ヴァルキリーロンド   作:衛置竜人

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第5章『迷宮攻略と黒幕』
第45話『空中要塞とカムバック・ハウリア』


 

―side:Vernyi―

 

 

王都での戦いから一夜が開けた。イシュタルら聖教教会は私が本拠を壊滅させた事もあって大幅に弱体化した。

一方、ハイリヒ王国の国王のエリヒド王を始め、彼の妻や息子は無事だった。ゼルフィによると気を失っていたらしい。

しかし、これで本当に良かったのだろうかと思う時がある。私が自らの意志でやったとは言え人間族の戦力・戦意を削るという結果になってしまった。来るべきエヒトとの戦いが訪れた時に戦力が足りるかどうか…

「ヴェルさん、エリヒド王が目覚めました」

「分かった。ありがとう、ユーリア。今行く」

 

ユーリアの案内である部屋に到着した私はエリヒド王と面会する。

エリヒド王の隣にはリリアーナ姫が座っている。更に同じ部屋には勇者達や永山達の姿もあった。

「無事で何よりだ、エリヒド王」

「鋼鉄の戦女神…ヴェル殿。君の仲間から大まかな話は聞いている。まずは君達レッカーズに謝罪しなければならない。君達を異端者呼ばわりした事を」

エリヒド王は私に向けて頭を下げる。

「顔を上げてほしい。エリヒド王達は連中に洗脳されていた。仕方ない事だ」

エリヒド王は頭を上げてこう続ける。

「この度の戦いで多くの者達が君達に救われた。君達がいなければ被害はもっと広がっていただろう」

「我々とて多くの犠牲者が出るのを良くは思ってないからな。

エリヒド王、我々が知る情報を貴方に提供したい。ただし、ショッキングな内容になるが…」

私はこれまでに知った事―エヒトにとってこの世界の人々や召喚者たる私達はゲームの駒もしくは実験動物でしかない事、解放者達の事、そして神の使徒という僕たるノイントを使って邪魔者である私達を排除しようとした事。

全てを話し終えた後、始めて知った者は驚愕を隠せなかった。

「じゃあ、ひょっとしたら帰れないという事か…いや、ですか?」

と坂上は私に訊ねる。

「いや、帰れる方法はあるにはあるが今帰ったとしてもまた奴に狙われる可能性は高いと言うべきだな。帰るにはまずエヒトを倒さなければならないだろう。

私達は現在、七大迷宮の攻略を行っている。この七大迷宮はさっき話した解放者達が作り上げた試練の場で、これを突破した者には大迷宮最深部で神代魔法というこの世界の創造神話で出てくるエヒトと同等の力を持つという魔法を獲得出来る。

私達が攻略した大迷宮はオルクス大迷宮、ライセン大迷宮、グリューエン大火山、メルジーネ海底遺跡、神山の5つで残りはハルツィナ樹海と氷山洞窟の二つだ。

神代魔法を全てゲットすれば地球への帰還も出来るだろう」

私がそう言った後

「どうしてそんな大事な事を黙っていたんですか!?」

と勇者は私に問う。

「此処はエヒトを崇拝する教会の総本山…言わば奴らのお膝元だ。

そんな奴らにエヒトが狂った野郎だと言ってみろ、信用するどころか異端者扱いされて最悪死刑だろうな。

真実を知りすぎた者は消される…嘗ての解放者達がそうだった様に。

だからこそ私はこの情報を信用できる者達にしか話していないし、彼らには協力を要請している…来るべきエヒトとの戦いに備えて準備し、その時が来たら共に戦って欲しいと」

「それなら俺達にも―」

「他の者達はともかく、勇者…お前に話したとして私の話を信じたのか?

どうせ出鱈目だと否定するのが目に見えている。お前が戦う理由を根底から否定する話だからな。それに私はお前を信用できない。

お前はクラスメートに戦争への参加を強要した。あの場には戦いに参加したくなかった者もいたはずだ。

そして、率先して戦いに参加しようと言った割には肝心な所でそれを放棄する。

オルクス大迷宮での魔人族との戦いがその例だ。お前が剣を振るって魔人族の女を倒していれば少しは見直しただろうが、お前はそれが出来なかった。そんな肝心な所で躊躇って仲間に危害をもたらす奴は信用できない。はっきり言って足手まといだ」

私の言葉に勇者は漸く黙った。

「さて、エリヒド王よ。私は貴殿達と手を結びたい」

「私達とですか?」

「えぇ、さっき話した通り、我々は来るべきエヒトとの戦いに備えて準備はしているが、敵の戦力が未知数である以上、此方の戦力及び人員は出来るだけ多い方が良い。

もし手を結ぶのなら我々が開発している武器を提供しよう」

エリヒド王は数秒考えた後

「君達には救って貰った恩がある。その恩を仇で返す事は私も望んではいない」

私に手を差し伸べた。

「君達レッカーズと手を組もう。それが私達にとっても最善なのだ。それに君達を敵に回したくはない」

「ありがとう、エリヒド王」

私達は互いに握手を交わし、同盟関係を結ぶのだった。

 

 

その後は暫くこのハイリヒ王国に滞在する事になった。

物資の補給と装備開発が目的で、だ。

さて、今後についてだが…まずは樹海に戻り、迷宮を攻略、最後に氷山洞窟の攻略を行う。氷山洞窟があるシュネー雪原は魔人族の国に隣接している。

奴らの妨害が起きる可能性もあるだろう。

 

現在、私はハジメと共に既存の装備の改良を行っていた。

ユーリアとゼルフィも私達の手伝いをしている。

「ヴェルさん、今後はどうなされるんですか?」

とリリアーナ姫は私に訊ねてきた。

「このまま東へ…樹海へ向かう予定だ」

「では、帝国領を通るのですか?」

「あぁ、そうなるな」

私の言葉にリリアーナは丁度良いと言わんばかりにこう頼んできた。

「でしたら、私もついて行って宜しいでしょうか?

今回の王都侵攻で帝国とも話し合わねばならない事が山ほどあります。既に使者と大使が向かっていますが、私の方でもはなしあわなければならない事があります」

確かに私達なら早く帝国に向かう事ができるからな。

「通り道に降ろしていくだけなら手間にもならないから良いが、帝都には入るつもりはないし皇帝との会談に付き添う気はないぞ」

「そこまで図々しいこと言いませんよ。送って下さるだけで充分です」

と私とリリアーナ姫が話をしていると勇者が私の元へ訪ねてきた。後ろには雫達勇者パーティーの面々の姿もあった。

「あの、ヴェルさん―」

勇者は私を呼ぶが

「ヴェルさんの事を気安く呼ばないでください」

と私の隣にいたユーリアは勇者に対しウォーターアームズの銃口を向けながら睨みつける。

「構わない、ユーリア」

私の言葉にユーリアはウォーターアームズを下げる。

「何の用だ、勇者」

「俺達もついていきます。リリィの道中の護衛は俺達がします。それに、この世界を救うためには力が神代魔法の力が必要なんです!貴女に付いていけば神代魔法が手に入るんですよね!」

「却下だ。場所くらい教えるから勝手に行けば良い」

「ヴェルさんの言う通りです。ついて来られても迷惑極まりないです」

とユーリアは言い返す。

「ヴェル、私からもお願いできないかしら。一度でいいの。一つでも神代魔法を持っているかいないかで、他の大迷宮の攻略に決定的な差ができるわ。一度だけついて行かせてくれない?」

と雫は頭を下げる。

「迷宮に攻略したと認められるだけの行動と結果が必要だ。私達と同行していても獲得できる保証はない」

「もちろんよ。神のことはこの際置いておくとして、帰りたいと思う気持ちは私達も一緒よ。死に物狂い、不退転の意志で挑むわ。だから、お願いします」

「鈴からもお願いします、ヴェルさん。もっと強くなって、もう一度、恵里と話をしたい。だからお願い!このお礼は必ずするから鈴達も連れて行って!」

雫に続いて谷口…"鈴"も頭を下げる。彼女の声音や表情には必死しさが窺える。友人だった者ともう一度話をしたいから力がほしい、か…悪くないし、それに素直な娘は嫌いじゃない…私としては彼女は勇者よりよっぽどマシで好感が持てる。

それに…ノイントはメルジーネ海底遺跡でも垣間見たように時代の節目に現れて裏から権力者達を操ったり邪魔者を排除したりと、文字通り神の手足となって暗躍してきた神の意思をそのまま体現していた…おそらく人為的に作られたテレイターだ。

 

そんな存在が果たして一人だけだろうか?

 

それに戦力は多いに越したことはない。勇者も人格は気に入らないが、少しは戦力の足しになるだろう。

「良いだろう。次行くハルツィナ樹海に限って同行を許可する」

と私は勇者パーティーの同行を許可した。しかし、勇者パーティー全員が私達に同行する訳ではなかった。

「ヴェルさん…私はオルクス大迷宮に潜って攻略を目指そうと思います。自分を鍛える為とヴェルさんがくれた武器をより使いこなせるようになるために」

その人物こそが朱音だ。

「俺もオルクス大迷宮に潜ります。俺も今以上に強くなりたいから」

更に幸利もそう告げる。

「そうか…分かった。それがお前達の決めた選択ならそれを尊重しよう。ゼルフィ、サポート役として幸利と朱音についてやってほしい」

「うん、分かった。私なら一度行った事あるから道案内できるからね。それに、生命体じゃない私は神代魔法を獲得できないからね。そう言えば畑山教師達の護衛はどうするの?」

「幸利以外のメンバーでも充分かもしれないが…そうだな、紅刃とアークに頼もうかと考えている」

 

こうして今後のスケジュールも固まり、更に合間を縫ってハジメ達と作っていた物も完成した。

「漸く完成したな、ハジメ」

「うん、やっとだよ。でもさ、この世界に来たばかりの頃はまさかこんなのも作る事になるなんてね」

私達が作った物…それは鯨の様な外見の大型移動要塞―ホエールキングだ。

空を飛ぶだけでなく水中への潜航も出来るし、着陸すると変形して基地になる事も可能だ。

ただ、飛行及び航行するには武器やギガンティックアームズ用のENドライバーではいささか出力不足だった為、トランステクター数機分のENドライバーを接続する必要があり、動力源として使用しているトランステクターはその間は使えないのが弱点だ。

因みに中にはブリッジや格納庫の他にもリビングのような広間、更にキッチン・バス・トイレ付きの居住区まである。

まぁ、帝国まで馬車で二ヶ月の道のりを僅か一日で行けるからどこまで活用されるか分からないが…

「皆を招集し、出発の準備に取り掛かるか」

「そうだね、ヴェル」

 

私の招集を受けた面々はホエールキングに乗り込み、帝国や樹海に向かう。

今回同行するのは帝国に送るリリアーナ姫とその護衛の近衛騎士達数名、そして朱音と紅刃以外勇者パーティーだけだ。

畑山教師…いや愛子は戦えない生徒達を放置することは出来ないと残り、永山達前線組や幸利以外の親衛隊、メルド団長達は勇者達がいない間の王都の守護を担うと居残りを決めた。

「…まさか、飛行可能な移動要塞なんてものまで建造しているなんて…もう、何でもありなのね」

と雫はそんな感想を持ったらしい。坂上や鈴は目を輝かせていた。

因みにホエールキングの内部と王都には長距離転移魔法を組み込んだアーティファクト…というかグランドブリッジを設置しているから一瞬で行き来が可能だ。

 

私はホエールキングを帝国まで飛ばしていたのだが、モニターである光景を目にし、レッカーズの面々とリリアーナ姫をブリッジへ呼んだ。

「何があったの?」

其処へ進路変更に気付いた雫と勇者、鈴と坂上もブリッジに入ってきた。

「あっ、雫ちゃん。うん、どうも帝国兵に追われている人がいるみたいなの」

香織が指差したのはブリッジ前方に設置された立方体の水晶もといディスプレイだ。

ディスプレイには峡谷の合間を走る数人の兎人族と、その後ろから迫る帝国兵のリアル鬼ごっこが映っていた。

水の流れていない狭い谷間を兎人族の女性が二人、後ろから迫る帝国兵を気にしながら逃げており、追っている帝国兵のずっと後ろには大型の輸送馬車も数台ある。

最初から追って来たというより、逃がしたのか偶然見つけた兎人族を捕まえようとしている…そんな感じに見えるだろう。

だが、この2人の兎人族には見覚えがあった。

「不味いじゃないか!直ぐに助けに行かないと!」

と案の定勇者が今にも飛び出さん限りにそう喚く。

「彼女達を見捨てるつもりじゃないですよね!?貴女が助けないなら俺が行く!早く降ろしてくれ―」

「シア、こいつらはもしかして…」

「あれっ?この二人って…」

いきり立つ勇者を無視して私はシアに声をかける。

シアも、よりズームされた映像を見て気がついたようだ。

「二人共、何をそんなにのんびりしているんですか!シアさんは同じ種族だろ!何とも思わないのか!」

「すいません、うるさいので黙っててもらえますか?ヴェルさん、間違いないです。ラナさんとミナさんです」

「やはりか。なら大丈夫だな」

「なっ、何を言っているんですか!か弱い女性が今にも襲われそうなんですよ!」

苛立たしげに言う勇者に対し私はこう言った。

「か弱い、か…まさか。あいつらは…"ハウリア"だ」

 

 

 

 

To be continue…

 

 

 

 

 




こちらの更新が久々となって申し訳ないです。
エリヒド王の生存とヴェル達が手を組む事や幸利と朱音が一緒に迷宮攻略をしに行く事などは決まってましたが、ゼルフィをどうするかはかなり悩みました。

この作品、せめてありふれのテレビアニメ二期が始まるまでに完結までいきたいところ←

因みにありふれのキャラ達のデザインは本作だとアニメ版寄り、アナザーの方は漫画版寄りという意識で書いてたりです。

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