BanG_Dream! Lover SS   作:本醸醤油味の黒豆

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重い女代表だと勝手に思っててすまん


【山吹沙綾】我慢しなくてもキミは

 彼は人気者だ。少なくともその彼を長らく傍で見てきた山吹沙綾は、二つ年上の彼のことを社交性のある人物だと感じていた。

 分け隔てなく、それが彼の良いところであり……そして沙綾にとっては悪いところでもあった。

 

「ごめんお待たせ……って、巴にモカも」

「よう沙綾!」

「おはよう沙綾ちゃん」

「さーや~」

「おはようさーや」

 

 春になり、近くの大学に通う彼と途中まで一緒の道を歩くようになった彼女は、やがてその待ち合わせに彼がひとりで待っていることが少ないことに気づいた。

 同じ商店街の出身である宇田川巴や青葉モカ、羽沢つぐみ、北沢はぐみといったメンバーもまた、以前の自分と彼と同じ関係であったために、楽しそうに談笑しているのだった。

 

「三人とも暇つぶしありがと」

「じゃーな」

「またね」

「さーやとなかよくね~」

 

 三人にこやかに手を振り、そして振り返った彼に沙綾はほんの少しだけぎこちない笑みで応対した。

 待ってくれてるのは自分が恋人(トクベツ)だから、という思いのほかに仄かに灯る、それは例えば自分じゃなくてもよかったのではないかという思いが、沙綾の胸中にかかる暗雲となっていた。

 

「さーや?」

「ん、なに?」

「元気ないけど……また無理してないよな?」

「……うん」

 

 無理はしてない。最近じゃ彼女の母も体調がいいし、いつも自分が楽しそうに友人のことを話すとますます元気になってくれる気がして、自分も元気になった。だがそれとは別に、先ほどの三人と話していた彼の横顔が、どうしても引っかかってしまうのだった。

 

「あのさ」

「んー?」

「今日って、大学終わったら……バイト?」

「おう」

「そっか」

「オーナーが野菜よくくれるし、新人も入るらしいし」

 

 八百屋の店主がオーナーをしているライブハウスにもどうやら新しい()()()が入ると聞いて、沙綾は思わず表情を険しくした。

 オーナーの娘も沙綾たちと同年代であり、どうやら話さない仲というわけではないらしいことを話から推察していた。

 

「あの、沙綾?」

「え、あ……な、なに?」

「すごい顔してたけど」

「あー、えっと、考え事……してて」

「そう?」

「うん」

 

 頭の中で沙綾は彼と一定以上の仲を持ち、かつ彼女自身ともかかわりのある異性を列挙していく。

 商店街のメンバーで集まっているAfterglowの五人、はぐみつながりでかかわりのあるハロー、ハッピーワールド! の五人、巴の妹である宇田川あことそこからのかかわりで広がったRoseliaの五人、つぐみの珈琲店で働く若宮イヴや常連の白鷺千聖、氷川紗夜の妹である氷川日菜から繋がるPastel*Palettesの五人、そして自分の所属していることでかかわりがあるPoppin’Partyの五人。さらには沙綾がかつて所属していたCHiSPAの新しく加わったドラムの大湖里実を除いた海野夏希たち三人やGlitter☆Greenの四人、戸山香澄の妹、明日香……これだけの人数と彼は気さくに話すという事実を改めて感じ、そして不安が募っていった。

 

「ねぇ、私って重いのかな?」

「え?」

「だって……キミが他の女の子と話してるのを見る度に、嫌な気分になるから」

 

 ぽつりと、沙綾の本音が彼の耳に届いた。嫉妬のままにわがままを言うのではなく、その感情を抱いてしまうことに対して悩んでしまうという彼女の自己肯定感の低さがうかがえる言葉に、彼は少しだけ考えるように間を置いてから大丈夫と呟いた。

 

「大丈夫って?」

「そのヤキモチは、大事だから」

「大事、なの?」

「そう、大事。だってきちんとどこかに行かないように見ていてくれるってことだからね」

 

 あっけらかんとそんなことを言う彼に対して、沙綾は驚きと呆れを入り混じらせたような表情で見上げた。

 彼は自分を例えると船だと感じていた。沢山の人の力で漸く動ける大がかりな船だと。

 

「さーやはそんな助けてくれる沢山の中で一番大事な役割なんだと思う」

「それって……船長、とか?」

「ううん」

「……違うの?」

「さーやは、碇だよ」

 

 碇、という言葉に沙綾はピンとこないような表情をした。船の中であまり重要かどうかわからない、縁の下の力持ちと言われている気がして、少しだけモヤモヤした気持ちを抱えて、何故か誇らしげな彼の横顔を見つめた。

 

「それがないと泊まれない。流されるまま、風のままだよ。さーやがいなくちゃ」

「えーっと、喜んでいいのかな?」

「どうだろう、さーやに頼り切りってことだから」

 

 笑いながら年上としてどうなんだろうって思うよ、と言う彼に沙綾もまた素直に笑みを浮かべた。彼の進む止まるの基準は自分が決めている。他の誰でもなく自分が、そう思うとそれこそ碇の如き重たく絡まる独占欲が、沙綾の身体を支配していく。

 

「ねぇ、今日サボっちゃおっか」

「え」

「さっき楽しそうにしゃべってたの、イヤだなーって思ってたのにな~」

「それは……」

 

 言い淀んだ彼に沙綾は更に攻勢を強めていく。腕を組み、抱き寄せ、肩に頭を乗せる。私は妬いてるんだよ、と沙綾は彼に誠実の証と言う名の愛情を強欲にねだっていく。

 この気持ちの清算を、と既に水に流したはずの気持ちを掬い上げ、彼の前に乾かし広げて見せるように。

 

「ずるい言い方だよ」

「なんとでも、私はキミのカノジョだもん」

「そうだね」

 

 自分はもう()()()でも()()()()でもないのだと沙綾は主張する。山吹沙綾は彼にとって山吹沙綾にしかなれない存在なのだと、自分を誇示していく。

 一方で内心はこんなことを言って引かれないか、もしかしたら嫌な女だと思われたかな、と落ち込み気味でもある彼女に、彼は少しだけ溜息をついて、覚悟を決めたようによしと呟いた。

 

「どこ行く?」

「……それじゃあ、誰にも見つからないところ」

「詩的だね」

「そのまんまだよ、知り合いに見つからないところ」

「それじゃあ電車に乗らないと」

「……だね」

 

 山吹沙綾の内心は、彼が大切そうに語ってくれた船に対する碇だという言葉を否定していた。彼女に彼の進むと止まるをコントロールする気はない。彼女が欲しいのは常に自分が吹きすさぶ方を見ていて、進んでいてほしいというわがままな風のイタズラだけだった。

 以前の沙綾はそんな自分が堪らなく嫌だった。だから大人しく、利口でいようとした。お姫様は王子様を待つのだという固定観念に苦しんでいた。

 

「それじゃあ今日一日誰にも見つからなかったら」

「見つからなかったら?」

「──私のこと、好きにしていいよ」

「はい?」

 

 だが、彼は教えてくれた。自由でいいのだと。白馬をどこからか借りて、王子を迎えに行って何処へでも振り回していいのだと。その衝動を我慢することが正しさではないのだと。彼はいつだって星のように沙綾を優しく見ていて、そして語りかけてくれるのだと。

 

「キミ、今えっちなこと考えたでしょ?」

「恋人から出た今のセリフでそう考えない男っているの?」

「やっぱり、キミもオトコノコだよね~」

「言いたいだけでしょさーや」

「バレちゃった?」

 

 冗談のように常に笑顔を絶やさず、けれど沙綾は嘘はついてない、と彼に念を押した。もしサボったこの日、二人きりで、誰にも見つからなかったのなら……主導権を彼に譲るつもりだと。

 

「期待しちゃった?」

「そりゃもう」

「……えっち」

「じゃあとりあえずショッピングモールか、服が買えるところに行こう」

「え?」

「制服じゃ……さーやが高校生だってバレちゃうでしょ?」

「……だね」

 

 なんだかんだで見つかるつもりが毛頭ない、どころか既に主導権を握られていることを自覚した沙綾は、彼の手を握って心からの笑みを浮かべた。

 ──我慢しなくても、わがままでも誰かに重いと言われても、彼だけはわかってくれる。彼は理解してくれる。なにより自分だけには、男女ともに人気者である彼ではない、沙綾からの愛情をねだるわがままな部分が顔を出す。そんな独占し独占される二人だけのヒミツという甘い味わいに、沙綾はまた一つ、病みつきになっていくのだった。

 

 

 

 

 




重い女に一番似合うのは重さを全く感じない強欲系男子だと思うわけです。
制服だと何処に行った時に高校生だとバレるんだろう、というのはみなさんのご想像にお任せしましょう。

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