?」

 

 

 

「米倉君っ? それに早乙女さんも……?」

「これはまた、随分と珍しい組み合わせだね。二人も蛍を見に来たのかい?」




ここまで読んでくださりありがとうございます。
引き続き『俺の彼女が120円だった件』の9章を楽しんでいただければ幸いです!

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