俺の彼女が120円だった件   作:守田野圭二

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一日目(水) ホテルがリゾートでデートスポットだった件

「すっげーっ! 広過ぎだろっ?」

「見て見て! プールまである!」

 

 昼の見学は嵐の前の静けさに過ぎなかったとばかりに、ホテルへ到着するなり騒ぎ立てるクラスメイト達。それもその筈で、俺達が泊まるホテルはとてつもないリゾートだった。

 一言で説明するならとにかくでかい。プールどころかプライベートビーチやゴルフ場まであると聞いて、人生で二度と来ることができない場所に感じたくらいである。

 

「おっしゃ! アキト、葵、行こうぜ」

「う、うん!」

「これはワクテカですな」

 

 到着するなり着替えた俺達は当然のように探検を開始。学校によっては修学旅行全体で私服が許可されている高校も多いそうだが、俺達屋代の生徒はホテル内のみ私服が許可されていた。

 休日に行われた打ち上げに参加する以外では決して拝むことのできないクラスメイトの貴重な私服姿に男女双方の目が光り、ここで大きくポイントを上げる者も多いだろう。

 

「川村さんとか、結構可愛くね?」

「いやいや、菅原さんも中々のセンスだぞ」

 

 俺はファッションに詳しくないので、正直センスの良し悪しはわからない。そんなことをヒソヒソと話している非モテコンビ、太田黒(おおたぐろ)但馬(たじま)の私服だって可もなく不可もない、至って普通の私服に見えた。

 まあ結局のところファッションなんて同じ服を着ても顔次第みたいなところがあるし、そもそも男子で洋服に気を遣う奴は大抵クラスカーストの中位から上位な気がする。モテる男子がオシャレなのか、はたまたオシャレだからモテる男子なのか…………。

 

「火水木くーん。写真撮ってくれなーい?」

「了解でござる」

 

 そんな野郎共に対し、普段からショッピング等に行くことが多いであろう女子の私服は全体的に新鮮。陶芸部である冬雪以外の私服は初めて見たが、ファッションについては分からなくとも可愛いと感じるものはある。

 今日もしっかり後ろ髪を編み込んでいる目隠れ少女、如月閏(きさらぎうるう)辺りはTシャツにロングスカートとシンプルだが、逆にそれはそれで意外にボリュームのある胸を強調させていたり。当の本人は絶対に気付いてないだろうけどな。

 

「おい聞けお前ら! 相生が男湯に入ってくれるぞ!」

「嘘だろっ? マジかよっ?」

「大丈夫だ我が息子よ。例え相生の正体が女じゃなくても、ふたなりという可能性がワンチャン…………くっ、鎮まれ! 鎮まりたまえ!」

「相生氏。もしも貞操の危機を感じたら拙者と米倉氏に任せるお」

「そうだな。何なら片っ端から金玉蹴り飛ばしてもいいぞ」

「えぇっ?」

 

 しかしながらクラスの男子連中が囃したてる気持ちもわからなくもない。言葉にこそ出さなかったが、華奢で細身な葵の裸体は後ろから見ると確かに女子みたいだった。

 大理石の豪華な風呂に入り、美味しい夕飯を食べ終えた後は完全な自由時間だ。

 ある者はカップルで驚くほど広いホテルの敷地内にあるイルミネーションを見に行き、またある者はカップルで満天の星空を眺めるためプライベートビーチに向かう。

 

「櫻を潰せぇっ!」

「応!」

「えぇぇっ?」

「サバイバル戦なのに集中攻撃かよっ?」

 

 …………そして俺達C―3男子はと言えば、大乱闘の真っ最中だった。

 クラスメイトの半分近く……主にカースト下位を中心とした野郎共が一部屋に集合し、但馬の持ってきた据置と携帯の両方に対応しているハイブリッドなゲーム機をホテルのテレビ画面に繋いでのゲーム大会もとい、傷の舐め合いである。

 

「おいっ? あそこでフラッグを掲げてストック増やそうとしてるセコい奴がいるぞっ?」

「今はお前を潰すのが先だっ! 行くぞ相生っ!」

「う、うん!」

「くそ……おっ? よっしゃ! 行けっ! 俺のアシストっ!」

 

 今遊んでいるのは俺が得意としていた大乱闘ゲームシリーズの第六作。前にアキトの家で何度か遊んだことがあるものの、初代の頃とは別ゲーと言っても過言でないくらい仕様が変わっており、そう簡単に無双できるような代物ではない。

 それなのにアキトの奴が「米倉氏はゲームがクソ強いお」なんて火水木から聞いたと思わしき情報でヨイショしたため、まだ大して慣れてもいないのに狙われる羽目になっている。

 

「喰らえっ! 必殺っ!」

「しまっ……ぐわあああああああ!」

「ふう、まずは一人……」

「あれっ? 僕のキャラどこっ? あっ!」

「…………よし、これで二人っ!」

「よくぞここまで生き残ったと褒めてやりたいところだが、既に満身創痍だな。最後は持ち主である俺が直々に相手をして……のわっ? アピール中に攻撃なんて卑怯だぞっ!」

「やかましいっ! フラッグ使って残機増やした上に、遠距離攻撃ばっかりして良いとこ取りしようとする卑怯者に言われたくないわっ!」

「確かに但馬氏の戦術は少々卑怯でしたな」

「良いぞ米倉っ! ここまでいったなら但馬もやっちまえっ!」

 

 勝つためには復帰際を潰す技術等も重要だが、それ以上にいかにして強いアイテムを取ることができるか。そして葵のように自分のキャラを見失わずにいられるかが鍵となる。

 ギャラリーが味方に付き始める中、タイマンならいけるかもしれないと神経を集中。最後はお互いに爆発で吹き飛び、本当にギリギリの差で俺が勝利を飾った。

 

「いよっしゃあ!」

「櫻マジTUEEE!」

 

『ガチャ』

 

「ん? おおっ! 太田黒が帰ってきたぞっ!」

「で、どうだったんだっ?」

「…………撃沈した」

 

 このリゾートホテルでの幸せのひと時を過ごすため、俺達二年生の間でカップルは増加していたが、それは何も修学旅行前だけじゃない。夜景やイルミネーションという絶好のシチュエーションを使い、修学旅行中に勇気を出して告白しに行く輩だっている。

 この部屋の中にも「ちょっと散歩してくる」とか怪しいことを言って抜け出す奴がいたように、大抵は陰でこっそり挑戦しに行くもの。しかし勇者太田黒は正々堂々「告白してくる!」と宣言をして威勢よく出て行った。

 

「太田黒氏、これでも食べて元気出すお」

「仕方ねえな……俺と変わっていいぞ太田黒! お前には櫻を潰す権利をやろう!」

「何でだよっ?」

「相生が今晩は抱き枕にされても良いってよ」

「えぇぇっ?」

 

 王様に『おお勇者よ。振られてしまうとは情けない』と言われてしまいそうなくらい心がボロボロになっている太田黒を、俺達は温かく出迎える。

 それでも傷は癒えず深々と溜息を吐く勇者の肩を、友人である但馬がポンと叩いた。

 

「仕方ねえなあ。俺がとっておきの物を見せてやろう。ほれ!」

「ん……? お……おおおっ!」

 

 そう言うなり太田黒に見せられたのは、SNSにアップされていたクラスメイトの女子達の動画。何でもジャンプする瞬間を撮影したかったようだが、一時停止されているその静止画はスカートが大きく捲り上がりパンツが見えていた。

 

「お前ら……よっしゃ! こうなったら今日はとことんやるぞっ! くたばれ米倉ぁ!」

 

『ガチャ』

 

「ん? おお、橋本。随分と長い散歩だったな」

「ああ! 星がめっちゃ綺麗でさ!」

「あ、橋本君。良かったら僕と変わる?」

「へへっ! 悪いな!」

「「「…………」」」

 

 本人は隠しているつもりかもしれないが、明らかに幸せオーラが溢れ出ている橋本を見れば何があったのかは一目瞭然。俺達に『疑わしきは罰せず』なんて精神はない。

 

「わかってるな?」

「ああ」

「オーケーだ」

「ん? 何がオーケーなんだ?」

 

『スリーッ! ツーッ! ワンッ! ゴーッ!』

 

「「「橋本を潰せぇっ!」」」

「はぁっ?」

「俺は駄目だったのに、羨ましいぞクソ野郎っ!」

「太田黒! これを使え!」

「行け太田黒! 俺もろともでいいから奴を吹っ飛ばせ!」

「うぉらぁっ!」

 

 俺と但馬の二人で、太田黒のストレス発散を全力でアシストしていく。

 そんな祝福のフルボッコをしていると、不意に但馬の携帯が鳴り出した。

 

「まさかっ?」

「但馬氏にお呼びがっ?」

「…………親からだった…………」

「「「………………ぷっ」」」

 

 一同が爆笑する中、太田黒が黙って但馬の肩をポンと叩く。

 告白する男子がいるということは、逆を言えば女子に呼び出されるケースだってある筈。

この部屋にいる男子の大半は、心の底ではそんな期待を胸にワクワクしていたりする。

 しかしながら実際に呼ばれる者はいないまま夜は更けていき、疲れた奴から徐々に解散。俺も頃合いを見計らって同室であるアキト&葵と共に部屋へ戻ることにした。


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