俺の彼女が120円だった件   作:守田野圭二

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四日目(金) リアルファイトなパーティーだった件

 長かったパーティーも残り2ターン。早乙女はまたもスターに届かず、テツのターンでは全員がコインを賭けて行われるバトルミニゲームが始まった。

 

「50こい50こい50こい」

「まだ諦めてないんでぃすか?」

「コインスターとミニゲームスターを取ればワンチャンある!」

 

 賭けコイン数は30となり、全員から収集したコインは合計にして100枚近く。緊張感が高まる中、選ばれたミニゲームは外れプレートを選ぶとリタイアになる運ゲーだ。

 

「オレわかるんスよ。ここはセーフッスね」

 

『ウホォオオオオオオ!』

 

「だぁーっはっは。まずは一人脱落だな。そこがアウトなら、隣はセーフだろぉが」

 

『ホワァアアアアアア!』

 

「そんじゃ全然関係なさそうな所で」

 

『ムワアアアアアアア!』

 

「「「…………」」」

「何もしてないのに勝っちゃいました」

 

 結果として一位の早乙女と二位の俺にコインは分配。俺と橘先輩のターンが終わった後で音楽隊による音ゲーを行い、勝負はいよいよラストターンを迎える。

 

「これで一位でぃす!」

 

 まずは順当に早乙女がスターをゲット。順位は橘先輩と早乙女が3枚と並び、俺が2枚でテツが1枚だが、コインの枚数的には早乙女が一位だ。

 しかしながらスターが移動した先は、まさかの橘先輩の近く。サイコロで大きい目が出れば、このラストターンでも充分に届きうる範囲だった。

 

「うぉっしゃぁっ!」

「うわっ? マジッスかっ?」

「何でそっちに行くんでぃすかっ?」

「けっけっけ。日頃の行ぃってやつだぜ」

 

 先程のバトルミニゲームで橘先輩の持っているコインは交換枚数である20枚に足りなくなったが、この人にはそれを打開できるアイテムがある。

 一位の行方がどうなるかわからない中、トップ争いから離脱したテツのターン。勝負を捨てていない後輩が止まったのは、ギャンブルマスだった。

 

「この大勝負に全てを賭けるッス!」

「まだ諦めてないんでぃすか?」

「ここでコインを稼げば、コインスターで二枚目! 運が良ければミニゲームスターで三枚目! 更に奇跡が起こればハプニングスターで四枚目の大逆転が!」

「ねぇだろ」

「狙うは大穴! 行くッスよぉおおおおおおおおおお!」

 

 

 

 ―― 一分後 ――

 

 

 

「………………」

「燃ぇ尽きやがったな」

「ギャンブルなんてそんなものでぃす」

 

 スポッチに行った時、競馬ゲームにメダルを注ぎ込んでたのはどこの誰だったっけな。

 そうそう上手い話はなく、当然の如くスった後輩をよそに俺はサイコロを止める。

 

「お?」

 

『CHANCE TIME』

 

「うぉおおおおおおおっ? マジッスか!?」

 

 辿り着いたマスを見るなり、応答停止していたテツが復活。最後の最後で止まったマスは、先程悲劇が起きたチャンスミニゲームのマスだった。

 

「ネック先輩! オレにスターのお恵みを!」

「ミ・ス・れ! ミ・ス・れ!」

「…………」

 

 一人は両手を合わせ神に祈り、また一人は小学生のようなコールを始め、最後の一人はわかっているなと言わんばかりにジロリと睨んでくる。もうやだこのゲーム。

 今回の最初のスロットは『誰に』だったため、慎重にブロックの動きを見定めてから当然の如く自分を選択。これで俺が損をすることはなくなり、テツが再び希望を失った。

 次のスロットは『何を』だが、ギリギリ目押しできなくもない速度。橘先輩による野次を無視して、心の中でリズムを刻んでからスロットを止める。

 

「何でそこで止めるんでぃすかっ?」

「うわー。ネック先輩、持ってるッスねー」

 

 選ばれたのは『スター全部』という一番ベストな選択。集中力を使い切った俺は大きく息を吐いた後で、目押しできそうにない最後のスロットを止めた。

 その結果、犠牲になったのは………………。

 

「あ…………その、スマン。何かマジでスマン」

「ハハ………ハ…………」

 

 ゴリラは……二度刺すっ……!

 二度っ……刺すっ……!

 選ばれたのはゴリラっ! 圧倒的ゴリラっ!

 結果、テツの心! 折れるっ! 完全に折れるっ! 真っ二つ!

 

「ふぅ……ハラハラさせんじゃねぇよ」

「まあ星華じゃなかっただけでも良しとします」

 

 残った二人は安心した様子で、ふぅーっと大きく息を吐く。これでスターは三人が3枚と並び、コインもスターも全てを失った男が一人か。

 そして最後を締めくくるのはスターが近い配管工。橘先輩は20枚に届かないコインを補うため、本来ならスターを奪わせるつもりだったベルを使い幽霊を呼び寄せる。

 

「行けっ! 取ってこぃっ!」

「だから何で星華なんでぃすかっ?」

「持ってるコインが多いからに決まってんだろぉがっ! 取れっ! 全部取ってこぃっ!」

「ムッキィーっ!」

 

 橘先輩が早乙女を選択すると、取られるコインを減らすべく少女はボタンを連打する。どうでもいいけどムッキィーってリアルに言う奴、初めて見たな。

 

「17、18、19、にじゅ…………はぁあああっ?」

「はぁ……はぁ…………ふう……幽霊なんて……一昨日きやがれでぃす……」

 

 早乙女の根気が奇跡を呼び起こしたのか、最後の最後で妖怪一足りないが登場。橘先輩がサイコロを止めると出目は充分に足りていたが、コイン不足でスターは交換できない。

 

「おぃ! コイン1枚、誰でもいぃから貸しやがれ!」

「貸すコインがないッス……キノコしか持ってないッス……」

「ぶふっ」

「畜生がぁあああ!」

 

 テツの自虐ネタに笑いつつ、最後に旗揚げのミニゲームをやって勝負は終了。四人のキャラクターは双六のマップから移動し、いよいよ結果発表の時間となった。

 

『お疲れ様でした。それでは結果の発表です! 最初にスターの数を見てみましょう。皆さんのスターの数は……こちらでーす!』

 

・早乙女3枚

・俺3枚

・テツ0枚

・橘先輩3枚

 

『では、ボーナススターの発表です。選ばれた人にはスターが一つずつ与えられます』

 

「コインスターはメンチだが、ミニゲームスターとハプニングスターで俺の勝ちだな」

「誰がメンチでぃすかっ!」

「そうッスよバナ先輩。メンチじゃなくてメッチッス! もしくは乙女っちッスボェッ!」

「その呼び方は止めるよう、前に言った筈でぃすよ?」

 

 遊んだミニゲームの中にパンチでアタックなんて名前のものがあった気がするが、早乙女がテツの腹へとパンチでアタック。やっぱりリアルファイトゲームだなこれ。

 

『まずはコインスター。この賞はゲームの中でコインを一番集めた人に与えられます。今回のコインスターはでっていうさんです!』

 

「やっぱそうッスよね」

「これ、スター貰えるんでぃすか?」

「ああ」

 

『次はミニゲームスターです。この賞はミニゲームでコインを一番稼いだ人に与えられます。今回のミニゲームスターはムワアアアアアアアさんです!』

 

「はぁっ?」

「マジか。いや、取れるとは思ってなかったな」

「ネック先輩、何だかんだで結構勝ってましたもんね」

 

『次はハプニングスターです。この賞は?マスに一番多く止まった人に与えられます。今回のハプニングスターはでっていうさんです!』

 

「えっ?」

「えぁっ?」

「あっ、ありがとうございますっ?」

 

『それでは優勝者の発表をするぞ!』

 

 スターの上に乗っていたキャラクターが、最下位から順に落ちていく。

 最後の最後に残ったのは、早乙女の操る自称スーパードラゴンだった。

 

『優勝は…………でっていうじゃー!』

 

「やった! ミナちゃん先輩! 星華、やりましたっ!」

「見ていたよ。最後の最後で見事な大逆転だったね」

「えへへ」

 

 結果の詳細も見ずに、コントローラーを置いて阿久津の元へ駆け出す早乙女。残った男三人は、止まったマスの数の詳細やミニゲームで勝った回数などを確認する。

 

「やっぱあのチャンスマスが痛かったッス」

「結局スター3枚全部だもんな」

「あーでも、あれが無かったとしてもネック先輩がスター4枚で一位ッスね。ってかオレのバトルマスの回数、地味にヤバくないッスか?」

「確かに」

「ちっ! 手さぇ痛めてなけりゃ、最後のスターを取って勝ってたのによ」

「先輩が最後のスターを取って4枚になったとしても星華君が5枚でトップですし、コインの枚数的にも櫻の方が上ですから順位は変わりませんね」

「ふふん。初心者の星華に負けるなんて、男三人は大したことないでぃす」

「るせぇっ! ハプニングもミニゲームも一回差じゃねぇか!」

 

 負けた先輩が荒れる中、かくして俺達の地獄絵図《パーティー》は星華だけにスターに愛されていたのかもしれない早乙女の勝利で幕を閉じるのだった。

 

「ぉらっ! 次は大乱闘だっ! ボコボコにしてやっから覚悟しやがれっ!」

「その手で大丈夫なんですか?」

「いぃからやんぞっ!」

 

 この後、俺が橘先輩をボコボコにしてしまったのは言うまでもない。鍛え上げてきたというフレーム回避も、掌の怪我のせいで不発のまま終わるのだった。


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